奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今回、戦闘描写は少なめです……
と言うか、自分が考察して作り過ぎた制約が酷過ぎて書ける描写が狭まりました。
あれです、推理小説でノックスとかヴァン・ダイン的なものを書いていたら創作の幅を狭めて自分の首を絞めた感じです。
だけど、アクロイド殺しは初めて読んだときはマジでイラッとしました。
ライトが批判して「ヴァン・ダインの二十則」を作りたくなった気持ちがわかります。
だけど、アガサ・クリスティーの作品はそれでも最高です。



第42話「強さの価値」

 来た……!

 

 私が接近して来たことで黒いそれは私を迎撃、いや、排除する姿勢を見せた。

 私はそれを見て、これで後には引けないことを覚悟した。

 今、ボーデヴィッヒさんは少しの動作だけでその命を削られている。

 私が彼女を一人でも助けようとしたのは教師たちによる鎮圧部隊が来ることで彼女の機体に余計な動きをさせないためだ。

 ただでさえ、残されている時間は僅かだ。

 さらには彼女を沈黙させようとして戦えば、ボーデヴィッヒさんへの負担が増える。

 私一人が相手であろうとその負担は相当なものだろう。

 つまり、戦えば戦う程残されている時間すらも削られていくのだ。

 生命と共に。

 それが教師陣による鎮圧部隊となれば、彼女の身体の限界を超える動きが乱発される。

 そうなれば、全てが終わる。

 私が一夏さんに頼ったのは確実にボーデヴィッヒさんを助けるためだ。

 

 ないものねだりなんてしている場合じゃないですね……

 

 「深海棲艦」との総力戦でもないのに私はここに一夏さんと言う決定打がいないことが悔やんでいる。

 彼の「零落白夜」ははっきり言えば、死人が出る程の火力だ。

 しかし、確実に「IS」を沈黙させる必殺の刃でもある。

 彼さえいれば、余計な時間を取られずにボーデヴィッヒさんを救える。

 

 仕方ないですよ……彼女の言い分は正しいです……

 

 篠ノ之さんのあの発言は正しい。

 彼女からすれば、私は彼女にとって大切な人間を危険な場所へと向かわせているのに等しい。

 戦後、私たち艦娘は「英雄」や「救世主」としてもてはやされていたが、同時に戦争で亡くなった遺族からは詰られることもあった。

 

 『どうして、守ってくれなかったのか!?』

 

 『息子を返せ!!』

 

 『なんで空襲されたんだ!!』

 

 彼らは正しい。

 その嘆きも憤りも苦しみも。

 愛する人間を失った悲しみも怒りも憎しみも苦しみも私は知っている。

 私が一夏さんにさせようとしているのは同じことだ。

 篠ノ之さんは止めるのは当たり前だ。

 だから、私は彼女をこの件では恨みもしないし、責めもしない。

 

 ……初霜ちゃん、力を貸して……

 

 目の前のそれが迫る中、私はこの機体の名と同じ戦友に祈った。

 私が今からしようとしているのは一か八かの賭けであり、何よりもこの機体を傷付けることだ。

 そして、それが上手くいくかもわからない。

 それ故に私は彼女と共に戦うようにすることで少しでも勇気を奮い立たせようとした。

 あの誰よりも生命を守ろうとした心優しい彼女の名前を出すことで。

 これは生命を護る戦いだ。

 だからこそ、彼女の力を借りたい。

 

 いきます……!

 

 私は確実に外さない距離に入ると単装砲を撃った。

 

「………………」

 

 目の前のそれはその砲撃に対して、全く動じることもなく、脅威とすら判断せず砲撃を再び両断し、同じ様に私に向かって直進するだけであった。

 ただ先ほどと同じ結果を生むだけだった。

 しかし、それでも私は引くつもりはない。

 私が目の前のそれに近付いた瞬間だった。

 

「ぐっ……!」

 

 それは今まで見せていた線による斬撃ではなく、点を狙うかのような刺突を繰り広げ、私の主武装である単装砲を破壊した。

 

「っ……!!」

 

 それだけに止まらず、それは続け様に刺突を行い続け「絶対防御」で刺さることはなく、致命傷を受けることはなかったが、突かれ続けた部分にまるで破城槌が打たれ続ける痛みが生じ続けた。

 鋭利な刃物より鈍器の方が痛みは上だと聞いたことはあるが、多少は納得した。

 私は単装砲だけではなく連装砲すらも失った。

 既に主砲も失くし、魚雷や爆雷は誘爆を防ぐために使えない。

 私がこの距離に使える武器は既に存在しなかった。

 けれども

 

 前へ……!!

