創世のアクエリオンEVOL   作:JJ

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第四話 「無限なる拳」②

『敵は蜘蛛型が8機。だが、妙なことに動く気配はない。

市民の避難は完了したが、何か行動を起こす前にカイエンヘッドのゲパルトで掃討しろ』

 

エレメントスーツ──このスーツを着ることで負担の軽減など、様々な恩恵を得られる──を着込み、ベクターマシンに乗り込んだアマタ達に、ドナール教官が指示する。

 

「教官、やはりアマタ・ソラを実戦に出すのは納得できません!!不確定要素が多すぎます!!」

 

カイエンがモニターの向こうの教官にかみつく。

 

『仕方ないだろう、能力は折り紙付きだ。 これからの戦いで、コイツの力は確実に必要になる。データ収集に越したことはない』

 

(……『仕方ない』、『データ収集』か。自分は納得してないけど、上の意向で逆らえないっての丸わかりだ。……まあ、当然か。このぶんだとあの部屋もこの人の差し金で、上からは黙認されているって感じか?)

 

アマタは自分に宛がわれた盗聴器と隠しカメラがいっぱいの部屋を思い出し、ため息をつく。

扱いに不満があるわけではない。不確定要素を嫌うカイエンも、検査から彼の過去に疑問を持ったドナールの判断も当然であるし、彼の過去を知ればこの学園全ての人間がアマタを排斥するだろう。

 

「……まあ、そちらの意見も当然だが、こっちにはあんたらを害す意志はない。ここに来たのも成り行きだ。所属している以上、ベストは尽くす」

「ミコノを巻き込んだ貴様が何を言う!!」

 

カイエンの怒鳴り声にアンディが居心地悪そうに肩をすくめ、アマタは意に介してないかのように通信ウインドウから目を離す。

 

「システム、オールグリーン。アマタ・ソラ、ベクターゼド、出る!!」

 

三位一体とはほど遠い様子でベクターマシンが飛翔する。

目指すはネオ・クーロン。

 

 

ベクターゼドのモニターに映ったアブダクターは整然とした町並みのネオ・クーロンを徘徊していた。

 

「シェルターをこじ開けられたら厄介だ、合体して殲滅するぞ!!」

「おう!!」

「了解」

 

かけ声と共にベクターマシン三機がトライアングルフォーメーションをとり、

 

「GO!!アクエリオン!!」

 

ベクターイクスをヘッドとしたゲパルトが降臨。

それによって感覚が拡大すると同時、アマタは二つの事象を感じる。

 

(これは、纏意?)

 

アクエリオンと自分が同一であるような感覚、それがまるで纏衣を使っているかのような感触をアマタに与えていた。

見たところ、カイエンが行っているわけではない。

 

(アクエリオン自体が行っている……?これが機械天使の本来の性能の一部って奴か?だが?)

 

先の戦闘で実証したように、纏意に至った者は強大な戦闘能力を得る。

しかし、今アクエリオン自身が行っている纏衣はアマタの行うそれに比べ、循環も、密度も、荒く、不安定なのだ。

おそらくカイエン自身が纏衣を使えないからであろうが、この状態では能力の向上もアマタほどには見込めない。推測に推測を重ねるが、カイエンとアンディの二人は機械天使が強化されていることは感覚で理解しても、具体的な方法はわからないだろう。それだけでなく、男のみの合体であるが故か何か『足らない』ような感覚がある。

無論、それでも蜘蛛型を相手取るには十分に過ぎる。故に、アマタが警戒したのはもう一つの事象。

 

(見られてる?)

