聖天使学園司令室では対応に追われていた。
「アンディのスピリットレベル、さらに低下!!このままでは、合体維持できません!!」
「カイエンのスピリットレベルも徐々に低下しています!!」
「機体ダメージ率、さらに上昇!!」
決定的なダメージこそ避けているものの、あがってくる報告は絶望的といってもよい。
前回の敵が戦力レベルで脅威だったのに対し、今回の敵は戦術レベルの行動でこちらを追い込んでいる。
間の悪いことにもう一組のベクターマシンは現在修理中。援護する手段はない。
「司令、総員チェンジを!!男子なんかに任せておけません!!」
「いえ、ここはシュレードを!!幸いアマタはあまり消耗してません!!彼とシュレードの力を合わせれば、この状況も打破できます!!」
「彼の身体は戦闘に耐えられる保証がありません!!それなら現在謹慎中の『彼女』を出せば……」
「司令!!命令を!!」
「司令!!」
教官とエレメントの声で騒然となった司令室に、迫力ある声が響く。
「静まれぃ!!」
その声と共に、司令の席の奥、全てを見渡す位置に隠されたシャフトから、一つの席がせり出す。
そこに座るは和服の男、傍らに立つはミコノ・スズシロ。
「貴ッ様ァ!!何者だ!!」
ドナールが怒声と共につかみかかる……が、その手を軽く編み笠で払うと同時、屋内にもかかわらず吹いた一陣の風とともに道化師じみた格好へと早変わりする。さながら魔術師のよう。
その男に、司令が跪く。
「お帰りなさいませ、不動・ZEN総司令!!」
「総司令、だと!?」
主任教官二人は驚愕する。ネオ・ディーバのトップは司令のはずだ。だが現に目の前で司令はその男に跪いている。
そして二人は総司令と呼ばれた男の威圧感を感じられないほど鈍感ではなかった。
ZENは軽くうなずくと、
「エレメントチェンジ!!アンディ・W・ホール強制排出!!ミコノ・スズシロにチェンジ!!」
「なっ……!!」
ドナールの全身に、先ほど以上の衝撃が走る。
ミコノ・スズシロにエレメント能力はなかったはずだ。それ以前に、民間人を戦場に出すなどまともな軍人の判断とは思えない。
「ふざけてるのか……!!」
彼が自分の上官に当たることなど忘れ、再度つかみかかる。
─── 一歩も進めずに、気圧される。それは不動ZENにではない。
その傍らでゆっくりと歩むミコノ・スズシロに、だ。
それは一つの奇跡、伝説の始まりであった。
その場にいる誰もが少女の歩みを止められず、止めようとも思えなかった。
優れた軍人であるはずの彼らが、何の変哲もない少女に、その決意に圧倒された。
ミコノはゆっくりと空いている転送装置に歩み、途中一瞬だけゼシカに目配せする。
それだけでゼシカは全てを察した。
(長いつきあいになりそうね……)
内心、苦笑しながらもミコノを見送る。
「ミコノ・スズシロ、行きます!!」
決意を胸に、少女は戦場へと飛ぶ。
*
三人のエレメントは追い詰められていた。
アマタが強化と敵の狙撃を感知をこなし、カイエンは的確な操縦で攻撃を躱し、アンディ
はそれをサポートする。
彼らは例外なくこれまでで最高のパフォーマンスを維持しており──それでも、敵は徐々にその動きすらも読み、上回っていく。
「くそっ、らちがあかねえ!!カイエン、特殊煙幕弾で姿を隠すことはできねえのか!?それならEVOLにも変われるだろ!?」
「運命の三つ星から狙ってくるんだぞ!!この敵にそんなことをしても、多少見えづらい程度だ!!悠長に再合体してたらいい的だ!!」
歯がみするカイエンを、さらなる衝撃が襲う。
突如アンディの姿が消え、よりにもよってミコノがあらわれた。
彼は回避行動すら忘れ、叫ぶ。
「馬鹿、何故来た!?」
彼の怒鳴り声にミコノは一瞬目を伏せ、されど揺るがない。
「もう、逃げたくない!!怖いものからも、自分からも!!」
「馬鹿なことを……!!」
