奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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注意。今回はかなり箒へのアンチ要素があります。
そこら辺をご了承ください。


第36「無自覚」

「ぐっ!

 貴様ぁ!よくも……!」

 

 あたしに「龍砲」を背後からお見舞いされた篠ノ之はあたしが斬りかかろうとすると少しだけだが雪風の方に視線を向けてからあたしに向かい合った。

 どうやらどこまでも雪風のことを狙うつもりらしい。

 一応、あたしも対戦相手なのだが。

 ただ、きっとこいつはこう思っているのだろう。

 

「……!

 まさか、卑怯(・・)なんて思っているんじゃないでしょうね?」

 

 あたしは右手の「双天牙月」を振り下ろすもこの女はそれを無理のない受け流しで凌ぎ、私がもう片方の「双天牙月」で斬りかかるとそれをも防いだ。

 一夏に聞いた話によると、この女は剣術道場の娘であり、さらには剣道の全国大会で優勝するほどの腕らしい。

 剣道なんて、所詮は道場剣術程度にしか思っていなかったが、その認識は改めなくてはならないだろう。

 ただ問題なのは

 

「当たり前だろうが!!

 いきなり背後から撃つなど……!!」

 

 やっぱり……

 

 こいつの妙な都合のいい潔癖症だ。

 雪風の時もそうだったけど、こいつは「戦い」をなんだと思っているのだろうか。

 

「はっ!よく言うわね!

 この勝負は「二対二」。

 それなのにアンタが雪風ばっかりに気を取られて油断しただけじゃない!

 そう言うの世間だと『負け犬の遠吠え』って言うのよ、バ~カ!!」

 

「な、何ぃ……!!?」

 

 この勝負は「二対二」の戦いだ。

 つまりはタッグとの連携が勝負の分かれ目だ。

 それなのにこいつと言い、ボーデヴィッヒと言い雪風ばかりに目が行っていたのだ。

 そんなチャンスを利用しない奴がいるだろうか。

 あたしはそんな「宋襄の仁」を肯定するロマンチストじゃない。

 やる時はやる。

 それがあたしのモットーだ。

 

「あと一つ、あんたが馬鹿だと思うのはね―――」

 

 加えてこの女が馬鹿だと感じるのは

 

「―――あたしが馬鹿正直に白兵戦だけを挑んでいると思っていることよ!!」

 

「なっ―――!!?

 がっ!!」

 

 今まであたしと雪風、一夏の試合を見ていて「龍砲」の存在を知っていながらも、しかも試合開始と共にあたしの「龍砲」を喰らいながらあたしの真正面に立っていたことだ。

 至近距離からの「龍砲」を受けてあの女は勢いよく吹っ飛ばされた。

 あたしだって多少の策は凝らすのだ。

 少し、ここで余裕が出来たのであたしは視線を上に移した。

 

「あらら……

 雪風のやつ、本当にあたしの為に引き付けてくれているんだ……」

 

 雪風が真上へと飛翔していくのを目にしてあたしは流石だとしか思えなかった。

 そして、そのままあの女の方へと目を向けて

 

「……あんたとドイツの代表候補て似てるわよね」

 

「……な……に?」

 

 ふと思ったことをそのまま言った。

 

「あたしと雪風はお互いを信頼しているわ。

 だから、最初にあんたに一撃をお見舞いすることが出来たし、今もあんたとの勝負に集中できる」

 

 雪風がボーデヴィッヒを引き付けてくれるからあたしは横槍を気にせずに戦える。

 そして、同時に雪風が不覚を取ることも心配せずにいられるし、あいつがあたしのことをちゃんとカバーしてくれると信じられるのだ。

 それがこいつらとあたし達との間にある決定的な差だ。

 

「でも……あんた達は違うわ」

 

 だからこそ、あたしはイラつくのだ。

 

「あんたもあいつもペアのことをペアとして見ていない……

 いや、道具程度にしか思っていないわ」

 

「なっ……!?」

 