 

合体した一瞬のみに感じた、上空からの不可視のプレッシャー。それは最初に戦った敵とは違う、冷たい、冷徹な意志。

一瞬で消えたそれは気のせいで片付けるには剣呑すぎる。

 

「本部、ネオ・クーロン上空に異常はないか?」

「はい、次元ゲートの反応も現時点ではありません」

「何をしている、目の前の敵に集中しろ!!」

 

カイエンの怒鳴り声に、アマタは憂慮を思考の外に放る。

 

「ターゲットロック、攻撃を開、!?」

 

ゲパルトがガンポッドを向けた瞬間、アブダクターが分解した(・・・・)

脚部や砲、装甲の一部を地面に捨て、偽装を解いたその姿はまるで宙に浮かぶ円盤のよう。それらはあるものはその地表近くを滞空し、あるものは高度を上昇させ、 四方八方からビームの嵐を浴びせる。

 

「グオオオオオオオオオッッッッ!!!やばいぜ、これ!?」

「落ち着け、アンディ!一体の威力自体は低い!!強化されたゲパルトの装甲なら大丈夫だ!!」

 

カイエンはガンポッドの標準を再度敵機に向けるも、当たらない。機動力がこれまでとは段違いの上に、ある機体を狙えばその他の機体が攻撃を仕掛け、こちらの動きを阻むというように互いを囮とした先述で攻撃自体を押さえ込んでいる。

 

(この動き、自動操縦じゃないぞ!?)

 

カイエンは驚愕するが、彼とてネオ・ディーバ有数のエレメント。猛攻を躱しながらミサイルロックオン。包囲網を破ろうとしたところで、

 

「!!」

 

キャンセルし、飛び退く。強引なそれは機械天使の体勢を崩し、危うく転倒しかける。

無論、それはカイエンの意志ではない。アマタ・ソラが強引に操縦に介入、一瞬だけ脚部コントロールを奪ったのだ。

 

(何を……!!)

 

カイエンが怒鳴ろうとした瞬間、天からの光芒がアブダクター一機を巻き込み、一瞬前までゲパルトのいた場所を飲み込んだ。

 

「こいつらはただの足止め。本命は上からの狙撃だ。……俺にここまで気配を隠すなんて、ただ者じゃないぞ」

「だが、どこからの狙撃だ!?さっきおまえが通信で確認したように、上空に反応はないぞ!?」

「ステルスか、もしくは……」

 

そうしてる間も包囲網からの攻撃はその激しさを増し、時折挟まれる上空からの狙撃はクリーンヒットこそ避けるものの、擦るように当たり続けその足を殺している。

焦燥するカイエンの耳にピアノの旋律と涼やかな声が響く。

 

「親友、君に見せてあげる」

 

その瞬間、カイエンに予知のイメージが流れ込む。

それはシュレードの精神演奏の応用。精神に干渉することで意図的な能力の暴走を起こし、そのうえで制御する。

そのイメージにより、カイエンの眼にはアブダクターへと伸びる糸が、上空のさらに上……大気圏外に浮かぶ運命の三つ星の一つに張り付く狙撃銃を抱えたアブダクターに繋がっているのが『視えた』。

イメージは他の二人にも伝播する。

 

「馬鹿な……」

 

カイエンは戦慄する。

彼には分かる。如何に敵の科学技術が優れているとはいえ、狙撃を左右するのは人間。惑星の自転などの複雑な計算が必要な狙撃を、アブダクターを操りながらこの精度で行うなど化け物としかいいようがない。

 

「そこなら上空に反応はないだろうさ……アンディ、ゲパルトの特殊武装に軌道上の敵を討てる武装はないのか!?」

「あるわけねえよ!!オマエの能力ならあそこまでいけるんじゃねえの!?」

「……蜘蛛の攻撃を避けてか?できたとしても距離が有りすぎる。狙撃されて撃墜されるのがオチだ。第一、この状態じゃ俺の能力は十割発揮できない。どうしても分離してEVOLに再合体する必要があるけど……」

 

アマタは忌々しげに告げる。

 

「この敵がそれを許すと思うか?ベクターマシンを一機ずつ撃墜されるか、悠長に合体してる最中に纏めて撃墜されるか、どちらにしても御免被る」

「じゃぁ、どうするんだよう!?」

 

アマタは悲痛な声を上げるアンディと、回避に専念しているカイエンを一瞬だけ見る。距離という基本にして絶対の壁が、彼らを阻んでいた。

 

