創世のアクエリオンEVOL   作:JJ

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第三話 「聖天使学園」②

夜──

全ての実験、検査を終え、解放されたアマタは宛がわれた一人部屋に戻らず、校庭をうろついていた。

今着用しているのは検査服。私服は洗濯され、部屋に送られている。ネオ・ランディアに置いてある私物も順次送られてくる予定である。

 

「……ズボンのサイズが合わない」

 

緩いズボンがずり落ちないように気をつけながら、自らの状態を把握し、ため息をつく。

アクエリオンへの搭乗と実験の疲労は未だ完全に抜けきっておらず、アマタの身体に水底で歩いているような重さを与えていた。精神も、幾分か靄がかかっている。

だが、こうして歩いているだけでアマタは異常と言えるだろう。

性能が低い分、負担も軽かったアクエリアでさえ、初搭乗のエレメントほとんどを丸一日ほど動けなくしたのだから(カイエン、ゼシカの両名はアクエリアの搭乗で身体がなれており、またヘッドではなかったために負担は軽減されている。ミコノは搭乗していたが操縦していないため、遊園地のアトラクション程度の負担しかかかってない。)。

その疲労は一晩眠れば回復する程度のモノで、故にアマタは迅速な回復を求めていた。

 

(……何が起きるかわからない以上、疲労がたまったままで無防備でいるのは避けたいからな。ラッキーなことに……)

 

アマタは周囲を──より正確に言うならばこの島に満ちるオーラを確認する。

慣れ親しんだ作業が教えてくれる事実は、

 

(……やっぱり、この島のオーラは質も量も高い。まあ、あのアクエリオンはオーラを利用している以上、その基地もオーラについて最高の環境を用意しているのは当然だけど……それだけじゃないか)

 

常人には感じられないだろうが、この島は結界に覆われている。それにより巨大港湾都市であるネオ・クーロン沖にある島にもかかわらず、学園やベクターマシンの存在を隠蔽できるのだ。古代遺跡の技術であるそれを常に発動するためにオーラを利用しているのだろうが、

 

(どんなに恵まれていたって、それだけじゃ足りないだろう。オーラを吸い尽くすのがオチだ。そうなっていない以上、どっかの地脈やらを強引にねじ曲げてこの島に向かわせたのか)

 

理屈は不明だが、こうしてオーラが安定している場所はありがたい。

アマタが行おうとしているのは瞑想の一種。自らのオーラを外部のより安定したそれと同調させ、整調することで疲労回復と自己治癒能力の活性化を図る。

無論、外部のオーラが乱れていれば逆効果であり──つまりはこの島で行われるそれは最高の効果が期待できる。……ある一点をのぞいて。

どうせなら、より優れた環境で瞑想したいと考え、アマタは島の端にある林──より自然に囲まれた方がオーラは安定する──に向かっているのである。

 

「それにしても……」

 

アマタの視線の先にあるのはこの島を中央でバッサリと断絶する巨大な壁──ベルリン。高さはビルほど。それが備えているのは有刺鉄線やサーチライトのみではない。おそらくは壁に埋め込まれている呪的防御によって、男性が持つ陽の気と女性が持つ陰の気が混ざるのすら防いでいるのだ。結果、こちら側は陽の気が陰の気に比べ割合が極端に大きく、あちら側はおそらく逆のバランスが悪い状態になっている。

 

「あれさえなければ完璧なんだが……」

 

陰陽併せて完全となる──古い思想であるが、この世の真理をこれ以上なく的確に表している。力を高めるのみならず、自らの欠けている部分を何らかの形で自分以外で補うことでそれ以上の領域に至るという考え方。アクエリオンが男女機合体により真の力を解放したことからも、その重要性は明白だ。

あの壁さえなければ、瞑想の時間はより短縮できただろう。

 

「贅沢言ったって仕方ないか」

 

呟き、和服を着ている用務員の側を通り過ぎる。

その時。

 

