創世のアクエリオンEVOL   作:JJ

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第一話 「運命の羽音」③

アブダクターの行動は迅速だった。黒っぽい胴体からオレンジ色のチューブが伸び、街の住人を追跡、補足する。そして、

悲鳴、怒号、無言。

丸く膨らんだチューブの先端が獲物を取り込んだ。

赤ん坊を抱いた母親が、ゴンドラで愛を語りあってたカップルが、路地裏に逃げようとした女性が。

囚われ、アブダクターの腹部に、まるで果実のような檻に吊される。

その果実は一瞬ごとに数を増やしていく。それはすなわち、異世界へ連れて行かれ、二度とこの地を踏めない運命に飲み込まれた人が増え続けているということだ。

無論、人類側も黙ってはいない。ネオ・ランディアに設置された砲台が集中砲火を浴びせる。

爆音と衝撃。

本来なら破壊も伴うはずのそれは、アブダクターをよろめかせるにとどまった。

蜘蛛の胴体の上の小さな頭部が回転し、光の筋を発する。その光は古代技術の産物であったはずの砲台をバターのように切断、倒壊させる。

これこそがアブダクター。ただ理不尽に奪い去る、圧倒的な恐怖。それらは障害を排除すると、収穫を再開する。

 

 

 

 

(……何だ?初めて見るけど、アイツら(アブダクター)の行動は変だ。いや、それよりも今は……こっちが先か)

「あ、ああ……」

「おいっ、呆けるな、ミコノ」

 

 アマタは呆気にとられたミコノの肩を揺らす。

 

「シェルターの場所はわかるか?」

「ううん……」

「なら、最寄りのシェルターに案内するから、そこにいろ」

 

 アマタの発言に違和感を感じたミコノが聞く。

 

「アマタ君はどうするの?」

「アイツらをどうにかする」

 

こともなげに言い切った。

 

俺の能力と技能じゃ(・・・・・・・・・)アイツらを倒すことは(・・・・・・・・・・)できないけど(・・・・・・)、それならそれでやりようはある」

「そっ、そんな!?わけがわからないよ!!一緒に隠れた方がいいよ!!」

「わからなくていい。シェルターにいたって完全に安全な保証はない。さっきの光線ならシェルター程度は丸裸と同じだ。おまえはシェルターにいたほうが安全の確率が高くなって、俺は外で行動した方が安全の確立が高まる。それだけだ」

「そんなことは言ってない!!どうしてアマタ君が戦わなきゃいけないの!?」

「それは……」

 

一瞬、口ごもる。確かにアマタが自分の身を危険に晒す必要はない。

アマタが戦場に出なくとも、軍が対処するだろう。

自分の安全のみを優先するなら、シェルターに籠り、破られたときに逃げればよい。

なのに何故、当たり前のように戦うことを選択したのか。

 

「……言ったろ?俺は自分の安全を保証したいだけだ。その為に戦う」

 

自分でも戦いに赴く理由がわからないまま、言い訳のようなものをくちにする。

その時。

 

 轟!!

 

大音響とともに、アブダクターの一機が、高台へとあがるための階段を破壊しながら、アマタ達の目の前に着地した。

 

「あ、ああああああ……」

 

その圧倒的な威圧感にミコノは恐慌する。これから起こることへの予想すらできない。ただ飲み込まれるしかない。

 

事実、これから起こることは、あらゆる意味でミコノの予想を超えていた。

 

「ちっ!掴まれ!!」

 

アマタがミコノを抱え、あろうことかアブダクターに向かって走る。

 

「飛ぶぞ!」

「え、えええええーーーーーーーー!?」

 

訳もわからず、ミコノはアマタにしがみつく。

  

アマタの両くるぶしから翼が生えた(・・・・・)

それは朝日のように眩しい金色の翼。その翼はアマタの身体を浮かび上がらせ、飛翔させる。

そのままアブダクターの頭上を飛び越えると、目立ってシェルターまでアブダクターを案内するのを防ぐため着地。疾走を開始。

 