 こいつらは連携を取るどころか、相手をペアとして見なしてすらもいない。

 確かにボーデヴィッヒがコミュニケーションを全く取らないことも原因だろう。

 けれども、それでもこの女は少しぐらいは冷静になってあいつをフォローすべきだった。

 それなのにこいつは私情を優先して雪風のことしか見ておらず、終いには今もあたしと戦っているのにあたしとの戦いに集中もしていない。

 それは

 

「あんた……いや、あんた達は自分のペアのことを雪風と戦うだけの挑戦権程度にしか思っていないでしょ?」

 

 雪風と戦うための道具、いや、引換券としか相手を見ていないからだ。

 そして、それはボーデヴィッヒも同じだ。

 ただの「二対二」の数合わせ。

 そうとしか思っていないのだ。

 だから、ボーデヴィッヒは見事に雪風に釣られている。

 本来ならばボーデヴィッヒがあたしを狙っていればあたしが脱落していた可能性もあった。

 なのにこいつらは最低限の連携、いや、援護すらもしようとしていない。

 

「……そんなに一夏と付き合いたいの?」

 

「……っ!」

 

 あたしはこいつがこのトーナメントに参加した理由であろう予想をぶつけた。

 あたしも以前まで同じだったから理解できる。

 あたしもあのボーデヴィッヒの襲撃まではついムキになってしまっていた。

 一夏が他の女と付き合うのが嫌だった。

 そんな幼稚な感情にあたしは囚われていた。

 でも、それは間違っていた。

 あの日、あたしはセシリアがトーナメントに出れなくなった時に少し、少しとは言え心のどこかで『ラッキー』だと感じてしまった。

 だけど、その直後に少しでも他人の不幸を喜んだ自分が許せなくなった。

 そして、同時にあたしは自分、いや、自分たちがどれだけ卑怯なのかも自覚してしまった。

 

「一夏が……トーナメントに優勝しただけのただ力があるだけの女(・・・・・・・・・・)のことを好きになってくれると思ってんの?」

 

 そもそもこの大会の「特権」自体が間違っていた。

 力で他人を押し退けて何でも思い通りにするような人間なんて誰が好き好んで好きになるだろうか。

 少なくても、これは男でも女でも立場が逆ならばあたしはそんな男は願い下げだ。

 そして、

 

「あたしの好きな男はそんな安い男じゃないわよ!!」

 

 一夏はそんな情けない男なんかじゃない。

 あたしの惚れた男はそもそもこんな馬鹿げたことで恋人になろうする女を好きになるような人間じゃない。

 あいつはあたしがいじめられていた時にたった一人で助けてくれた。

 確かに千冬さんや先生みたいな強い女性に憧れている節もあるけれど、それはあの二人が強さと共に美しさも兼ね備えているからだ。

 

 悔しいけど……

 多分、一夏の一番惚れそうなのは……

 雪風なのよね……

 

 同時にあたしは今、この学年の中で雪風が最も一夏にとって理想の女性像に近いのも感じていた。

 ただたったそれだけで両者とも全くその気はないけれど。

 でも、あたしは嬉しくもあった。

 

 だから、あたしは一夏のことが好きなのよね……

 

 雪風みたいな女が好きな一夏があたしの初恋で良かったと心の底からあたしは思っている。

 もし、一夏が力があることをいいことに好き放題で何も思わない人間だったのならばあたしはそんな男を少しでも好きになったことを恥じた。

 でも、一夏は雪風みたいな優しくて強い真っ直ぐな子に惹かれる男だったのだ。

 

 あたしの目に狂いはなかったわ……!

 

 だけど、だからと言ってあたしは雪風にも負けたくない。

 雪風は別に一夏のことを手のかかる弟感覚にしか思っておらず、これが勝手なライバル意識なのは理解している。

 それでもあたしは一夏を惚れさせたいのだ。

 あの自慢の友達に惚れそうな幼馴染が。

 

「うるさい……」

 

「………………」

 

 あたしが目の前の女に今回のトーナメントにおけるあたし達自身の在り方が一夏本人やあたし達の恋心を冒涜する行為だと告げると篠ノ之はゆっくりと立ち上がった。

 心なし、まるで幽霊の様だった。

 そして、そのまま

 

「うるさぁい!!!」

 

「……!」

 

 顔を歪ませてあたしに斬りかかって来た。

 その件には冷静さも磨かれていたであろう剣技も見受けられなかった。

 ただ相手を叩きのめしてやろうと言う感情で動いている様であった。

 

「うるさい!うるさい!うるさい……!!

