創世のアクエリオンEVOL   作:JJ

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お待たせしました、申し訳ありません。
今回は短めです。


第七話 「迷いし少女」①

聖天使学園、理事長室。豪奢ながらも歴史を感じさせる部屋に存在するのは四人。

部屋の主である、クレア・ドロセラ。

男子エレメント主任教官、ドナール・ダンテス。

女子エレメント主任教官、スオミ・コネピ。

そして、彼ら三人に机を挟んだ対面に立っているのは杖を地面につけたアマタ・ソラ。

彼らの表情は、一様に硬い。

 

「ベクターマシンはどの機体も損傷が激しく、戦闘に耐えられる状態ではない。……幸いにもネオ・クーロン戦でダメージを負ったもう一組が修復を完了したが……」

「問題は人間の方で、だからこそ俺が呼ばれたのでしょう? 足場を固める為に」

 

ドナールの言葉を引き継ぐようにアマタが確認の言葉を口にする。

シュレード・エラン──能力のノックバックにより身体全般に損傷。戦線離脱。

アンヌ・ウィッチ──重傷を負った上にナノマシンの半数以上が機能停止。自己修復もかねて戦線離脱。

アマタ・ソラ──戦闘の負傷に加え、能力の過剰使用によってか身体が衰弱。戦線離脱こそ避けられたが、ベストには程遠い。

三人は間違いなく聖天使学園の最大戦力であり、そんな彼らがたった一体の敵に蹂躙されたという事実は、単純な戦力減という以上に大きな意味を持つ。

それに加え──

 

「あのカグラと名乗った男が使用した技術……あれはお前が使用しているそれと同じだ。説明してもらうぞ」

 

 アブダクターが人類型の知性体と判明し、それも会話が成立したことは大きな進歩であるが、まだ具体的な情報は手に入れることはできていない。だが同じ技術を使用しているアマタが自覚の在りなしに関わらず彼らと関係があると考えるのは当然であり、それゆえの詰問。アマタがアブダクター側からのスパイという可能性も存在するが、これまでの行動からほぼあり得ないと考えている。無論、かといって完全に信用するほど彼らは甘くはなく、今こうしている場にも二十を超える銃口が密かにアマタを狙い、自分たちの能力も臨戦態勢だ。

 アマタは軽くため息をつく。

 

「まあ、俺としてもこれを話すこと自体はいいのですが……その前に一つ。この技能、あなた方は本当に知らないのですか?」

「悔しいが。理解のとっかかりもないというのが現状だ」

 教官の言葉に嘘はない。これまで幾度もアマタは検査に協力し、彼自身から説明を受けたのにもかかわらず、その片鱗すら理解できていない。

 それは例えるなら、足し算と引き算のみでスパコンのプログラムを理解しようとするようなものだ。使用する物は同じであるが、その利用と理解に差がありすぎる。

 

「……なら、俺の話もあまり役には立ちません。なにせ、俺もこの技術のルーツを知らないのですから」

「……? それは、技術そのものは習得していても、それがどこ由来であるかは知らないという事ですか?」

 

 スオミの問いに、アマタは苦笑を浮かべることで同意する。

 

「おそらく、大破壊以前の技術だということはわかります。教わった時にその時代の事柄と関連付けられましたから。ただ、俺はてっきりこの学園のような研究機関から流出したものだと思っていました。……その証拠もありましたしね。

 それと、俺は少なくとも気動までは理屈で把握していますが、そこから先は色々あって使用することはできても、それを理屈で把握できていません。ですから、これから先、俺の指導をあてにはできないと思います」

「……とにかく、話せることは話せ。お前の過去……あの技術を、どうやって手に入れたかを」

 

 アマタは、唇を歪め、笑みに見える表情を作る。

 

「了解しました。……では、まずは俺が物心ついたころから」

 

 そして、彼は語る。自らの血塗られた過去を。

 

 

 

 

 

「にゅふふ、ゼシカはどこかなー♪ っと」

 

