奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
Ep8を読んだあとは答えが全て詰まっていたことに気付いて、「愛」を感じました。
この曲が合うMAD動画もこの歌詞の裏の意味とは異なりますが、表の歌詞と組み合わさってもいい曲だし。
と言うか、志方あきこさんが最高。
白夢の繭とか、誰ガ為ノ世界とかも私の好みに直球です。
「一体、何が……」
「これは……」
「嘘でしょ……」
観客席の「女尊男卑」によって権威を失っても「IS」の研究や援助で辛うじて立場を維持している者や「IS」の絶対神話によってその威光を己の物だと思い上がっている者、ただ「IS」をスポーツとして楽しむ無垢な人間、「IS」やそれによる影響に対して懐疑的な者と言った普段異なる思想を持つ人間が今起きたことに異論なしに驚愕していた。
当初は余り、この試合の中で学園関係者以外で最も注目されてなかった雪風がその下馬評を覆すが如く、機体のスペック面だけでは一年生の中では最も強力なボーデヴィッヒさんを圧倒し、このまま押し切るかと言うことで多くの来賓の人々の度肝を抜いていた。
しかし、今、この試合を観ていた人間が呆然としているのはそのある意味では最もドラマ性のある試合の顛末によるものではなかった。
今、この場を包んでいるのは
「ラウラ……」
ボーデヴィッヒさんの行った暴挙による嫌悪、恐怖、忌避、戦慄、そして、悲憤だった。
先輩は己の教え子が犯した行為にまるで後悔を吐き出すかのように教え子の名前を呟いた。
私はと言うと
鈴音さん……箒ちゃん……
彼女の凶弾によって倒れた教え子と妹分のことを目にして拳をギリっと強く握りしめた。
「……っ!」
そして、その直後私としては珍しく、子供相手に殺意に似た感情を込めて二人を砲撃した張本人を睨みつけた。
「川神……」
「か、川神先輩……?」
そんな私の普段と異なる様子を察したのか、先輩と山田さんは声をかけて来た。
今の私は恐らく、これが生徒同士の正式な試合でなければ、戦場でなければ、今にもあの生徒を完膚なきまでに叩き潰しているだろう。
だが、
「ふっ……」
「……?」
「お、おい……」
それを今の状況と私の立場が許さず私は
「フフフ……」
「せ、先輩……!?」
「ど、どうしたんだ……!?」
露わに出来ない「怒り」を少しでも心の平静を保つために「笑い」へと還元して、静かに笑ってしまった。
「……お二人とも大丈夫ですよ」
私は心配と不安をかけてしまった二人に全く大丈夫ではないけれどもそう言った。
今の私の姿は非常に歪だ。
誰もが狂っていると感じるだろう。
しかし、少なくとも
「
我慢できない彼女の分まで私が平静でいるべきだろう。
なぜならば、今、最も怒りと悔しさを噛み締めているのはあの娘なのだから。
「………………」
私は今、起きたことが信じられず、いや、頭の中ではある程度考えられたことであったが、まさか実際に起きるとは思いもせず、私は止めるべきではないのに動きを止めてしまった。
一度、真下で起きた惨劇の跡を目にした後に私はそれをもたらした現行犯を睨み付けた。
「……どうして、篠ノ之さんごと撃ったんですか?」
目の前の女は私に攻撃されている中で突然真下に向かって砲撃を連射した。
それも何度も何度も。
真下に味方がいるのをお構いなしに。
その結果、突然の砲撃に対応できず、鈴さんも、篠ノ之さんも敗退した。
私は既に答えを頭の中で理解しても、それでもそうあって欲しくないと心の中で否定しながらも今の行動の理由を訊いた。
「はっ!
だが、目の前の軍に所属している女は迷うことも躊躇うこともなくそう言った。
「あの女は中国の代表候補生を足止めすら出来ずにいた。
しかも、後少しで負けそうになったのだ。
ならば、今のうちに中国の代表候補生を潰すために奴を囮にして砲撃するのは当たり前だろうがぁ!!」
そして、彼女は私が頭に思い浮かべていたことをそのまま口に出した。
さらには
「そして、貴様は味方がやられて足を止めた!!