「おい、ミコノ。何をした?」
アマタが口を挟む。その口調にはかすかな驚きの色がある。
「何って……ただZENって人に言われたように、周囲の状況に目を配りながら、戦いたいって意志を込めているだけ」
「なっ……!!」
その瞬間、カイエンは自分が回避行動をしていないにもかかわらず、機体ダメージの蓄積が止まっていることに気づく。
「……おまえが回避行動忘れて怒鳴ってる間、俺が強引に動かしてたんだが。ミコノが来た瞬間から反応が跳ね上がってる。前回の実戦とも段違いで、まるでミコノが機械天使の能力を引き上げてるみたいだ」
もしそれが真実であるならば、ミコノ・スズシロという存在は必然的にネオ・ディーバに関わらざるを得なくなる。
そもそも彼女が搭乗しても動作に支障がない以上、ミコノにエレメント能力が無いという前提自体も怪しい。
……それは、カイエンがもっとも憂慮する事態だ。
「いいから、さっさと降りろ!!そしておとなしくしていろ!!」
「嫌だ!!私も戦える!!」
「カイエン、ミコノにも間違いなく、戦場に立つ資格がある。現に彼女のおかげで少しずつ状況も持ち直してる以上、拒む理由も、資格も俺たちにはない」
「うるさい、黙れ、おまえに何が分かる!!俺は、ミコノを
暴走する意志のままにアマタに怒鳴る。
均衡を欠いた精神が引き起こすは能力の暴走。次の瞬間、三人は前回の戦闘と同じビジョンの中にいた。
「何でまた……」
「おい、アレを見ろ!!」
アマタが指さすのは野性的な新郎とミコノに酷似した新婦の背後。
そこにそびえ立つその姿を、彼らは知っていた。
「アクエリオン、EVOL……?」
そして絶望の幻像は終わり、戦場の現実へと回帰する。
「クソッ!!」
アマタは再度脚部の操縦系に干渉、巧みな操作で躱すものの、その表情は苦い。
敵はその才能を持って、こちらの性能の向上に対応している。このままでは再度追い込まれるのも時間の問題だ。
だが、それよりも問題なのはカイエンである。
彼は今、戦場にいながら戦場を見ていない。
現状に対応するための行動を放棄するほどに、彼にとって妹を巻き込んでしまったことは衝撃なのだ。
「だから、巻き込みたくなかったんだ……」
力なく、告げる。
「俺は幼い頃からこの朧気にこのイメージが見えてた。何を表してるのか分かったのは、ネオ・ディーバに来てからだ……分かるだろ、ミコノ。おまえはここにいてはいけないんだよ……今からでも遅くない、早く……」
「嫌だ」
ミコノは震えながらも、毅然とした態度で告げる。
「だったら、なおさら引けないよ。自分がおうべき痛みを他人に押しつけて、安全な場所になんていられない。そういうことはやめたいって、やっと思えたんだから」
「いつからそんなことを言うようになった……そうか、アマタか。こいつに何か吹き込まれたんだな!!」
「いい加減にしろ!!」
アマタが初めて声を荒げる。
「ミコノは強い。俺なんかよりもずっと。コイツの意志は、俺なんかがどうこうできるほど弱くはない」
「うるさい!!おまえがミコノを巻き込んだ!!おまえさえいなければ……!!」
「ちがうだろ」
攻撃を必死に避け、脂汗が浮かびながらも、言葉に迷いはない。
今言わなければならない言葉を口にするのに、迷う理由はない。
「おまえが今、向き合わなきゃいけないのは戦場でも、ましてや力があるだけの臆病者の俺でもない」
しっかりと、カイエンの眼を見据えて、告げる。
「おまえが向き合うべきなのは、戦場の恐怖に震えながらも、逃げないことを決めた、大切な家族にだろ!!人類の守護者ってんなら、家族の決意ぐらい、守り通して見せろよ!!」
その言葉には、そこに込められた想いには、確かに真実の光があった。
その光に導かれるように、カイエンはミコノを『視る』。
予知のイメージでも、思い出の中でもない、現実の彼女を。
──コイツは誰だ?
