創世のアクエリオンEVOL   作:JJ

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第四話 「無限なる拳」①

模擬戦の後、やりにくいデブリーフィングを終え、昼休み。

アマタはアンディと共にベルリンのそばにいた。

一人でぶらついてたアマタをアンディが誘い、断る理由のないアマタはそれに応じたのだ。

 

 

「お、俺の穴が……」

「カチコチだな」

 

二人が観察しているのは昨夜彼らが掘った穴があった場所。

そこにあったはずの穴はコンクリートを思わせる物質で完全にふさがれていた。

アマタはかがんで軽くたたく。

 

「入口だけを塞いだ訳じゃない。穴の内部まで完全に埋められている。残り香もかすかにあるし、エレメント能力で埋められたんだな」

「ああ、俺にもわかるぜ。どんな女子なんだろうな」

「……別に女子と決まった訳じゃないが」

「感じるぜ!!かたくななのに誰かに貫通されるのを待っている、かわいいナイスバディな女の子!!待ってろ、俺が貫通してやる!!」

(……戦闘の緊張による反動で、誇大妄想にでもなってるのか?昨夜の件といい、一応、ここの教官とかに報告するべきか)

「……アマタ、可哀想な人を見る目をやめろ。いったい、俺をどういう風に見てた?」

「てっきり戦闘のショックで正気を失ったのかと」

「俺は正気だ!!」

「ただ女子と接触するためにわざわざ穴掘ったり、男女定かでもない人物を自分の理想の異性だと思いこんでる人間に、正気は語られたくないぞ」

「模擬戦中に土下座かました人間にも正気は語られたくねえ!!」

 

近くには彼ら以外にも多くの生徒がいるが、二人に声をかける者はいない。

いろいろな意味でどのように接すればいいかわからないのだ。

 

と、そこに昨夜と同じピアノの音色が響く。

その美しい調べに、アンディのみならず周囲の生徒までもが動きを止め、聞き惚れる。

 

「この音色は?」

「ああ、アマタは知らないか。シュレードだよ」

 

アンディが校舎のそばの塔を指さす。

 

「シュレード・エラン。エレメントの特待生。身体が弱くて、実戦どころか普通の訓練にもあまり出ていないけど、実力はトップクラスだぜ。あそこの特別室に住んでるんだ」

「へえ」

 

アマタは一直線に塔に向かって歩き出す。

 

「おい、どこに行くんだよ」

「……」

 

アンディもあとを追い、用務員のそばを通り過ぎて塔にはいる。

 

 

 

 

塔の最上階にある特別室は広いだけでなく、調度品も一級で、上流階級の人間がくつろぐサロンを思い起こさせる。

そんな部屋に設置されたグランドピアノを演奏していたシュレード・エランは、一級品であるはずの調度品を引き立て役にするほどに美しい人間であった。

長身に、きめ細かい肌。繊細な輝きを放つ金髪は少し襟首にかかるほどの長さ。

華奢な身体を包むワイシャツやかけている細い眼鏡すらも彼が纏えば一つの芸術品のよう。

だが、凛とした顔立ちは彼に男性としての力強さを、繊細さを崩さない絶妙のバランスで与えていた。

そして、何よりもアマタが感じたのは……

 

「邪魔するぜ、シュレード。体調は大丈夫か?」

 

アンディが声をかける。

 

「ああ、平気さ。そこの君は……」

「おまえの耳にもはいってるだろ?噂の転入生だ」

 

アマタは一歩前に出て、口を開く。

 

「アマタ・ソラ。それで、何のようだ(・・・・・)?」

 

それは奇妙な問いであった。接触をとろうとしたのは彼からであるのに。

一方、シュレードは涼しい顔で、

 

「気づいてたんだね。たいした理由じゃないよ。ただ変わった音色の人が来たから、少し会いたかったんだ。……迷惑だったかな?」

「いや」

 

アマタは首を横に振る。

 

「こっちも少し驚いてる。まさかこんなところで、馴染み深い匂いを体中にまとわりつかせてる奴がいたなんてな」

 

その一瞬。確かにアンディの呼吸が止まった。

 

(……ッ!!)