それを追い、アブダクターも旋回する。 

巨体の旋回は、意図せず高台を破壊。轟音と共にアマタ達に瓦礫の雨を降らせる。それらは一つ一つがアマタの背丈ほどもある破壊の豪雨。疾走も飛翔もそれは躱しきれず、停止など論外。故に、

 

「シッ!!」

 

選んだのは迎撃。だがそれはあまりに無謀。質量というありふれた力が二人を押しつぶす────────

そのはずだった(・・・・・・・)

 アマタの右脚が淡い光に包まれる。それは先ほどの翼とは似て非なるもの。その光は物質であるかのようにアマタの右足にまとわり、その密度を増していく。

 

「ハッ!!」

 

細い息とともに身体を反転。光り輝く右脚から繰り出された回し蹴りは、今にも二人を押しつぶさんと迫る瓦礫を砕いた(・・・・・・)

 

「な、な……」

 

ミコノは今起きたことが理解できない。彼女の持つ知識では、今起きたことが説明できない。

あの翼はアマタのエレメント能力で、つまり彼はエレメント能力者ということだ。それはいい。だがそれでは先ほどの、巨大な瓦礫を砕いた蹴りは何だ?

アマタとの会話で言及したように、能力者は能力を使わずとも、常に生命力とも言えるオーラを精製している。それを意図的に制御する術を会得すれば、身体能力の底上げは可能だ。

そう、『底上げ』は。あくまで人間の範疇までしか強化できない。にも関わらず、あの無茶苦茶な威力の蹴りは、人を『逸脱』している。もし仮にあそこまで強化したとしても、蹴りの反動で、いやそれ以前に度が過ぎた強化そのものの負担で多大なダメージを負う。 

だが蹴りを繰り出したアマタは何事も無かったように疾走を再開する。

 

「ア、アマタ君って……」

「見ての通り、エレメント能力者。まぁ、この技能(スキル)は少しレアだけど」

 

ミコノの疑問にかまわず、事態は動く。アブダクターが彼らに向け、一歩を踏み出す────────

その脚が動く前に(・・・・・・・・)砲撃がアブダクターの(・・・・・・・・・・)頭部を貫いた(・・・・・・)

 

「あれは……」

 

アマタの視線の先にあるのは三機の航空機。それぞれベクターゼド、イクス、シロンの名を冠す機体が合体する。イクスが上半身を、残る二機が下半身をそれぞれ形作り、一つの巨大な人型を創り出す。

それは完全を現す三位一体。

それは兵器の持つ無骨さと神像が持つ気高さ、矛盾を両立させた蒼き巨人。

ガンポッドを構えたその名はアクエリア。人類を守る守護天使が降り立った。

 

 

 

 

「こちらアクエリアM型、ヘッド・カイエン。目的地に到着。アブダクター掃討に入る」

 

ネオ・ディーバ司令室にヘッドを務めるカイエンの声が響く。

「了解。神話の導きあらんことを」

 

司令が温厚な人柄を感じさせる声音で返答する。

 

「いいかぁ、どんだけ数が多くとも、女どもに舐められるような戦いはするなぁ!!」

 

檄をとばす男の名はドナール・ダンテス。サイボーグ手術を施した身体に軍服をまとう彼は、司令補佐にして男子の主任教官だ。見た目通りの鬼教官として生徒におそれられている。

 

「これほどのアブダクターの群れ……男子の乏しい判断力では、荷が重いのではないでしょうか?」

 

そんな発言をした女性はスオミ・コネピ。ドナールと違って生身で、修道服に身を包んだ彼女も司令補佐にして女子の主任教官だ。

 

「はっ、判断力ゥ!?そんなもん、感情に振り回される女どものほうが、怪しいだろうが!」

「何ですって!?」

 

言い争う二人の補佐に、司令はため息をつく。

 

