創世のアクエリオンEVOL   作:JJ

2 / 21
第一話 「運命の羽音」②

(……何やってんだ、俺?)

 

アマタは自らに問いかける。彼にとってミコノ・スズシロと名乗った少女は自らの忌まわしい過去を何故か思い起こさせる存在だ。自分から関わることは避けたい。それが自分の弱さから生じた醜い感情と自覚してもである。

そもそも、彼は彼女に限らず、他者と積極的に関わる人格ではない。

 

そう、そのはずなのに……

 

 

「うわあ、良い気持ち。アマタさんもそう思うでしょ!」

 

(ホント、どうなってるの、この状況?)

 

このようにまるでカップルのようにゴンドラに乗る状況など、あり得ないはずなのだが……

 

ネオ・ランディアは、四方を山と湖で囲まれた街だ。この街に来る観光客(カップル)はこの街に張り巡らされた水路を進むゴンドラにてムードを育んだ後、高台にある平和記念公園から古代の戦争で生じたクレーターとも言われる湖を眺め、愛を語りあうのが常道であり、彼ら二人もそう見られているのは間違いないが、少なくともアマタにとっては迷惑な話である。

 

(スズシロってのはどっかで聞いた名字だけど……)

「とりあえず、『さん』はつけなくていいから」

「うっ、うん!!」

 

漆喰の壁を持つ住宅街の合間でゴンドラに揺られながら、二人は会話する。

 

「あっ、あの、アマタ……君はよく乗るの?」

「まあ」

「やっぱり、こういう雰囲気は好き?」

「別に」

「……話し方、映画館の時と違うね?」

「あれは仕事用のしゃべり方。こっちが地」

 

ミコノの質問に適当に答えながらも、目は逸らさない。逸らせない。

 

(何でほっとけないんだ……)

 

その問いに答えは出ない。

 

 

 

 

(会話が続かない……)

 

ミコノは内心、泣きそうになりながら必死に話しかける。なけなしの勇気を出振り絞って誘ったまでは良かったが、アマタは会話にはちゃんと彼女を見て返答するものの、自分からは喋らない上に、無表情。むしろ無視されるよりもある意味きつい。

 

(さっきはまるで王子様みたいだったんだけどな……うう、どうしよう、シュシュ?)

 

心の中で自らのリボンに擬態している猫に問いかける。

 

(とりあえず、場を繋げないと……)

 

必死で会話のネタ探しをする彼女の目に、アイス売りのゴンドラが飛び込んだ。

 

(あれだっ!!)

 

この時ミコノの脳裏に浮かんだ作戦はこうだ。

 

①アイスを買う

   ↓

②アイスを食べる際、シュシュにも食べさせる(この際、わざとらしくないように、自然に見せるのがポイント)

   ↓

③アマタ、シュシュに驚き、ペースが崩れる。

   ↓

④そこから会話に繋げる

 

(早速……!!)

 

「アマタ君、アイス食べない?」

「……まぁ、いいけど。頭の上のそいつもアイス食べるのか?」

(プランがいきなり崩れたァァァァァァッ!?初対面の人は絶対シュシュに気づかないのに!?)

 

プランが崩れたショックと驚愕で動けないミコノを尻目に、アマタはアイスを買う。

 

「ほらよ。……何固まってんの?」

「だって、初対面でシュシュに気づいた人、いなかったから……さっき襲われそうになったときだって、気づかれないように押さえてたのに……」

「隠してたつもりか?そんな偽装、一目瞭然だ。呼吸とかの鼓動以前に、気配が丸見えだぜ?正直、映画館で初めて初めて見た時から気づいてた」

「あっさりと凄いこと言うね……ほら、シュシュ、挨拶して」

「シューッ!!」

 

ミコノのあたまのうえから上に向けた掌へと白くて丸い身体と大きな耳(のような尻尾)を持つ小動物が飛び出し、アマタを威嚇する。

 

「……嫌われたのか、俺?」

「こらっ、シュシュ!ごめん、この猫、私以外にはいつもこうで……」

「いや、いいけど……猫?」

「うん、猫」

 

