影のサーヴァントが行く(リメイク)   作:鹿島鹿

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第二特異点「多世界境界門アルヌス」A-1

 

 

 その日はいつもとは違う日だった。

 そう、特別な日だ。

 俺、伊丹 耀司(いたみ ようじ)にとってこの日、夏の同人誌即売会は休暇を取っても行きたい場所だったのだ。

 始発組ほどの気合はないが、それでものんびり自分の好きなものに囲まれたイベントを回る。それだけで十分幸せだったのだ。

 だが、その日の銀座はいつもと違っていた。

 どよめく人々

 あちこちから聞こえる悲鳴。

 まるでゲームの中から飛び出してきたように現れ出す。鎧や剣を着た軍隊、おまけに空を飛ぶドラゴンときた。アレは小型だしワイバーンとかなのかな?

 当然即売会は中止。

 緊急事態につき自分の職務である自衛官としての仕事を果たすため、地元の警官たちとともに避難誘導を行うのだった。

 だが、多くの人間を誘導していれば集団の足は鈍る。

 間もなく謎の軍隊の姿が後方に見える。

 

 

 

 「クソッ、皇居までもう少しだっていうのに…」

 

 

 

 数の暴力の前では自衛官として培った力も、なんの武装もない状態では無意味だろう。

 ここまで一緒に誘導してくれた。警官たちも拳銃を抜いて発砲するが焼け石に水だ。

 悪運が強い方だとは思ったがここまでか。なんて思った。

 最後に一矢報いてやろうと肉弾戦の構えをとるが、ある言葉を皮切りにその決意は無駄となる。

 

 

 

 「チェンジ。『バーサーカー』、『ランスロット』!」

 

 

 

 「なっ…子供!?君!下がりなさい!」

 

 

 

 いきなり、学生服を着た少年が謎の軍隊と俺達の間に踊りでたのだ。

 隣りにいた警官が慌てて声をかけるが、何故か俺はその少年に対して不安を覚えなかった。

 寧ろ、いつも逃げ出す時の勘が、逆に少年の方からする。

 アレから離れたほうが良いと。

 だが背後の民間人を見捨てることも出来ない。

 

 

 思考している刹那、少年が道路脇に立っていた標識を片手で『へし折り、抜き取った』のだ。

 突然の事に呆然とする俺達。

 我が国の標識は自動車の衝突に折れ曲がっても実際に折れたりはあまりしない。そもそも、人間の膂力でアレが可能なのか?

 当然の疑問を置き去りにして、少年はその標識を馴染んだブーメランのように突撃中の軍隊へと投擲した。

 激しく回転しながら標識は軍隊の騎馬隊を蹴散らし、あとから続く軍団もその足を止めざるを得なかった。

 

 

 

 「早く行きな」

 

 

 

 呆然とする俺と警官、民間人を背に少年はそれだけ言うと、足元に転がっていた謎の軍隊の兵士が使っていたであろう時代錯誤な剣を拾うと、奴らにも解るようにソレで地面に線を引いた。

 言葉を交わさない俺達でも解ったのだ。当然奴らにも伝わっただろう。

 意味はシンプルにして簡単だ。『この線を超えたら殺す』と彼の雰囲気が告げていた。

 日本語を話したし味方である可能性は高いはずの少年に気圧されながらもなんとか自分のやることを思い出した俺は声を張り上げた。

 

 

 

 「皆さん!今のうちに皇居へ!」

 

 

 やっとその場の空気が動き出す。警官たちは子供を置いていくことに若干躊躇するもやはり彼がまともでないのも理解できたのか。迅速に避難誘導を始めた。

 

 

 だが、空気が動いたのは謎の軍団も同じだった。

 物怖じしている者を押しのけ、豚面の人外じみた者達が避難民狙いに向かってくる。

 あの少年に向かわないのはやはり先程の光景を見たからだろうか。

 

 しかし彼らは少年の境界線に足を踏み入れた瞬間、両断された。

 首を切断とかではない。

 その体が文字通り、縦に、横に真っ二つに分かたれたのだ。

 豚面の使っていた斧が肉体が分かたれた衝撃で空を舞うと今度はソレを空いた片手で持ち、馴れた獲物であるかのように片手剣と斧を構えた少年を突破しようとする猛者はあちらからは中々出なさそうだった。

 

 悠然と武器を構え、相手を見据えるその少年の背中はなんだか自分の好きなアニメやゲームの主人公のようだと伊丹は自分でも気付かない程小さく笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 まさか落ちた先がビルの屋上とは。

 ていうか現代モノかー。サーヴァントの力とか、活躍できるのかねえ。

 しかも銀座だ。パラレルワールドものかな?なんて色々考えていれば、シャドウサーヴァントのままであるこの身が銀座の一角に異常を察知する。

 

 

 

 「アレは…なんだ…門か?」

 

 

