ZOIDS ~Inside Story~   作:砂鴉

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第9話:死闘!プロトデスザウラー

「――っ!?」

「どうかしたか? フェイト」

 

 アースコロニーの村長宅。そこに二人は居た。いつものように夕餉をとり、夜が完全に耽るとともに布団に潜った。だが、真夜中のこの時間になってフェイトは何かを感じて起きた。

 

「……ううん、なんでもない」

「そうか」

 

 フェイトは枕元に置いておいたノートをめくる。彼女の両親が古代遺跡の研究の傍ら、調べたことを記したものだ。

 フェイトがめくるページには様々なことが記されていた。どれも古代文字でフェイトには読めない。だが、一つだけ気に止まった言葉があった。

 

「……デス、ザウラー」

 

 ポツリと、小さく呟く。それは、隣の布団にいた村長にも聞き取れない、ほんの小さな呟き。

 

 ――なんだろう。この感じ、わたしの記憶じゃない。でも、誰かから教えられた……。

 

『……フェイト、覚えておいて。いつかきっと、この星に危機が訪れる。その危機をもたらすものは……デス……ラ、そして、ギ…………』

 

 額に手を当てる。そこには小さな赤い刺青があった。母親譲りだという刺青。僅かばかり、痛んだ。

 窓の外を見上げる。窓から覗く二つの月を見て思い出すのは、ほんの少しの間一緒だった少年。僅かな間だけど、兄の様に感じた彼。

 

 ――ローレンジ……さん。大丈夫、かな……?

 

 月は紅い光の元、怪しく輝いていた。

 

 

 

***

 

 

 

 デスザウラーの頭部に装備された機銃が一斉に打ち放たれる。ただの機銃だが、デスザウラーの強大なエネルギーがプラスされたそれは並みの大型ゾイドにすら痛手を与える火力を有している。

 

「散れ!」

 

 ハルフォードの注意に応え、四機のゾイドは一斉にその場を飛び離れた。先ほどまで立っていた地点が、デスザウラーの機銃によってハチの巣になる。

 

「ハルフォード中佐! こいつぁ、オレたちでやれるんですか!?」

「これは、無理があるかと……」

「狼狽えるな! あのデスザウラーはまだ未完成だ。それに……見ろ! デスザウラーの腹部にはまだ装甲が付いていない! ゾイドコアがむき出しだ!」

 

 確かに、デスザウラーの腹部には怪しく明滅するゾイドコアがそのままになっている。いくら強大な伝説のゾイドと言えど、その核であるゾイドコアを叩かれれば無事では済まない。

 さらに、背後から数機のコマンドウルフが現れる。ハルフォードの部隊のものだ。援軍の出現に、ハルフォードの声は一層熱を帯びる。

 

「いいか! 攻撃はデスザウラーのゾイドコアに集中。何としてでもあの化け物を倒すのだ!」

「「「「りょ、了解!」」」」

 

 ハルフォードの指示の元、コマンドウルフのパイロット――パリスとレイカはデスザウラーのコアに向けて攻撃を始める。

 

「フハハ、確かにコアをやられればデスザウラーもただではすまん。だが、そのための対策はしてあるのだよ」

 

 ザルカの合図とともに、遺跡の外壁が崩れ新たなゾイドが現れる。小型ゾイド並みの大きさ。太い腕と脚を持ち、怪しく単眼を光らせるゴリラ型ゾイド。

 

「君たちは見たことがないだろう。ゴーレムだよ。嘗てゼネバス帝国で運用された、特殊任務を主としたゾイド」

 

 ゴーレムは瓦礫を飛び越え、潜り抜け、コマンドウルフたちに肉薄する。コマンドウルフは牙で噛み千切ろうとするが、小型故に躱され、逆に機体の死角に潜り込まれ、ゴーレムがその手に持っていた何かを仕掛けられる。

 そしてゴーレムが離れた瞬間、コマンドウルフは爆発した。ゴーレムは爆弾を仕掛けているのだ。

 

「くっそぉ、こいつちょこまかと……!」

 

 ゴーレムの対処に気を取られた瞬間、今度は別のコマンドウルフが背中から蜂の巣にされ崩れ落ちた。コックピットも撃ち抜かれ、キャノピーは砕け散った。パイロットの生存は絶望的。

 

「デスザウラーにも気を抜くな!」

 