 鼻歌を歌いながら校舎の外を歩くのは聖天使学園エレメント一軍、サザンカ・ビアンカ。彼女を表現するには僅か一言、『腐女子』で足りる。これまでも男子の隠し撮り写真を独自のルートで販売したり、それを元手に同人誌を描くなど、様々な活動を行っていた。──男女の接触が禁じられていた状態で、学校に悟られずに活動を行っていたという時点で彼女の卓越した才能は明らかだが、才能が斜め上の方向に発揮されるのはままあることだ。

 そんな彼女がゼシカを探している理由は当然、

 

「シュレード様とカイエン様と合体した感想を聞いて、次の作品の参考にしないとねー。リアルな体験談から至高の妄想は生まれるのよー」

 

 腐ッ腐ッ腐……と腐ったオーラを垂れ流しながら歩く見目麗しい乙女が一人。これでも聖天使学園一軍レギュラーが一人ではあるが、この姿を見てそう判断できる者はいないと断言できる。

 本当なら講義が終わったらすぐに話を聞きたかったところであるが、肝心のゼシカが脇目も振らずに教室を出、部屋にも戻ってこなかったためにこうして探しているのだ。

 

(まぁ、それだけじゃないんだけどね……)

 

 サザンカはごちる。これまで盗撮を試行錯誤したことで鍛えられた直観は、ゼシカの不穏さも感じ取っていた。

それは、ほんのわずかな違和感。気のせいと表現できるようなそれを払拭するためにもこうしてわざわざ歩いているのである。

 

(まあ、最近のゼシカは色々と変わっていったから、その影響かもしれないけどね……)

 

 自身の性癖は独特であるが、彼女とて花も恥じらう乙女。ゼシカの最近のメイクの変化や、その視線の先を見れば彼女が一体どのように変化したのかなど一目瞭然。ゼシカ自身は自覚しているかどうかわからないが、その変化は確実に彼女の力となっている。

 

「まあ、肝心の相手の方はわからないけど……っと、いた。ゼシカー」

 

 ふらりと森から出てきたゼシカの姿を認め、駆け寄る。その姿は平時と変わらない軽く運動してきた後といった風情で、サザンカは自分の憂慮が外れであることを感じ安堵の息を吐く。

 

「サザンカ。何の用?」

 

 ゼシカはタオルで汗を拭きながら問う。

 

「とーぜん、このまえシュレード様とカイエン様、二人と合体した感想を聞きに!! どんな感じ!? 苦みのあるコーヒー!? それとも甘いミルクティー!?」

「なんでそういう風に例えるのかはわからないけど……まあ、実際にいっしょに合体してみた限りじゃ、高い水準で安定していたって感じかな。アマタよりも安定性では上かも」

「いや、そーいう事聞いてんじゃなくてね」

「ごめん、訓練続けたいから。またね」

 

 そういって、ゼシカは校舎に向かって走り去る。サザンカは溜息を吐き……

 

「これって……!!」

 

 絶句する。つい先ほどまでゼシカがいたであろう空間が体現するは只破壊。地面はめくられ、木はあるものは大穴が空き、ある者は捩じり折られ……無事な木など一本も存在しない。

 

 ……遅まきながら、理解する。ゼシカの異変はあまりにも大きすぎ、自分には理解できなかったことに。

 

 

 

 

 聖天使学園のシミュレーターは実機とは異なり一人でも操縦できるため、今のようにとうに下校時間が過ぎ、こうして薄暗くなった時間であっても訓練に支障はきたさない。

 よってゼシカは一人黙々とシミュレーターをこなしていたのであるが。

 

 プシュウという音と共にシミュレーターのドアが開くと同時、文字通り這うようにして出て、そのまま仰向けになる。

 

「ハァ、ハァ……!!」

 

汗だくになり、荒い息を吐きながらも、立ち上がろうとする……が、四肢は蠢くばかりで、力が入らない。

気力の問題ではない。むしろ今の彼女の精神は純粋な絶対値のみで言うならば高い水準を維持しており、こうして立ち上がれないのは純粋な体力の問題だ。実機ではないとはいえ、シミュレーターをとうに数十を超すほどに繰り返した現状からすれば、むしろ意識を保っていることの方が驚きだ。