 薄っすらと見えるその門は異様な力を放っていた。

 (ルーン魔術とかで調査できるだろうか?それともキャスターにクラスチェンジして…いや、現状がわからない以上無闇に直接戦闘能力の低い場合が多いキャスターになるリスクは避けたい…)などと、どうしたものかと考えていれば。

 

 

 

 「な…!?ドラゴン!?」

 

 

 

 唐突に不可視だった門が実体化したと思えば全長5m程のドラゴンが飛び出てきた。

 自分の能力の元になっているTYPE-MOONの世界観ではドラゴンは下級種と言えど油断ならない相手だ。思わず驚愕が口から洩れる。

 

 

 

 「あれ?ソレにしては遅いしトロい?」

 

 

 

 明らかに自分が挑んで負けるビジョンが見えない機動性、運動性だった。

 しばらく動きを観察して見ても、同様のの感想しか出てこない上にクー・フーリンとしての経験も、『アレは恐れるに足らないレベル』だと断定しているので安心していると、街の人間を襲わんと数えきれない数のドラゴンが門から現れていた。

 

 

 

 「こりゃイカンな。物語の主人公がこの状態で何もしないってのはな」

 

 

 

 なんてゴチてみたが、自分の命に危険がない程度なら人助けをする程度には善人な自分である。

 今まさにになんの罪もない一般人らしき親子に襲いかかるドラゴンとソレに跨がる兵士。

 見過ごすわけには行かないとビルから難無く駆け下りれば空を舞うドラゴンに槍を突き立てる。

 不安だった攻撃が効くかどうかは拍子抜けするほど簡単に成功した。

 朱槍は容易くドラゴンの胸を貫き、一瞬で絶命させた。

 ドラゴンに乗っていた兵士がかなり驚いて一緒に落下していったが知ったことではない。

 無抵抗な人間に死ぬほどの暴力を振るうやつにかける容赦は無いのだ。

 初めての人殺しかも知れないが、圧倒的戦闘能力のこの身体がそんな感傷に浸っている場合ではないと警鐘を鳴らしたので、即座にその思考を意識から断ち切った。

 今自分がすべきなのは、物語の主人公ならばその無様は登場するにはまだ早い。

 親子が無事に逃げていくことを確認すれば疾風のように駆けて、次の標的へとも黙々と向かうのだった。

 

 

 

 手応えのないドラゴンを朱槍を振るっては叩き落とし、刺し殺していく。

 味方が落とされていくことに気づいたのか隊列が乱れ散り散りになるドラゴン達。

 

 

 

 「うげ、追いにくくなるからそういうのは勘弁」

 

 

 

 その行動に思わず舌打ちするが、渋々追いかける。

 だが門の方で多数の歩兵や騎馬兵達が出現するのをサーヴァントとして強化された視力が判別すると再度舌打ちをした。

 

 

 

 「追いかけすぎた…!身体が足りねえ!」

 

 

 

 個にして群れのアサシンや、軍勢を呼ぶライダーにチェンジすることを考えたが個人の戦闘力が高くないそれらになることは状況の分からない状態では憚られた。

 とにかく今は散ったドラゴンより、襲われている街の人を助けたほうが数で言えば多く救えると思い、門の方へと再び跳んだ。

 

 原作の正義の味方のようだと、変な気分で口元がやや歪んだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 状況的に分散して本体から離れていく謎の軍団を蹴散らしながら行くと、そのせいか連中は固まって動くことが多くなってきた。

 集団に対して有効な宝具という切り札を切るにしても現代社会に近いこの世界でそんなものをぶっぱなせば、忽ちこの世界の日本とか各国に狙われて実験動物ルートも有り得そうである。

 身体能力が凄くて、宝具が目立たないサーヴァントが理想だが…

 

 

 

 「一体だけいるな。しかも時代が現代なら尚の事有利だ」

 

 

 

 問題といえば狂化スキルだが、精神的なのは余り影響を与えないって前回爺さんが言ってたから多分大丈夫だろう。

 ちょうど、こんな状況なのに避難民を連れてる、素直に賞賛に値する警察官やらの一団が謎の軍団に追われているのが視えたので急いで向かう。

 サーヴァントチェンジするのはまだだ。

 敏捷はかの湖の騎士のほうが優秀だが、狂化スキルという懸念がある内は決して足は遅くないランサーの脚力で向かったほうが安全なはず。

 そんなことを考えながら必死に2つの集団が接触する前に辿り着かんとビルなどの建物の上を駆けて行く俺だった

 

 

 

 「ふぅ…なんとか間に合ったか…さて、派手に登場してやりますかね」

 

 

 

 彼らの間に着地するように建物の屋上から跳び、自身のトリガーを叫ぶのだった。

 ついでに、この騒動が終わったあとの言い訳どうすっかな。なんて色々雑念を持ちながらである。

 

 

 

 「チェンジ!『バーサーカー』、『ランスロット』」

 

 

 

 かくして、見た目は学生服だが、かの境目には最強の騎士が降り立ったのである。

 

 

 

 

 

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