創世のアクエリオンEVOL   作:JJ

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誤字脱字など、至らぬ点はご指摘ください。


第一話 「運命の羽音」①

「私はいつまでも待ち続けます。例え、一万年と二千年でも……」

 

それは一万二千年前の恋物語。堕天翅と人間、二種族の戦いの中心となった、ある再会と別離の話。

彼女と彼、二人の思いは、長い時を隔てた今でも、この地に残っているという……

 

 

 

「……相変わらず人気無いな……」

 

 

ネオ・ランディアの片隅にある、小さな映画館。その映写室の中で、アマタ・ソラは呟いた。

長身の身体に亜麻色の髪、整った顔立ちは、どこか痛みを堪えているかのように見える。

彼の目線は一瞬向いた客席から、先ほどまで一万二千年前の恋物語を上映していたスクリーンに戻る。

 

「これで上映取りやめに……なるわけ無いか。むしろおやっさんのことだから、一日中上映とか言いそうだ」

 

ひとり、ごちる。

彼にとってこの『アクエリアの舞う空』は、ネオ・ランディアに流れてくる前に見飽きている上に、見れば心が痛み、さりとて無視も出来ないという甘い毒のような作品である。

住み込みという条件に惹かれてこの仕事場を選んだ際、この作品に関わる羽目になるかもしれないと思わなかったわけではないが、作品自体の評価が低いため、このように上映することは無いだろうと予測していたのだが、

 

「まさか館長がC級映画の熱狂的マニアだったなんて……始めにもっと現場を見るべきだったな……」

 

そんなわけでアマタは自らの手でトラウマをほじくり返しているのである。

 

「おやっさんもいい人なんだけどな……自分の趣味ばっか上映してるから儲からないんだよなあ……」

 

掃除をするために客席へと降りていくアマタが一歩歩むたびに、表情に浮かぶ痛みが隠されていく。痛みの記憶から頭を切り換える。

 

(掃除終わったら今日は上がりだし、気晴らしでもするか……ん?)

 

客席に降りた彼の目にとまったのは、既に上映を終えたスクリーンを凝視したまま動かない、一人の少女だった。

 

「あの、お体の調子がすぐれないのですか?」

 

仕事モードの丁寧な口調で問いかける。

その言葉で初めて上映が終わったのに気づいたかのように少女が振り向く。

 

「あっ、ごめんなさい!すぐに出ます!!」

 

──暗闇に映える白い肌、リボンでくくられた紫がかった黒髪、潤んだ碧の瞳から一筋、彼女の頬をぬらす──

 

それは一枚の絵画の如く、幻想的な美しさ。見た者全ての心を掴む奇跡のような偶然の美。

そんな美は、アマタの目に入らない。それは彼女の外見依然のナニカがー

 

(……似ている?誰に?あの人に?)

 

心が軋む。過去の追憶が一瞬で身体にのしかかり、自らがつぶれる様を幻視する。それらを自らの内部に全て押しとどめ、薄皮一枚のところで踏みとどまる。

少女は目の前の少年の変調に気づかず、質問する。

 

「あの、この作品のパンフレット、売っていますか?」

 

(チッ!!)

 

それは一瞬。アマタは自らの精神をねじ伏せ、隠し、機械的に『映画館職員の自分』としての対応を選択する。

 

 

「すいません、十年以上前の作品なので……」

「そうですか……」

 

気落ちした表情に反応し、言葉が続く。

 

「でも、この時間売店にいる館長なら、パンフレットを持っているかもしれません。映画を褒めれば、見せてくれるかも……」

「っ!ありがとうございます!!」

 

表情を明るくして去っていく少女を尻目に、アマタは息を吐き、「自分」の精神を表に出す。

 

 

(……ついてない、今日は厄日か?)

 

ため息と共に掃除を開始する。

 

 

 

「ごきげんですね、おやっさん」

 

掃除を終え、上がりの挨拶をしようと売店に向かったアマタが、鼻歌でも歌わんばかりに機嫌が良い館長に声をかける。

 

「おお、アマタか。いやあ、ついさっき「アクエリアの舞う空」のファンになったという女の子が来てな。嬉しくてパンフレット一冊あげちゃったよ。ついでに、この後買い物すると行ってたから、デパートの商品券も」

「ああ、彼女ですか」

 

どうやら彼女は想定を遙かに超えた戦果を手にしたらしい。

 

「いいんですか?貴重なコレクションをあげちゃって……」

「かまわんかまわん。どうせ布教用だし、まだ観賞用、保存用を除いても十冊はある」

「……そうですか」

 

苦笑しそうになるのを押さえる。

 

「しかし見所のある若者だったわい。あの映画の良さがわかるなんてのう」

「ええ、そうですね……ん?」

 

話が長くなりそうな気配を察し、適当に切り上げようとしたアマタの目線が、足下にとまる。

 

「売店に来たのは彼女だけですか?」

「ああ、そうだが……」

「なら……」

 

落ちていた女物の財布を拾い、館長に見せる。

 

「これは彼女のということですね。どうせ上がりですし、デパート方面探してきます。おやっさんは彼女が来たら連絡ください。」

(ちょっと、何言ってんの俺!?)