──ミコノはこんな顔をしない。
──ミコノは弱い。守ってやらなくては。
──ミコノは。ミコノは。ミコノは。
──今目の前にいる少女以外の、どこにミコノ・スズシロがいるという?
「……ッ!!」
気づき、愕然とする。
自分が思い出ばかりを見ていたことに。
思い出の中の少女など、もはやいないことに。
目の前の少女は戦場の空気に震えながらも、決して目をそらさない。
戦いに恐怖しながらも、逃げてたまるかという意志を全身にみなぎらせている。
その姿は記憶の中で泣いてばかりいた少女とも、幻像の中で生気を失っていた少女とも一致しない、強さを手に入れた姿であった。
──それに比べ、自分はどうだ?
美しい思い出ばかりを見て、そのまま変化していないと思いこんで、変わっていく彼女を認めなかった。
それは守りたいなんて綺麗な想いじゃない。ただ自分が守る立場でいたいというエゴでしかなかったのではないか?
「ハハ、ハ……」
力ない笑みがこぼれる。
「何が人類の守護者、エレメントだ……力だけを持って、今を見ることから逃げ出した、本当の臆病者は俺じゃないか……」
「違うよ」
ミコノは優しく、されど譲れない芯をもって告げる。
「私にとってカイエンは、頑固だけど、優しくて強いお兄ちゃんだよ。だから私はあこがれた。お兄ちゃんを見て、私も逃げたくないって思えたの」
「……そうか。俺は守ることはできなくとも、最低限兄としての責務は果たせてたのか」
ならば、それでいい。
もうミコノは守るべき対象ではないのだから。自分で歩けるならば、家族として、言うことは一つだけ。
「……強くなったな、ミコノ」
「うん、アマタ君や、カイエン、ゼシカ……みんなのおかげだよ」
その瞬間、アクエリオンが胎動した。
「これって……!!」
「これは……!!」
「これなら……!!」
彼らは何をすべきか、何ができるか理解する。それは理屈ではなく、太古より人類を生存させてきた本能がなせる技。
ただし、それをなすには……
「どうあってもEVOLにならなきゃいけない、か……」
如何に一発逆転の手段があるとはいえ、それを実行できなくては意味がない。
そしてそれを許す敵ではない、が……
「方法ならある。アマタにかなりのリスクがあるがな」
カイエンが語る作戦は彼らしくもない、博打じみたものであったが。
「その作戦、了解した」
「ちょっと、アマタ君!?いくら何でも無謀すぎるよ!!」
「……俺が言うのも何だが、本当にいいのか?おまえばかりに負担も責任もかかるが……」
「何を今更」
アマタは何でもないかのように、
「女の子が勇気出して一歩踏み出したんだ、臆病者でも無謀ぐらいするさ。それに……」
アマタは、カイエンを見据え、
「この作戦を俺に話したって事は、信じたんだろ?これを、俺ならできるって。なら、やってやるさ」
「俺は……」
「何か言いたいことがあるなら、お互いやるべき事やった後にしよう。この作戦、俺だけじゃ成り立たないんだから」
アマタは唇を僅かにゆがめ、
「さ、俺は全力尽くすからさ、そっちはそっちで全力尽くしてくれ。
*
「そろそろ決着か」
ジン・ムソウは確信する。
先ほど突然機械天使の出力が跳ね上がったのには驚いたが、その時から敵の動きがぎごちなくなった。