「……?」

 

ふと視線をベルリンに戻す。

ベルリンの手前に、なぜか土が積まれている。まるでその場所の近くに深い穴を掘ったかのように。

いや、まるで、ではない。

 

「なんだこの穴……?」

 

近寄ってみれば土山の横の地面に穴が掘ってある。深く、ここからではそこの様子があまりわからない。

……否。

 

(人の気配……エレメント能力者)

 

この穴には、エレメント能力者が能力を使った際に発生するオーラの残り香というべきものがこべりついていた。それもついたばかりの。

 

「この穴の中か」

 

少し考え、自らの能力を発動。勢いを調整しながら穴の底に着地。

 

(……ネオ・ディーバのエレメント、じっくり観察するいい機会だ)

 

アマタは底から伸びている横穴の奥に向けて声をかける。

 

「今晩は。いい夜だ」

 

その声に反応し、ランタンの明かりと共に、長身の、帽子をかぶった少年が向かってくる。

 

「おまえ……噂の新入生?」

「噂になってるかどうかは知らないが、明日からここに通うことになる、アマタ・ソラだ。よろしく頼む」

「やっぱり。噂になってるぜ、『天才エレメント』。機械天使の封印を解いたばかりか、初戦闘であんなすげえ動きをするなんてな。……それで、どうだった?」

「何?」

「とぼけんなよ、女子と合体した感想だ。やっぱ、気持ちよかったのか!?」

「……別に。男女機合体は禁じられてたとは聞いてるが、俺は基準となる男だけの合体をしたことないからわからない」

「そうか。あっと、自己紹介がまだだった。俺はアンディ・W・ホール。一軍クラスのレギュラーだから、おまえのクラスメートって事になる。よろしくな」

 

アンディは人なつっこい笑みを浮かべる。

アマタは問いかける。

 

「この穴は、おまえが?」

「ああ、見るか?」

「是非」

 

アンディは土壁に手を当て、指先で表面をなぞる。それと同時、全身が発光。そして、

 

「ここだ」

 

呟きと共に、手が土の中にめり込む。さほど力を入れているようには見えないが、取り出された掌は一抱えもある土塊をえぐり出していた。

アマタは能力を推察する。

 

「……物質の脆い場所を見極め、削り取る。それがおまえの能力か」

「おうよ、『穴掘り力』と呼んでくれ」

 

アンディが自慢げに告げる。

 

「『どうやって』はわかったが、『どうして』も聞いていいか?」

 

アマタが再び問いかける。横穴は一方向に伸びており、どこかを目指す意図が感じられた。

 

「ふっふっふ……これはなあ、黄金郷に至る穴だ!!」

「はあ?」

 

あっけにとられたアマタの前で、アンディは芝居がかった口調で演説する。

 

「せっかく聖天使学園に来たのに、いっぺんの光もありゃしない!いわば俺たちは檻につながれた虜囚!戦いの合間に癒しを求めてシャングリラを目指すことが悪だろうか、いやそんなことはない!!」

 

(……外につながる穴か)

 

あらかじめボートか何かを隠しておき、皆が寝静まった頃合いにそれを使って島から出る。無論、ボートに乗る際に正規のルートは使えないし、あらかじめ抜け穴を作っておくのは少々目立つ。だが、抜け穴を掘りながら進むこの方法なら事前のリスクはボートが見つかる可能性がある程度で、それだって少し工夫すれば何とかできる。

 

「……なるほど。手伝おうか?」

「え?わかるのか!俺の穴にかける熱い思いが!!」

 

(……実際にうまくいくかは別として、外に出るルートはあっても困らないからな)

 

「よし!!俺たちはたった今から穴掘り兄弟だ!!」

「あーはいはい、さっさとほろうや。二人なら早くすむ」

 

感激したアンディを適当にあしらいながら、手伝う。

 

(ま、この程度ならそう疲れないだろうし、問題ないか)

 

 

 

