奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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ようやく、会話パートに区切りが……

さて、秋イベですが……皆さん、山城さんの砲撃ボイス勇ましくありませんか!?
演習で最上と満潮、山雲、朝雲のレベリングのついでに山城さんも強化してましたけど、不意打ち食らいましたよ。
これ、声帯の妖精的に雪風にも期待して良いですよね!?
やっぱり、藤田さんの気迫のこもったボイスは最高です。


第32話「変わらぬ決意」

「……なぜ、そう思うんだ貴様は」

 

 先輩は私が長年胸に秘めていた疑惑に対して、動揺を表に出さずにそう突き返した。

 しかし、私にはわかる。

 今の先輩は表に出していないだけで動揺していることに。

 今のは彼女は一瞬、間を置いた。

 彼女は普段から何か自分に思い当る節があると必ず間を置く。

 そして、それは偶にしか見せない彼女が動揺している証拠だ。

 彼女は私と言う人間が今のことを推測したことで動揺している。

 何よりも彼女は「世迷言」と一蹴もしなかった。

 それは私が追求したからだ。

 これが見ず知らずの赤の他人からの発言ならば彼女は動揺しなかっただろうし、歯牙にもかけなかっただろう。

 恐らく私以外で彼女が動揺するとすれば一夏君位しかいないだろう。

 

「……私が何年あなたの後輩で友人をしてきたと思っているんですか?」

 

「何……?」

 

 私は少し、彼女の言葉を受けて腹が立ってしまった。

 言っておくが、これは彼女が「白騎士事件」の実行犯の一人だからでも、十年以上彼女が私にも隠し事をしていたからでもない。

 先輩の友人であると信じている私が気付かないと本気で思っていたのが気に食わなかっただけだ。

 

「はあ~……

 友人だと思っていたのは私だけですか?」

 

「い、いや……

 それは……」

 

 私は少し傷ついたので意地悪な言い方をした。

 それを見て彼女は弁解しようとしたが

 

「……やっぱり、そうだったんですね?」

 

「なっ!?川神、お前!?」

 

 今の私の言い方で罪悪感を感じたのか彼女は釣られた(・・・・)

 きっと、今のやり取りでも私の推測が事実ではない場合や彼女が私以外が相手ならば『冗談は休み休み言え』と言って捨てただろう。

 しかし、それが事実であり私が相手であったからこそ彼女は口を滑らせたうえに長年付けていた「世界最強(ブリュンヒルデ)」の仮面を忘れてしまったのだ。

 

 ……友人だと思っていてくれたんですね……

 

 私は彼女の様子を見て安堵するとともに嬉しかった。

 彼女はいつも通りだった。

 つい、いつも通りの癖で友人の私の前だからこそ彼女は素の自分を晒してくれたのだ。

 彼女はあの頃から変わらずにいたのだ。

 同時に私にはもう一つ確信が持てた。

 それはもう一つ、彼女があの頃から変わっていないことだったのだ。

 

「やはり、あなたが「白騎士」だったんですね?」

 

「ぐっ……!

 そ、それは……」

 

 彼女は決して他人に知られてはならない秘密を私に知られ、いや、暴かれたことに焦りはするも敵意は向けなかった。

 それどころか、彼女は私には彼女が怯えているようにも見えた。

 

「……大丈夫ですよ、先輩」

 

「……?」

 

「私はあなたが「白騎士」であろうと、あなたを責めたいからこの場にいる訳じゃありません」

 

「……何だと……?」

 

 これは紛れもない本心だ。

 私はただ彼女に真実を私にだけでもいいから語って欲しいと思っているだけだ。

 それは彼女を疑うことを終わらせたいからだ。

 

「……ボーデヴィッヒさんの起こしたことを語った際のあなたはとても辛そうでした……」

 

「……!」

 

 フランスにいる際にも私は先輩に教職員としてこの一週間で学園で起きたことを定時的に伝えられた。

 その際の彼女はどこか辛そうだった。

 それは自らの教え子であるボーデヴィッヒさんが起こした不祥事に自らの指導力不足を嘆いてのものだろう。

 けれども、彼女が「白騎士」ならばそれだけが理由ではないはずだ。

 

