「金と銀の虎型ゾイド? そりゃ、ガイロス帝国の三銃士だな」
「三銃士?」
グレートサーベルに乗り、森の中を進みながらローレンジは答えた。その言葉には、僅かばかり楽しげな調子が混ざっている。それに、アイアンコングで隣をゆくヴォルフも感心したように頷いた。
「ガイロス帝国三銃士か。この辺りに住んでいたとはな」
「ええ、おれが兵士に志願するよりも前に引退したんですよ。引退後は、この“風の都”近くの森で隠居生活を送っていたと聞きましたが……フェイトちゃん、本当に見たのかい?」
「間違いないもん! 金色と銀色のゾイドだよ! あんなに目立つ色を、見間違う筈がないよ!」
昨日の帝国兵が襲ってきた騒ぎ。その住人の救助に当たっていたフェイトは見たのだ。炎の中を躍動する三体の虎型ゾイド。セイバータイガーAT。
「……どう思う?」
「ここまでかたくなに言うんだ。間違いないだろうな。だとしたら……久しぶりに会っときたいな。あのジジイども」
懐かしい人を語るようなローレンジの口ぶりに、フェイトとロカイが目を丸くした。
「会ったことがあるのか!? 三銃士に!?」
「俺の父さんは、昔帝国軍にいたんだ。祖父さんがゼネバスの兵士だったから待遇は最悪だったらしいが。三銃士とは同じタイガー乗りってことでウマが合ったらしくてよ。俺も一度だけ会ったことがあるんだ。……もっとも、それきりだけどな」
ローレンジは愛機サーベラの操縦桿を撫でながら話す。サーベラも、当時のことを覚えていたのか、懐かしむように喉を鳴らした。
「その人たちって、強いの?」
「当然だろ。嘗ては、ガイロス皇帝直轄のゾイド乗りだったんだ。今でも、その実力は健在だろうさ」
漏れ聞いた噂では、昨日風の都を襲った帝国部隊をたった三機のセイバータイガーATが完膚なきまでに叩きのめしたらしい。戦闘開始時に満身創痍だったとはいえ、ローレンジが町から追い出した帝国部隊。その戦力は、まだまだ健在だっただろうに。
「ローレンジ、会いに行きたいと思っているのか?」
「まぁな。でも、そんな余裕ないだろ」
いつもの平然とした調子でローレンジは答えた。
現在のルドルフ殿下の位置は大体把握している。ちょうど、この風の都を取り過ぎる筈だった。そうすれば、帝都ガイガロスはもう目と鼻の先。到達まであと少しだ。
だが、同時にプロイツェンの戴冠式の日も目前に迫っていた。いくらルドルフが帝都に戻ろうと、その前にプロイツェンが戴冠式を終えてしまっては形式上の皇位はプロイツェンのものだ。つまり、時間がないのである。
「とか言って、今向かっているのはその三銃士が隠居している小屋だろう?」
ヴォルフが笑いながら言い、ローレンジは苦笑を返すしかなかった。
「いや、だってよぉ……フェイトが――」
「すっごく強いゾイド乗りなんでしょ、一度でいいから会ってみたい!」
「ってわけで……」
「フェイトに責任を押し付けるな。お前も会いたいのだろう? 顔に出ている」
モニター越しの表情を見て、ヴォルフも大体を察していた。
ローレンジの経歴はかなり複雑だが、ヴォルフとは5年の付き合いだ。その性格なりはここに居るメンバーの中で最も良く知っている。
過去の罪に苦悩し続けていることも、
――思えば、フェイトを連れるようになってからだな。ローレンジが変わったのは。
ローレンジがフェイトと出会ったのは今から約2年前。それまでのローレンジは、どこか表面上は穏やかでありつつ、どこか狂気を孕んだ男だった。
「どうしました? ヴォルフさん?」
「ああ……奴も、良い顔をするようになったと思ってな」
「奴……ローレンジのことですか?」
「昔はな、自分勝手な奴だったよ。己を卑下し、死に場所を探すように汚れ仕事に手を出し続けた。加えてゾイド戦が死ぬほど好きでな。自分にはそれしか残ってないと言う様にそれに齧りついていた。だというのに見ず知らずの他人を気遣ったり、芯がぶれ過ぎていた」
「はぁ……」
「そうだな。元帝国の兵というなら、黒いオーガノイドを連れた少年兵のことは知っているだろう? あれと似たような奴だった。放っておけば、何をしでかすか分かったもんじゃない」