 

 

一方、女子棟にて──

 

「やっほ、ミコノ。なにしてんの?」

「ゼシカさん……」

 

校舎を出てベルリンを眺めていたミコノに、ゼシカが声をかける。

 

「眠れなくて……ゼシカさんこそ、なにを?」

「私は散歩。まあ、授業終わった後疲れて昼寝しちゃって、眠れないの」

「散歩ですか…?」

 

ミコノはゼシカの服装を見る。昼間と同じ、露出の多い服装。

 

「寒くないんですか?」

「いんや、別に。ってか敬語はいいよ。それで……」

 

ゼシカの目が細まる。

 

「壁の向こうの愛しい彼氏に会いたいとか考えてたのかな?」

「ちっ、違います!!だいたい、彼氏じゃないし」

 

頬が熱くなるのを感じながら、あわてて否定する。

 

「ただ、考えてただけ……アマタ君は、どうして強いのかって」

「……その強さってのは、力や技のこと?」

「ううん」

 

首を横に振る。

確かに戦いにおけるアマタの強さは、素人であるミコノですら理解するほどに隔絶している。

だがミコノが感じている力は、それらを支える芯そのものだ。

 

「アマタくんはアブダクターにも、予知にも、一切ひるまなかった。私にだってわかる。どっちも常識とか節度とか、そういうのを軽々と飛び越える『災厄』だって事ぐらい。……なのに、何故」

 

人は自らの『世界』を壊す存在を恐怖する。軍人が敵に対しても冷静なのは、恐怖を押さえる術を会得しているからであり、また敵がいる状態を自らの正常な世界と定義しているからである。

だが、彼女らが遭遇した脅威は違う。あれは論理を踏みにじり、常識をあざ笑う文字通りの怪物。 覚悟を決めようが何をしようがそれ自体を壊し、何も残さない。

ならば何故、アマタは対抗し得たのか。

 

「うーんとさ、私はアイツのこと、ミコノ以上に知らないんだけど」

 

ゼシカが口を開く。

彼女の口調は、言葉を選んでいると言うよりも、自分でもあやふやなものを、自分の言葉で定義しようとしているようなものだ。

 

「……たぶん、一生懸命なんだと思う」

「?」

「だからさ、あきらめたくないんでしょ。どんな理不尽にあっても、そこで折れない。選択以前に、手をひたすらに伸ばす。……ミコノにあそこまで真摯に問いかけたのも、見捨てたくなかったからでしょ」

 

それは二人の会話を最も近い第三者視点で聞いた彼女だからこそ、感じられたのかもしれない。

 

「……そうか、アマタ君は泣き叫ぶだけの子供じゃなくて、理不尽に対抗することを選択できる、大人だったんだ」

「……私はむしろ、泣きじゃくっているように見えるんだけどな」

「え?」

「大人の判断はさ、全てを飲み込んで、その上で選択するじゃん?理不尽も恐怖も、飲み干した上で前進を選択する。

彼はむしろ、悲しすぎて泣いて泣いて泣いて、それでも悲しいから諦めることができなくて手を伸ばすしかない。そんな感じがする。

べっつにそれが悪いって訳じゃないけど、さ……、第一、いま私が言ったことが的外れだって可能性もあるわけだし」

 

ゼシカが苦笑する。

 

「やっぱり、アマタ君のことが気になるの?」

 

ミコノは問いかける。

 

「そりゃここにいる全ての人間が彼に注目してるわよ。なにせ素人が機械天使の封印を解いた上で、その性能を生かし切ったんだから。私たちエレメントだけじゃない、ネオ・ディーバ上層部も騒がしくなってるみたいだし」

「……私は、あなた個人について聞いたつもりだけど?」

 

一瞬、二人の間の空気が停まる。

その後、

 

「何、嫉妬?」

 

ゼシカが曖昧な表情を作り、ミコノから目を背け、

 

「何だろうね」

 