アクエリアの利点は何よりもその応用性。ネオ・ディーバの超強力反応炉あっての、コックピットと司令室を繋ぐ超空間チャンネル経由テレポートシステムにより、戦闘中であってもエレメントの回収、交代ができる。これにより、貴重なエレメントの損失を防ぐと同時に、人によって千差万別のエレメント能力を状況に応じて投入できる。アクエリアは乗っているエレメントの能力を増幅するので、その恩恵は計り知れない。

ただし、それにもルールがある。『男女合体禁止』だ。如何なる場合でも、組み合わせは男子のみもしくは女子のみに限られる。これを徹底するために男子が駆るM型、女子が駆るF型には共にグイゼ・ストーンと呼ばれるシステムが設置され、男女機合体を防ぐ。

また、本部である聖天使学園(ここ)も男子と女子の交流は禁じられているが、その為主任教官二人はどちらの生徒が優秀か、常にいがみあっている。

 

(悲劇を防ぐためとはいえ……両者の間に立つ私の苦労も誰か察してほしいものだ……)

 

司令(苦労人)の悩みは絶えない。

 

カイエンは持ち前の集中力で司令室からの雑音をオフにし(アクエリアはそのシステムから情報の共有が重要視され、ベクター同士、もしくは司令室との通信切断は許可されない)、アブダクターにガンポッドー正式名称、高速徹甲爆裂弾速射砲の照準をあわせる。

 

発射(アタック)!!」

 

市民が捕らわれている腹部を避け、頭部に着弾。未だ未解析のアクエリアの力によって強化された徹甲炸裂弾がアブダクターを沈黙させる。

この作戦において重視すべきは敵の撃破のみならず、さらわれた市民の救出も重要だ。

確かにアブダクターの数はいつもより多いが、ヘッドを務めるカイエンは海兵隊上がりの経歴を持つ聖天使学園トップクラスのエレメントで、それを補佐するアンディ、モロイも優秀なエレメントだ。

結果、瞬く間にアブダクター全機が沈黙した。

 

 

「終わったか……」

 

アマタはため息をつく。

彼は先ほど沈黙したアブダクターに捕らわれていた人を一人で救出していた。幸いにもその一機が捕らえた市民はそう多くなく、彼一人での救出はそれほど手間をかけずに終わった。 

 

「街の方は軍がやるだろうし、頃合いかな?だけどやけに女性が多かったような……」

 

疑問を口にする彼は、蹲ったままのミコノに視点を移す。

 

「何だ、シェルターに行ってなかったのか?助けた人に案内してもらえばよかったのに……」

「脚がすくんじゃって……」

「ま、いいや。アイツらは全滅したし、今更シェルターに行っても……」

 

アマタの発言が止まり、雰囲気が変わる。

彼が感じたのは恐怖。これまでのアブダクターとは桁違いのナニかがいる。優れた『戦う者』であるアマタだからこそ感じた威圧感は、まるで獣がそばにいるかのように錯覚させた。

 

「……?アマタ君、どうしたの?」

「……上か!」

 

アマタが叫ぶと同時、救出活動に移行しようとしていたアクエリアが、上空からの体当たりによって吹き飛ばされた。

 

 

 

 

「ぐわぁ!?」

 

カイエンが苦痛の声をあげる。そこから冷静さを失わず、即座に反撃の体勢に移ったのは、彼が優れた戦士であることの証明だ。

この距離なら狙う必要はない。足回りを二人に任せ、ガンポッドを放つ。標的を貫くはずのそれは、むなしく虚空に吸い込まれた。

オペレーターの声が響く。

 

「データに無い、未知の機体です!!……!?生体反応あり!!」

「パイロットがいるのか!!」

 

初めて出現した有人機だ。なるほど、確かにいかに機動力が優れているとはいえ、プログラム任せの無人機では今の攻撃はかわせまい。

敵を観察する。

まず目に入ったのはアクエリアの全長近い大きさの斧。原始的故に強力な武器を両腕で持つのは、アクエリアとほぼ同サイズの、赤とグレーに塗り分けられた人型兵器。二本の角を生やした頭部や、羽のように並列したスラスターをもつその姿は、悪魔を想起させる。

アブダクターはスラスターを噴射し、一瞬で距離を詰められる。

 

