さて、新年度が始まりましたね。という訳で(?)今回はおまけです。新年度の始まりを祝して。
第二章はシリアス調でお送りしたので、若干印象変わるかな。
メインを張るのはみなさんお待ちかね、ヴォルフとアンナのお二人です。
まぁ、動かしやすいんでローレンジも結構出ますが。
ではどうぞ。
私たちの使命は終わった。そして、それは新たな目標へ動き出すための始まりだ。
多くの苦難を乗り越えてきたからこそ、我々はその新たな目的へと邁進することもできよう。私は、皆がそう感じていることを切に願う。その想いが、目標を達する原動力と思うからだ。
だが……今宵はそのようなことは考えまい。堅苦しい言葉など、今宵に至っては無粋だろう。皆が用意してくれたこの席を、私は素直に喜ぼう。
ありがとう。
そして、皆も存分に語らい、今宵の宴を楽しもうじゃないか!
(
―――――――――――
その日、ヴォルフはいつものように目を覚ました。時計を確認すると朝の六時。いつも通りの時間である。
身支度を済ませ、ドラグーンネストに設けられた自室を後にし、直ぐにブリッジに向かった。ブリッジの者たちと軽い挨拶を交わし、自分がいない間の出来事を確認。それが済むと、ドラグーンネストを後にした。
現在、ドラグーンネストは帝都ガイガロスにほど近い港に停泊しており、ヴォルフは愛機アイアンコングmk-2を起動させ帝都に向かう。
最近のヴォルフの毎日は、もっぱらこのように始まる。
帝都ガイガロスの決戦から、一ヶ月が経過しようとしていた。
***
帝都ガイガロスの復興は、被害が最も深刻な官邸前から始まっていた。一刻も早くこの場を整備し、新たなガイロス皇帝の戴冠式を行うためである。
その次期ガイロス皇帝であるルドルフはそれよりも民の過ごす町並みの整備を一刻も早く進めるべきだと主張している。だが、帝都の周辺には未だプロイツェンを信仰するプロイツェンナイツの残党が潜んでおり、一度ならずルドルフが生き残りの襲撃を受けたこともあった。だからこそ。一刻も早く皇帝の座を確かなものとし、付け入る隙を無くすべきなのだ。幸いなことに、この判断にはガイロス国民からも賛同の声が挙げられている。そのため、官邸前の復興が最も早く進められているのだ。
ヴォルフ率いる
ヴォルフはアイアンコングを帝都近くの森に停め、崩壊を免れた帝都の一角を歩いていた。デスザウラーがもたらした被害は絶大だが、それを免れた場所では帝都の市民が助け合いながら必死に生きている。そんな姿を垣間見て、自分たちも働かなければとやる気が湧いてくる。
ヴォルフの中では
――む? あれは……。
そんな町中でヴォルフは小柄な影を見つけた。赤い髪の大男と茶髪の女性を従えた少年を見て、すぐにその少年の元に向かった。
「ルドルフ殿下」
「あ、ヴォルフさん」
傍らにロッソとヴィオーラを控えさせ、ルドルフは無邪気な笑顔でヴォルフを迎える。周りは少し騒然としており落ち着きがない。
「さん付けはおやめください。あなたは次期皇帝なのですから」
「あ、は、はい。そうですね。申し訳ありません、ヴォルフ」
「ですから……敬語も控えてください」
「あ、えと……すまない、ヴォル、フ」
たどたどしく言葉遣いを直そうとするルドルフに、ヴォルフは「次期皇帝と言えどまだまだ子供だ」と感想を抱き、微笑ましく思う。
「ところで、なぜあなたがこのような場所に?」
「え? あ……えと、その……」
途端に口ごもるルドルフにヴォルフは疑問を持った。大体の事であれば即答する、ルドルフは一度目的を定めたら決してそれをぶれさせない。だから、こうして口ごもるようなことはらしくないと思う。
そんなルドルフの言葉が紡がれる前に、ロッソが口を開いた。
「官邸前の復興が重視されているからな。民が不満に思ってないかと視察に来たんだ。他にも、殿下は民のためにできることはないかと探してな」
「え、ええそうです! 復興作業は兵の皆さんが率先してやってくださってますから。次期皇帝として、僕にできることはないかと思いまして……」
ルドルフの実直な性格からすれば、その言葉に嘘偽りはないと思う。だが、ヴォルフはどこか違和感を覚えた。それが理由なら、はっきり言えばいいのだ。ルドルフが口ごもる理由がない。何か隠しているのでは? そう、ヴォルフは疑いを深める。