ミコノも同じ方向を向く。

彼女らの視線の先には、校庭を越え、威容を誇るベルリンがあり──

 

「「え?」」

 

ベルリンの手前の地面が小さく盛り上がったかと思うと、そこから二人の男性が出現した。

 

 

まず感じたのは目眩に似た感覚。やはりこちらは陰のオーラの割合が極端に多く、陽のオーラに慣れていた二人のオーラのバランスを狂わせたのだ。

 

「クッ!!」

 

アマタは堪えながらも気づかれないようにアンディに触れ、彼のオーラを整える。

 

「おおっ!!」

 

目眩から回復したアンディが穴から飛び出る。

 

「ヒャッホウ、来たぜパラダイス!!あんがとよ、兄弟!!」

「あー、はいはい」

 

アマタは穴から上半身のみを出し、穴から飛び出てテンションあがりっぱなしのアンディを半ば無視しながら周囲を見る。

 

──グラウンド

──尞

──校舎

──ベルリン

 

(……ん?)

 

違和感。改めて周囲を見渡す。

 

──グラウンド

──尞

──校舎

──ベルリン

 

……どう見ても女子棟の敷地です。本当にありがとうございました。

 

「おーい、アンディ」

「なんだ?」

「テンションあがりっぱなしのところ悪いけど、まだ檻から出てないから。それともこっち側から外に出るルートがあるのか?」

「何で外に出なきゃいけないんだよ?」

 

思いがけないことを言われたというアンディの顔を見、アマタの脳裏にある予感が浮かぶが、それを打ち消す。

 

(……落ち着け、アマタ・ソラ。わざわざ女子に会うためにトンネルを掘るやつなんていない、そのはずだ、うん)

 

「アンディ、おまえは檻の中から黄金郷だかシャングリラだかを目指してたんだよな?」

「ああ!女子と合体できると思ってこの学園に来たのにまさかの男女別!!男ばかりで息が詰まってたんだよ!」

「ええと、なに、女子と接触したくて掘ったのか?」

「あったぼうよ!ってかそれ以外の何してると思ってたんだ?」

 

アマタは答えない(正確には答える気力もない)。

 

「……帰る」

 

アマタが穴から首を引っ込めようとした瞬間、

 

「アマタ君、何してるの?」

 

二人の少女が駆け寄ってきた。

 

「ミコノ・スズシロに、ゼシカ・ウォンか。……よかったな、アンディ。早速接触……なにやってんだ?」

 

アンディは二人から身を隠すように生け垣に身を潜める。

 

「もし女子と接触したのがばれたらやばいんだよ!」

「……いや、もう遅いだろ。ってかここに何しに来たの」

小声で会話する二人に向け、ゼシカが声をかける。

 

「……まあ、あがってきたら、アマタ。ついでにそっちの、えっと、アンディも一緒に」

「俺はついでかよ」

 

アンディが愚痴りながらも姿を見せる一方、アマタは動かない。

 

「いや、俺は戻る」

「ちょっとー、つきあい悪いわよー」

「あの、アマタ君、少しぐらいお話……」

「せっかく女子とお近づきになれる機会なんだぜ」

 

三人から誘われるのを無視し、アマタが頭を引っ込めようとした瞬間、

 

「この音色……」

 

校庭に響くのはピアノの音色。聞く者を安らかな気持ちにする神秘的な調べ。

その音色に誘われるかのようにアマタは身体を出し──

 

「オイ、馬鹿──!!」

 

アンディの怒鳴り声と同時、アマタの全身が露わとなる。

すなわち、ブカブカの動きにくいズボンを脱ぎ(・・・・・・・・・・・・・・・・)パンツ一丁になった下半身を(・・・・・・・・・・・・・)

 

「キャ!!」

「なんて格好してんのよ!!」

 

羞恥心からミコノは悲鳴を上げ、ゼシカは拳を振り上げる。

 

 

この時ゼシカにとって不幸だった点は二つ。

一つはアマタの精神的な疲労が彼自身の感じていたよりもほんの少しだけ深刻で、冷静さや自制心がうまく働かなかったこと。

もう一つは彼女自身が優れた格闘スキルを備えており、羞恥心から半ば無意識に行動した打撃であっても、確実にダメージを与えられる技の冴えがあったこと。

 

その二つの要因が合わさったことにより、アマタはこの打撃を無意識に脅威と判断してしまい──

 

(……え?)