「くッ!!」

 

ガンポッドを至近距離で発射するも、またしても避けられ、斧の一撃を見舞われる。スラスターを噴かせ、後ろに下がることでダメージを殺すも、無傷とはいかない。だが離れることには成功した。

僅かな猶予で相手のスペックに思考を走らせる。

翼のスラスターを生かした、アクエリアを凌駕する空中機動性と、それを生かすパイロットの腕。おまけにパワーも先ほどの体当たりから推察するにあちらが上。

純粋な性能(スペック)ではこちらが不利だと自覚する。だが、負けるわけにはいかない。

 

「負けるかァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーー!!」

 

自らを鼓舞しながらガンポッドを射撃。相手はおそらく近接特化型。わざわざ相手の土俵で戦うべきではない。故に選択すべきは遠距離戦。適度な距離を保ち、ガンポッドで確実にダメージを与える。

だが、紅いアブダクターには一切当たらない。空中を踊るがごとく舞う。ある時は空中で、ある時は地上に降りて。そうやって少しずつ確実に距離を詰められる。

そして、ついに。

 

「……ッ!!」

 

アクエリアが斧の射程距離に捕らわれた。アブダクターの斧が敵を両断せんと振り下ろされる。アクエリアは右腕に構えたガンポッドを盾に防ごうとするも、加速がつけられた攻撃は盾ごとアクエリアを両断───しなかった。

  

   ガキンッッッッッッッ!!!

 

鈍い音とともに、ガンポッドが攻撃を受け止める。 

ガンポッドはアクエリアの外部追加装甲と同じ、チタニウムー炭素系の複合装甲でできている。多少の無茶では動作に支障はない。

無論、パワーに差があるため、長くは持たないが、そのわずかな間なら相手の攻撃を封じることも可能。

そして、

 

「ガンポッド、追加転送!!」

 

カイエンの指示とともに、本部から超空間経由で転送されたもう一丁のガンポッドがあいている左腕付近に転送される。

アクエリアはそのガンポッドをつかむ。

 

「これでっ……!!」

 

 反撃の開始を確信したカイエンは気づく。アブダクターが自らの斧の柄を、アクエリアに垂直に押し当てている。

 そう、まるで銃器を零距離で放とう(・・・・・・・・・・)としているかのように(・・・・・・・・・・)

 

「まさかっ!?」

 

判断は一瞬。アクエリアが殴ろうとした体勢から、強引にスラスター全開で横に飛ぶと同時、斧に仕込まれた高出力光学兵器が火を噴く。 

  

 

轟音と共に、青白い光が一瞬前までアクエリアがいた空間をなぎ払う。

アクエリアは直撃こそ避けたものの、少なくないダメージを負ったばかりか、無茶な体勢からの回避は当然のようにバランスを崩し、無様に転倒し、街に突っ込む。おまけにガンポッドまで手から離れた。

 

「くっ……!!」

 

敵の武装を見誤った。今まで使わなかったのはこうした状況を想定してか、もしくは単にパイロットの好みか。どちらにせよ、天秤はもはや取り返しのつかないところまで傾いた。この距離からでは立ち上がる、もしくは分離する前にとどめを刺される。反撃もこの体勢では不可能だ。

あちこちで悲鳴を上げるシステムを押さえつけ、間に合わないと知りながらもアクエリアは回避しようとする。それに引導を渡すべくアブダクターがスラスターを噴かせ、斧を振り下ろし、

 

突如、大量のミサイルが降り注いだ。それらはアブダクターに襲いかかるものの、急上昇によって躱され、ビームでなぎ払われる。だが幸いにも離れることには成功した。

 

「今のミサイル……まさか!?」

「とうとう出会っちゃったね、男の子!」

 

通信ウインドウに映ったのは十代後半の少女。若草色の髪をボリューム多めのボブカットにした、つり目の猫のような雰囲気を持つ彼女に、カイエンは見覚えがあった。彼女は聖天使学園女子エレメント、一軍レギュラーの、

 