疑惑を宿した視線をルドルフに投げた。とたんにルドルフは視線を逸らす。
……怪しい。
次いでロッソとヴィオーラに視線を向けるが、彼らは平然としており答えを知るにはルドルフに直接問いかけるしかなさそうだ。
「ルドルフ殿下」
「え……えと……そのぉ……」
もう言い逃れはさせない。その気迫を籠めて見つめる。ルドルフがそれに耐えかねて言葉を発しようとしたその時、
「ヴォルフ~、その辺にしとけ~」
間延びした声と共に、ヴォルフの親友が現れた。
「ローレンジ……ならば、お前が答えてくれるのか?」
「あ~……、それは俺も知らねぇが、さっきプー様親衛隊の生き残りが襲撃をかけてようとしててな」
「なんだと!?」
ヴォルフはそれを聞いた瞬間に緊張感を露わにするが、ローレンジが「落ち着け」とヴォルフの肩を叩いて宥める。
「俺にルドルフ殿下の護衛を命じたのは誰だ? お前だろ。ちゃーんと役目は果たしてるって」
「それで、その襲撃者は?」
「さっき巡回の軍の奴に引き渡した。お前も早く仕事に戻れよ。物資運搬とか連中の捜索とか、俺たちの受け持ちだろうが。で、お前はその指揮だろ。早く行ってやらねぇと、万が一の対処が遅れるんじゃないのか?」
「む、そうだが……」
ヴォルフがルドルフにもう一度視線を向けると、ルドルフはやはり目線を外した。
「お前に心配をかけたくないんだよ。ほら、行った行った」
「……分かった」
未だどこか、違和感をぬぐいきれないヴォルフだが、結局それ以上の会話はなされないだろうと、ヴォルフはその場を後にする。
「すみません、ローレンジ」
「殿下は隠し事が下手なようで。ここへ来たのは例の物を探しに、ですかね?」
「ええ」
「どうしてもって、聞かなくてね。殿下も感謝してるのよ。どうにか形にしたいって」
苦笑しながらヴィオーラが補足する。それを聞きながらローレンジは周囲を見渡し、軒を連ねる店の看板を眺めた。ほんのわずかな時間黙考し、やがて口を開いた。
「……でしたら、あっちの方に行っては? さっきアンナがいましたから、ピッタリなものを教えてくれるかと。……ああ、いや。あいつのことだから、選ぶのに長くなりそうですがね」
「構いません。それでは」
ルドルフはそう言ってその場を後にする。ヴィオーラがその後に続き、ロッソがローレンジの横を通り過ぎる。その時、
「ローレンジ、さっきのは?」
「事実だ。なに、二人の手を煩わせたりはしねぇ。殺る側の視点は、俺のが知り尽くしてるからな」
「……そうだな。すまん。だが頼むぞ」
「別に。本来、俺はこっちのが合ってる」
小声で言いあい、ロッソもルドルフの傍に戻って行く。
ローレンジも彼らから離れ、人ごみに紛れて裏路地へと戻って行った。
***
そして、日も暮れかけた頃、いつものように忙しい日中を耐え抜いたヴォルフは自室で一息つく。
――おかしい……。
ヴォルフは頭の中でその一言を何度も反響させた。
昼休憩に立ち寄った店でウィンザーを見かけた。だが彼はヴォルフに気づくと食べていた麺を吹き出し、相席しようとしたら慌ただしく食べ尽くして出て行く。
復興の手伝いに戻ろうとしたらある店からアンナが出て来たのを見かけた。だが、アンナはこちらに気づくと顔を真っ赤にして走り去った。
プロイツェンナイツの生き残りの報告を受け、それに対する指示を出して一息ついた。状況確認のためにドラグーンネストのブリッジに戻ったところにザルカがやってきて新型ゾイドの設計について二時間も話し続けた。
それが終わると入れ替わる様にムンベイがやってきて、ルドルフ殿下護衛の報酬について、こんな時に文句を言ってきた。
さらにバンが修行がてらゾイド戦をやってほしいとこんな時に頼み込み、あげくフィーネも付き合って見学する始末。
ゾイド戦が終わって自室に戻り一息つくと、トドメにローレンジがいなくてつまらないと言うフェイトがやってきて話し相手をさせられる。
ザルカ辺りからヴォルフの行動を邪魔するようにやってくる。それはもう、帝都復興などどうでもいいと言いたげな勢いだった。
おかしい、確実に何かがある!