 

自分の思いもよらぬ発言に驚いたアマタが、取り下げようとした瞬間に館長が口を開く。

 

「すまんな」

「いえ、おやっさんが言ってたとおり、お客さんには楽しい気分でいてほしいですから」

(だから、黙ってろ俺!!)

 

アマタの身体は主の意志を裏切り、映画館を出た。

 

 

 

(……なにしてんだ、俺?)

 

外に出たアマタは、自分に問いかける。『あの人』を思い起こさせる彼女とは、関わりたくないはずなのに。気づけばこのざまだ。

 

(……いや、違う)

 

関わりたくないというのも本心だが、心の片隅で彼女をほっとけないとも思っている。

 

(……だが、何故だ?俺が『あの人』にそんな感情を抱くはずがないのに?)

 

答えのない疑問に翻弄される。訳もわかず心がせき立てる。

 

(……考え方を変えよう。この財布を届ければ、彼女と関わる理由はなくなる。……早く終わらせよ)

 

意識を切り替え、探すことに集中。

人があふれかえる雑踏の中から、親しくもない人間を捜すーその程度、アマタにとってはたやすい。

 

(……いた)

 

建物の間にある裏路地。死角故に見えづらいその場所に彼女はいた。正確には連れ込まれていた。

彼女の周りには体格は良いがガラの悪い男が三人。彼女の怯えきった表情から察するに、肩がぶつかったなどと因縁をつけられ、ゲスな欲望のはけ口にされそうになっているのだろうが、

 

(……どうでもいい。関係ない)

 

アマタの目的は一刻も早く財布を届け、彼女との関わりを断つこと、それのみ。

故に、最適行動を選択、実行する。

より正確に説明するなら、

 

 

──男三人と少女の位置関係を把握。

──二人は路地の奥で少女を押さえ込み、一人は路地の前で見張り、それと共に仲間を隠している。

──その男に

 

「グギャ!?」

 

電光石火の掌打を喰らわせ、吹き飛ばし、今にも少女の服を破ろうとしている残り二人の片割れにぶち当てた。

 

「テッメェェェェェ!!」

 

巻き込まれなかった男が激昂し、アマタに突っ込む。技術も何もない、体格頼りの一撃。それ故に当たればただではすまない。

 

 

……だがそれは、アマタから見れば停止しているに等しい遅さ。

 

「シッ!!」

 

短く息を吐き、左脚を軸に旋回。加速に乗った右脚が男の顔面が迎撃。

 

「グギャ!!」

 

結果、男の頭部は壁とアマタの回し蹴りに挟まれたサンドイッチとなった。

視線を奥に移す。

 

「……で、そこは何してる?」

 

アマタの視線の先には先ほど見張りが吹っ飛ぶのに巻き込まれた男。彼は少女の首筋にナイフを突きつけ、引きつった卑屈な笑みを浮かべている。

 

「う、うごくんじゃねえぞぉおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

アマタと少女、二人に向けて、半ば恐慌状態で怒鳴る。

 

少女は動けない。ナイフという凶器が、男の凶気が、実際の脅威以上に彼女の心を縛り、動く気力をへし折る。故に、何もしなければ確実に害されるとわかっていても抵抗できない。

 

アマタは動かない。男が人質をとっても、少女の心が折れ、何のリアクションが期待できなくとも、その程度何の問題もないと確信している。

 

(……本気になるまでもない)

「……ホイッと」

 

軽い調子でアマタは手の中の物を男の頭上に投げた。

男の視線が注がれる。それは少女の財布だ。当然、武器としては役に立たないが、

 

「しまっ……!!」

「遅い」

 

一瞬男の視線がアマタから外れた。それは一瞬にも満たない刹那。

それだけあればアマタの拳が男の顔面を打ち抜くのに十分で、

 

「ガッ!!」

 

事実、その通りになった。

アマタの掌はそのまま、放物線を描いた財布を掴む。それを蹲ったままの少女へと放る。

 

「あ、ありが「礼はいい。じゃぁ」

 

足早にさるアマタの表情には、戦いの昂揚も、自分たちの力量差も見切れなかった少年達への蔑みも見られない。それは勿論彼自身がそんな感情を持ち得ない在り方というのもあるが、それ以上に一刻も早く蹲っている少女から、より正確には彼女をほっとけないと叫ぶ自分の心から逃げたかった。

なのに、

 

「あっ、あのっっ!!私、ミコノ・スズシロと言います!!少しお話ししませんか!?えっと、あなたの名前は!?」

 

無視しろ。彼女とこれ以上関わったらまた向き合いたくない過去を思い出す。そう、理性は言っているのに、

 

「アマタ・ソラ……俺の名だ」

 

足は止まり、身体は少女の方を向き、口は自らの名前を声に出していた。

 

 

 

 

 

 

───アマタ・ソラは知らない。この出会いから始まる、世界全てを巻き込む戦いの中で、彼自身の過去と向き合うことになることを。

 

 

───ミコノ・スズシロは知らない。これから始まる戦いは、自分の運命そのものであることを。

 

 

 

───そして、もう一人の少女は気づけない。運命に選ばれない彼女は、世界の何処かで起きた運命の始まりに関われない。ただ、運命に飲み込まれるのみである。

しかし……

 

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