 部隊の誰かがそう叫ぶが、それも次の瞬間にゴーレムにコックピットを砕かれ、握り潰された。

 巨体と破壊力で圧倒するデスザウラー。小型で命中させ辛いゴーレム。両者の、意図せぬコンビネーションに独立高速戦闘隊は完全に圧倒されていた。

 一体のコマンドウルフがデスザウラーのコアを狙い撃つ。だが盾となったゴーレムに防がれ、逆にデスザウラーの機銃で撃ち抜かれた。

 

「くっ……こいつら……」

 

 パリスも混乱の真っただ中にいた。愛機も怯えて一歩一歩後ずさりし、そこにゴーレムがじりじりとにじり寄る。

 瞬間、一機のゴーレムが飛び掛かる。反射的にパリスはビーム砲で迎撃するが、それに追従した他のゴーレムを躱しきれない。

 

 ――やられるっ!?

 

 パリスは覚悟した。だが、いつまで待ってもその瞬間は来ない。代わりに、機銃が乱射される発射音が耳を劈く。

 

「危なかったな。パリス中尉」

「あ……助か――って、テメェは!」

 

 コマンドウルフの前にはヘルキャットが居た。寸前で駆け込み一機のゴーレムを突き飛ばし、残りを機銃とビーム砲の乱射で薙ぎ払ったのだ。

 

「何でお前がオレなんかを助けた!?」

「今は敵だ味方だなんて言ってられる状況じゃないだろ。少なくとも、デスザウラーを倒すまでは協力しろ。さすがにあんなバケモン、俺だけで倒せるわきゃねぇ。楽しむ余裕もねぇ。……それに、わざわざここまで案内してやったんだから」

「なんだ、気付いてたのか?」

「お前らが来てからだよ。……道理でフェイトの誘導だけで簡単に逃げられたわけだ。最初から俺にザルカの元まで案内される腹づもりだったんだろ!」

 

 噛みつくような声音でローレンジは叫ぶ。それを、発案者であるハルフォードは涼しい顔で聞き流した。

 

「ローレンジ。君の言う通り、ここは共同戦線を張ってほしい」

「へいへい。ひとまず、ゴーレムってのは俺が受け持つ。大型中型のゾイドより、小型のが対処しやすいだろ?」

「頼むぞ。――部隊を分ける。パリスとレイカは私と共にデスザウラーに攻撃。ハリーとトムはローレンジとゴーレムを担当しろ。一人ですべてのゴーレムを請け負うのは骨が折れよう」

「「「「了解!」」」」

 

 戦況は、少しずつ好転し始める。ゴーレムの装甲は厚くされているものの、所詮は小型ゾイド。その限界は早かった。ローレンジのヘルキャットが主体となって迎撃し、ゴーレムは着実に数を減らす。次々に現れるが、それでも数の限りはあるはずだ。

 同時に、ゴーレムという護衛役がいなくなればデスザウラーのコアを守るものが居なくなる。三機でかかれば、確実にコアを狙えた。

 

「そこだッ!」

 

 シールドライガーの三連衝撃砲がデスザウラーのコアに吸い込まれる。デスザウラーがコアへの苦痛に悲鳴を上げた。同時に、それを補うべくか遺跡からデスザウラーに向けてエネルギーが注ぎこまれる。

 ハルフォードは、これをチャンスと見た。僚機に合図し、デスザウラーのコアに向けての攻撃を強める。

 

「む!? これは……まさか……!」

 

 だが、そこで天井近くに退避していたザルカが焦った表情を見せた。そして、その動揺はゴーレムを片付けて一つ息を吐いていたローレンジの元に伝わった。ザルカにとっても何かの不測事態が起きようとしている。そう、感じられた。

 

 デスザウラーを見る。遺跡からおびただしい量のエネルギーが注ぎこまれるのが分かった。そして、口内に集中される膨大なエネルギー。

 

「やばい……逃げろハルフォード!」

 

 ローレンジが叫ぶ。同時にヘルキャットを走らせ、近くにいたデスザウラーの正面のコマンドウルフを突き飛ばす。

 横目にデスザウラーを見た。今まさに、コマンドウルフの一機がデスザウラーのコアを噛み砕かんと飛び掛かったところ。その後ろのシールドライガーは何かを感じたのかEシールドを張り、身を捻らせる。そして次の瞬間――

 

 

 

 ――それは、撃ち放たれた。

 

 

 