 貴様に私の何がわかる……?!」

 

 もうあたしが「龍砲」と言う白兵戦殺しの手札を所持しているのすら忘れているのか、ガムシャラな太刀筋で何度も何度も目の前の女は斬りかかって来た。

 そこにはボロボロになっても立ち上がろうとする際に感じられるであろうある種の人間の誇りすらも感じられなかった。

 この女が「龍砲」の直撃を二回受けても未だに立っていられるのは「打鉄」の耐久力の高さ故だろう。

 あたしはとっとと引導を渡そうと「龍砲」を放とうとしたが

 

「家族がいなくなって……!!

 那々姉さんにも裏切られた(・・・・・・・・・・・・)私の気持ちがわかるか!!!」

 

「……え?」

 

 突然出て来たその言葉にあたしは撃つのを忘れてしまった。

 

 先生が……裏切った(・・・・)……?

 

 先生が一夏の知り合いだったのはあたしは例の無人機の件で知った。

 同時にこの女とも知り合いであることも。

 なぜ先生が一方的に嫌われているのにこいつを気に掛けるのはそれが理由だと言うことも。

 だから、あたしがこの女が嫌いなのはそう言うことだった。

 

「ちょっと、待ちなさいよ……!

 先生が『裏切った』て……どういうことよ?」

 

 あたしはガキンッと耳元で金属音が響き、手に振動が伝わる中で訊ねた。

 

「あの人は『いなくならない』と言ってくれた……

 それなのに……あの人は……!」

 

 『いなくならない』……?

 

 篠ノ之はまるで今まで溜まっていたものを吐き出すかのように何度何度も剣を叩きつけながら要領を得ない言葉を叫んだ。

 それはまるで癇癪を起した子供のようだった。

 

一年も(・・・)私を放って帰って来なかった……!!」

 

「……一年(・・)……!?」

 

 その言葉を耳にしてあたしはこいつの言う先生がしたとされる「裏切り」の意味を思い当る節があった。

 一年(・・)

 もしかすると、それは

 

 先生が中国にいた時と同じ期間……

 

 先生があたしの指導をするためにいた時期なのかもしれない。

 そう言えば、先生はよく手紙を誰かに宛てて書いていた。

 しかし、その返事は返って来ずどこか先生は寂しそうだった。

 まさか、その手紙の相手はこの女だったとは。

 あたしは先生とこいつとの間に存在する衝撃的な事実に戸惑った。

 あの先生が、優しくて誠実で強いあの人が何故あんな風に悲し気になり、まるで妹のように思っているこいつにどうして憎まれているのかとあたしは本気でわからなかった。

 だが、

 

「だから、私には―――」

 

「……!!」

 

 そんな戸惑いを吹き飛ばすような言葉を篠ノ之が口走ろうとした時だった。

 

「……いい加減にしろぉぉぉぉぉおおおぉぉぉおおお!!!」

 

「……!?」

 

 こいつが言おうとした言葉が容易に予想できてしまい、あたしはそれを遮った。

 確かにこいつには同情出来た。

 『家族がいなくなった』。

 両親が離婚したあたしも家族がいなくなる辛さぐらいは理解できるしその痛みを味わっている。

 そして、先生がこいつを置いて中国であたしを鍛えていたことへの後ろめたさもあった。

 でも、

 

「あんた……

 『そんな不幸な私だから、一夏は私に譲ってくれ』とか、考えてんでしょ!!」

 

「……え」

 

 こいつの抱いていた無意識な願望が余りにも身勝手過ぎたのであたしはそんな同情や憐憫等どこかへと吹っ飛んでしまった。

 ああ、こいつは確かに不幸だろう。

 それはあたしも認めるし、同情するし、共感もできる。

 しかしだ。

 そんなあたしにも我慢できないことがあった。

 

「助けて欲しいと思うのは分かるわよ……

 でもね、同情を買ってもらって相手の気を惹いたり、相手を束縛したり、他人を悪役にしたりあんた情けないと思わないの!!?」

 

 こいつが自分の不幸な身の上を言い訳にして、一夏に対するアプローチを全て自分の中で正当化しているところだった。

 

「なっ!?私はそんなことは―――!!」

 

「してんじゃない!!