これまでの彼女を遥かに超える意志の力、されどゼシカはシミュレーターに表示された成績を見て、顔を歪める。

無論、悪いわけではない。最後の方は疲れから下降しているが、全体的に見れば高水準だ。

……それでも、及ばない。

ゼシカの脳裏に存在するのは、幾度も自分たちを助けた少年の戦。自らが人類を守る戦士であるという自負すら超越するほどの異邦人。

だが、そんな彼と、自分が知る限り最高のエレメントである二人でさえあの獣に深手を負い……

 

いや、ごまかすのはやめよう。

自分は知らず知らずのうちに、彼らに甘えていなかったか。

彼らがいれば負けないと妄信して、知らず知らずのうちに頼り切っていなかったか。

 

……否定できるはずもない。その結果がこれだ。一歩でも誤れば、確実にミコノは奪われていた。しかも、彼女はあの戦闘で能力を発動させ、逆転の布石を作ったのに対し、戦える力を持っていたにもかかわらず、むざむざ目の前で仲間を傷付けられた自分は無能というしかないだろう。

自らの無様さに歯噛みしながら、壁に手を付けて立ち上がる。わざわざ部屋に戻る手間が惜しい。ベンチの上程度でなら睡眠に十分だろう。

照明が消えた廊下を、身体全体を引きずるようにして歩く。非常灯の明かりのみが照らす廊下は日中とは全く異なる寂寥な景観を醸し出し、ただでさえ安定を欠いたゼシカの精神を余計に乱す。

……こう暗いと、嫌でも思い出す。それはこの学園に来たばかりの頃に聞いた、学園にありがちな怪談。

理想と希望持ちてこの学園を訪れた少女が、何も手に入らなかったが故に自らの命を絶ち、未練がましく亡霊となって学園を漂うという三文小説のようなくだらない噂。

これを聞いた自分は震え上がり、絶対に暗くなる前に下校したものだ。

 

……ああ、反吐が出る。そんな子供だましに怯えた自分に、否、そんな無駄な時間を過ごしていた愚かな自分に。

アマタを見ろ、アンヌを見ろ、シュレードを見ろ。彼らこそは自らを極限まで鍛え上げた真の戦士。日常という甘えに微睡んでいた自分とは根本から異なる。そう、強さに必要なことは自らを高める意志を途切らせないこと。

そして自分は、彼らに及ぶべくもない。だからこそ、より激しく鍛え上げねばならなかった。無駄な時間を切り詰め、より力を磨き上げていれば今の無様ささなど感じなかったかもしれないのに。

 無為に過ごしてきた過去に歯噛みするゼシカの脚が、トイレの傍で止まる。尿意を催したわけではない。その視線の先には、なぜかいつも教室に存在する緑のぬいぐるみがある。

 ……そういえば、あの人形は何だろう? 実習の際に呼ばれたユノハという少女の持ち物だとは思うが、考えてみれば自分は彼女の姿を見たことがないどころか、名前すら聞いた記憶がない。同じクラスである以上、名前ぐらいは知っているはずだが……?

 

 内心首をかしげながらも、ベンチに身体を預ける。この場所でも仮眠をとるのに何ら問題はない。

 目を閉じたゼシカを、鼻歌が包む。それは穏やかな調子で、まるで子守唄のようにゼシカを眠りへ誘い……

 誘い……

 誘い……?

 

(あれ、そういえばこの声は何だろう?)

 

 疑問に思い、目を開けた先には。

 

 緑色の人形が、直立してこちらを覗きこんでいた。

 常識的に考えて、繊維と綿で構成される人形が何の支えもなく立つはずがない。

 否、その人形の脚はそもそも地面についておらず、浮遊している。

 

 ……理性が保ったのもそこまで。その人形の無機質な目がこちらを見ていることに気づいたゼシカの意識は闇に落ちた。

 

 

 

「おい、起きろ、ゼシカ」

 

 軽く体がゆすられ、意識が浮上すると同時に身体の感覚が覚醒。木々の独特な匂いと、背中に感じる感触を知覚する。

 目を開ければ星空を背景にアマタが覗き込んでいる。……どうやら、自分は女子寮裏の林であおむけになっていたらしい。

 腹筋の要領で上半身を上げると、ほとんど疲れを感じない。

 

