「それで、結局どうなったんだ。やけに慌てているようだけど…。」
電話を切った後、ジョーは俺に文句をぶつぶつ言うかと思いきや、俺とクイーンを無視して玄関に向かって走り出した。顔を見る限り、相当急いでいるようだ。
「二人ともとっととついて来い。マジシャン!お前もだ。」
そのまま靴をつっかけ、どこかへと走って行く。
「ち、ちょっと。まず何を話したのか教えてください。そうでなければ、行動のしようがありません。」
いまだに電話のショックから抜け切れていないクイーンが慌てた様子で追いかける。俺とマジシャンもそれに合わせ、それぞれ駆け出した。
「一体どうしたってのさ。」
「詳しいことは現場につけばわかる。今は四の五の言わずについて来い!」
何がなんだか分からないまま、俺たちは闇の中に入っていった。
「おい、ここどこだよ!まさか何も考えず走ってんじゃないだろうな!」
闇雲に走り続けること十分。地元に住んでいる俺ですら迷いそうな路地を、一瞬たりとも立ち止まることなく駆け抜けて行くジョーに対し、俺たちは疲労困憊していた。
「ちょっとは待てよ。お前たちはともかく、俺はただの道具職人だぞ。肉体労働は工房の中だけにしてくれ。」
「そうですよ。私はあなた達みたいな兵士ではないのです。もう少しペースを落とすか、馬車を用意するなどの配慮をお願いします。」
「英霊ならともかく、俺は人間に過ぎないんだぞ。そうだ、クイーン達に先に行ってもらって、俺は後から行けばいいんだ!クイーン、それでいいよな。」
「それがか弱い乙女に言うセリフですか?まったくもう…。そんなのだから友達が出来ないのです。」
「へぇ、こういう時だけそういうこと言うんだ。それってずるくないか。」
「何が?私はただ一般論を言っているだけです。」
「昔はな、俺を放ってしゃべり続ける奴なんていなかったんだ。みんな向こうから声をかけて来てさ、話し続けるのが大変で大変で…。」
「そういう所がだよ!自分に都合が悪くなるとすぐにとぼけて誤魔化す。俺の話をちゃんと聞け!」
俺たちはささくれだった気持ちを互いにぶつけ合い、余計にストレスを高めあっていた。なんて不毛なんだ。
「疲れたのならクイーンを憑依させろ。それでしばらくの間は持つ。」
振り向きもせずジョーが言い放つ。
「「ああ、なるほど!」」
「こんな事も思いつかないのか、これだからお前―」
唐突にジョーの皮肉が止まった。その場で急停止し、呆然と立ち尽くしている。
「おっと、っとっと…。」
止まり切れずジョーの背中にぶつかりそうになる。我ながら運動神経がない。
「突然立ち止まるなよ。危ないだろ。」
「何だと…。一体どうなってやがる、有り得ないだろこんな事…。」
話しかけても何の反応もしない。背中からだからよく分からないが、どうやら驚いているようだ。
「うん、どうした?なんか面白いものでも見えたのか?」
俺が純粋な好奇心でジョーが見ている方へ目線をやると―
そこでは2人の英霊が、守宮さんの周りで激突していた。
「あれ、おかしいな。当の昔に切りがついてもいいはずなのに。」
剣と剣とを交え、あくまでひょうひょうとした態度を崩さず、ログウェルは嘯いた。
『マスター、気を付けてください。次の攻撃で剣が折れます。』
「はいはい了解っと。それにしても面倒くさいな。さすがは聖堂協会からの使者。君、なかなか強いね。」
サーヴァントからの忠告を聞き少し顔を曇らせた後、剣を相手に叩きつけた。
それが真っ二つに割れた瞬間、間髪入れず後退。懐からもう一本出して身構え直す。
「適当なことを。あなたのような者がいるから私は派遣されたんですよ?少しは反省してください。」
相手はただひたすらに突撃を繰り返す。まるで殉教者のごとく、その瞳に迷いはない。
背中に巨大な槍を背負い、曲刀を武器として、正々堂々と戦っている。
「はぁ。やってられないね!くそ真面目な奴は苦手だよ。」
そう叫ぶと同時、彼は右目に指を押し当てた。
「見るがいい。これが現代まで残り続けた、先祖代々受け継がれ続ける神秘の産物だ!」
「あれどうなってんの?」
「俺に聞くな。そんなもん分かるか。」
「どちらかが正義の騎士で、どちらかが悪の戦士という事ですね。」
「そんな事より早く彼女を助けに行けよ。見るからに困ってんだろうが。」
俺たちは千差万別の反応を示しながら、戦況を観察していた。
「えーと、とりあえずジョー、助けに来てくれてありがとう。」
「何、気にするな。お前が死んだら目覚めが悪いから助けに来てやっただけだ。」
「あれ?俺、俺へのお礼はどうなったんだ?」
予想外な展開に驚きつつ、守宮さんと合流する。それにしても相変わらず扱いが酷いなぁ。