「……あなたは心の奥底でボーデヴィッヒさんがあのような運命や不遇を背負ってしまったのは自らのせいだと責任を感じているのではないですか?」

 

「……ぐっ!」

 

 彼女が悲しんだのは自らがボーデヴィッヒさんの悲しみの元凶であることに対するボーデヴィッヒさんへの罪悪感もあるのだ。

 ボーデヴィッヒさんの存在はある意味、この世界における人間の傲慢が生んだ「業」なのだ。

 「IS」を使うためだけに創られた生命。

 それがボーデヴィッヒさんという「デザイナーズベビー」なのだ。

 ある意味では「艦娘(私たち)」と同じなのかもしれない。

 けれども、決定的に違うのは「艦娘(私たち)」が生まれたのは人々の想いなのに対して、彼女は人々の欲望によって生まれたことだ。

 私はそもそも、元々存在していた「川内型軽巡洋艦二番艦 神通」から生まれた存在だ。

 生まれて初めて感じたのは終わりの見えない「深海棲艦」からの脅威から怯える人々の願いだった。

 それは『生きたい』と言う全ての生命にとって根源的な願いだった。

 だから、私はとある仮説を抱いた。

 「艦娘(私たち)」は軍艦に人々の願いが宿ったことで生まれて来る存在だと言うことを。

 雪風たち後発の艦娘もきっと同じだろう。

 だから、創られた命や戦うために生まれて来たと言う点ではボーデヴィッヒさんと「艦娘(私たち)」は大して変わらないのかもしれない。

 しかし、彼女は人々の欲望によって創られたのだ。

 『どの国家よりも優れた「IS」を駆使する兵士を』。

 それが彼女が生まれて来た理由だ。

 そもそも生命が生まれて来た理由の価値を問うことなどは定義すること自体が傲慢なのかもしれない。

 それでも、私はボーデヴィッヒさんの生まれて来た過程が歪に見えてしまうのだ。

 そして、そんな彼女のような存在を生んでしまった遠因だからこそ先輩はボーデヴィッヒさんに対して後ろめたさを感じてしまいながらも誰よりも彼女を見捨てようとしないのだ。

 

「そんな風に自分の罪から逃げようとしないあなただからこそ私は話して欲しいんです」

 

「………………」

 

 彼女は決して名声惜しさにこの事実を明らかにすることを躊躇っている訳ではない。

 そもそも、そんな卑怯者ならば私は彼女をとっくのとうに見限っている。

 

「あなたは一夏君のために話そうとしていないんですよね?」

 

「それは……」

 

 彼女が真相を明かそうとしないのは一夏君のためだ。

 仮に彼女が「白騎士事件」の真相を明かせば、世間は彼女やあの天才だけではなく、その縁者である一夏君や箒ちゃんにも敵意や悪意を向けるだろう。

 彼女はその悪意から一夏君を守ろうとしているだけだ。

 それに一夏君は本当に姉である先輩を慕っている。その姉が自作自演にも等しいあの事件を引き起こしたとなれば、立ち直れなくなるかもしれない。

 

「……一夏が誘拐されたあの日から私は心の中でずっと自分が一夏を言い訳に使っている気がしていた……」

 

「………………」

 

 先輩は語り出した。

 先輩が言っているのは恐らく、あの「第二回モンド・グロッソ」の決勝戦の時のことだ。

 一夏君が誘拐されて、私が「もう一人の世界最強」と呼ばれ始めた日のことだ。

 

「私は……本当はお前が、いや、お前と一夏が怖かったんだ……」

 

「………………」

 

 彼女はようやく本心を打ち明けた。

 彼女が怖いと言うのは恐らく

 

「……大切な親友と最愛の弟に私が犯した……いや、私の最も浅ましくて弱い姿を晒すことが怖かったんだ……」

 

「……先輩……」

 

 自分の弱さや醜さを大切な誰かに知られることだったのだ。

 彼女のことだ。

 世界中から憎悪を向けられても決してどうということはなかったはずだ。

 むしろ、一夏君さえいなければ「女尊男卑」等と言った歪んだ価値観によって変わってしまった世界に責任を取っていたはずだ。

 けれども、彼女は一夏君の将来と心を守るために黙り続けていたのだ。

 