ヴォルフはそう確信した。
そして、いつの間にかフェイトがヴォルフの膝を枕に寝込んでしまった。動くに動けないが、ようやく静かになった。精神的に疲れた気分になり、自室のベッドに座っていたヴォルフは、そのままベッドの上に寝転ぶ。部下たちの前では見せられない情けない姿だが、今だけは仕方ない。
せめて五分だけでも。そうか細い希望を願ったが、現実は無情だった。
「ヴォルフー。ちょっと話が……」
ドアを開けてやって来たのは――アンナだった。何かを覚悟したような顔だったアンナはヴォルフの情けない姿を、そしてフェイトを見つめ――顔から一気に熱が引いていく。
「……アンナ?」
一ヶ月前にやっと再開した幼なじみ。その今まで見たこともないような冷めきった表情を見て、さしものヴォルフも慌てて立ち上がる。フェイトが膝から転げ落ちるが、もはやそれを心配する余裕がなかった。テラガイストの襲撃を受けた時以上のうすら寒さを感じ、ヴォルフはアンナの表情を窺う。
アンナは表情を隠すように俯く。
「ア、アンナ……なぁ、い、一体何が……」
「…………」
「な、なぁ、答えてくれないか? 何か、私も恐怖を感じるのだが……」
「……ル……の……カ」
「アンナ?」
何か悪い事でもしただろうか? そう思いつつヴォルフは一歩踏み出す。
瞬間、アンナが伏せていた顔を上げる。さっきまで氷海のように冷たかった表情は、マグマの如き熱を宿している。その急激な変化にヴォルフの危機感が警鐘を打ち鳴らす――よりも早く、アンナが叫んだ。
「ヴォルフの、バカーーーーーーッッッ!!!!」
今まで浴びたこともない痛烈なビンタがヴォルフの顔を打ち据え、あろうことかその意識の全てを吹き飛ばした。
今にも泣き出しそうなアンナの表情が、ヴォルフの目に焼き付けられた。
それからどれくらい経っただろうか。ヴォルフはゆっくりと意識を取り戻す。その瞬間――
何かの爆発音が響き渡った。
「Happy Birthday!!!!」
***
発端は、アンナの一言だった。
帝都の復興に尽力し始めて二週間が経過したその日。ヴォルフを除く
「それでアンナよ。いったい何用だ?」
集まったメンバーを代表してズィグナーが問いかける。ドラグーンネストの会議場に揃ったメンバーが訝しげにアンナを見つめる中、アンナは口を開いた。
「ズィグナーさんは知ってるでしょうけど、もうすぐヴォルフの誕生日なのよ」
「「「誕生日?」」」
ズィグナーを除くその場の全員にとって、それは寝耳に水の話だった。これまでプロイツェン打倒という目的を掲げ、浮ついた話やイベントから自ら遠ざかって戦いに身を置いてきた彼らにとって、誕生日というのは自分自身のそれすら忘れ去っていた。思い出そうと思えば思い出せるが、わざわざ公表するまでもないことだ。
「誕生日! そうだな、確かにヴォルフ様の誕生日だ! 懐かしいなぁ、昔は私とアンナとの三人で祝ったものだ。ヴォルフ様が八つの時まではプロイツェンも交えて誕生日会を密やかにやったものだな」
一人、ズィグナーだけはその当時を思い返したのか遠くを見るような目で言った。心なしか、目じりに涙が浮かんでさえいる。
ちなみに、ズィグナーの言葉によって、集った者たちが“ヴォルフが信頼していた”プロイツェンを垣間見たのもこの瞬間である。
「だから、プロイツェンを倒して一段落したじゃない? まだそれを祝う祝杯は挙げてないし、それはルドルフ殿下の戴冠式の日って決まってるけど、この機会にやってあげたいのよ。ヴォルフはこれまでずっと、実の父を倒す過酷な現実と向き合っていたから、ね? 復興作業もたくさん残ってるけど、みんなも軽い息抜きになるでしょう? 元は敵対していたあたしが言うのもなんだけど、お願い!」