動きそのものはカグラとの戦闘で見せたパイロットのものに変わったが、動いているのが下半身のみで上半身が全く動かされていないのだ。まるで強引に下半身のシステムに割り込んだかのように。
重心移動を伴わない回避行動はたいしたものだが、さすがに無理が有りすぎる。現に少しずつ狙いは修正され、次の射撃は確実に機械天使をとらえるだろう。
それは傲慢ではなく、状況把握した予測に過ぎない。
故に、彼は眼下の敵に決着の一撃を見舞おうとした、その瞬間。
機械天使の肩に新たに出現したミサイルポッド、そこから発射された誘導弾が、周囲に煙をばらまいた。
機械天使がアクエリアという偽りの名で呼ばれていた頃、その任務はオーバーテクノロジーを利用したテロへの対抗であった。
それが如何に脅威であるかはまた語られる機会もあるだろうが、機械天使にはそういった敵に対しての装備も調えられている。
今発射された特殊煙幕弾もその一つ。
微粒子をベクターマシンのコンピューターで制御し、風で吹き飛ばされない煙幕を作ることも、建物一つを永続的に煙で満たすこともできる。
それを全弾発射することで、機械天使は自らがいた一帯を煙のドームで覆い隠した。
レーダーやロー・グニスからのデータにもノイズが走る。
だが。
「舐めるな」
姿が見えにくい?レーダーの効力低下?ロー・グニスからの情報が不安定?
なるほど、確かに並の狙撃手には有効だろう。慌てた挙げ句、反撃の猶予を与えてしまうかもしれない。
だが、ここにいるのはジン・ムソウ。アルテア最後にしてイズモ・カムロギの薫陶を受けた最高クラスの戦士である。
彼の優れた状況把握能力、解析能力からすればこの程度、多少やりづらくなった程度で、たいした問題ではない。
おそらく敵はこれに乗じて赤い形態になろうとしたのだろうが、こちらは前回の戦闘でのデータを所有している。合体に際し、あれだけ隙だらけの時間があるなら、乏しい視界でも七回は撃墜できる。
故にジンが敵の愚かさに憐憫すら覚えながらも引き金を引こうとした、その瞬間。
煙のドームから、ベクターマシン一機が飛び出した。
その機体から発せられるプレッシャーはカグラにも引けをとらない。ジンはそこにいる者こそ例のパイロットと理解する。
しかし機体に損傷を受けたのか、軌道は不安定だ。
機械天使は構成する機体が一機でも欠ければ戦闘能力を喪失し、また、あのパイロットの排除は自分たちの後の作戦行動に多大な益を及ぼす。
そう判断したジンは、哀れな獲物に照準を移すと同時、ロー・グニス全機の標的をその一機に集中させる。
「それじゃ、バイバイ」
呟きと共に、自らが操る火器を一斉射撃。煙幕の保護も得られない機体はロー・グニスの牽制により動きを封じられ、本命のジンの狙撃によって骸をさらす──
そうはならなかった。そのマシンは牽制の射撃、本命の狙撃、それら全てを躱しきった。
「なっ!?」
驚愕しながらも狙撃を続けるが、擦りもしない。
ジンは敵に対する見積もりが甘かったことを実感する。
幾度撃っても、どのように撃っても、躱す、躱す、躱す──!!
異変はそれだけにとどまらない。先ほどまで不安定だった軌道が、急に安定する。
(損傷はフェイク!?わざわざ動きが鈍くなったように見せかけながら、僕の攻撃を躱すだと!?)