「……情けないだろ、川神……

 これが私だ……確かに誰よりも力はあるだろう……

 でも、所詮はそれは張りぼての強さなんだ……

 私は何時もお前たちの真っ直ぐさを見ていて自分とは違って『強い』と誇りに感じてもいたが……同時にその度に自分が情けないと感じていた……

 私は弱いんだ(・・・・)……」

 

 それと同時に彼女は大切な弟と友人には自分の情けなさを知られたくないと言う動機もあったのだ。

 彼女は自嘲した。

 そして、彼女は遠回しに告白した。

 自らが「白騎士」であることを。

 

「……先輩、一つだけ言わせてください」

 

「……なんだ……」

 

 私は彼女のその姿を目の辺りにしてこれだけは言っておこうと思った。

 

「きっと、恨んでいないと言えば嘘になります」

 

「くっ……」

 

 私は彼女に対して恨んでいることはあった。

 それは私の夢が奪われたことと私の父を始めとした自衛隊が苦しんだことだった。

 「白騎士事件」によって「IS」の性能と力が知られたことで世界の戦力の優先順位は既存の陸海空軍から「IS」へと移った。

 かつて、「大艦巨砲主義」から「航空戦力」の時代へと移ったように。

 私は「IS」の適正と生まれながらの神通としての戦闘経験、加えて幼い頃からの鍛錬で海上自衛隊の自衛官になると言う夢を奪われ、世間からは父を始めとした「自衛隊」の存在を貶されてきた。

 『国を、家族を守りたい』

 その信念は本物なのに。

 それを主張するだけで自衛官は馬鹿にされる。

 『弱いのに粋がっている』と。

 だから、決まって私はそんな人間に

 

『仮に、力がなくても守るという思いを持つこと自体は間違いじゃない』

 

 と言い続けていた。

 それでもあの嘲りを聞かされると言う地獄の中で私は何度も悔しさを噛み締めた。

 それは愛する父を侮辱されているにも等しいからだ。

 そして、そんな土壌を作ってしまったのが目の前の彼女が引き起こした「白騎士事件」だ。

 きっと、あの事件がなくてもどこかの人間によって「IS」は軍事利用されていただろう。

 それでもあの事件の印象は強過ぎたのである意味、私の不遇は先輩が元凶とも言えなくもない。

 だからこそ、彼女は私が怖かったのだ。

 つまりはボーデヴィッヒさんに感じていたものを彼女は私にも感じていたのだ。

 

「それでも―――」

 

 だけど、これだけは言いたかった。

 いや、何よりもこれは優先すべきことだ。

 

「―――私はあなたを大切な友人だと思っています」

 

「……!?」

 

 彼女への友情だった。

 私は彼女が引き起こしたあの事件を恨んだこともあるし、今の「女尊男卑」を憎んでもいる。

 

「私があなたに最も抱いている怒りは

 『どうして私に何も言わないであんな事をしたのか?』と言う感情が大部分を占めていますよ。

 私はただただ悔しかったです」

 

「川神……」

 

 それでも、私が最も彼女に抱いている怒りと悲しみの感情の中では彼女が私に相談どころか、一言たりとも何も言わなかったことへの悔しさだ。

 きっと彼女はあの時、疲れていたのだ。

 色々なことをしていて少し楽をしたいと魔が差したのだ。

 彼女はたった一人で一夏君を養い続けていた。

 それがどれだけ大変なことなのかはいつも誰かが助けてくれていた私にはわからないほどだ。

 それでも先輩のことだ。きっと計画前も何度も躊躇したはずだ。

 「白騎士事件」を起こそうとした際もぎりぎりまで躊躇っていたのをあの天才が即座にハッキングを実行して後戻りが出来ないようにしたのだろう。

 たとえ、自作自演でもあろうと彼女は目の前で誰かの命が懸かっているのならばその力を奮うだろう。

 後はあの天才の筋書き通りだろう。

 

「私はあなたを止めてあげることが出来なかった……

 ただただ……それが辛かったです……」

 

 きっと私は彼女たちの計画を知ることが出来ていれば止めようと躍起になっていたはずだ。

 彼女たちの計画を事前に知ることで実質的に彼女たちを脅迫する形になって先輩との友情が壊れてでもするべきだったのだ。

 しかし、計画が起きてからでは最早事実を知っても無意味だ。

 恐らく、あの天才はそれすらも計算に入れていたはずだ。

 だから、私は気づくことが出来なかったのだ。

 

「一つだけ聞かせてくれ……

 どうして、私が「白騎士」だと気付いたんだ……?」

 

 私の悔恨を耳にして先輩は薄々気づきながらも私に訊ねて来た。

 

「決まっているじゃないですか?