 閃光、次いで灼熱、最後に爆音。

 一瞬でデスザウラーの眼前が光に包まれた。いったい何が起こったのか。ただ、デスザウラーが凄まじい一撃を放った。それだけしか、ローレンジには理解できなかった。

 

「……荷電粒子砲。まさか、これほどとは……」

 

 驚愕を隠そうともしないザルカの姿が、そこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそぉ……またかよ」

 

 パリスはどうにか愛機コマンドウルフを起こす。凄まじい衝撃に襲われたが、ギリギリシステムフリーズは免れたようだった。

 

「また、助けられたのか。オレは」

 

 横には、同じように倒れ伏したヘルキャットが居た。ギリギリで先ほどの閃光を喰らったのか、後ろ脚が付け根から消えていた。先の攻撃で蒸発したのか、凄まじい威力だ。

 

「おい、大丈夫か!?」

「…………なんとか、だけど……戦闘は無理だな」

 

 閃光によって下半身が焼失したが、ヘルキャットのコアは無傷だった。奇跡的な損害だった。

 

「他のみんなは……トム? レイカ? ハリー!?」

 

 パリスは周囲に呼びかける。だが、反応は無い。

 

「……無事だったか、パリス」

「ハルフォード中佐!? 良くご無事で――!!」

 

 機体をハルフォードのシールドライガーに向け、パリスは言葉を失った。

 シールドライガーはまだ動けた。だが、右半身を掠めたのか、機体は真っ赤に灼熱し、今にも崩れ落ちそうな状態だ。

 

「そんな!? シールドを張って、掠めただけなのにコレですか!?」

「私もライガーも、すでに満身創痍だな。他の者は……ダメだったか……」

「そんな……!?」

 

 ボロボロの三機。それをデスザウラーの巨体の影が覆う。デスザウラーは健在だった。あれほどの破壊力の一撃を放ち、なおも健在なのだ。これでも未完成なのに……。

 

「嘘だろおい。なんつー化け物なんだ……」

「こいつが、俺の村を滅ぼした……ウソでもなんでもねぇ。ははは、流石にチートすぎるぜ……」

「お前たち! ここで諦めるな!」

 

 ハルフォードがどうにか叱咤しようとするが、心が折れかけたローレンジ達は簡単には立ち直らない。だが、満身創痍のシールドライガーでは勝ち目がない。ならばどうすれば……!?

 ハルフォードの脳裏に、一つの言葉が浮かぶ。それは、嘗て己が否定したそれだ。それが彼らに――自分ではなく彼らにやる気を取り戻させることが出来るのか?

 

 ――いや、そうじゃない。私の言葉で伝える。それなら!

 

「いけるか? ライガー」

 

 ハルフォードは静かに己の愛機に問いかける。シールドライガーは、低く喉を鳴らすように答えた。

 

「行くぞ」

 

 シールドライガーは、最期の力を振り絞って全面にシールドを展開する。

 

「中佐!? まだそんな力が……?」

 

 デスザウラーを倒さなければ、この星が壊滅するかもしれない。その思いが、シールドライガーとハルフォードに最後の力を与えていた。

 

「パリス、ローレンジ。良く聞け」

「ハルフォード中佐?」

 

 シールドライガーが勇ましく吠えた。その眼前には、再び先ほどの一撃を放とうとしているデスザウラーが。

 

「私が新兵のころ、『兵士は国のために死ぬことが仕事だ』と教えられた。私はそれを諸君らに言ったことはない。言うつもりもない! 兵士は――人は、信念のために生き、信念のために死ぬべきだからだ。今ここですべてを捨ててどうする!? パリス、兵士となったのは何のためだ!? その思いを、今ここで発揮すべきだろう!」

 

 パリスのコマンドウルフが、怯えを振り払うように遠吠えを上げる。おのれを叱咤するように、己のパイロットを叱咤するように。

 

「ローレンジ。君の事は解った。すべてを失い、そうして腐った道を歩んできたと。――繰り返すのか? 君がここで立ち上がらなければ、あの村は君の村と同じ運命をたどるだろう。それでいいのか!? 腐った道に落ち、それを後悔しつつも進む君は!同じ運命を背負うものを増やすというのか!ここで諦めていいのか!? 君の信念は、その程度かッ!?」

 

 ヘルキャットが、這うようにして向きを変える。下半身がなくとも、上半身だけを動かして砲塔の照準をデスザウラーのコアに合わせる。

 