「黒いオーガノイド……レイヴンですか」
レイヴン。噂だけは帝国軍内部でも飛び抜けたものだった。
曰く、共和国のスリーパーの大部隊をたった一人で壊滅させた。その戦場は、さながらゾイドの墓場と呼ぶべき有様だったと。
「今でも噂は聞きます。見たこともないようなゾイドで共和国の基地をたった一人で襲撃し、その全てを壊滅させていると……あのローレンジが、レイヴンに似ていると?」
ロカイがローレンジと顔を合わせたのはつい昨日の話だ。戦場から逃げようとしていた自分に烈火の如き怒りを見せ、兵士の本分を忘れた帝国部隊に、ボロボロのグレートサーベルで鬼神の如き威圧感を見せつけた青年。それが、今のロカイのローレンジに対する印象だった。総じて、己の正義に忠実な人間という印象しかない。
「昔のことだ。今のローレンジからその印象がないなら、それは良い傾向だ」
ヴォルフは視線を外に向けたまま、僅かに微笑を浮かべアイアンコングの歩みを進めた。やがて、湖畔に佇む小さな小屋が現れた。
***
「帰れ。汚れきったお前に、話すことなどない」
小屋の住人、三銃士のリーダー格であるワグナーは厳格な態度でそう答えた。
彼らは数時間前に勇者の谷でバンたちと戦闘を行っていた。帝国からの要請で、ルドルフの偽物を討つための戦い。だが、それがプロイツェンの陰謀であると気付き、また、バンとの戦いで満足し、ここに帰ってきたところだった。ちょうどその時に、訪ねてきたローレンジと鉢合わせたのだ。
「……開口一番にそれですか。10年以上前に会って以来だというに、随分な言い草ですね」
「お前の父は誇り高きゾイド戦士だった。祖父もな。だが、お前はそんな偉大な家系に泥を塗ったのだ。今更、我々が語ることなどない。出ていけ」
ローレンジの言葉に対し、ワグナーは鋭い言葉で言い返す。
この場に居るのは二人だけだ。残る三銃士の二人、グロスコフとビーピーは外でセイバータイガーの整備を行っている。ヴォルフとフェイト、ロカイもローレンジの要望で入室していない。
「まぁ、俺が腐った道を歩んできたのは否定しませんし、あなた方がそれを認めないのも分かります。あなた方が守るべき人を、俺は結果的に殺めたんだ」
皇帝銃士隊。その役目は、ガイロス皇帝の身辺警護――いわゆる親衛隊の役回りだ。だが、彼らが引退して久しい頃、ルドルフ殿下の父は突然の襲撃で命を落としている。他ならぬ、ワグナーの目の前にいるローレンジの手によって。
「だから頼みがある。俺とゾイド戦をやってほしい」
「何の意味がある」
「もうプロイツェンの戴冠式も近い。俺達がそれを止めるために動いてるのは説明した通りです。……プロイツェンには、プロイツェンナイツだけじゃない。ジェノリッターがいる。たぶん、あいつとの戦いは避けられない。その前に、あなたたちに証明してほしいんだ。今の俺が、タイガー乗りとしてどうなのか。帝国最強のタイガー乗りの、あなた方に見極めてほしい。それが、せめてもの償いになるでしょう」
ワグナーは腕を組み、目を瞑って黙考する。
ワグナーたち三銃士に妻子はいなかった。その命を全て皇室に捧げた彼らに、そのようなものは必要なかった。だから、旧友ともいえるローレンジの父との親交も深く、またローレンジの事も、自身らにはいない息子の様にさえ感じられた。
だからこそ、彼の村が壊滅したと聞いた時は激しい怒りと悲しみを覚え、生き残っていたローレンジがルドルフの父を暗殺したと知った時は激しい憤りを覚えた。
事件の真相は、ここで聞いた通りだった。また、バンたちとの出会いによりプロイツェンへの疑惑も大いに高まっている。その打倒に力を貸すのは、皇室にとってもプラスになる。銃士隊だった自分たちが成すべきとしてもふさわしいことだ。
が、目の前にいるローレンジは彼らが守るべきだった皇帝をその手にかけた張本人だ。現場に居合わせたわけではないが、彼の態度からいくらか察せた。
そんな相手に協力するのはいかがなものか。ワグナーは深く思考した。
やがて、一時間にも及ぶ長い黙考の末、ワグナーは立ち上がった。ローレンジに背を向け部屋を去る直前に、一言告げる。