「ゼシカ・ウォン!?アクエリアF型か!?同時運用は禁じ手のはずだ!!」

 

 

 

 

「アクエリアF型を失うわけにはいかないとはいえ……自らの手で悲劇を招いてしまうのでは、司令!?」

「しかたあるまい。こうしなくてはどちらにせよ敗北だ。我々に敗北は許されない」 

 

スオミに答えた司令の顔には、苦渋の色がある。彼にとってもこの判断は本意ではないのだ。

 

「グイゼ・ストーンが……純潔の壁が、エレメントを護る。今は敵を倒すことが先決だ、ドナール」

 

ドナールは先ほどから一言も話さない。だがその顔は司令以上に忌々しげに歪んでいた。

 

 

 

「さぁって、アクエリアF型、交戦を開始する!!」

 

F型のヘッドを務めるゼシカは、M型が落としたガンポッドの片割れを拾うと距離を詰め、乱射しながら突撃する。それと同時、M型が放つミサイルがアブダクターを囲う。さしものアブダクターもこの状態からでは回避不能。

真っ当に考えれば。だがアブダクターのとった手段は想像の上をゆく。

 アブダクターは自らを囲むミサイルの輪に突っ込み、ミサイルを斧でたたき(・・・・・・・・・・)落とした(・・・・)

一歩間違えれば直撃する愚行。だがそれをいとも簡単に為した敵は、ミサイルの包囲網から脱出する。

 

(嘘でしょ……こんな無茶な相手、『あの子』がうってつけじゃない!!)

 

戦闘により、思考が高速化したゼシカの脳裏に浮かぶのはあるチームメイト。現在謹慎中であるが、彼女なら似たような真似をするかもしれない。

 

「だけどっ……!!」

 

アクエリアF型はアブダクターを追跡。機動力に差はあるが、ミサイルを払うために消費した刹那の分だけアブダクターは遅い。突撃しながら右手に握ったガンポッドを逆手に持ちかえる。それはトンファーのようにも見え、事実、それを振りかぶり、

 

ガキィィィィィィィィン!!

 

ガンポッドによる打撃を、アブダクターの斧が受け止めた。

そこからアクエリアは左手のガンポッドを射撃するが、アブダクターはそれを予期していたかのように避ける。

 

「さすがに自分の戦法は見切られるか!でも、ここまで近づけば、逃がさない!!」

 

アクエリアは再度、距離を詰める。アブダクターは回避しようとするが、この距離では無駄だ。

そう、アブダクターの背後からミサイルが接近し、それらがアブダクターの動きについていけず、アクエリアF型に突っ込まなければ。

 

「嘘ッ!?」

 

咄嗟にアクエリアF型を下がらせ、回避する。足下に着弾したミサイルはアブダクターのものではなく、M型が放ったものだ。

 

「ちょっと男子、同士討ちする気!?」

 

ベクターシロンのパイロット、MIXが金切り声を上げる。

その間にもアブダクターが距離を詰めようと接近するのをガンポッドで迎撃するが、今度はその銃撃が満足に動けないM型を掠める。

 

「どこを狙っている!!」

「そっちこそ、脚引っ張らないでよ!!」

(マズい……)

 

口論するMIXと男子に、心の中で舌打ちする。男子と女子はこれまで模擬戦すら合同で行った事がない。いきなり連携などできるはずが無く、むしろ脚を引っ張り合っている現状は当然だろう。

 

(バラバラにしかけても勝てないのに、これじゃ全力が出せない!!どうする……)

 

一瞬の思考の空白。その僅かな隙に、敵アブダクターが変形した。アクエリアと同じ人型から、翼持つ獅子のような四足歩行型に。そしてそのまま、F型に体当たりを食らわせる。莫大な加速に打ち出されたそれはF型を吹き飛ばす。

 

「キャァァァァァァッ!!」

 

吹き飛ばされたF型は背後のM型にぶつかり、転倒する。

その時。

 

(何?この感覚?)

