アニラの大好物   作:ゲキガンガー

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アニラの大好物

アニラss『アニラの大好物』

 

「ま、待ってくれぬか! 団長殿」

「ん?」

 それは騎空艇グランサイファーがある空域に達した時の事だった。アニラは突如、叫ぶようにして声を出した。

「どうしたんだ? アニラ」

「い、いいから。あの島に着地してくれぬか?」

 アニラは逼迫した様子で言ってくる。見ると近くには島があった。

「わ、わかった。着陸させる」

 アニラのあまりに逼迫した様子に、やむなくグランは騎空艇を不時着させる。操舵士のラカムに、近くの島への着地を指示する。

 グランサイファーは程なくして、目的の島へと着地を果たす。

 

「それで、どうしたんだ、アニラ」

 目的も聞かずに着陸したのだ。いったい、どんな緊急事態が発生したというのか。

「い、いいからついてくるのじゃ! 団長殿! とにかく緊急事態なんじゃ!」

「え? ああ、待てってアニラ」

 走るアニラを追いかけるようにして、グラン達一向は町へと向かった。

 

「こ、ここじゃ! 団長殿!」

「だから、いったいどうしたんだって……ん? なんだこれは」

 目の前にはお店があった。大勢の人が並んでいる、随分盛況な様子。

 ――だが、それがいったい、なんだというのか。

「こ、ここは我のお気入りの甘味処なんじゃ。ここの近くの空域を通ったからには、立ち寄らずいられんのじゃ!」

「あ……そう」

 安堵と呆れが入り混じったため息をつくグラン。いったい、どんな緊急事態かと思ったが、どうやら大した事のない様子。

 幸い、今は緊急のクエストもなく、また長い時間飛翔していた為、ラカムにも休憩させた方がいい、という考えもあった。

「なんじゃ! 我にとっては緊急事態なのじゃぞ! 使命ともいってもよい」

 グランの呆れ顔に、アニラは怒った様子だ。

 ともかく、一同はその甘味処に入る。

 

「お待たせしました」

 一人の少女がお皿を手渡す。なぜ、手渡すのかというと、目の前にテーブルがないからだ。店内には四角い椅子がいくつかおかれているだけだ。

 どうやら本場のスタイルはテーブルにはおかず、手で皿を持ち、食べるらしい。目の前には四角くくて黒い物体。

「これじゃ! 我はこれを食したかったのじゃ」

 アニラは嬉々とした様子で食べ始める。

 その食べ物を羊羹というらしい。

「くすっ……またいらしてくれたんですね」

 店員の少女は笑顔で言う。

「そうじゃ……我の事を覚えておったのか?」

「はい。ドラフの方が来るのは珍しい事ですし、沢山食べていかれたものですから」

 少女は笑顔で言う。

「ふ、ふむ。そうか、ここの羊羹はとてもおいしいからの。つい食べ過ぎてしまうのじゃ」

「そういって頂けてうれしいです」

 少女は笑顔になる。

 ――しばらくした時の事だった。

「ふー。食った食った。いやー、食いすぎちまったな」とラカム。

「まったくだ。おいしいからつい食べ過ぎてしまう」とカタリナ。

 一同もまた、気に入った様子でそれなりの量を食べた。

「ふー。ルリア、おいしかったか?」とグラン。

「は、はい。とてもおいしかったです。……え?」

「どうした? ルリア」

 ルリアの表情が曇る。

「グランさん……あれを見てください」

「え?」

 しばらく目を話した時だった。

「あーん……ほれ、もう一皿もってこんか」

「は、はい。ただいま」

 見るとアニラはたくさんの皿を積んでいた。それはもう山盛になっていた。あの小さい体にどうしてそれほど入るのか、ブラックホールにつながっている気がしてならなかった。

「……お、お金、足りますかね」

「さ、さぁ……」

 不幸な事に最近、グランサイファーは大規模な改修工事を行っていた為。

 お金(ルピ)はほとんど底をつきかけていた。……ただの軽食程度ならば大丈夫だと思ったが、アニラが相手ではそうはいかなかった様子だ。

 

「お、お待たせしたのじゃ」

 ――案の定、ルピはかなり足りなかった。本来なら無銭飲食という事にもなりかねなかったのだが、その甘味処の温情で数日間の手伝いをすればそれでいい、という事になった。

 アニラは制服を着て接客を担当する事になった。どことなく落ち着いた衣装ではあったが、アニラの雰囲気にはぴったりだった。

ドラフが接客するのはかなり珍しく、評判になっている様子だ。店はいつも以上に繁盛している。

「グ、グランさん。お皿洗いお願いします」

「わ、わかった」

 女性陣は接客、男性陣は裏方、という役割分担が成立していた。

 