 

口調が変わったわけではない。何かしら構えたわけでもない。

ただ、アマタが無意識に殺気がほんの僅かに流れ出した、それだけのこと。

その微量の殺気は、アンディを停めるのに十分であり、また、

 

「そう怖い顔しないでくれるかな。この場所は俺も気に入ってるんだ」

 

それに冷静さを失わないシュレードも異常であることを証明していた。

 

「……そうか」

 

言外に含まれた意味を察したアマタは踵を返し、部屋から出ようとしたところで、

 

「ここかァァァァァァッ!!」

 

ドアを蹴破らんばかりの勢いで侵入してきたのはカイエン・スズシロ。

凄まじい迫力のカイエンを見ても、アマタとシュレードに変化はない。

シュレードは穏やかな声で声をかける。

 

「やあ、親友。どうしたんだい?」

「誰が親友だ!!それに、用があるのは……」

 

カイエンはアマタをにらみ、

 

「貴っ様ぁ!!あの模擬戦は何だ!!」

 

そのまま歩み寄り、胸ぐらをつかみあげる───

 

その寸前、アマタが半歩後ろに下がった。

それは傍目から見れば無造作に見えて、その実カイエンの重心の移動やタイミングを完全に見切った回避。

故にカイエンは勢い余ってよろめき───

 

「な……!!」

 

僅かに触れたようにしか見えないアマタの右手により、受け身もとれずに転倒した。

 

アマタは無感動に口を開く。

 

「……俺としては迅速な殲滅と謝罪を同時にできる手段を執っただけだが。まあ、冷静さを失ってたのは否定しない。謝罪しよう。すまなかった」

 

アマタはカイエンが起き上がるのを待つと、頭を下げる。

その機械的にも見える態度は、カイエンの怒りを燃え上がらせるのに十分で、

 

「ふざけてるのか……!!」

 

再び殴りかかろうとすると同時、

 

「やれやれ、罵声は苦手だよ」

 

再度、演奏が響き渡る。

シュレードが奏でる演奏は先ほどの全てを包み込むものではない。

それとは逆の、まるで飲み込むような暗い音階の旋律。闇をのぞき込むかのような恐怖を奏でる演奏だった。

 

「ぐ、がぁぁぁっぁぁぁっぁあああああーーーーーっ!!」

 

カイエンが頭を抱えて、うめき出す。彼の顔に浮かぶのは苦痛と恐怖。

 

「演奏を媒介にした精神操作、か」

 

アマタはシュレードの能力を確信する。

彼は他人の精神状態を操作できるのだ。使いようによっては、直接攻撃以上の脅威となるだろう。

そしてその力を伝える媒介となるのが自身の奏でる音楽。 空気の振動という現象が奏でるそれは、発動さえしてしまえば逃げるのは困難。先ほどの演奏も、この敷地内での異端であるアマタをターゲットにしてこの演奏に興味を持つように誘導されたのだ(実際にはアマタはその能力の支配下には入っておらず、誘う意志を読み取ってきたのだが)。

 

そして先ほども現在も多くの人間が演奏を聴いているにもかかわらず、シュレード自身が対象とした人間以外は影響を及ぼしていない。その事実は彼が完全にこの強力な能力を制御している事実をあらわしてた。

 

「やれやれ、大丈夫かい、親友?」

 

シュレードが穏やかに声をかける。カイエンを苦しめたのは自分にもかかわらず、彼を心の底から心配しているようであった。

 

「くっ!!」

 

カイエンは立ち上がりながら蹴り上げるが、再度アマタが無造作に一歩下がったことにより躱される。

 

もとより、当たるとは思ってない。距離をとることが目的である。

後退し、再度構えた彼の横に、

 

「やれやれ、仕方ないな」

 

シュレードが立ち上がり、立てかけてあったバイオリンを手に取って並ぶ。

 

「何の真似だ!シュレード!!」

「力を貸そう、親友。……少なくとも、一人じゃ勝てないよ?」

「……勝手にしろ!!」

 

聖天使学園男子のトップ2を敵に回しても、アマタの表情に変化はない。

 

「……仕方ない、か」

 