 

両者が接触した刹那。世界がぼやける。あらゆるモノが意味を無くし、お互いの機体、より正確にはその中の光が存在を主張する。訳もわからずその光に手を伸ばそうとして、

無色の光がはじき飛ばした。

アクエリア二機は互いに反対方向に吹き飛ばされる。その時にはパイロットも現実に引き戻される。

 

「痛た……今のはグイゼ・ストーンの妨害?……敵は!?」

 

ゼシカの目は、自分たちに興味を無くしたように背を向けるアブダクターを認めた。

必死でアクエリアを動かそうとするも、反応しない。

 

「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

自らの無力に憤るゼシカの叫びが、コックピットに反響した。

 

 

時は僅かに巻き戻る。

目の前の3機の戦闘に怯え、逃げることすら頭から消えたミコノの横で、アマタは苦虫をかみつぶしたかのような顔をしていた。

 

「どうなってる……一人一人の練度は高いのに、連携がまるでなってない。あのレベルまで鍛えられた兵士なら、チームプレイも学んでるはずなのに……」

 

アマタの疑問をよそに、戦況は決す。四足歩行型に変形し、アクエリア2機を下したアブダクターがアクエリアに背を向ける。それを見たミコノの精神はもはや崩壊寸前だ。

 

「あ、ああ……」

 

負けた?アクエリアが?守護天使が?これからどうなる?わからないわかりたくない

 

「おいっ。ミコノ。逃げるぞ!!」

 

アマタに揺さぶられ、正気に戻る。

 

「シェルターはもう閉まっているだろうし、軍人に保護してもらえ、行くぞ!!」

「う、うん」

 

アマタに手を引かれ、走り出そうとし、

 

 

  不意に、 悪寒を、 感じた。

 

気配の元は赤いアブダクター。そこから感じられるのは「見つけた」という意志。

それがなぜ自分が対象とわかるのか、そもそもなぜ相手の意志を感じるのかわからない。

わかる必要もない。赤子が世界の法則を自然に学ぶように、あまりにも明白なモノを理解するのに理屈などいらない。

ただ、意志を感じる。

 

───見つけた。

───逃がさない。

───捕まえる。

 

それはこちらの事など欠片も斟酌しない、傲慢な意志による不可視の暴力。故にミコノ・スズシロは発生源たるアブダクターから逃げるどころか、目をそらすことすらできない。

 

「逃げろ……ミコノォォォォォォ!!」

 

最初に来たアクエリアから兄の声が聞こえる。アブダクターは無造作にビームを放つ。光線はアクエリア2機を飲み込み、合体を解除させる。

 

 

「くそっ!!なぜミコノがここにいる!?」

 

カイエンは舌打ちする。妹を助けたいが、ベクターイクスの推進システムはピクリとも動かない。

 

「カイエン、聞こえるか!?」

「教官?」

「シロンパイロットのモロイの意識がない!回収する!おまえは本部を経由してシロンに搭乗、戦闘を継続しろ!!女子もイクスしか動かせない!!」

「了解しました!!」

 

転送されながらカイエンは思う、まだ終われない。妹を危険にさらせない。

 

 

アブダクターの腕がミコノに迫る。彼女はそれでも動けない。彼女を襲う重圧はもはや実体以上に彼女を押さえつける。

 

「飛ぶ!!掴まれ!!」

 

アマタがミコノを抱え、翼を使って急上昇。それを追い、アブダクターの手が迫る。

ギリギリまで引きつけて、回避。アマタの顔色は悪い。彼も先ほどからのプレッシャーを感じているのだ。

それでも、アマタは止まらない。迫る腕を避け、その上を走り、アブダクターの顔面を飛び越える。

それを巨大な腕が追う。

 

(ダメッ……!!)

 

ミコノは理解する、逃げ切れないと。

アマタは吼える、まだ終わってないと。

そんな二人は。

何の予兆もなく。何の伏線もなく。そうなることが運命だったかのように。

赤と白の航空機、ベクターゼドが二人を取り込んだ。

 

 

 

「ここは……」

 

アマタは現状を把握しようとする。彼ら二人がいるのは全面立体視スクリーンに包まれた球状コックピットに浮かぶシートの上。そこにアマタは座っており、ミコノはその膝の上にいた。

 

(確かアブダクターの腕に捕まりそうになったら、ベクターマシン一機とぶつかりそうになって……ここってベクターマシンの中か!?)