「今晩、勇者の谷の戦場に来い。俺とお前で、一対一のゾイド戦だ」
***
オカリナの澄んだ音が湖畔に響き渡る。
三銃士の一人、ビーピーが奏でているものだ。小屋の脇ではグロスコフが薪割りに勤しんでいる。セイバータイガーの整備も終わり、三銃士のいつもの生活風景だった。
「……黒幕は、プロイツェンか」
オカリナから口を離し、吐き出すようにビーピーが言う。それに、隣に座っていたヴォルフが静かに頷いた。
「ヴォルフと言ったな。後悔するぞ」
「なんのことでしょうか……?」
ヴォルフがそう返すと、ビーピーは湖面に視線を向けたまま、ゆっくり続けた。
「そのままの意味だ。今ガイロス帝国にとって最も危険な男はギュンター・プロイツェン。それを討つことに異論はない。だがな、お前にとってはそれだけの問題ではない。実の父を倒すというのだ。それがどのような人物であれ、お前は心に傷を負うだろう」
「覚悟の上です。それに、私はあれがどのような男か理解しています。あんな男、もはや父と思いたくもない……! 自らの欲のためだけに国一つを、そこに暮らす民を全て傷つけようなど、良識ある人間の成すことではない!」
「……そうか。なら、お前には何も言うまい」
ビーピーは再び湖面に視線を落とす。先ほどまでは澄んだ鏡のような湖面は、木々を揺らして吹き始めた風によってさざ波を立てていた。
「……お前は、ローレンジと親交が深いそうだな」
「唐突ですね。それが?」
「あの娘……どうやって、知り合った?」
ビーピーが指し示す先、そこには薪割するグロスコフとリハビリだと言ってそれを手伝うロカイ。そして、ニュートと一緒に退屈そうにそれを眺めるフェイトが居た。
「フェイトのことを、御存じで?」
「いや。だが、だいぶ昔にあれによく似た娘を見た。北エウロペでだ。少し、気になってな」
「気になる……? それはいったい」
ビーピーがそのことについて語ろうとした時、小屋の戸が開きワグナーが現れた。深刻な顔つきのまま、セイバータイガーを置いている小屋に向かって行く。
「どうやら、話がついたらしいな。ワグナーから聞いてくる。さっきの話は、また後にしよう」
「待ってください!」
慌ててヴォルフも止めようとするが、ビーピーはそれ以上語ることもなく湖畔から去った。
***
「フェイトについて知ってた?」
「ああ、三銃士の方々も何か勘づいているようだ。いや、知っていたというべきか、とにかく、そんな感じがした」
当のフェイトはロカイと共に三銃士の小屋で留守番だった。本人はついて行くと言い張ったのだが、ローレンジが断固としてそれを否定した。その理由は、これから行う戦いを見越してだった。
「まぁ聞いてみれば分かるさ。俺が勝てればの話だが」
「自信がないのか? 話では、バンは彼らに勝ったと――」
「――だから俺が勝てるって保証はない。三銃士は歴戦のゾイド乗りだ。それも、旧大戦の頃からその名を馳せ続けた人たち。間違いなく、ゾイド乗りの腕で言ったらトップクラスの中でも指折り。それにタイガー乗りだ。セイバータイガーのことならスペシャリストだからな」
やがて、森が開け広大な窪地が現れた。まるでどこかの火口のような窪地。その窪地を見下ろす位置に、金と銀の機体色を月明かりに映えさせる三機のセイバータイガーATが居た。
「ヴォルフはここで待っててくれ。これは、俺とワグナーの一騎討ちだからな」
闇に溶け込む黒の機体を躍らせ、ローレンジとグレートサーベルが窪地に降り立つ。呼応するように、金色のセイバータイガーATも窪地に飛び降りた。
ローレンジは周囲を見渡し、静まり返っていることに気づく。ここは嘗て戦士と戦士が誇りを駆けて戦った闘技場でもあったはずだ。多数の
「珍しい。
「今日の戦いは誇りをぶつけあうゾイド戦士のものではない。ただの、個人的な死闘だ。空しいものだな。……さて、余計な言葉は必要なかろう。始めるぞ」
金色と漆黒、二頭の虎が吠え、同時に駆けだす。互いに真正面から突っ込み、頭を低くし頭部をぶつけあった。
ガツンッッッ!!!!