アンナは立ち上がって頭を下げる。それだけ、ヴォルフのために出来ることをしてあげたいのだろう。無論、その場に集まった者たちから反対の意見はない。むしろ大賛成だった。
「いいではないか、俺様は賛成だ! 俺様たちのリーダー、ヴォルフ様を盛大に祝ってやりたい!」
「そうですね。何年振りでしょうか、誕生日会をやるなんて」
「フハハハハ! よかろう! ワタシも賛成だ! 偶には悪くなかろう」
ウィンザー、サファイア、ザルカが口々にそう言った。ローレンジは、答えはしなかったが異論はないと頷く。ズィグナーは言わずもがな。フェイトに至ってはすでに顎に指をあてて一人計画を練り始めている。
「うーん……それならさ! ルドルフさんやバンたちも呼ぼうよ! 他にも人を集めてさ!」
そのフェイトの意見はもちろん取り入れられた。その場で決まったのは代表としてアンナがプレゼントを用意すること。会場はドラグーンネストの中で、人数を集めるから不適当ではあるが格納庫の一角にすること。参加を呼び掛けるのは
特に参加メンバーは吟味された。ヴォルフは帝都崩壊の元凶であるプロイツェンの息子だ。プロイツェンを憎む者たちの怒りの矛先になりうるのは当然のこと。だからこそ、メンバーは信頼たりうるメンツでなければならない。
そして、参加を呼び掛けるメンバーは、
まず帝国からルドルフ、ロッソ、ヴィオーラ、ホマレフとなった。帝都決戦で帝国側の指揮をとったシュバルツも呼んだのだが、彼は現在の帝国軍をまとめるために辞退した。三銃士は残念ながら怪我が重く不参加だ。
共和国からはパリスとドクター・ディが呼ばれることとなった。流石にルイーズ大統領は無理があり、ハーマンも滞在する共和国軍をまとめる責務がある。
次に帝国・共和国とかかわりの無い者たち。すなわちバンにフィーネ、アーバインとムンベイも呼ぶことが決定した。
主なメンツはこの辺りだ。
そして、当然のことであるがヴォルフにこの話は秘密だ。決して洩らしてはならない。
それから二週間、復興作業に尽力する最中で参加を呼びかけ――誰もが嬉々として参加を受諾し――
また、この日の昼からはドラグーンネスト内でパーティー会場の準備が行われたのだが、午後になってヴォルフが帰還してからは壮絶だった。
この日、ヴォルフは復興作業に従事する
それがザルカの長話(本人は作り上げた新たなゾイドの設計図について嬉々として熱く話した)であり、ムンベイの報酬の話(本人は本気で報酬金を引き出そうとしていた)であり、バンの練習試合(途中から熱が入りかなり白熱したゾイド戦だった)であり、フェイトの暇つぶし(ローレンジがルドルフの元に出っ放しなため本当に退屈だった)である。
要するに、足止めの目的を度外視してそれぞれの目的に熱中しただけなのだが。
そして最後にやって来たアンナは会場にヴォルフを連れて行く予定だったのだ。予定、だったのだが……
「で、ヴォルフをぶん殴って逃げて来たと」
「知らないわよ! あんな奴!」
ただの嫉妬だろうが。
そう思いつつも、言葉にしたら、すでにゆでだこのように赤い顔をさらに真っ赤に染めてヴォルフの意識を刈り取った一撃が飛んでくる。それが分かるから、あえて何も言わなかった。
ローレンジは深くため息を吐いた。先ほど現状を確認しにヴォルフの私室に入ったローレンジの背中には、穏やかな寝息を立てるフェイトがいる。そして、扉の先には訳も分からず意識を刈り取られたヴォルフ。
正直疲れた。ヴォルフもいろいろ疲れた一日だろうが、この一度の出来事でローレンジの精神も一気に疲れ切っていた。
「どーすんだよ。主役がいなくちゃどうしようもねぇぞ。だいたい、発案はお前だろうが、アンナ」
「それは! ……そうだけど……でも」