歯がみするジンだが、ベクターマシンが煙幕のドームに戻ったのを見て、余裕を取り戻す。
中で再度合体しようというのだろう。あのパイロットなら時間の短縮も期待できる。しかし如何にパイロット一人が優れていようが、合体そのものの隙が無くなったわけではないし、そもそも残り二人が足を引っ張ってしまう。
故に、導き出される結論は自らの勝利。
(もし、その機体が一人で完結してたら僕が負けたかもしれない。君の敗因は、足手まといと共に戦うしかなかったことだ)
念には念を入れ、自分の手で確実にとどめを刺すためにロー・グニスの遠隔制御を自立行動に変更。狙撃に集中する。
即座に照準を合わせ、今度こそ決着を確信する。
それは凡人の想像の埒外にある早業。合体最中の機械天使によける術など有るはずもなく。
そして。
「雪解け合体、省略!!GO!!アクエリオン!!」
煙幕を吹き飛ばしながら、赤い機械天使が狙撃を弾き、ロー・グニス一機をその拳で貫いた。
「!?!?!?!?」
今度こそ。
正真正銘の混乱がジン・ムソウを襲う。
(馬鹿な……早すぎる!?どれだけパイロット一人が優れても、三機合体には相応の時間がかかるはずなのに……三、機?)
ジンは先ほどの煙幕の意図を理解する。
(まさか……あいつは僕の注意を引きつける囮!!あの煙幕の中で残り二機があらかじめ合体していたのか!!そしてその合体が終わった後に、優れたパイロットが操る機体が合体する。それなら実質二機の合体!!時間も格段に削れる!!)
機械天使はただ、視線で語る。
ここからは、自分たちのターンだと。
*
「行くぞ!!」
かけ声と共に、ビル街をEVOLが重力を感じさせない動きで疾走する。
それはミコノが機械天使の反応を引き上げているからであり、カイエンの的確なオペレートのおかげであり、そしてアマタがそれら全てと自らの体術を完璧に組み合わせているからだ。
EVOLは上空からの射撃を右腕をふるうだけで弾き、牽制の射撃を躱しながらこれまで追いつけもしなかったアブダクター一機に一瞬で接触。その機体をつかみ、
「ほらよ!!」
近くのもう一機に投げる。ぶつかった二機は部品をばらまきながら機能停止、爆散。
その時にはすでにEVOLは別の一機を蹴り上げ、上空からの狙撃を防ぎながらもう一機を殴り飛ばす。
残りは蜘蛛型二機と、軌道上の狙撃手。
それらはよりいっそうの激しさを持ってEVOLを鉄屑にせんと攻撃を仕掛けるが、三位一体を果たしたアクエリオンはそれら全てを躱し続ける。
無論、こちらから狙撃手を討たない限りはいつか体力切れで倒れるが。
「「「今此所に、我らが意志を宣言する!!」」」
そうなる前に、決着はつく。
「我が腕は他者と繋がるために。
他者と共に歩み、他者と共にその手を伸ばし、どこまでも共に歩むために」
ミコノが願うは人との絆の繋がり。
如何なる道も一人では歩めず、されど他者と力を合わせれば、どんなことだってできると自分がそうであるが故に信仰する。
「我が腕は敵を討つために。
降りかかる全ての理不尽を砕き、全ての不条理を砕き、他者を守るために」
カイエンが求めるは敵を打ち砕くこと。
人類最古の武器である腕で立ちはだかる全ての敵を砕き、自分の大切な存在と共に守りあいたいと願う。それこそが彼の見つけた願い。
「故に我ら、絆を胸に、全てを打ち砕く」
共存と撃破。
矛盾する二つの事象を、アマタは共存させる。
「我らの繋がりは如何なる理不尽にも砕けず、その繋がりは無限なり」
アマタは唱えながら自嘲する。
他者と繋がりながら力をふるうなど、彼が選ぶはずのない選択だった。それは今も変わらない。
だが。
勇気を振り絞ったミコノを見る。自らの醜さを乗り越えたカイエンを見る。
その輝きは、自分が決して手に入らないと知っているからこそ。
(……らしくないことをやりたい時だって、ある!!)
「「「必殺──!!」」」
かつて世界を救った機械天使、その奇跡の一端が、今此所に復活する──!!