 私が何年あなたと一緒にいると思っているんですか?

 長年あなたと一緒にいれば「白騎士」とあなたの動きが似ていることぐらいわかりますし、あなたが何かしらのことを抱えていることぐらいは気づけますよ」

 

 私は余りにも当然のことを言った。

 私と先輩は長年競い合っていたのだ。

 それに私は彼女と友人だ。

 友の苦しみぐらい察することが出来なくてどうして友人と言える。

 

「周囲の人間があなたを「世界最強(ブリュンヒルデ)」と崇めようが、私にとっては大切な親友(・・)でしかありません。

 たったそれだけのことです」

 

「……!」

 

 世界中が彼女を何と言おうが、私は彼女の親友で在り続けるだけだ。

 それに

 

「私は決めたんですよ。

 あなたがあの時(・・・)、一夏君を選んだ時にあなたを何時までも信じ続けると」

 

「あ……」

 

 私はあの時、「第二回モンド・グロッソ大会」の際の彼女が下した決断が嬉しかった。

 あの頃の私ははっきり言えば、先輩に不信感を抱いていた。

 既に私は「白騎士」と彼女が同一人物であると薄々気づいていた。

 けれども、私は自らが抱える秘密もあって彼女を責められなかったし、追求もできなかった。

 何よりも真実を晒すことで一夏君の将来を奪うことや父から教えられていた箒ちゃんの現状を耳にして心をこれ以上傷付けることを私は恐れていた。

 親友を疑う日々に私は嫌気がしていた時に彼女は

 

『川神、頼む……!

 私の代わりに決勝に出てくれ……!』

 

 彼女は頭を下げて私を頼ってくれた。

 本来ならば、私が一夏君を救助すると言う選択肢もあった。

 むしろ、そちらの方が公人としては正しかった。

 それなのに彼女は二連覇と言う栄光よりもそれよりも大切なものを選んでくれたのだ。

 その日から私は彼女が何者であろうと信じようと私は心に誓ったのだ。

 

「それに隠し事をしていたのは私も同じですよ。

 だから、私は今まで気づいていたのに訊かなかった。

 親友なのにあなたを信じられなかったんです。

 ……ですから、お相子です」

 

「だが、それは……」

 

 私も「前世」の記憶があると言う秘密を彼女に隠し続けた。

 その時点で私は彼女を責める気にもなれなかった。

 いや、そもそも資格があろうとなかろうとも私は彼女を責めるつもりなどなかったのだ。

 

「そうですね……

 私の記憶は誰にも話せない、いえ、そもそも話してもただの与太話にしかなりませんね。

 それでも、私もあなたも互いに隠しごとをしていたんです。

 だから、私はあなたを責めませんよ。

 と言うよりも責めたくありませんよ」

 

「……川神……」

 

「あなたは私にとってはただの(・・・)親友です。

 では、あなたにとっての私はなんなんですか?」

 

「それは……」

 

 私は彼女にとって一番返答に困る問いを投げかけた。

 しかし、彼女は覚悟を決めて

 

「……かけがえのないただの(・・・)親友だ……

 ……ありがとう。川神」

 

 確りとそう言ってくれた。

 彼女も私も結局はそれだけの関係だ。

 でも、たったそれだけだからこそ私たちはお互いを大切に思っている。

 それ以外に答えも言葉もない。

 

「いえ、こちらこそ」

 

 この日、私は失った友情を取り戻せたと感じた。

 彼女の決意が固まるその時まで私はこの件を口外するつもりはない。

 当然、真実は明らかにするべきなのかもしれない。

 けれど、私はそれは彼女自身の口から明かされるべきだと感じている。

 その結果、彼女がどれだけ糾弾されても私は彼女の親友で在り続けるつもりだ。

 それは彼女が一夏君を選んだ時から決めたことだ。


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