アマタが何か言いたげな表情をする。

しかし口から発せられた言葉は、全く会話の流れに関係のないことだった。

 

「ミコノは、さ……『アクエリアの舞う空』の、何処に惹かれた?」

「え?」

 

アマタから問いかけられたのも驚きだが、その声音は、先ほどまでの冷たさのみならず、何かを探るように感じられた。

 

「あの映画は俺が生まれる前にできた古い作品で、公開中の評価も高くなかった。 そんな作品の、何処に涙を流した?」

「それは……」

 

ミコノは思い返す。あの映画の、もっとも印象的なフレーズを。

 

「『私はあなたを、待ち続けます。たとえ、一万年と二千年でも……』この台詞が、心に残ったの」

「……そっか」

「それにね、ヒロインのシルフィーを演じた人が凄かった」

「……っ!!」

 

アマタの表情が、不意打ちを食らったかのように一瞬歪む。僅かな間だったので、ミコノは気づかない。そのままアマタは表情を見せまいとするように視線を逸らす。

 

「アリシアだっけ、綺麗で、歌も上手だったし……」

「ま、あの人が歌う主題歌だけは賞を取るほど評価されたしね……」

「……アマタくん、詳しいね?あの映画、アマタくんも好きなの?」

「……子供の頃、一日に何度も見た」

「すごい、大ファンだったんだ!!」

(会話が繋がった!!このまま……!!)

「そんなんじゃない、ただ、あの映画には、あの映画の中だけにはっ……!!

 ……いや、何でもない」

「ごめん、やなこと聞いちゃった?」

「いや、ミコノが謝る事じゃない」

(……確実に地雷踏んだァァァァァァッ!!喋るたびに墓穴掘ってる気がするゥゥゥゥゥゥゥッ!!)

 

顔が引きつったミコノにさすがに罪悪感を感じたのか、アマタは視線を戻し、語る。

 

「あの映画は、アクエリア復活プロジェクトに便乗した作品だ。ストーリーも、アポロンとシルフィーの伝承が元になってるし」

「アクエリア……それって元々堕天翅の兵器だったんでしょ」

「まあ、今のアクエリアはそのレプリカの、そのまたレプリカだけど」

 

アクエリア────それはかつて人類と堕天翅の戦いにおいて、人類の最終兵器として用いられ、最後には地球そのものを復活させた機械天使の名。もっとも、基となるデータは一万二千年という長い時間の流れに加え、旧時代の文明を根こそぎ破壊したと言われる大戦争おせいでほとんど残っていないうえに、そもそも現代よりも遙かに進んでいたはずの古代文明でもオリジナルである神話型は完全に解析できず、未解明のままのデータ、旧時代に作られた量産型のデータ、その他古代遺跡から様々なデータをサルベージしてやっと形は出来た。

 だが。

 

「……元々、失われた技術(オーバーテクノロジー)によるテロに対抗するために作られたんだけど……その性能は高すぎた。下手をすれば人類そのものを危険に晒すほどに。

 だから封印されたんだけど……」

 

 アマタの視線の先には、電光掲示板。そこに、アブダクターがシンデ・チャイナを襲い、何人もさらわれた記事が載っていた。

 

「アブダクターの襲来で、そうも言ってられなくなった」

 

アブダクターとは、九年ほど前から突如地球に出現した大型機動兵器だ。月に数回ほどの割合で次元ゲートと呼ばれる詳細不明の転送技術で異次元から世界各地に現れ、人をさらっていく。コミュニケーションもとれず、目的不明。ただ確実に理解できるのはその圧倒的な性能。かつての堕天翅と同等とすら思えるその力に対抗するためにアクエリアの封印は解かれた。その他にも大抵の街には迎撃のための砲台が設置されているが、効果は薄い。

 

「結局、アポロンとシルフィーが離ればなれになってまで護った世界は、ハッピーエンドにならなかったんだね……」

「それが現実だろ?悪を倒して、問題を解決して、それでお終いなんてありえない。世界が存在する(生きている)以上、どんな形であれ変わっていくさ。大戦争しかり、アヌダクターしかり、どれもあの戦い地球が救われなきゃ起こりえなかった。それこそがアポロンとシルフィーがいた世界が存在してるって言う、何よりの証じゃないか?」

 

アマタは自分の言葉に自嘲する。

 

(……変化することは生きることの証、か……なら、俺は生きていないも同然かな?)