「信念のために生きろと言ったが、あえて言おう。立て! 諸君らの愛機が指一本でも動くなら、這ってでも進め! そして、奴のコアを噛み砕くのだッ!!!! この星の未来のためにッ!!!!」

 

 叫ぶと同時にハルフォードのシールドライガーは強く地を蹴った。同時に、デスザウラーの荷電粒子砲が放たれる。

 

 

 

 躱した。再び、掠るような位置を閃光が迸り、シールドライガーの身体が崩壊を始める。それでも、最後まで崩れなかった頭部が、その牙をデスザウラーにエネルギーを送り込むパイプに突き立てる。

 

 悲鳴を上げ、のけ反るデスザウラー。さらに、その身体が輝きを放ち始めもがくように苦しむ。

 

「デスザウラーが……? そうか、不完全な身体で荷電粒子砲を撃ったことでエネルギーが逆流しているのか。そしてあのシールドライガーの攻撃で……」

 

 ザルカの呟きにハルフォードは耳を貸さない。すでに意識は無かった。そして、デスザウラーの身体はさらに輝きを増し、シールドライガーを飲み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 動け、動け、動け!

 ローレンジは必死にヘルキャットを操作していた。少しでも向きを整え、デスザウラーを破壊する助けになるのだ。事ここに至って、ザルカを殺すという当初の目的は薄れていた。ハルフォードの叱咤されたからとは思いたくないが、ローレンジの心を動かす出来事が思い起こされていた。

 

 嘗て、ローレンジの故郷は唐突の閃光と共に消え去った。それが今、再現されようとしている。

 御免だった。二度と、あんな思いは御免だった。なによりも――

 

 ――やらせるわけにはいかねぇ。あの村には、あいつが居るんだ! 危険を無視して俺を救おうとしてくれた奴が!

 

 無邪気な笑顔が脳裏をよぎる。おそらく、今も何が起こっているのか知らずに、平穏に暮らしているのだろう。その笑顔を、失いたくない。その思いがローレンジを動かし、そしてヘルキャットを動かしていた。

 横ではパリスのコマンドウルフが砲撃を始めている。だが足りない。デスザウラーのコアを破壊するには、あと一歩押しが足りない。

 

 デスザウラーがもがき、苦しみ始めた。シールドライガーの牙――レーザーサーベルがパイプに突き立ち、デスザウラーのエネルギーに異常が起きているからだろう。

 そんなのはどうでもよかった。それがチャンスだと分かればいい。このチャンスを、最大限に活かす!

 しかし、そんな思いとは裏腹にヘルキャットの主砲である背中のビーム砲はすでにない。腹部のレーザー機銃だけでは、コアを破壊する火力がない。

 

 ――くっそぉ……!

 

 歯ぎしりする。ここ一番で、何もできない自分に。だが諦めない。火力が足りずとも、助けにはなる。機銃の照準を合わせ、トリガーに指をかける。

 

 ――これでっ……どうだ!

 

 祈るような思いでトリガーを引く。ヘルキャットの腹部のレーザー機銃が火を噴き、デスザウラーのコアに吸い込まれ、だがまだ足りなかった。

 

 

 

 その時だった、奇跡が起きたのは。

 

 

 

 「ギィ!」という、機械的な鳴き声が轟く。反射的に振り返った。そこに居たのは、あのオーガノイド。

 

「あいつ……?」

「バカな!? オーガノイドが何故ここに!?」

 

 オーガノイドはザルカの驚愕を一瞥し、背中に格納されていたブースターを展開。一直線にヘルキャットに突っ込んだ。そして、コアに融合する。

 オーガノイドの力は圧倒的だった。下半身が消失していたヘルキャットが、一気に再生を果たしたのだ。エネルギーも十分。唐突の出来事に呆気にとられそうになるが、そんな場合じゃない。

 

「ありがとよ。これで! トドメだ!!!!」

 

 ヘルキャットとコマンドウルフの一斉射撃。

 エネルギー供給のためのパイプをシールドライガーの特攻で食い千切られ、さらにコアへの集中砲火を受け、デスザウラーは急速にパワーダウンしていく。また、残留したエネルギーが暴走を始め……。

 

「脱出だ! 急げ!」

 

 パリスが我に返って叫ぶ。だが、それは少し遅く――地下遺跡は、閃光に包まれた。

 


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