 

その瞬間、ゼシカは自分が何を感じているのかわからなかった。理解しているのは自分の意識が何故か周囲の状況をスローモーションで捉えるほどに高速化し、拳がアマタに向かい──

 

(……殺される!!)

 

続いて感じたのは殺気と恐怖。目の前にいる少年は自らの打撃に反応し、確実に自分を殺そうとしている。

そして最後に理解したのは、自分では彼に抵抗すらできないという、絶望的な事実だった。

 

(やばい!!やばい!!やばい!!やばい!!やばい!!)

 

自らが放ったこの打撃こそが彼の戦闘、否殺戮のスイッチ。それを理解したゼシカが必死に拳を戻し、自らが押したスイッチを強引に中断しようとするも、拳は止まらず、アマタに向かい─

 

軽い音と共に、そうなることが決められているかのように置いてあった左腕に弾かれる。

 

(し、ぬ)

 

アマタの右拳が放たれる。それは人類最古にして究極の武器。彼の放つそれは小手先の技程度ではなく、踏み込み、タイミング、軌道、その他全てが究極。故にゼシカには防御や回避どころか、目をつむるという最低限の抵抗する暇すら与えられない。

鉄槌にも等しい打撃がゼシカの身体を貫こうとし───

 

「……ッ!!」

 

その寸前で停止。それは外部からの干渉によるものではない。

妨害しようとする者は一瞬で排除されるだろうし、そもそもミコノ、アンディ両名共に何が起きているか理解してない。

ただ単に、アマタが冷静さを取り戻し、強引に自らが放った打撃を止めただけである。

 

(生きて、る?)

 

ゼシカは自らが生きていることを感じ、ヘナヘナと崩れ落ちる。

そんな彼女を見て、アマタの表情がゆがみ、なにかを言おうとし、

 

警報音が響き渡ると同時、サーチライトがアマタたちを照らす。

 

「!!」

 

アマタは反射的に穴に潜り、一瞬遅れてアンディもそれを追う。

 

「待っ……」

 

ゼシカが叫ぶも、そこに彼らはいない。

トンネルに潜れば追えるだろうが、足が動かない。先ほどの恐怖が刻まれているのだ。

そこまで考えて、疑問する。

 

(……私、何で)

 

今自分を殺そうとした少年を引き留めようしたのか。

あの少年は正直に言って怖いけれど、殺されそうになったとき感じたのはそれだけじゃないのも確かで、

 

(寂しい?いや、違うのかな?)

 

少女は追うこともできず、自分が何を思ったのもわからず、ただ立ちすくむ。

 

 

 

 

そして、穴の中では、

 

「くうーっ、災難だったぜ。ってかおい、さすがに女子にパンツ姿見せるのはやばいだろ」

「……なるほど、確かに。それも悪かったか」

 

アマタは呟くと同時、身体を反転させる。

 

「どこに行くんだよ」

 

アンディが踵を返したアマタに声をかける。

 

「……戻る」

「おいおい、よせって。見つかるのがオチだぜ。だいたい、あいつらも寮に戻ってるだろうし」

 

アマタはほんの僅か立ち止まった後、荒々しい足取りで男子棟に戻る。

 

「……何か、怒ってる?」

 

「別に」

 

アマタが口を開く。それは聞かせることを意図した言葉ではなく、自分の中にあるモノを表に出す、それだけの言葉。

 

「ただ、改めて嫌いになっただけだ。無様な自分がな」

 

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