「グランさん、休憩みたいです」

「わ、わかった」

 ルリアに言われ、グランとアニラは休憩をとる事になった。人数がいるので、幾人かで回しながら休憩をとる事になった。

「はい。こちら、おやつの羊羹です」

「なんと! まぁ……我にとってはこれ以上ない褒美じゃ」

 嬉々とした様子でアニラはそのおやつ――羊羹にかぶりつく。

「……皆さんは騎空士様なんですね」

 彼女はそう言った。どこか、寂しさを感じさせるような口調。

「ん? ……そうじゃが、それがどうかしたかの?」

「い、いえ。なんでもありません。ただ羨ましいと思っただけです。自由に空を飛びまわれて。私にはそれができないから」

「ふむ……なぜじゃ? 自由に空を飛びまわりたいのならそなたもそうすればいいではないかの?」

 アニラの疑問も最もだった。だが、世の中自分のしたい事をできる人間ばかりではない、むしろそうでない人間の方が多いくらいだ。

「む、無理ですよ。私には――」

 彼女はそう言った。彼女は身の内を語り始める。彼女――彼女の名はアンジェといった。彼女の家系は代々、この甘味処を経営している。そして、彼女には兄弟もいない。この甘味処を引き継ぐのは自分しかいないのだ。もし彼女が空に旅立てば、両親に迷惑をかける事だろう。

「けど、勿論、私だって嫌嫌やっているわけではありません。こうしてお客様の笑顔を見るのは、私にとって何よりも幸福な事なのです」

 彼女は笑った。それが彼女の矜持なのだろう。ただ、そういった生活に不満があるわけではない、ただ、時々思うのだろう。空を飛んで回るというのは、どういう気分なのだろうか、と。

「……そうか。まぁ、おかげで我らはこうしておいしい羊羹を食せるわけだからの」

 そう言って、アニラは出された羊羹をひとつ放り込んだ。

 

 そういって、働いていた時の事だった。

「――いらっしゃいませ――あ、あなた達は」

 アンジェは表情を曇らせる。明らかに風体の悪そうな男たちが数人押しかけてきた。

「ん? 嬢ちゃん。それが客に対する表情か? 笑顔はどうした? あ?」

「か、帰ってください……他のお客様の迷惑です」

「へっ……別に俺たちは迷惑をかけにきたわけじゃねぇ……けどな。あんた等が俺たちのいう事を聞いてくれなきゃ、迷惑をかける事になるかもしれねぇな。へっへっへ」

 下衆な笑みを浮かべる男達。

「な、なんじゃこいつ等は――」

 アニラは矢面に立つ。

「なんだ? やるのか? あ?」

 相手は威圧をかけてくる。

 事、戦闘になればアニラが負ける要素などない相手だろう。だが、この状況でけしかけるわけにもいかない。一般の客もいるのだ。

「――まぁ、今回はこれくらいにしといてやる。俺たちは、俺たちの言うことを聞きたくなるまで何度でも足を運ぶからな。行くぞ」

 男達はその場はそれで去っていった。

 何やら複雑な事情がありそうだった。

 

「――あの男達は町を支配するギャングなんです」

 そう、アンジェは語った。

「まぁ、明らかに素行の悪そうな連中じゃったの」

 アニラは同意する。

「はい。それだけならきっと、他の町と変わらないと思います。それで、ここら辺にカジノを建てる計画があって、連中はその計画に加担しているんです。土地の買収に応じない所有者にはこうやって圧力をかける事が多くて」

「ふむ……なるほどのぉ」

 要は地上げである。連中はそれをビジネスにしているのだ。金で応じない連中には恐怖を用い、目的を達成しようとしている。カジノを建てようとしている企業は、連中の暴力を利用している。よくある話だった。

「私たちはただ、普通にお客様に笑顔でいてもらいたいと思って働いているだけなのに」

 アンジェは悲しそうに語った。

 とはいえ、アニラの独断で制裁を加えるわけにもいかないだろう。それはもっと大きな抗争を生む可能性すらある。部外者が介入していい問題とも思えない。

 

 ――次の日の事だった。様々な問題があるにも関わらず、甘味処は盛況だった。

 しかし、盛況であるが故にあるひとつの問題が発生する。材料切れだった。このままでは、出せないメニューが出てきてしまう。

「わ、私、買い出しに行ってきます!」

 アニラ達に店を任せ、アンジェは町に買い出しに出た。

 

「牛乳と――それから」

 アンジェは忙しく店を回る。

 ――と。

 ドン。

「きゃ!」

 アンジェは誰かにぶつかる。

「つっ。いてーな」

「す、すみません。急いでたもので」

「あ? 謝って済む問題じゃねぇだろ。……って、てめーは、あの甘味処の」

「え?」

 最悪だった。運悪くぶつかった相手は、地上げをしようとしているギャングだった。

「ちょうどいいじゃねぇか。ちょっと俺たちのアジトでじっくりと話聞いてくれよ」

「い、急いでるので」

「あ? 俺たちの話を聞く以上に重要な要ってあるのかよ」

 威圧される。

「いいから、連れてっちまえ」

「そ、そんな」

 半ば誘拐されるかのように、アンジェはギャング達に連れてかれた。

 