 

 

 

 

 

 

 

「臭う……クサい!!」

 

ネオ・ランディア上空。

正確には、そこに発生した次元ゲートから出現したアブダクターの内、紅い人型の機体のコックピット。

そこに、戦士、カグラ・デムリはいた。炎のような紅い髪に、金色の瞳。無駄なく鍛えられた肉体からは、獣のような雰囲気を醸し出す。

 

「くくっ……!!ああ……良い気分だ!!」

 

今彼は自らの世界(アルテア)にいた頃とは比べものにならないほどに昂ぶっていた。

それも当然だ。この世界(ヴェーガ)に満ちるオーラは、死に瀕しているアルテアとは質も量も桁が違う。それに彼自身のオーラが共鳴しているのだ。

主の昂ぶりに、愛機である特装型ミスラ・グニスも応える。この機体の装甲はケルビム兵と同等の強度、惑星一つを支えるアイアンシーからの超空間経由のエネルギー供給により、誘拐用にコストダウンされたロー・グニスを遙かに超えたスペックを持つが、それは本質を意味しない。

カグラが駆るために調整された機体を、カグラが駆る事実。これをもって、同じようにアイアンシーからの供給を受けている一般的なグニスタイプを圧倒する戦闘能力を持つ。

彼の行動は命令によるものではない。そもそもこの機体は最終調整がすんでおらず、ノーマルグニスを幾度か実戦投入した上でより繊細に調整される予定であった。

彼が独断で(もっとも、彼は命令を意に介す性格ではない。)アルテアからヴェーガに来た理由は唯一つ、

 

「何処だ……クサい匂いの元は何処だァァァァァァッ!!」

 

飢えし獣が、降り立とうとしていた。

 

 

 

 

 

 

アマタとミコノは、ゴンドラを降り、高台にある平和記念公園の、アポロンとシルフィの像の下にいた。

 

「アマタくんは、『世界の何処かにある、アクエリアのパイロットを養成する学園』って聞いたことがある?」

「ネオ・ディーバの?」

 

ネオ・ディーバとは、アクエリアを運用し、アブダクターを撃退する国際組織だ。元々は古代技術の研究機関だが,今は干渉も受けない独立組織と化している。

 

「うん、そう。アクエリアを動かすにはエレメント能力(条理を無視した力)が必要だから、それを持っている子を集めてるんだって」

 

アマタは彼女の言葉に、まるで無理して知らないふりをしているかのような違和感を感じながらもこたえる。

 

「……エレメント能力者って、自分が無意識に精製しているオーラを操作すれば、能力を使わなくとも身体機能の底上げが可能なんだろ?兵士としても最高の訓練を受けているだろうし、その学園は人外魔境になってるんじゃないか?」

「……まあ、それができるのは一部のエリートだけだと思うけど。

 アマタくんは、アクエリアに乗りたいって思ったことはある?」

「……ないな」

 

アブダクターが出てきた頃には、アマタは既に燃え尽きていた(・・・・・・・・・)

 

「ミコノはどうなんだ?やっぱ『人類を守る守護者』ってのに憧れたのか?」

「私は……」

 

ミコノは一瞬、沈んだ顔をする。

 

「私には、できっこない……私、『できっこない子』だから」

 

そう呟いたミコノの表情は、アマタにとってある意味もっともなじみ深い物で、

 

(ああ……)

 

やっと、理解する。彼女を疎んじながらもほっとけない、その理由を。

 

(そうか、コイツは『あの人』じゃなくて、俺に似ているんだ。)

 

 

 

 

 

────────それは突然だった。

 

『アブダクター襲来。至急、シェルターに避難してください。繰り返します────────』

 

警報に遅れ、ネオ・ランディアに幾つもの巨体が降り立つ。

その姿を形容するなら、緑色の四本足の機械蜘蛛。

収穫者が行動を開始した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。