コックピットを覆う装甲に、両者のスピードと体重がプラスされた衝撃が襲いかかる。激しく火花を散らし、四肢の爪を大地にめり込ませ、両者は譲らない。だが、僅かばかり金色のセイバータイガーATの方が力は上だった。少しずつ、グレートサーベルの爪が大地に爪痕を残しながら後退する。
「ちっ……それなら!」
両脚に力を籠め、グレートサーベルが跳び下がる。それと同時に腹部の3連衝撃砲から圧縮空気が発射され、前に進み出ていたセイバータイガーATを一瞬押さえつける。
「ほぅ、射撃の腕はやるな」
一瞬身を縮こませ、バネのように体を伸ばす。勢いで走り出したセイバータイガーATにグレートサーベルの8連ミサイルポッドが撃ち込まれるが、その全てが撃ち落とされた。
一気に近接距離まで接近したセイバータイガーATの右の爪が振り下ろされる。グレートサーベルはすんでのところで躱すが、続けざまに横に振われた左の爪が装甲を抉った。グレートサーベルの左肩の装甲が砕け、スパークが走る。
「どうした! その程度か!」
「うっせぇ! このぐらい、距離とっちまえばこっちのが……」
一旦背を向ける形で遠ざかり、崖を利用してセイバータイガーATの上をとる。ミサイルポッドとソリッドライフルで狙い撃つが、それを想定したセイバータイガーATはジャンプで回避。逆に上を取り、大地に叩きつける。
「ローレンジ、君の腕は見事だ。すでに並のゾイド乗りを凌駕している。いっそ、達人と言っても過言ではない領域だ。だが、なんだ? その逃げ隠れするような戦い方は」
「逃げ隠れ?」
「タイガーは高水準のパワーとスピードで相手をねじ伏せる高速強襲戦闘のゾイドだ。だが、お前は距離を空けて射撃で相手を少しずつ削る。それは、タイガーの戦いではない」
踏みつけられた状態ながら、グレートサーベルはセイバータイガーATを後ろ足で蹴飛ばし、立ち上がった。
「今のは君の操縦ではない。サーベラが自らの意志でそうした、だろう?」
「…………」
「ワグナーめ、最初から奴を鍛えるためか」
「ビーピー殿……?」
銀のセイバータイガーATに乗るビーピーの言葉に、ヴォルフが話しかける。
「それはいったい……」
「ワグナーは最初からローレンジを鍛えるつもりでここに連れてきたのだろう。異論はないがな」
「今の皇室にとって最もためになることを成す。我らの使命だ。たとえ、相手が皇室に仇成した者であってもな」
グロスコフも当然の様に言い、眼下の戦闘を見守った。
闇に溶け込む漆黒のグレートサーベルを、夜闇でも目立つ黄金の月のようなセイバータイガーATが圧倒する。二機は超至近距離を保ちつつ、一歩も引かぬ戦いを見せている。先ほどまではグレートサーベルが距離をとろうとしていたが、数分前から戦法を大きく変えていた。
「ヴォルフ殿。ローレンジの以前の機体は?」
「……ヘルキャットです」
「そうか。ローレンジの身体には、射撃メインの小型ゾイドでの戦いが染みついていたのだろう」
「グレートサーベルも射撃戦に対応できるゾイドだ。だが、あれは格闘に射撃、両方を柔軟に活用しつつの高速戦闘こそ真価を発揮する。そのためには、奴が格闘戦にも柔軟な対応を見せねばな」
「ローレンジの格闘戦のセンスが足りないと、そう言うことですか!?」
自分で言葉にしつつ、ヴォルフはそれを疑っていた。以前、格闘戦特化に強化されたバンのゾイド――ブレードライガーとの戦闘時、グレートサーベルは真正面からその猛進を受け止めていた。それは、ローレンジの類まれなる操縦テクがあってこそと……。
「まさか……あれはサーベラ自身の意志?」
ゾイドは機械生命体だ。通常、人間が扱うゾイドはコンピュータによって制御され、その意思を抑制されている。だが、ローレンジの扱うグレートサーベル――サーベラはザルカの調整によって、本来のゾイドの意志を前面に押し出した機体である。そのおかげか、人間では対応しきれないところも、サーベラが