 

 私は退くつもりはない。

 ただ

 

 ……この程度……!!

 

 急所である頭部だけには当たらないように最低限の回避はした。

 おかげで少しずつではあるが、それに近付けた。

 どうやら、所詮は機械らしい。

 人間ならば、恐らく私のこの行動を見て不審に思いこの場から離脱しようとしただろう。

 しかし、目の前のそれは違う。

 ただ自分に近づくものを効率的に排除する。

 恐怖も知らない。

 だから、私を痛めつけることは出来ても、私を倒すことは出来ない。

 現に私の接近を許している。

 私が受けた痛みは恐らく、過去最大級だろう。

 確かにこれは「世界最強」の力と言えるだろう。

 だが、たったそれだけだ。

 

「………………」

 

 私を排除することが出来ないと判断したのか、それは刀を構えるのを止めようやく離脱しようとした。

 

「もう、遅いですよ」

 

 けれども、既にその行動は無意味だ。

 この瞬間を私は待っていたのだ。

 何故ならば、

 

「てりゃぁ……!!」

 

 既に距離に入っているからだ。

 

「……!」

 

「捕まえた……!」

 

 「瞬時加速」を使い一気に距離を詰め、私はそれに組み付いた。

 私の狙い。

 それはそれに密着することだ。

 恐らく、私もやれば「VTシステム」の動きに追いつける。

 これは自惚れではない。

 実際、今までの攻撃は全て回避することが出来た。

 ただ避けるべきではないからしなかったのだ。

 その理由はこれ以上、ボーデヴィッヒさんに無理な動きを強要させないためだ。

 仮に今のやり取りの中で私が彼女を倒すつもりで戦えば、織斑さんと同格の運動能力や回避、剣術を使用し彼女の生命が削られることになる。

 だから、私は自分が痛みを感じることと「初霜」を損傷することを代償にわざと「VTシステム」が最も効率的に私を倒せる最短手順を踏ませた。

 それこそが最もボーデヴィッヒさんを救うことの出来る可能性を高められる唯一の方法だからだ。

 

「……!!」

 

 組み付いた私をそれは振りほどこうとした。

 だが、それは不可能だった。

 なぜならば

 

「それが「最強」の限界ですよ……!!」

 

 「VTシステム」が再現しているのはあくまでも「世界最強」の織斑さんのただの最も優れて、最も強い力でしかないからだ。

 今まで私が戦ってきたのは「IS」の中でも、今、私が戦っている相手が最も強いのは認めよう。

 素の実力ならば更識さんよりも全ての能力が上だ。

 たった一振りの剣だけでここまでよく戦えると怒りに燃える私ですら感心するほどだ。

 だが、それ故に

 

「学びましたか……?

 弱い人間がどれだけ強いのかを……!」

 

 このような状況をこの偽りの最強は知らないのだ。

 だから、簡単に私に捕まりその対処法を知らない。

 人間は弱い。

 何時だって自分が優勢であるとは限らないし、勝利が絶対的に約束された訳じゃない。

 でも、そんな弱さがあるからこそ人は自らを鍛え、可能な限り知恵を働かせる。

 私がしたことは戦い方としては最も愚かだろう。

 相手を倒す。

 しかも、自分を如何にして傷付けず相手を倒す。

 それは戦いの根幹だろう。

 目の前のそれはただそれを忠実に実行するだけだ。

 ただそのために目の前のそれはただ人間の強い部分しか知らない歪な存在だ。

 だからこそ、弱いのだ。

 私たちは不完全だからこそ強いのだ。

 そして、私にとっての勝利は目の前のそれとは違う。

 

「人間を舐めるなぁ……!!」

 

 私は機銃を展開し鈴さんの時と同じように至近距離からそのまま射撃した。

 これこそが私が狙った最短で確実に「VTシステム」を沈黙させる方法だ。

 砲撃や雷撃、最高速度による旋回攻撃では「VTシステム」によって回避や迎撃、さらには神業とも言える剣術をさせてしまう。

 そうなれば、ボーデヴィッヒさんの生命は失われる。

 だから、私はそれがどんな行動をしても絶対に回避できない距離で接射し続けることを選んだ。

 何よりも既にそれには「シールドエネルギー」はないに等しい。

 普段では削り切れないが、今回はこの手が有効になるのだ。

 

「……あぐっ!……この程度……!!」

 

 今の状況を見て削られていく「シールドエネルギー」に危機感を抱いたのか、それは私の頭に刀の柄を振り下ろし、再びそれを上げると再び振り下ろした。

 私の頭部に恐らくは「絶対防御」がなければ、脳挫傷が起こるぐらいの衝撃が何度も走る。

 だが

 

 絶対に放しません……!!

