次の日の朝、女子棟にて───
「ゼシカ、おはよう。捜してたの」
廊下を歩いていたミコノがゼシカに声をかける。
「あ、おはよ。どったの?」
「今日午後の連絡便で帰る事になったから、挨拶したくて」
「……そう」
ゼシカはミコノの顔を見る。そこにはほんの僅かな寂寥と眠気が浮かんでいたが、初めて見たときの暗さは感じられなかった。
「だったら運がいいかも。今日は模擬戦観覧の日だから、いい思い出になると思う」
教室に向かいながら雑談する。
「なんか眠そうだけど、どうしたの?」
「朝からいろいろな機密保持に関しての書類とかにサインしてたの。……まあ、それ以前に夜あんなの見たから恥ずかしくて眠れなかったし」
「……ああ、」
ゼシカは、昨夜のことを考える。
昨夜は何故、恐怖の対象となったアマタを追いたいと思ったのか。
(……ああ、もう!!訳わかんない)
どちらにせよ、自分は追えなかった。もし怯えずに追ってたら理由がわかったかもしれないが、もう遅い。
「まったく、女の子に対するデリカシーがないよねって……ゼシカ、どうしたの?」
「……何でもない」
「いや、歩いてる最中にいきなり頭を抱えた状態は普通じゃないでしょ」
模擬戦観覧において選ばれる三人のエレメントは操縦テクニックはもちろん、能力の練度、個々の相性等、様々な基準から選出される。
いずれにせよ、これに選ばれるのは一軍の中でもとびきりのエリートのみであり、彼、もしくは彼女らこそが実際にアブダクターに対抗しうるエレメントなのである。
今回選ばれたのは、
『アンディ・W・ホール、カイエン・スズシロ、……』
カイエンの名が読み上げられた瞬間、女子に黄色い声が上がる。
「やっぱり、今回もカイエン様よ!!」
「ヘッドじゃないって事は、ひょっとして、シュレード様が!?」
「おねがい、シュレード様を……!!」
「……何アレ」
「まあ、あまり気にしなくていいよ」
選ばれたのはカイエンだけではなく、アンディもであるが、どうやら意識の外に放られているらしい。
ミコノはアンディに同情しながら、最後に選ばれた男子の名を聞く。
『そして、ヘッドはアマタ・ソラ!』
名が呼ばれた瞬間、モニターにコックピットに乗り込んだ三人の姿が映る。
中央のアマタは興奮も緊張も見られない、ちょっとした用事に赴こうとするかのような無表情だ。
この学園に来てすぐに模擬戦観覧に選ばれることがどれだけ名誉で、そしてどれだけ異常であるか、意識してないのは明らかである。
姿が映された瞬間、女子の反応は大きく三つに分かれた。
一つはシュレードではなかったことに落胆する一団。
もう一つはアマタの整った顔立ちに黄色い歓声を上げる集団。
もしくは異端であるアマタを観察し、あわよくば技術を盗もうとする集団だ。
そのほかにもMIXのように軽蔑の視線を崩さない者もいたり、横のゼシカは僅かにふるえた後形容しがたい表情を浮かべたが、大半はその三種類に分けられる。
そしてミコノ自身はというと、
「アマタ君……」
想い人であり、自分に誇りを見つけさせてくれた存在をしっかりと見据える。いつか、彼に恥じない自分になるために。
当然のことながら、アマタ・ソラに戦闘機を操るスキルなどはない。
彼は飛翔という事象を自身の能力とし、それを可能とするだけの動体視力や反射神経を持つが、それは自分の身一つでの場合。
彼の戦闘における生来のセンスと努力の結晶たる技術は並外れたという表現ではとてもあらわせないものであるが、さすがに戦闘機はセンスのみで動かせるわけもなく、それを操縦するための訓練も受けていない。
故に、現状は檻に閉じこめられたまま放り出されたのに等しいが、
(この感覚……
アクエリオンに搭乗しているときに感じた一体化を極限まで薄めたような感覚、それによりアマタはベクターマシンの操縦方法を直感的に理解していた。
無論、人型ではない上に、感覚が薄い以上、アクエリオンのように自分の身体の延長として動かすことはできないが、
(見える!)