「詳しいことは我々は知らん。だが、ローレンジはあの機体に頼っている面が強いということだ。それでは、真のゾイド乗りとは呼べん」
「だからワグナーも接近戦のみに絞って戦っているのだろう。奴の力を引き出すために」
セイバータイガーATの牙が襲いかかり、ローレンジはそれを跳躍で躱す。だが、前足を上に持ち上げ、その爪でグレートサーベルの腹に傷をつけられた。
『グルァア!!』
「サーベラ! 冷静さを欠くな! 見切りが甘くなるぞ!」
『キゥィイ……』
「ニュート、さっきの傷の具合は?」
モニターに映し出された状況を見て、ローレンジは唇を噛んだ。まるで曲芸師のように周囲を跳び回り、走り回り、的確な打撃を加えてくるセイバータイガーATにすっかり翻弄されていた。受けたダメージもかなり蓄積している。
――こんの……あの時みたいにできたら、奴を捉えるのも……あの時? そういや、あん時は……。
歯噛みし、打開策を考えているとこれまでの戦闘が脳裏をよぎった。そしてそのうちの一つ、ある時の戦い方がそれまでと大きく違うと気付く。
それは、初めてサーベラを完璧に乗りこなした日。テラガイストのゾイド部隊を蹴散らし、時速三〇〇キロを越えるライジャーを一瞬で捉え、撃破したその時。
「あの時は、確か……なるほど」
ローレンジは一旦操縦桿から手を離し、手を握り込んでは離しを繰り返す。少し、気分がすっきりしてきたところでもう一度操縦桿を握った。
「どうやら、ここまでのようだな……これで決めさせてもらうぞ!」
ワグナーのセイバータイガーATが駆けた。最大の武器キラーサーベルを閃かせ、一瞬のうちに間合いに踏み込む。その刹那
グレートサーベルは右足を軸に回転し、セイバータイガーATの前から横に移動する。そして、キラーサーベルを外し、だが止まらず駆け抜けようとしたセイバータイガーATの身体に牙を突き込んだ。
「なにっ!?」
ワグナーが瞠目する。このタイミングは事前に来る時を正確に把握できないと不可能な時間だった。その上、グレートサーベルのダメージは酷く、ここまでの俊敏な動きは出来ない。ダメージの大きい機体と、それを直に感じる操縦者の操縦では、不可能。
「そういや、ガルドが精神リンクがどうとか言ってたな。なるほど、俺とサーベラの意識を一つにすれば、それをニュートがサポートしてくれるってワケだ」
思わずローレンジの口元に笑みがこぼれ、サーベラもセイバータイガーATを咥えながら笑った。そして、
「これで、終わりだッ!」
前足をかけ、一気に押し倒す。首筋の回路を噛み切り、セイバータイガーATは機能を停止した。
「……システムフリーズ。俺の負けだな」
ワグナーは目を閉じる。一瞬の攻防により敗北した事実が心に染み入り、くやしさがこみ上がる。だが、
「空しい勝利よりは、偉大なゾイド乗りに敗北した事実の方が、ずっといい」
その表情には、満足感がにじみ出ていた。
「合格だローレンジ。まだまだ粗削りではあるが、お前のやり方で、きっと我らよりも強くなれる。タイガー乗りとして、十分だ」
「サンキュ。……あと、あなた方にも、謝っておかないとな」
「それは、プロイツェンを打倒したらでいい」
ワグナーからの言葉で、ローレンジも気持ちが晴れやかになった。これで、もう迷いはない。ルドルフ殿下もじきに帝都にたどり着く。自分たちの念願だったプロイツェンの打倒は、もう目の前だ。
その時だった。コックピットに通信回線が開かれる。小屋に残してきたロカイからだった。ロカイは、どこか怪我をしたのか緩慢な動作でモニターに顔を見せ、そして、震える声で告げた。
「すまん……襲撃を受けて……あの子が、フェイトが……」
「……は?」
三銃士の登場回でした。
そして、第二章もいよいよ佳境です。