ZOIDS ~Inside Story~   作:砂鴉

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今回は鉄竜騎兵団メンバーの紹介が主です。


第12話:鉄竜騎兵団

 ニューへリックシティから離れた海岸線。そこを進む二機のゾイドが居た。一方は陸を、もう一方は空を進むゾイドだ。だが、それらは共和国領であるここでは見かけることの無いゾイド――帝国製のゾイドだ。

 

「でもさぁ、よかったの? あの人たち盗賊だよ?」

「まぁ確かに盗賊だけどな。あいつらは手を貸して悪いことはない」

「どうして分かるの?」

「勘」

「やっぱり」

 

 口調はとげとげしいながらも、フェイトが落胆している訳じゃないことはローレンジも分かっていた。ただ、これまでローレンジが仕事で関わってきた――敵対したのが性質の悪い盗賊が多かったことから警戒しているのだろう。通信機越しにフェイトを宥めつつ、ローレンジは愛機ヘルキャットをニューへリック湾から遠ざける。

 

「そういや――フェイト、調子はどうだ?」

「大丈夫。ニュートの御蔭だよ」

『キィ!』

 

 上空を飛ぶゾイドからフェイトとニュートの声が届く。

 実は、この二年の間にフェイトもゾイドを手にしていた。アーケオプテリクス型ゾイド、シュトルヒである。プテラスを上回る空戦能力を有したと言われるゾイド。最も、共和国で採用されることはなく、帝国ではより強力な空戦ゾイドのレドラーが配備されたことで埋もれて行った。要するに旧式のゾイドである。

 

 ローレンジのヘルキャットとフェイトのシュトルヒはニューへリック湾を抜け、海沿いの道を進んでいた。この先で、ある者たちと待ち合わせているのだ。

 

 今回の依頼者であるデザルトアルコバレーノではない。彼らとはまた帝国領で落ち合うと約束し別れたのである。理由があったのだ。

 

「――先の戦闘ですっかりやられたからな」

 

 現在ヘルキャットのコンバットシステムが完全にフリーズしていた。ニュートの持つオーガノイドの再生能力で機体を動かすくらいには回復したが、先の戦闘のおかげでシステムだけでなく機体の各部がかなりの損傷を受けている。

 先の戦闘とは帝国と共和国の激突のことだ。この戦闘は共和国側がマウントオッサ火山を噴火させるという奇策を用いたことで帝国軍のマウントオッサ要塞方面の包囲部隊が撤退。そこに皇帝の死という悲報がもたらされたことで全軍撤退したのだ。

 ローレンジ達はマウントオッサ要塞へ向かっていたため、噴火の影響をモロに喰らい、その上戦死したガイロス帝国のマルクス少佐の部隊に従軍していたため、少佐の強行突入に巻き込まれて逃げ遅れ、火山噴火の衝撃を機体に喰らってしまっていた、九死に一生である。

 マルクスの指示に強引にでも逆らっておけばよかったと、ローレンジは心の底から後悔している。危険な予感もあったので逃げようと思ったが、狭い通路で「逃げれば処刑する」と言い放つマルクスから逃げる余裕がなかったのだ。その結果が現状である。

 ちなみにフェイトのシュトルヒは、今回は留守番だった。戦争は無理があるとローレンジが止めたためである。

 

「ヘルキャット大丈夫? ニューへリックシティで直してもらえば――」

「――俺たちのゾイドは帝国製。スパイだなんだといらない勘違いされるに決まってる」

「じゃあ、あそこの港でみんなのとこに乗り込めば……」

「俺達ははみ出し者集団。整備された港湾に入ろうなんて考えは、端から捨ててるさ……さて、ここだな」

 

 ヘルキャットが脚を止め、傍にシュトルヒが舞い降りる。すると、ヘルキャットが力尽きて倒れた。

 

「あ!」

「お疲れさん。迎えはそろそろ来るだろうし、まぁのんびり待とうぜ」

「うん。――あ、乗り込む時は、私のシュトルヒが運んであげる!」

「あーうん、よろしく」

 

 以前、同じような状況でフェイトに任せた結果、海に落とされたことが脳裏をよぎり、ローレンジは曖昧な笑みを浮かべる。

 

「ちゃんと、シュトルヒにお願いしろよ? ゾイドは生き物なんだから、応えてくれる」

 