アブダクターが放つビームを、アマタが駆るベクターイクスがぎりぎりのところで躱す。それは紙一重というのもおこがましい、見る者全てが運がいいだけと断じるような回避。だがそれを先ほどから十数回も繰り返しているのはいかなる不条理か。
───否。それは不条理でも何でもない。自分の見切りにより攻撃を躱しながら敵データのパターンを解析している、それだけのこと。
よって、続く展開も必然である。
「……」
ベクターイクスの軌道が変わる。それは戦場を駆ける流星。その光はアブダクターの合間を舞う。当然、集中砲火を食らうがそれら全てを躱す───程度にはとどまらない。
躱されたビームが互いの銃口を、カメラを、脚部間接を撃ち抜く。それは本来、高度な火器管制システムを備えたアブダクターを再現したシュミレーターにあり得ない事象。偶然に起こりうるはずもなく、そもそも
「嘘だろ……」
アンディが驚愕するようにその事象が何回も繰り返されるなど、偶然ではあり得ない。
故にこれはただの必然。アマタ・ソラが自身の持つ現状における
だが
「……やっぱ、効率が悪いか」
アマタが感じるのは歯がゆさ。
自分は一発も発砲せず、アブダクターを一カ所に集めて動作を阻害しほぼ半数を動作不良に追い込んでも彼は満足しない。
如何にうまく立ち回ったとはいえ、この状態では自分のやり方が生かせないのは事実。
故に
「アンディ・W・ホール、カイエン・スズシロ、合体するぞ!」
「……お、おう!!おまえばっかに女子にいいかっこさせるかよ!!」
「……なに?」
上空にいたアンディが口走った言葉に、アマタの片眉があがる。
「女子も見てるのか?」
「おうよ、かっこいい俺の雄姿を見せつけてやる!!」
「何ぺちゃくちゃ喋ってる!!さっさと合体するぞ!!」
しびれを切らしたカイエンが怒鳴る。
「……了解」
急上昇したイクスを、ゼドとシロンが追い、トライアングルフォーメーションを完成。合体シークエンスに移行。
「誠心合体、GO!!アクエリオーーーーン!!」
創造されるはかつてアクエリアと呼ばれていた形態。だが本来の名を取り戻したことにより、その形態独自の特色も取り戻す。
出力の大部分を質量装甲に回し、高度な火器管制システムにより様々な状況に対応できるその形態の名を,切り離されたガンポッドを
「アクエリオン、ゲ「何をやってる、さっさと拾え!!」」
アマタの叫びをかき消し、カイエンが怒鳴る。
この形態の主武装たるガンポッドは地面に墜落しているが
「必要ない。飛翔しろ、ゲパルト!!」
アマタが再び形態の名を叫ぶと同時、機体が急上昇。それはゲパルト本来の飛行能力どころか、ベクターマシンすら比較にならぬアマタ本来の飛翔。
それと同時、彼の口から詩が漏れる。
「今此所に、我が意志を宣言する!!
我が意志は滾り、我が想いは溢れだす。
されど意志も想いも世界に届かない。
故に我は行動によって意志を実現し、言葉をもって想いを証明す!
地に落ちる流星のごとく、天地に響け、世界を揺るがせ、我が心!!
我が望みし者に届くように!!」
シミュレーターに設定された限界高度まで到着するやいなや、機体を反転。
飛翔そのままの勢いに重力加速をプラスしながらも、アマタは機体を巧みに操り、アブダクターの集団に向かう。
「必殺、
地面に激突と同時、落下の最中に練り上げたオーラを放出。結果、ゲパルトを中心に莫大なエネルギーの奔流が発生し、アブダクター全てを巻き込み、止まらない。
ブツッという音と共に画面がノイズだけになる。
凄まじい衝撃に、シミュレーター自体が落ちたのだ。
数秒後、画面に光が戻り、
「「「「「………………………え?」」」」」
画面では、アブダクター全機の残骸の中心で、
「昨夜の件……申し訳ない!!」
ゲパルトは正座し、両手を前につけ、頭を下げ───すなわち土下座の体勢をとっていた。
─流星平身低頭槌─
──SHOOTING STAR DOGEZA orz ──
この瞬間、聖天使学園の全てが停止した。
「アブダクター全機撃墜。よって、模擬戦を終了します」
司令室からのアナウンスが虚しく響き、画面がブラックアウト。
一瞬後、教室が喧噪に包まれる。
その中で。
「……アマタ君、何してるの……?」
ミコノは想い人の奇行に唖然としながらも、
「……男の子、か。けっこうおもしろいとこあるじゃん」
ゼシカは昨夜からの悩みに答えが出せないながらも、
どちらも、彼を嫌えない自分に苦笑し、互いに顔を見合わせる。
「「やっぱり、アマタ(君)も人間だね」」
二人の少女は思う。アマタ・ソラは確かに自分たちとは違う力を持っているが、あたりまえの人間であると。
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次回予告byカイエン
《その拳は神話からやってきた》
《境界を飛び越えて》
《世界の壁を破り》
《何処までも伸びてゆく》
《次回、創世のアクエリオンEVOL、『無限なる拳』》