計算通りだ!!」
「……!?」
何処までも最悪の答え通りの動機を目の前の女は勝ち誇るかのように宣った。
ああ、その通りだ。
確かにこれだけが私を止める方法だった。
私は頭では足を止めるべきではないのに旋回を止めてしまった。
最初から、私はこの最悪の状況位は想定していたのに。
先ほどまでの旋回は私が少しでも動きを止めたり、緩めたりすれば無意味となるものだった。
けれども私は余程のことがない限りは止まるつもりも速度を落とすつもりもなかった。
私がそのようなことをするとすれば、考えられる要因は二つ。
一つは外的要因として篠ノ之さんが私に突っ込んでくること。
しかし、これは鈴さんによって可能性そのものが潰されている。
鈴さんが篠ノ之さん相手に不覚を取るなど、万が一にもあり得ないことだ。
だから、これは殆ど杞憂と言っても差し支えのないものだった。
そして、もう一つは内的要因として私の集中力が途切れることだった。
この高速移動の円周による檻は私が集中するからこそ成せるものだ。
少しで気を抜けば檻を破壊される。
だから、私はボーデヴィッヒさん一人に集中するために鈴さんに篠ノ之さんのことを任せていたのだ。
これは私が鈴さんを信じるからこそ実行できた戦術なのだ。
だが、私は一つだけ懸念していたことがあった。
いや、それは『流石にない』と思っていたことであったが。
それはボーデヴィッヒさんがペアのことを顧みずに相手のペアを自分のペアごと攻撃することだった。
私は頭の中で楽観してしまっていた。
『流石にそれはない』と。
ただ私の集中力を削ぐ為だけに仲間意識が皆無とは言え、味方ごと相手を撃つなど正気の沙汰ではないと心の中で私はどこか信じたがっていたのだ。
少なくても、それは私の敵であった「深海棲艦」ですらしなかったことだ。
「……あなた、たったそれだけの為に……篠ノ之さんを
私は怒りが込み上げてくるのを必死に抑えながらそれだけは訊ねようと思った。
私の知る限り、虐殺等と同様に恥ずべき行為。
それをして来たのは
「はっ!
当たり前だろうが!!そもそも足止めにもならん奴だ!!
それ位、有効活用すべきだろぉ!!」
「……!!!?」
『諸君らには死んでもらいたい』
『この犠牲は尊いものだ』
『名誉ある死だ』
私から時津風や磯風、浜風たちを奪ったあの死を美化し、ロクな作戦も考えられなかった参謀たちだった。
今、この女はそれとほとんど同じことを言った。
確かに私は祖国のためや国民のために命を懸けて戦ってきた。
それは恐らく、私の姉妹や戦友たちも同じだろう。
そして、未来のために勝利を求め、己を犠牲にする覚悟もあったのも事実だ。
しかしだ。
それでも犠牲を強いた人間が『名誉ある死』や『命を有効活用した』等と言った御託を述べるのは我慢できない。
目の前の女は私が最も忌み嫌う言葉を言った。
それも最も命の意味を貴ぶべき肩書きを、肩書きだけでも持ちながら。
篠ノ之さんを自分が犠牲にしておきながら、それを悪びれることもなく、それを然も当然の如く言い捨てた。
余りにも傲慢であり、怠慢だ。
「何にせよ、貴様は仲間と言う存在によって動きを止めた!
勝利を目の前にしてな……やはり、スポーツ気分で「IS」に携わるこの学園の生徒などに
彼女がその言葉の先を紡ごうとした時だった。
「黙れ」
「―――何……?」
それが余りにも不愉快極まりなかったので私はそれを遮った。
「……「犠牲」の意味を理解できないあなたが軍人を
『天津風を一人にしないでやってくれ……お願いだ……
『ありがとう』
私の脳裏に浮かんだのは私を生かすために私に自分を置いていけと言った妹とのやり取りだった。
私は彼女を最後まで連れて帰ることが出来なかった。
あの苦しみと悲しみを私は忘れるつもりはなかった。
本当は一緒に帰りたかった。
一緒に帰って、故郷の佐世保の町に何時か一緒に行きたかった。
あの子自身がそれを望んでも私は常に悔やみ続けた。
あの子を
だから私は平気で他人を犠牲にする人間を許せない。
ましてや、そんな人間が軍人を騙るのならば言語道断だ。
「……そうまでして、軍人を騙りたいのならば―――」
きっと目の前の彼女には私の言葉の意味等理解できないだろう。
「―――私を倒してからふざけろぉ!!ド三流がぁ!!!」
だから、目の前の虚栄に満ちた力の信奉者を完膚なきまでに叩きのめして示す。
自らの抱いた力への幻想が如何にして脆いものかを。
愛する妹の誇りの為に絶対に負けるつもりはない。
あの誰よりも誇り高く、軍人らしくあった妹のために。
そして、私はあの子の姉だ。
故に目の前のふざけた軍人気取りにだけは引き下がるわけにはいかない。
ネタバレ)「うみねこのなく頃に」は……ミステリーでもあり、恋愛小説でもあると感じます。