「俺の調息に同調させて調子を整えたんだ。この場所は島の中でも環境がいいからな。……まあ、俺が女子寮に入れないってこともあるけど」

「……さっきのお化けは?」

「何だ、それ?」

 

 不思議そうに首をかしげるアマタ。

 

「……夢でも見ていたんだ、情けない。……ありがと。だけど、なんで校舎にいたの?」

「先生方の尋問の後、少し身体を慣らすためにも教室の掃除してた。そしたら急に知り合いの甲高い悲鳴を聞いて来てみたわけだ……それよりも」

 

 アマタの表情が、変わる。

 

「すこし調子を見ていたが、短い期間に負担をかけ過ぎだ。訓練をするのはいいが、そのままだと強くなる前に潰れるぞ」

 

 その言葉に余計な修飾はなく、それ故に現実をこれ以上なく正しく指摘する。おそらく彼の眼には今の自分は愚かな真似をしているとしか映らないだろう。そんなことは百も承知で、だけど。

 

「それでも、私は強くなりたいの。一刻も早く。普通の方法じゃ、追いつけない」

 

 彼の前で、取り繕った自分は出したくない──そんな理解不能な情動に任せて口を開く。

 

「……ゼシカは強いよ。それに、前も言ったろ? 日々の訓練が力になる。近道なんてない」

 

 アマタの言葉はどこまでも正論で、それ故にゼシカの求めるものではない。何故なら。

 

「アマタが言っても説得力ない!! アマタがそこまで強いのって、普通じゃない経験を積んできたからでしょ!! 私は、アマタみたいになりたいの!! その強さが欲しいの!!」

 

 自らの感情に振り回されて、言っている言葉の制御が利かない。そんなことは百も承知で、それでも自らの内に秘めるべき言葉を口にする。自然と涙がこぼれ、無様な顔立ちになっているだろうが、それを意識することもない。

 しかし。見る者すべてに痛々しさを感じさせるようなゼシカの慟哭は。

 

「無理だな。俺の強さを手に入れることは不可能だ」

 

 一瞬の遅滞もなく、目標とした人物自身によって切り捨てられた。

 その視線には、どこまでも冷たさだけが存在して。

 その視線にさらされたゼシカは、絶望を感じて。

 

「ふ……っざけんな!!」

 

 裏切られた──なぜかその言葉が頭に浮かんだと自覚した瞬間にはすでに行動。

 両腕を前に突き出し、自らの能力を発動。

 制御から離れた暴走というべき能力が実現するのは、ただ純粋な破壊であり──

 

「──」

 

 僅かに見えたのは、溜息だろうか。

 破壊の具現化であるはずのゼシカの衝撃力は、アマタが無造作に払った左手によって砕かれた。

 余波が背後の木々をなぎ倒し、破壊音が轟くが、アマタには傷一つないどころか、彼の視線には凪一つなく、腕を下ろしただけでなんの反応もしない。構えも取らず、無防備に立っているだけの姿からは今の現状が脅威にならないと言外に語っており、それが彼我の埋めようのない差を端的に表しているかのようで、よりゼシカを追い詰める。

 

「私が、強くなれないっていうの……!? 答えてよ、アマタ……!!」

 

 その問いに、アマタは応えず、

 数時間かと思えた数瞬が過ぎて、その静寂は足音によって破られた。

 見れば、眼鏡をかけた少女が周囲の惨状への驚愕を表に出しながら駆け寄ってくる。

 

「ちょっと、二人とも!! 今の音はなに!?」

「……MIX。何も問題はない。ゼシカを頼む。女子寮まで送ってくれ」

 

アマタは二人に背を向け、側面の木に拳をぶつけ、生じた轟音に気を取られた隙にその姿が消える。飛翔能力か、身体強化か、それすらもわからない。

 

「ちょっと!! ……まったく、これだから男は!! ゼシカ、大丈夫?」

「……どうして」

「え?」

「どうして、わかってくれないのよ……!!」

「どうしたのよ、ゼシカ……??」

 

 MIXの自分を心配してくれている声にも応えることができない。

 何故なら、彼女自身とて自分の心が定まっていないのだから

 

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