怒りのままに否定しようとし、だが、途端に自信のしでかしたことを思い出したアンナは手に持った箱を弄ぶ。
「――この情けない姿のヴォルフをあのメンツの中に連れて行くのは……流石に気が退けるな……いや、別にいいか? その方が親しみが出る。ただ、まぁ両頬真っ赤じゃあなぁ」
「ヴォルフがいけないのよ! フェイトに鼻の下伸ばして――」
「いや、ヴォルフ自身も疲れ果ててただけで……」
そう言いつつ、背中で穏やかな寝息を立てるフェイトに溜息を吐かざるを得ない。彼女がヴォルフの元に向かったのは、それこそヴォルフの足止めの狙いもあるが、フェイト自身もそれを望んだからだ。
フェイトはローレンジを兄として慕う一方、
そんなフェイトと最も一緒に居るのは当然ながらローレンジだ。血は繋がっておらずとも、兄妹として培われた絆は海より深い。ではそのローレンジを除くとフェイトが最も懐いているのは誰か? ヴォルフである。
アンナが嫉妬するというのも……まぁ、ありえないこともない。
――こいつも厄介なことしてくれたよ。ホント……。
「つか、鼻の下伸ばしてって……お前は
「――そんな訳ないでしょ!」
さっきまでの落ち込みはどこへやら、大声で否定された。必死の形相で否定するアンナの声に顔を顰める。同時に、説得する言葉を脳内で再生しシミュレーションしながらローレンジは「はぁ」と息を吐く。
「そこまで断言できるなら、グダグダする必要もねぇだろ」
「え?」
いい加減、部屋の前で話し続けるのも辞めようとローレンジはフェイトを背負って部屋に踏み入る。寝ながらしがみ付くフェイトを支える手を離し、ヴォルフを持ち上げるとベッドに寝かせる。その行為をアンナが顔を赤くしながら見ていたのを無視し、ローレンジは続けた。
「こいつ、表面上は平静を装っていたけどさ。お前がプロイツェン側についてるって知った時はかなり慌ててたぜ。そこそ、滅多に酔いつぶれないこいつが潰れて、うわ言でお前の名を呼ぶ位な。テラガイストに襲われた時は迷いを吹っ切れるために暴れてた感じもあったし」
「ヴォルフ……」
「幼なじみなんだろ? いいもんだな。……ずっと、幼いころから共に育ってきた。それだけ通じ合って、信頼し合ってるんだ。……俺には、縁のなかった話さ」
「……ローレンジ、あんたひょっとして……」
アンナはローレンジの過去を知らない。ローレンジ自身が話す気もないため、また知っている者も噂の様に話すこともないからだ。
だが、僅かに見せたローレンジの寂しげな横顔から、アンナはそれを断片的に悟った。それに――。
「ちょうどいいじゃねぇか。このまま起きたらコクっちまえ」
「なっ……」
直後にこんなことを言いだされるのだから。
瞬間、アンナの顔は真っ赤に染まり思考が弾け飛んだ。
「な、ななな、なに言ってるのよ! って、なんであんたがそんなこと早とちり――!」
「まさか気づかれてないとでも? 一途な好意を壊され、それを八つ当たりにぶつけられてんだぞ、俺は。それで気付かないまでも、僅かに察することもできない奴がいるなら、そいつは相当な鈍感だ」
再度ため息を吐きつつ「まったく、八つ当たりで殺されかけたんだぜ」とローレンジが僅かに恨みがましい目でアンナを見た。すると、アンナも当時を思い出したのか、顔を逸らして「あれは……悪かったわ」とぎこちなく謝った。
「……それに、絶好のタイミングだと思うぜ。いつまでも内に秘めてないで、さっさとぶちまけた方がいい。立場を気にする必要もない。お前が前は敵対していたなんて、うちのメンツが気にするわけがねぇ。ウィンザーは美女が入団したって大喜び。ザルカはメンバーの増減なんて気にもしない。サファイアに至っては、むしろお前が気に病んでないか心配してたくらいだしな。他の連中も、みんな腹のうちに一つや二つ抱えてるものがあるさ。知らねぇだろうけど、お前以外にもプロイツェンナイツからこっちに移った奴がいるんだぞ。……あと、俺たちの身の上考えたら、早く言っちまったがいいと思う」