 大体、雪風の件の時も思ったけどあんた自分がいつも『正しい』と思い込もうとしてるでしょ!!」

 

 こいつの本質は「ヒロイン」に憧れる女だ。

 『自分は不幸だから何をしても許される』とか、『不幸な自分だから一夏は助けてくれる』と思っているのだ。

 でも、同時にそれはこいつにとって最後の砦だ。

 それがなくなればこいつはきっと罪悪感に押し潰されるほどに弱い。

 こいつは自分が正しくなければ、いや、正しいと思わないと(・・・・・・・・・)生きれないのだ。

 だから、こいつは一見すると尤もな言葉や正義ぶった発言をする。

 まるで『自分が正しい』と自分自身に言い聞かせるように。

 だけど、それは

 

逃げてんじゃないわよ(・・・・・・・・・・)!!」

 

「……っ!!?」

 

 逃げている(・・・・・)も同然だ。

 今の「女尊男卑社会」でも、『女は選ばれた存在だから男を見下してもいい』とまるで然も正しいことを言っているようなに平気でそんな風に言う人間がいる。

 相手よりも優位に立ちたいと言う醜い感情を満たすために社会的に半ば黙認された「歪んだ価値観」に安易に縋ってそんな風に短絡に考える。

 それをあたしも(・・・・)先生と会うまで気付くことが出来なかった。

 そして、目の前の女もこういった人間と同じだ。

 一見すると逆に見えるがそれは違う。

 確かにこいつは同情すべき過去を持っているのでこいつは被害者だ。

 でも、こいつも「女尊男卑主義者」と同じで歪んだ価値観と似た「不幸な過去」と言う「免罪符」のようなものを印籠のようにして関係のない一夏や雪風を傷付けると言う時点で同類だ。

 どちらも自分たちの「暴力」や「欲望」、「横暴」を正当化する点では同じだ。

 自分の醜さから逃げているだけだ。

 

「あんた、結局一夏に依存(・・)してるだけじゃない!!」

 

「……ぐっ!!?」

 

 別にこいつが一夏のことが好きでも構わない。

 けれど、こいつがこのままでは一夏に負担をかけるだけだ。

 確かに一夏がこいつの過去を知ればきっと助けようとするだろう。

 あいつはそう言う人間だ。

 でも、だからと言ってそれでこいつが無意識に『自分を好きになれ』と思っているのは間違っている。

 そんな身勝手なことをあたしは許せないのだ。

 

「黙れぇえぇえぇええええぇえええ!!!」

 

 篠ノ之はそれがトドメになったのか遂には何も考えることも出来ずただ感情のままに剣を振りかぶった。

 

「あっそ……

 こっちもそろそろ終わりにさせてもらうわ」

 

 最早、何を言っても無駄だと考えて「龍砲」を展開した。

 あたしは一刻も早く雪風と合流しなければならないのだから。

 それにこいつに対して、愛情を抱いている先生の言葉さえも届かないのだ。

 これ以上は無理だろう。

 とっとと先程渡し損ねた引導を渡そうとした時だった。

 

「―――がっ……!!?」

 

「え」

 

 突然、上空から何かが飛来、いや、撃ち込まれて来て、それが目の前の女に命中した。

 それが砲撃だと気付き、一瞬雪風が援護でもしたのかと懐疑的になりながらもあたしは確認のために上へと目を向けると

 

「……えっ?」

 

 何発も撃ち込まれてくる砲撃と言う雨が降り注がれるのがあたしの目に映った。




一夏と雪風のことですが、
確かに一夏にとって雪風は割と好みの女性ですが
「好みのタイプ」≠「恋愛」と言う訳なので恋愛感情は抱いてません。

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