「た、大変だ!」

 甘味処に一人の男が飛び込んできた。

「ん? どうかしたかの?」と、アニラ。

「お宅の娘さんが――この町のギャングにさらわれた! さらわれているところを見たんだ。娘さん、アジトに連れ込まれていったみたいで」

「な、なんじゃと」

「――そんな、うちの娘が」

「くそ……まさか娘にまで手を出すとは――」

 そう、両親は嘆く。

「そのアジトはどこにある?」

 アニラは問い詰めるようにして男に聞いた。

「こ、ここから南西の方角に嫌な趣味の建物があるんだ……きっとそこに連れ込まれたんだ」

「南西じゃな――わかった!」

 アニラは走り出した。

「ま、待てアニラ!」

 グランの制止の声も届かず、アニラは走っていく。

 

「やめて! 放してください!」

「放せって言われて放すやつはいねーよ」

「い、いや!」

 アンジェはギャングのアジトに連れ込まれた。趣味の悪い金色の塗装が施された建物だった。恐らくは場所を隠す意味などないのだろう。己の存在を顕示したい欲求の元作られた。

「兄貴――こいつ等はどうやってらこの町を出てくと思います?」

「そうだな――ああ、俺、いいアイディアを思いついた」

「どんなアイディアっすか?」

 男達は語り始める。

「この前、俺、バイクを買ったんだよ」

「へぇ、それで」

「この女をひん剥いて、そのバイクに縛り付けて街中を一日中ドライブするんだ。きっとこの女と両親は恥ずかしくてこの町から出て行かざるをえなくなるぜ」

「へー。兄貴、そいつはグッドアイディアってやつですぜ」

 下衆な笑みを浮かべる男達。

 この男達だったら、本当にやりかねない。

「い、いや! だれかだれか助けて! だれか!」

「誰も助けにこねぇよーーいいから大人しくひん剥かれろ」

「い、いや!」

「いい加減にせぬか。貴様ら!」

「って――誰だ! ――て、てめぇは。あの時店にいたドラフの女じゃねぇか。俺たちの邪魔をしようっていうのか」

「そうじゃ! 我は貴様等を成敗しにきた! 早くその娘を放さぬか!」

「へっ。ドラフだかなんだか、しらねえが、これだけの数相手に、一人でなんとかなるのか、ああ?」

 男達は数名がアニラを取り囲む。各々が武器を手にしていた。

「御託はいいから、早くかかってこぬか。我は珍しく、頭に血がのぼっておる」

 アニラは得物を構える。

 刀ともいえず、槍とも言えない。それはそう、薙刀と呼ぶのが相応しい得物だった。

 

「アニラ! 無事か!」

 グラン達はアジトにたどり着いた。

「おお。団長殿。遅かったではないか」

 しかし、その頃には勝負は決していたようだ。大勢のギャング達が地に伏している。

「それで、彼女は無事なのか」と、カタリナ。

「は、はい……お陰様でなんともありません」

「そうか、よかった」

「とりあえず、この連中は懲らしめておいた。しばらくは大人しくなるじゃろう」

 この者たちも単に暴れたくて暴れているわけではない。

 ある種の計算、ずる賢さが根底にはある。割が合わないと思った行動はしないはずだ。

「あ、ありがとうございます」

 そう、アンジェは頭を下げた。

 

「いかれるのですね? 皆様はまた空に」

 労役を終え、アニラ達は騎空艇グランサイファーに乗り込もうとする。アンジェが見送りにきてくれたようだ。

「うむ。……それが我らの務めじゃからな」

「空はどんなところですか? 空を飛ぶのはどんな気分ですか、この青い空を自由に駆け回るのは――私は空を飛んだことがないものですから」

「娘よ。空は汝が思っているほどいいところではないぞ。空は確かに自由じゃ。だが自由であるが故にその存在は変幻していく。時には雨に見舞われ、時には風が吹き、時には雷鳴が轟く。それが空じゃ。自由であるという事は同時に危険と隣り合わせなのじゃ」

「そ、そうですよね――自由っていいことだけじゃないですよね。そんな当たり前の事なのに」

 それは単に、自分の人生に対する戸惑いもあるのだろう。このまま一生を終えていいのか。自由ではない人生を、一生を。

「なんならば、我らと一緒に空へ旅立つか?」

「い、いえ……。両親もいますし。それに、お客様も待っています。この地を離れるわけにはいきません。お客様の笑顔を見るのが、私の幸せですから」

 笑顔で彼女はいう。

「そうか」

 それが彼女の矜持なのだ。彼女には彼女の行き方があり、アニラ達にはアニラ達の生き方がある。

「――あなた達はいかれるのですね? 空に、例え空がどれほど危険なところだろうとも」

「うむ」

 アニラもまた笑顔でいう。

「なにせ、我らは騎空士であるからな」

 

「んーっ。うまい! やはり羊羹は格別じゃ。さらに空で食べる羊羹は格別じゃ」

 こうして騎空艇グランサイファーは旅立った。助けられたお礼という事で、たくさんのおみあげをもらった。

 ――しかし、どうやらアニラがいるとすぐになくなってしまう気がした。

「――また、行きたいですね」

 ルリアはそう言った。

「うむ。そうじゃの――今度はもっと食べたいのぅ。ぱく」

 アニラは羊羹を口に放り込む。

「――まだ食べる気か」

 グランはボソっと呟いた。

 そして、グランサイファーは次の目的地へと向かう。

 

 

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