これから、どう転んでも茨の道は明らかだから。
「だけど……」
「……そっか。んじゃ、この話はこれで終わりだ。俺はもう口出ししない。後はお前が決めるんだな」
先ほどまで怒り心頭だったアンナは、ここまでのやりとりでしおらしく治まった。それを見て「うまく逸らして乗り切った」ことを確信する。多少強引ではあったが、ローレンジはそう確信できた。
「でどうするよ、ヴォルフの奴。案がないんなら、いっそ――な手があるけど?」
ローレンジはまるでいたずらを考え付いた子供のような笑顔で、その案を語る。アンナも、それしかないかと諦め――これ以上話しているとあらぬ方向に向かいそうで――提案を認めた。
***
そして、ヴォルフの意識が戻ったその時、一斉にクラッカーが鳴り響いた。
「「「「「「「Happy Birthday ヴォルフ(様)!!!!」」」」」」」」
「な、こ、これは……!?」
クラッカーの弾ける音に跳ね起きたヴォルフは、狭い自室に大量の人が入っているのを見て、目を丸くした。
「さぁ! ヴォルフ様を会場にお連れするぞ!」
すっかり面食らったヴォルフは現状が理解できていない。
ズィグナーの言葉にぞろぞろと移動を開始する面々を見、最後に自室に残っていたアンナが手を差し出した。
「ほら、行きましょう。ヴォルフ」
「あ、ああ……」
気絶する直前の目に涙を溜め込んだアンナはそこにはいない。あれは夢だったのだろうか?とヴォルフが錯覚するほどだった。だが、頬に残る鈍い痛みはそのままである。現状がさっぱり理解できていないヴォルフの手をアンナが取り、そのままドラグーンネストの廊下を歩き出す。
着いたのはゾイド格納庫の一角だった。普段は武骨な鉄色のその場所が、今日に限って華やかに彩られていた。カラフルな紙テープで作られた飾りがあちらこちらに顔を見せ、手作りらしき紙の花で装飾された木の板には大きく
『Happy Birthday ヴォルフ!!』
の文字が。
「こ、これは……」
ヴォルフはもはや言葉も出ない。普段の引き締まった表情とは正反対に、ポカーンと口を開けて絶句した。
そんなヴォルフを放置して、格納庫の明かりが落とされる。そして、ある一角にぼんやりと幻想的な明かりが光っていた。
「さぁさぁヴォルフ様。まずはロウソクの火を消して、それからですぞ」
ズィグナーに背を押され、アンナと二人でケーキの前に立つ。立ち並ぶ人の数と比べればほんの小さなケーキだ。その上には、ほのかな炎をともしたロウソクが。
「ほらヴォルフ、早く消せよ。みんなお前が起きるのを待ってたんだから」
「あ、ああ……」
ローレンジに促され、やっとヴォルフは目の前のケーキを見つめた。大きく息を吸い込み、ケーキの上のロウソクに吹きかける。
炎が消え、真っ暗になった格納庫に歓声が轟いた。
多くの人からお祝いの言葉を投げかけられ、それに一人一人誠実に返してヴォルフはやっと現状を理解し始めた。と同時に、一息つくことが出来た。
「まさか、この歳になって誕生日を祝われるとはな」
ヴォルフは真新しいグラスを片手に黄金色の液体を喉に流す。グラスはルドルフから送られたもので、彼個人からの誕生日プレゼントだ。中身が二つだったのはあえて触れないでおく。
眺めてみると壮観なものだった。
当初は来れないと言っていたハーマンとシュバルツがそれぞれの部下に勧められ結局出席。話が合うようで、互いに労をねぎらっている。