 フェイトは不思議とゾイドとのつながりが深い。ゾイドは生き物であり、ゾイド乗りはゾイドの意志を感じ取って共に戦う。車のようなただの機械を操作するのとはまったく感覚が違うのだ。そのゾイドとの意思疎通にはゾイドとの相性もあるが、ゾイド乗りを始めて三年は経たないと満足にできないとされている。だが、フェイトは乗り始めてすぐそれが成せるようになった。

 もちろん例外はあろうが、それでもフェイトはとびぬけて早かった。だが、それに比肩する操縦技術が備わらず、フェイトはゾイドに“お願い”して動いてもらうといった状態だ。

 

「だーいじょーぶ! いっつも言われてるもん♪」

 

 その言い草は心配になるからやめてくれ。とローレンジは思った。

 

「…………ニュート、頼むぞ」

「キィ~? キッキッキ」

「ダメだ、こいつも遊ぶ気でいやがる」

 

 そうして、しばらくぼんやり海を眺めていると、徐々に海面が持ち上げられる。そうして、流れ落ちる海面には、うっすら大きな赤いゾイドが確認できた。

 

「来た!」

「毎回登場が派手っつーか……まぁ海中のだし、しかたないけど」

 

 フェイトが歓喜の声を漏らし、ローレンジが疲れ果てた様子でそのゾイドの出現を見守る。そして、海を盛り上げて現れたゾイドの全貌が明らかになった。

 まず目に付くのはその巨体。大型ゾイドを一個師団は積み込めるほどの大きさ。そして顔から伸びる二本の触覚、ゾイドの乗り降りに利用される巨大な二つの鋏。

 輸送用のロブスター型ゾイド――ドラグーンネスト。

 

『待たせたか、ローレンジ』

 

 拡声器で呼びかけてくる友の声にローレンジが答える。

 

「いんや。またよろしく――ヴォルフ」

 

 

 

***

 

 

 

「ヴォルフさ~ん!!」

 

 シュトルヒから飛び降りるなり、出迎えに来ていた青年にフェイトが跳びついた。半ばタックル同然な勢いだったため、青年は受け身もとれずに押し倒される。

 

「はっはっは、フェイトはいつも元気だな」

 

 倒された痛みを微塵も見せず、笑顔でフェイトに接する青年の名はヴォルフ。輝くような金髪を鬣のごとく逆立てた凛々しい顔つき美丈夫だ。

 

「うん! 久しぶりだねヴォルフさん! もう二年くらいかなぁ」

「まったくだ。“どこかの誰か”がちっとも我々の元に帰ろうしないからな」

「悪かったな。用が無けりゃ来る必要もねぇから」

 

 仏頂面でローレンジも歩み寄る。ヴォルフはフェイトを引きはがし、何とか立ち上がると快活な笑みを見せた。

 

「殿下。お怪我は?」

「なに、この程度で怪我するほど私は弱くない」

「ですが殿下に何かあればこのズィグナー――」

「いい加減、殿下って呼び名はやめねぇか? どこぞの皇帝な訳あるまいし」

「何を言う! 殿下のことを呼び捨てになど……」

「ズィグナー」

「はっ、申し訳ありません。で……ヴォルフ様」

 

 いつもの調子で名を呼びかけ、慌てて言い直すズィグナー。

 ズィグナーは鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)のリーダーであるヴォルフの副官だ。褐色の肌を持つ見るからに頑固そうな顔つきの男だ。ローレンジがヴォルフと知り合う以前、もっと言えばヴォルフが幼い頃より彼に仕えてきた人物である。ズィグナーがヴォルフのことを「殿下」と呼び、それをヴォルフに諌められるのはいつものことだった。

 そのいつもの風景に、ローレンジはやれやれと肩をすくめた。

 

「それで? 今回はどうした? お前がここまで酷くやられるなど滅多になかろう?」

「クソな将校に付き合った末がこれだ。あのマルクスって少佐、相当あの方に入れ込んでたよ。……アレに付き合わされたのが運のツキだ」

「なるほどな。……ちょうど、博士も手が空いている。ヘルキャットは完璧にしてくれるだろう」

「手が空いていた、じゃなくて手を空けていた、だろ。あのジジイ俺のゾイドを好き勝手弄りやがって……」

「気に入られたのだろう? 我々も、優秀な科学者を仲間にできたおかげで大きく進歩した。このドラグーンネストも、博士なくしては手にすることもなかった」

「まぁな」

「その博士を連れて来てくれたこと、感謝しているぞ」

「うっせぇ、副産物だ」

 