「
─無限拳─
──MUGEN ATTACK──
EVOLの右腕が、伸びた。
物質を生成し続けることで展開しながら伸びる拳は一瞬で蜘蛛型二機を貫き、天に向かって上昇する。
雲海を貫き、大気圏を突き破って、伸びる、伸びる、伸びる──!!
回避は不可能と察した狙撃手は迎撃を選択。
幾度も狙撃を浴びせるが、その程度で壊れるはずもない。
(おまえの敗因は、俺にばかり注目しすぎたことだ!!)
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーー!!!!」
三人の叫びと共に、EVOLの拳が天上の狙撃手を貫いた。
「チッ!!」
アマタは舌打ちする。
敵の狙撃は拳の破壊を目的としたものではない。
狙撃を一点に集中することで、軌道をそらしたのだ。
現に敵は下半身を破壊されて漂っているが、コックピットが有るであろう上半身は無事。伸び続ける拳の軌道を変え、トドメを刺そうとするが。
(……次は、本気でいかせてもらう)
そんな意志が響くと同時、小型の次元ゲートが展開。敵を飲み込む。
「……また逃がしたか」
アマタは息を吐き、座席に沈む。
そんな彼のそばに、カイエンの像が浮かび上がる。
「何だよ、兄妹の話し合いなら、対象が違う……」
「俺はおまえを信じた訳じゃない」
「カイエン!!」
アマタの呟きを遮るようなカイエンの言葉に、ミコノも像を浮かび上がらせて抗議する。
「別に、俺を信じる必要はない」
当のアマタは平静だ。
そんな彼を見て、カイエンは言葉を続ける。
「だが、これだけは言う。……すまない、そしてありがとう」
その言葉には、心からの誠意があった。
「……別に俺は何もしていない。そっちが勝手に結論を出しただけだ。それはそうと……この腕、いつになったら止まるんだ?ってか、一切の操作受け付けないんだが」
「「……え?」」
コックピットに、間抜けな声がこだました。
*
司令室では、混乱が継続していた。
「駄目です、こちらからは一切の操作ができません!!」
「腕の様子は!?」
「地球を二周して……こちらに突っ込んできます!?」
オペレーターの悲鳴じみた叫びと同時、轟音と共に無限拳がベルリンを破壊。役目を果たしたかのように停止する。
「……どうすりゃいいんだ」
ドナールの呟きに、答える者はいない。
*
「…………」
「…………………」
「……………………………………」
無言の内に、スズシロ兄妹の像が消える。
「っておい!?俺ばっかに責任押しつけるな!!」
アマタの叫びにも、答える者はいない。
*
聖天使学園の地上では、二軍以下のエレメントが男女分かれてベルリンの残骸を挟み、にらみ合っていた。
彼、彼女らは無言で、されどどちらともなく一歩を踏み出す。
それは歴史を紡いできた出会い。
それが始まろうとした瞬間。
「注目!!」
叫び声と共に、校舎の屋上に現れたのは不動ZEN。
彼から発せられる迫力は、素性を知らなくても足を止めるに十分であった。
不動ZENはそれを確認すると、気取った調子で指を鳴らす。それと同時、学園を覆い隠すような巨大な掛け軸が垂れ下がる。そこに書かれていたのは──
「以後、恋愛禁止!!」
「「「「「ええーーーーーーーーーーっっっ!!!!」」」」」
*
一切の光が届かない、慣れ親しんだ反省室の中で。
少女は地上の異変を感知していた。
最初は敵襲か事故かと思ったが、それにしては轟音の後の混乱の気配に逼迫したものがない。
「……まあ、出れば分かるか」
少女は呟きと共に、トレーニングを再開した。
*
アルテア界、メインタワーの最上階にて。
イズモ・カムロギとジン・ムソウは向かい合っていた。