共和国の科学者ドクター・ディがドラグーンネストの構造を熱心に調査し、それに気づいたザルカが豪快な笑い声を響かせながら語らう。なんと旧知の仲らしく、二人して自慢話に華を咲かせた。ドクター・ディはこの南エウロペに雪を降らせた成果を自慢し、ザルカは海中を自由自在に進む移動要塞ドラグーンネストの能力を披露する。
ウィンザーがムンベイを口説こうと近寄り、それをサファイアが制する前にあっさりムンベイから断られ固まるウィンザー。それに呆れるサファイア。
ホマレフとズィグナーは酔ってきたのか互いの主君について愚痴り始める。いざとなれば自身の身の危険すら辞さないヴォルフとルドルフの気質について互いに慰め合っていた。ちなみにこれを聞いた時、ヴォルフはルドルフから誕生日プレゼントを貰ったところでありルドルフと互いを見つめ合い、苦笑いする他なかった。
ロッソとヴィオーラは二人で優雅に過ごしている。そこに見慣れない男たちが近づき、親しそうに話しているが、ヴォルフは気にしないでおくことにした。後で聞いたところによると、以前ロッソが首領を務めていた盗賊団――デザルトアルコバレーノのメンバーだった者らしい。この機会にとローレンジが伝手を使って呼び寄せたとか。そして、彼らの元にはのんびりとニュートが近寄っていた。
ニュートは様々な人物の元に出向き愛嬌をふりまいている。武骨なオーガノイドが愛嬌? といえばそれまでだが。それを、大勢の人々に怯えているジークに見せびらかす。指導しているのだろうか?
パリスはアーバインとどちらのコマンドウルフが上かで喧嘩腰になり始めている。それを慌てながら止めようとするロカイが二人に怒鳴られて引き下がった。
ちなみにこの会場でロカイはバンたち一行と再会し、一緒に行かなかったことについて謝辞を述べていた。バンは驚きつつも「生きていたんだからいいじゃないか」と快活に笑い、むしろ再会できたことを素直に喜んだ。ロカイもやっと心が安らいだだろう。
そのバンはローレンジと一緒だ。何やら相談をしているのか、フェイトとフィーネも一緒だった。相談内容は……ヴォルフも事前にローレンジから聞いており分かっていた。
本来なら出会わなかった者たちが出会い、絆を育み、そしてこの場に集った。だけでなく、この会場だけでも新たな絆が育まれようとしている。本来の趣旨とは違うが、この光景だけでもヴォルフにとっては最高の誕生日プレゼントだ。
国を越え、国境を越えて絆が生まれる。これからは戦争も治まり、この星に平和が訪れるだろう。国同士の結びつき。それは、ヴォルフ達が新たな目的として掲げるそれの成功も予感させた。今のこの星なら、亡国が再誕しようと絆を持って平和な世が生まれる。
アルコールで思考に薄膜がかかる中、ヴォルフはそう確信した。
「ねぇ、ヴォルフ」
「ん……アンナ」
遠くを見つめていたヴォルフは、その声に振り返る。先ほどまで遠くの景色を眺めていた所為か焦点が微妙に合わない。しばし間を置き、ようやくその焦点を合わせることが出来た。
アンナは視線を斜めに向け、声をかけて来たもののその先が無かった。どうにか話を切り出そうとするが、声を出せず躊躇している。そんな風だ。
「どうかしたのか――とっ」
らしくないアンナの姿にヴォルフは立ち上がり――酔いの所為かバランスを崩す。
「あっ――まったくあぶないわね。こんなところで倒れないでよ」
「はは、すまんな。……ん? それは?」
支えられ、少し情けないなと苦笑するヴォルフはアンナが手に小さな箱を持っていることに気づく。
「え? あ! えと……これは、その……」
「ん?」
アンナは先ほどまでよりもさらに顔を赤くし、――意を決してそれをヴォルフに突き出した。
「これ! あなたへの誕生日プレゼント!」
「プレゼント? 先ほど貰ったのは?」