「俺は機械天使のオーラ的な強化と、狙撃の感知に専念する。アンディ、機械的な調整を頼む。カイエンは蜘蛛型を少しでも削ってくれ」

「……ジリ貧だな」

 

カイエンが呟く。

 

「それでも、棒立ちするよりはいい。蜘蛛を全滅させて何かしらの手を見出さないと」

「やるしかないか、カイエン・スズシロ、状況を継続する!」

 

彼らの頭の中に、先ほどの諍いはかけらもない。

ただ、やるべき事をやる、それのみである。

 

 

 

 

「さあ、どうする?ヴェーガの切り札さん?」

 

運命の三つ星に張り付いた、ノーマルグニスに徹底的に狙撃と情報処理に特化した改造を施した機体の中で、ジン・ムソウはごちる。

アマタが彼の気配を感じたように、彼もまたアマタの存在を感じ取っていた。

今はメインパイロットではないようだが、自分の狙撃を感知しているのはその人物であろう。

機械天使は狙撃を避けながらロー・グニスに攻撃を仕掛けているが、彼の遠隔操作の技術は撃墜を許さないし、そもそも先ほど一機を巻き込んで狙撃したようにあれらは足止め兼囮に過ぎず、仮に全滅したとてジンさえ無事なら作戦の続行に支障はない。それだけの技量が彼にはある。

一つだけ残念なのは、ヴェーガの切り札に自分が立てた戦術を直接ぶつけたかったのであるが、また機会はあるだろう。

 

「ま、ここでやられちゃったらその程度ってことで」

 

いいながら、狙撃を続ける。

またも躱されるが、擦ったビームは確実に機械天使の足を削る。

 

 

 

 

「アマタ君、カイエン……」

 

ミコノ・スズシロは聖天使学園の船着き場からネオ・クーロンを眺めていた。

ここにいる理由は単純で、シェルターの場所がわからなかったのだ。平たくいえば迷子である。

ここからでは朧気にしか見えないネオ・クーロンの戦闘は、かつて彼女の住む町にアブダクターが襲来したときの記憶を呼び起こす。

あのときも、自分は恐怖で動けなかった。そんな自分を父や兄は手を引いてくれた。

だけど自分は、逃げることすらもできなくて。そんな自分がいやになって。逃げるのがいやだったのに、結局は家から逃げ出して。やっぱりそこにはなにもなくて。

 

「やっと、逃げることをやめようって思えたのにな……」

 

逃げることをやめ、自分にできることをやろうと決意したものの、現実は何もできなくて。

 

「悔しいな……」

 

たぶん今までの自分はそんなことを考えなかっただろう。

でも、今は。

 

「少女よ」

 

そんなミコノの背に投げかけられた言葉は重々しく響き、意識する前に振り向かせる。

そこにいたのは和服を着込み、編み笠で顔を隠した男。

 

「道を惑いし少女よ」

「あの、確かに私は迷子ですけど、もっとわかりやすく言ってください」

「行くべき道を惑いし少女よ」

「あの、だからわかりやすく……」

「行くべき道に惑い、されど行くことをためらわぬ少女よ」

「人の話聞いてます?」

「運命を動かすために戦う覚悟はあるか?」

 

その一言は、ミコノの胸に物理的な重さすらもって突き刺さる。

 

「もう一度聞こう、運命を動かす覚悟はあるか?」

 

もう一度、ネオ・クーロンを眺め、次いで先日巻き込まれた戦闘を思い返す。

あの時の恐怖を覚えてる。今思い出しても足が震えるほどの衝撃だった。

だが、それだけではない。アマタが、兄が、ゼシカが。みんなが必死に戦う姿は、その気高さは、確かに今も心の中にある。

だから、自分も前を向こうと思ったのだ。助けられたことを無駄にしないために。

 

「運命というのはわかりません。でも、私は戦いたい。できるのにやらなかったら、そのほうが後悔します」

 

それはやっと見つけた少女の意思。それを自覚した以上、否定などできるはずもなく。

 

「……それでいい」

 

編み笠の陰で、男がほほえんだ気がした。

 

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