ただ、拳を握る。それだけあれば十二分。

三人の気配がぶつかる。

カイエンの纏う気配は鋼。折れず、曲がらず、ねじれず、意志を貫き通す強靱なる鋼。

シュレードの纏う気配は黄金。見る者全ての心を奪い、狂わせる、美しすぎる黄金。

アマタの纏う気配は大空。あまりにも広大であるが故に正確な大きさが判別できず、一度牙をむけば迅速に押しつぶす、大きな空。

 

そして、

 

「あれ、俺忘れられてない?」

 

部屋の片隅でつぶやくアンディをよそに、気配は高まり、そして、

 

 

 

同じ頃、女子棟にて、船着き場に向かう一人の少女がいた。

 

「~~~~~~~~♪」

 

それはミコノ・スズシロという名の少女であるが、全く陰を感じさせないその姿を見れば、かつての彼女を知る人間は驚愕するだろう。

 

「やっほ、イイ顔してんじゃん」

「……ゼシカ」

 

船着き場近くのベンチのそばで、ゼシカ・ウォンが紙袋を持ち、軽く手を振る。

 

「はい、お土産。聖天使学園購買のパン十選。どれもおいしいけど、やっぱ一番おすすめは焼きそばパンかな」

「ありがとう」

 

二人の少女は向かい合い、どちらともなく話しかける。

それは好きなテレビ番組のことであったり、ファッションのことであったり、ダイエットの失敗のことであった。

それは何のことはない、ありふれた会話。

ある少年に対し強烈な印象を持ったという点で彼女らは共感していた。

だから、その少年に関する話題も必然である。

 

「そういえば、残念だね。アマタに挨拶できないまま帰っちゃうなんて」

「いいの」

 

ミコノは一瞬だけベルリンを見、再度ゼシカに晴れやかな笑顔を向ける。

その笑顔は、同性であるゼシカすら見とれるものだった。

 

「私はアマタ君のこと、どこか自分とは違うヒーローみたいに思ってた。だから私じゃ追いつけないって」

「……今は?」

 

ゼシカは問いかけながらも、答えを確信していた。

なぜなら、ミコノが感じたであろう確信は、自分のそれと同じだろうから。

 

「あの模擬戦を見て、思ったの。アマタ君は強いけど、お茶目なところもある、あたりまえの人間だって。だから……」

 

そこに、確かな意志を込めて。

 

「私も人間として、できることをやって……そして、アマタ君に追いつきたい。いつか、胸を張って会えるように。……何ができるかはわからないけど、それでも、動かないと進めないから」

 

そう語るミコノは、ゼシカが気圧されるほどの輝きに満ちていて。

 

「がんばってね」

 

シンプルで、飾り気のない励ましを彼女に告げる。

 

「うん」

 

その返答もこれ以上なくシンプルで。

 

「……ボソッ(まあ、また会うときにはゼシカがライバルになってるかもしれないけど)」

「何か言った?」

 

ミコノの呟きはゼシカには聞こえなかったが、

 

「…じゃあ」

 

最後にお互いの手を差し出し、握手。

それは別れではなく、再会の誓い。

お互いを対等な存在として、無言でたたえ合い、

 

「それじゃ、また」

 

ミコノは紙袋を抱え、船着き場に向かい───

 

聖天使学園に、警報が響き渡る。

 

『ネオ・クーロンにアブダクター出現。総員、第一戦闘配備。出撃エレメントはカイエン・スズシロ、アンディ・W・ホール、アマタ・ソラ』

 

「これって……!!」

「ミコノはシェルターに向かって!!」

 

ゼシカは叫ぶが早いか、走り出す。

 

 

 

同じ頃、シュレードの私室。

 

「……へえ」

「なっ!」

「……来たか」

「出番だ!!」

 

四者それぞれが反応し、

 

「くそっ!!」

 

カイエンはアマタを一瞥し、

 

「いいか、はっきり言う。俺はオマエを信用してない。もし妙なまねすれば後ろから弾丸が飛んでくると思え!!」

「当然だな」

 

足音荒く退室したカイエンを、アマタとアンディが追う。

 

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