「やっぱ、ノーマルをどれだけ強化しても駄目ですね。無理矢理ガチガチに調整したせいで、纏意した瞬間に壊れるような機体じゃ、あのパイロットに勝てるわけ無いですよ」
「……収穫は」
ジンは一つのデータを差し出す。それは前回の戦闘で新たな形態が発現した際や、今回機械天使が拳を伸ばした瞬間、刹那ヴェーガのどこかで発生した莫大なエネルギー波。
「これは……」
「ええ、間違いなく
「ああ、だがこれでアルテアを救える可能性が増えた……それは喜ぶべき事だ。我らが世界に、祝福をもたらすことができる」
闇の中、光を求める男の呟きが漏れる。
その男の中に、どのような想いが渦巻いているのか……それを知るものはいない。
*
そして、その近くの神殿の中央、水晶の棺にひびが入る。
そのひびは瞬く間に広がっていき、棺が崩れ去り、中に横たわっていた美しい存在は起き上がる。
男女定かではではないその存在がもつは見る者全てを闇に誘う魔性の美。
その内にあるのは自らを狂わせるほどに燃やし続ける情念。
その存在は自らを目覚めさせた気配を思い浮かべ、
「さあ、我が愛よ!!燃やし尽くそう!!世界にそれ以外は不要なのだから!!」
アルテア界、神官。トワノ・ミカゲが覚醒した。
*
ヴェーガのある海底で、彼女は目覚めた。
地獄のようなまどろみから彼女を目覚めさせたのは、ミカゲと同じ、神話型の機械天使の気配──ではない。
その起点となった存在の一人、アマタ・ソラと呼ばれる者の気配だ。
彼女は歓喜する。彼女は狂喜する。
アマタ・ソラが存在することに。
彼女は絶望する。彼女は悲嘆する。
アマタ・ソラが存在し続けることに。
故に、彼女は一刻も早く行動を開始しようとして、やっと自分の現状を思い出す。
各部の損傷は甚大。いまにも機能停止してもおかしくはない。
彼女は、何よりも今すぐにアマタの元に向かえないことを知り、消沈する。
だが、彼女の優れた計算能力は、今から修復に専念すれば、そう遠くないうちに活動を再開できると理解した。
「ああ──アマタ、アマタ、アマタ、アマタ、アマタ、アマタ、早く、早く、早く、早く、早く、会いたいです、会いたいです、会いたいです、会いたいです、会いたいです、会いたいです、会いたいです。会って、──」
万感の思いを込めて。
「殺したいです」
その言葉と共に、彼女は自らの修復作業を開始する。
*
そして。
それら全てを観測し、その存在は嗤う。
「素晴らしい、一万二千年の輪廻が、今この場に全てそろった」
心の底から賞賛し、心の底から祝福し、心の底からあざ笑い、心の底から見下す。
「友情、愛、憎悪、悲壮、情念、決意。過去、現在、未来。神話型機械天使、量産型機械天使、次世代型機械天使。人間、天翅。古代技術、神話技術。全ての因子は今此所に」
そこがどこであるかなど、大きな問題ではない。今重要なのは、その存在が歓喜に嗤っていること、それのみ。
「さあ、運命の歯車は廻り出した。これより、世界の全てが動き出す」
その存在は自らの妄念に狂っていた。その存在は限りなく正気であった。
「神話の始まりを祝福しよう。もはや全ては止まらず、生き残りたければ、願いを叶えたいのならば、自らの光輝を、深淵を、それら全てを背負うしかないのだから。そして──」
部屋そのものが、胎動する。
「全ての因果を乗り越え、自らの神話をつかみ取ったとき。私はそこで待っている。神話の果てで、待っている」
ゆっくりと、全てを巻き込む因果の中心。
そこに、その存在はいた。
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次回予告byアマタ
《その日出会った少女は》
《異常で、血のにおいがぬぐい去れなくて》
《つまりは俺と同じだった》
《にも関わらず、彼女は》
《次回、創世のアクエリオンEVOL、『魔女』》