「それで、召喚したお前の英霊はどうなったんだ。まさかもうやられたんじゃないだろうな。」
「それなんだけどね、逃げてる途中ではぐれちゃってさ。今どこで何してんだろ。」
「何をのんきな―MAGITIAN!」
唐突にジョーが叫び、体を輝かせて英霊を憑依させた。
どうでもいいけど、前の時よりも光が弱くなっているような気がする。毎回あんなに光ってたら眩しいもんな。
「ってそこじゃねぇ! QEEEN、じゃなくてEMPRESS!」
「あ、そうやって戦うんだ。えーと、MOON!」
守宮さんと俺もそれに合わせて憑依させた。彼女適応早いな。俺とは大違いだ。
緑の光が眩く輝く。力が一点に向かって、高速で収束していく。
その光が消えたとき、そこには姿が変わった守宮さんが立っていた。青色の瞳に、沢山のエメラルドが散りばめられた金色の首飾りを身に着け、大きなラピスラズリが中央に付いている冠を被った、なかなか派手な格好だ。
「おい、何をボケボケしてるんだ。お前たちも手伝え。」
どうやらジョーはあのハイレベルな戦いに参加するつもりのようだ。やれやれ、どちらかが倒されてからの方が楽なのになぁ…。
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
二人で叫びながら突撃。真剣に対峙している場をぶち壊して突き進み―
「行きなさい、私の使い魔(アガシオン)! IMPREGNABLE COMET!」
「■■■■■■ォ!」
地面からそそり立つ様に飛び出した、巨大な土の巨人に吹き飛ばされた。
「「うわっ!!」」
家ほどもある体、全身に浮かび上がった緑の魔法陣、煌々と輝く無機質な青い目。心なしか前に見た個体よりも少し大きいように見える。
「流石は英霊の魔力。いつもより強そうね。」
「ちゃんと周りを見て行動しろ!」
ジョーが大声で文句を言っている。ちなみに俺はその足元で静かにぶっ倒れ、口も訊く元気もなかった。
「へぇ、なるほど。これなら頷ける。その英霊、さては相当珍しい聖遺物で召喚したね?」
ジョーの肩越しに、何やら分かったような顔をしている男が見える。髪色とかが違うけど、あの顔、見覚えがある。まさか本当に参加しているなんて思わなかった。
「監督役の人じゃないか!しょっぱなから聖杯戦争の参加者を襲うなんて恥ずかしくはないのか!」
人が良さそうな顔しておいて、そんなに悪い奴だとは思わなかった。そうと分かってたら前会った時に倒しておいたのに、俺のバカ!
「いや、そんな事言われたってね、こっちにも事情があるというか…。」
困ったような顔をする管理役の人。眼の中で歯車が高速で回転するのが見える。あれってもしかして…
「魔眼?そんなすごい物持ってるくせに、なんて卑怯なんだ!大体この仕組みについて説明しとくべきだろ!」
「まさかこんな情報を伏せておくとはな。よくそんな性格でこの戦いに派遣されてきたな。」
「そうだよ!勝つためならどんな手でも使うのが魔術師だけど、これはちょっとやりすぎだよ!」
「えーと、その、あー」
俺と守宮さん、それにジョーから集中砲火を浴び、奴は何とか誤魔化そうとしどろもどろになった。
「それを遺言の代わりにして、さっさと逝け!」
そう言うなりジョーは大きくハンマーを振りかぶり、振り下ろしながら一気に相手に接近する。これで二人まとめて消し飛ばすつもりなんだろう。
「少し、待ってもらっていいですか?彼は私が確保します。」
その時、それまで奴と剣をぶつけ合っていた男が、ふいに目線をこちらで向けた。
「うるせぇ、待てと言われて待つ奴があるか!」
如何にも悪党というセリフを吐きつつ、そのまま突撃するジョー。
「落ち着いてください。少し待ってもらうだけでいいのです。」
それに対し、男は堂々とした態度で右手をかざし―
ひょい、なんて擬音が似合いそうな感じで、その鈍器を事もなしに受け止めた。
「な、何だと!」
ジョーは目を丸くして驚いている。それもそうだろう、一応とはいえ英霊の力で放たれた一撃を、魔術も使わずに受け止めたのだから。
「今だ!撤収!」
その隙を狙って一目散に逃げ始める管理役の人。さっきまでの余裕ぶった態度が嘘のようだ。
「こらー、待てー!」
それを逃がすまいと、守宮さんが右手を構える。するとゴーレムの全身がまばゆく輝き、そこから光球を発射した。結構な速度で飛んでいく。これは仕留めたんじゃないだろうか。
「うわっ、危ねっ。」
しかし奴は背中を向けたまま「まるで見えているかのように」その攻撃をヒラリと躱して、唐突に目の前から消えてしまった。
どうしてこの人がこんなに強いのかは次回で分かります。