 

想像を超えた事態に一瞬思考が空白になる。その時。

 

ガシィィィィィィィ!!

 

アブダクターがベクターゼドを抱える。マシンごと回収するつもりだ。

 

「うおっ!!」

 

操縦桿を掴む。このまま何もしなければお終いだ。

 

 

      不意に、アマタの脳裏に声が響く。

 

      《偽りの名を越え、叫べ。真実の名を》

      《そこから始まる。真実の神話が》

      《さぁ、物語の門を開けよ》

      《運命は、きみを待っているのだから》

 

 それは重々しい、力に満ちあふれた声。その声はアマタを────

 

「黙れよ……」

 

 これ以上なく苛立たせる(・・・・・・・・・・・)

 

「アマタ君……?」

 

ミコノが怪訝な顔をする。アマタの脳裏にフラッシュバックが浮かぶ。

 

彼の脳裏に浮かぶのは、ある女。その女は彼を■ ■ として『作り』、そして……

 

「クソッ!!」

 

フラッシュバックを振り払う。何とか押さえつけたものの、今度は彼自身の内からナニかがわき上がる。それは一切の邪気を感じない、神々しいモノ。それは名の形を持って彼を導こうとし、

 

「ナメるなぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!」

 

アマタは自らの心の内で胎動する名を、無理矢理ねじ伏せる。

 

「神話なんて知らない、運命なんて知らない!!ああ呼んでやるさ、さっきからアタマに浮かぶこの名をな!!そうしなけりゃ負けるんだろう!?だがな、俺は運命になんて縋らない!!自分の意志で叫ばしてもらう!!」

 

 浮かび上がる名を、自らを導こうとする名を、掴む。暴発しそうに暴れ回るそれを、自らの意志で掌握する。そして叫ぶ。紛れもない、自らの意志で。

 

「…………創聖、合体、………………ッGO!………アクエリオーーーーーーーーーン!!」

 

 

そして、眩い光が戦場を席巻した。

 

ベクターゼドを中心としたその光は実体のある力としてアブダクターを押しのける。それだけに留まらない。

カイエンが駆るベクターシロンとゼシカが駆るベクターイクス、二機を取り込む。

 

「何だ、この合体は!?」

「いやっ……ダメ!これなに!?」

 

世界が広がる。感覚が繋がる。境界が曖昧になり、自分と他人が繋がっていくと感じられる。

 

「アクエリオンだと!?馬鹿な!!その名を何故!?」

「まだだ、グイゼ・ストーンがある限り、男女機合体は為されない!!」

 

司令室からのそんな声も、ノイズとしてしか感じられない。

 

無色の光が彼らを引き離そうとする。だがそれはあまりにも弱々しい。

 

「今までの常識が、世界が!!」

「バラバラになって、弾けて!!」

「再構成される……!!」

「壊れて、生まれる!!」

 

妨害していた光が消し飛び、3機のベクターが合体する。ベクターゼドは上半身、イクスは下半身、シロンはバックパックをそれぞれ構成し、赤い巨人が顕現する。

細身でマッシブなどこか武術家を想起させる身体を持ち、天輪のような翼を背負うその姿はオリジナルである神話型を彷彿とさせる。

その形態は近接特化型。アクチュエーターもエネルギー装甲もただひたすらに近接戦闘のみに特化している。

 

その形態の名は、

 

「アクエリオン……EVOL!!」

 

天使が真の名を取り戻し、地に降り立った。

 

 

 

───────────────

次回予告by ミコノ・スズシロ

《その日出会った男の子は》

《ぶっきらぼうで、謎めいていたけど》

《とても力強く羽ばたく翼を持っていました》

《その翼は、私を……》

《次回、創世のアクエリオンEVOL、『幕開けの合体』》

 

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