ロウソクの火を消した後、アンナから――顔を真っ赤に染めながら――皆の前でプレゼントをもらっていた。中身は新しい服だった。これまで戦いに身を置いてきたヴォルフには縁遠い普通の服。もう、争いの時代は終わったのだと感じることのできるそれだ。
「あれは……
後半は聞き取れるか聞き取れないかのやっとの声量だ。だが、ヴォルフはなんとかそれを聞き取った。
「そうか、ありがとう。この場で開けてもいいか?」
「ええ。早く空けちゃって」
アンナに急かされるように、ヴォルフは箱の包みを丁寧に除き、中身を空ける。
中身はペンダントだ。先端にロケットがついた簡素なものだ。
ロケットを開けると、そこにあったのは小さな宝石と、その表面に描かれた蛇と短剣の文様。今は亡き国の国章だ。
「これは……」
「争いは無くなったって言っても、あたしたちはまだやることがあるんでしょ。忘れたくないの」
「アンナ……」
「忘れないで。あなたはいつかこの国章を掲げる人。あたしは、最後まであなたを支え続ける。あたしの、大切な人を。だから……」
その先の言葉は続かなかった。これ以上、口を割ることが出来なかったのだ。だが、その先の言葉をヴォルフはなんとなく分かった気がする。ずっと離れていた。幼なじみの想いを。だから――
「私もだ。君と、そして在りし日の父に誓って、必ず成し遂げる」
ヴォルフもその言葉を告げ、アンナを抱きしめた。
「ヴォルフ……」
ヴォルフはルドルフから貰ったグラスのもう片方を取りだし、アンナに渡す。アンナはまだ驚きを顔に張り付けながらもそれを受け取り、ヴォルフが黄金色の液体を注いだ。そして、促されるままにアンナも注ぎ返す。
「これから、一緒に頑張ろうな。アンナ」
「……ええ。あたしも、あなたを支え続けるわ。ヴォルフ」
ドラグーンネストの中は相変わらず喧騒に包まれていた。その一角、ヴォルフとアンナの周りだけは空気が違ったのだが、喧騒がそれを温かく覆い隠してくれた。
一人だけ、それに気づいた者がいる。ローレンジだ。
バンとフィーネ、フェイトとこれからのゾイドイヴ探しについて話す中、視界の端でそれを見届けた。そして、心の中で祝福する。親友とその幼なじみを。
その日のドラグーンネストは、朝日が昇るまで喧騒が止むことはなかった。
後日、アンナが躊躇いながらもこの日のことを問いかけた際、ヴォルフは一瞬ポカンとアホみたいな表情を浮かべ「何のことだ?」と問い返した。
どうやらヴォルフは半ば浮かれ気分にあったようで、またしても深酔いしてしまったようだ。おかげで誕生日会があったことは覚えているが、途中からの記憶はきれいさっぱり抜け落ちていた。
その答えが、アンナの全力のビンタであったことは、言うまでもない。
おまけのネタを考え、すぐに浮かんだのが今回の誕生日ネタでした。第二章を書く前からネタの大筋は出来てたくらいです。そして、実は二月中には書き上がってた話。
周囲の状況によって引き離されていたヴォルフとアンナ。それは再び結ばれ、その最後の一押し役はローレンジが請け負ってます。
ヴォルフを通じてアンナとローレンジの間も良好です。親しくしていた時間はありませんが、それを無視できる幼なじみのような三人の関係。彼らには、それをイメージしています。
ちなみに、冒頭の言葉はバトストをイメージして即興で作りました。こういう言い回しは書くの大変です。お話に合っているかどうか、ちょっぴり不安ですが。
さて、いかがでしたでしょうか?
定番な感じで終わりましたが、変に捻るよりこれでいいかと私は思いましたので。
今後もおまけを奇襲感覚で唐突に出します。生存報告に代えて。
第三章は……まぁ、言わなくても大丈夫ですよね。
就活は……うん、説明会会場まで行くのにお金がどんどん消えていく~。
それではまた。