 互いに軽口を叩きながら去って行くヴォルフとローレンジ。その後姿を眺めつつ、フェイトもついて行こうとする。のだが……

 

「お~!! そこに居るのはフェイトちゃんじゃないか~!!」

 

 間抜けな、だがやたらハイテンションな声にフェイトは思わずびくっとする。恐る恐る、といった体で振り返ると、燃え盛る炎のような赤を宿した髪色の男が一人。

 

「あ、ウィンザーさん……」

「やぁ! そっかぁ今日帰って来たのかぁ。また会えて俺様も歓喜感激!」

 

 カール・ウィンザー。ローレンジが属する組織――鉄竜騎兵団の構成員の一人で、ヴォルフの男気にほれ込んで入隊した男である。燃え盛る草原のような短い赤髪が示す通り熱血漢な人物。本人曰く、古今東西女性なら何でも来い!がモットーらしい。もっとも、フェイトにとっては何となく苦手な男、という印象しかない。

 

「どうだい? この後、俺と一緒にサファイアが作ったクッキーでも?」

「あ、でも私、ロージ達のところに……」

「あいつらは何か難しい話題をするって言ってたよ。だからそれまで暇だろ? な、俺と一緒に――あだっ!」

 

 スパーンッ! と、子気味良い音でウィンザーの頭がひっぱたかれる。無論、それを成したのはフェイトではない。

 

「まったく、ウィンザーさん。フェイトちゃんが困ってますよ。その辺で止めましょう。それと、クッキーはさっき寝かせた所です。出来上がるのは明日ですよ」

「お~う、これはサファイア! いやいや、美女たちが俺を取り合う環境が構築されてるねぇ。いいよ! いい感じだよ!」

「あら、取りあうだなんて……私とフェイトでの引っ張り合いですか。ではウィンザーさんの頭の毛を全て毟り取ったらよろしいのですか?」

「いいぜ! そんな怖いことを言うサファイアも素敵だ! ……あ、流石に髪の毛全部はやめてくれ。世の女性たちがみんな泣き叫んじまうからな(キラッ)」

 

 グッ!

 と親指を立て、眩しい笑顔を送るウィンザーにやや冷めた視線を送る女性。

 彼女の名はサファイア・トリップ。ウィンザーと同じく、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の構成員の一人だ。黒の長髪からイメージされる通り、清楚で凛とした女性だ。飛行ゾイドの操縦を得意にしている。

 

 フェイトがサファイアに会うのはこれが二回目だ。彼女が鉄竜騎兵団に入ったのは数ヶ月前。辺境の村のゾイド乗りとして盗賊団と戦っていた所、村に雇われたローレンジと共闘し、その流れで入団したのだ。

 

「これは仕方ないなぁ……二人の美女に囲まれて優雅なティータイム! うんうん、俺のバラ色の時間が――」

 

 ゴッ!!!!

 先ほどのサファイアよりも強い打撃――否、拳骨がウィンザーの頭頂を強打し、一撃でその意識を刈り取った。

 それを成したのは筋骨隆々の大男。勇ましく両手をボキボキと鳴らしながら立っていた。

 

「あ、エリウスさん」

 

 さっとサファイアが敬礼する。

 大男の名はアクア・エリウス。鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の古参メンバーで、サファイアと同じく飛行ゾイド乗り。現在はサファイアの上官のような人物だった。

 エリウスは厳つい表情でウィンザーの首根っこを摘み上げると、フェイトににっこりと優しい笑顔を見せる。

 

「久しぶりだなぁフェイト。ローレンジの馬鹿が迷惑かけてねぇよな」

「あ、うん! ロージはいつも無茶ばっかりだけどとっても優しいよ」

「そうかそうか。なら、おじさんも安心だな。……サファイア! こんなとこで油売ってねぇでシュトルヒのチェックしてやんな!」

「は、はい!」

 

 濁声一括。サファイアはさっとフェイトのシュトルヒに駆け寄って行った。

 

「ローレンジとヴォルフはちぃーと込み入った話がある。フェイトちゃんは、サファイアと時間を潰してな」

「はーい」

 

 元気のいい返事にエリウスはまた優しい笑顔を見せ、次いで厳つい表情に戻って気絶したウィンザーを引き摺って行くのだった。

 




鉄竜騎兵団のメンバーはいかがだったでしょうか? 私の解釈の元、描かせていただいております。個人的には、原作(妄想戦記)を全く知らない関係上、カール・ウィンザーを大幅に弄っております。

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