 

 この程度の痛み、人の生命と比べれば軽い。

 絶対に放すつもりはない。

 私はその最後の抵抗を受け止め続けるつもりだ。

 その時だった。

 

「わた――――ない―――……!」

 

「……!?」

 

 その痛みが少し弱まると共に今まで言葉を発しなかったボーデヴィッヒさんの口から言葉が出て来た。

 どうやら、「シールドエネルギー」の減少で「VTシステム」の機能が落ち始めたのだろう。

 私はそれを見て後少しだと確信したが

 

「―――欠陥品(・・・)―――んかじゃ―――いんだ……!!」

 

「―――え」

 

 彼女の口から出て来たその言葉には私は後少しで彼女を救えることへの安堵と勝利への確信が吹き飛んでしまった。

 

「いや―――!また、失ぱ―――くなん―――呼ば―――るな―――て!!」

 

「………………」

 

 次に出て来たその途切れ途切れの言葉に私は彼女が何を言いたのかが正直言えばわからなかった。

 しかし、ただ一つ理解できたのは

 

「わたしを―――失敗作(・・・)なん―――呼ば―――で……」

 

 この子が怯えていると言うことだった。

 それは戦場で敵と相対するものや強大な敵に立ち向かうものとは別の物だ。

 これは子供が存在を否定されるのを恐れて親に縋る姿に似ている。

 そして、彼女は何度も自分が「欠陥品」、「失敗作」と呼ばれることに異常に怯えている。

 その時、理解した。

 この子は幼子だということに。

 

「わたしは―――」

 

 再びこの子は懇願するような消え去るような声を出そうとした時だった。

 

「生命に価値も無価値もあるか……!!!」

 

「―――え」

 

 我慢できずにそう叫んでしまった。

 なぜそう叫んだのかは自分でも理解できなかった。

 ただこの子が「欠陥品」、「失敗作」と呼ばれることに怯えていることに腹が立っただけだ。

 それが

 

『私たちは「失敗作」と呼ばれていたわ。

 それでも、そんな私たちでも誰かを守ることは自由よ?

 それって素晴らしいことじゃないかしら?』

 

 今でも私に力を貸してくれている私の大切な戦友のあの高潔な姿を思い出させたのだ。

 確かに彼女の基となった艦は設計に多くの問題はあったと言われている。

 そのため、彼女たちは特型や私たち主力艦隊型の甲型、対空に優れた乙型、それらの完成型とも言える丙型と言った駆逐艦娘よりも期待されていなかっただろう。

 だけど、それでも彼女は戦い抜いた。

 いや、彼女だけじゃない。

 彼女以外の多くの艦娘や艦娘じゃない多くの軍人のような存在もいるのだから、「生命」を価値や無価値等といったくだらない範疇で量らせてたまるか。

 だから

 

「『自分は生きているんだ!!』と胸を張って言いなさい!!

 ラウラ・ボーデヴィッヒ!!!」

 

 この子がそんな他人のくだらない杓子定規で怯える必要などないことを心の底から叫んだ。

 

 

 

 一体、この女は……

 

 何も考えないですむ暗闇にいたのにも拘わらず、突然外の世界と思考が蘇り、再び恐怖を思い出した私はその言葉を耳にした。

 ヤチはまるで私の存在を肯定するような言葉をぶつけて来た。

 それを言ったのがヤチであることに私は驚きを隠せなかった。

 

 なんで……?

 

 どうして、ヤチが私をそこまでこの世界から引っ張り出そうとしているのかが理解できなかった。

 アイツは私をあれだけ嫌悪していた。

 なのに教官と同等の力を得た私相手に挑み、実際に現在進行形で殴られ続けている。

 それなのに私をまるで説得するかのように叫び続けている。

 痛い筈なのに、苦しい筈なのに、恐い筈なのに。

 どうして、そうまで必死になるのかが理解できなかった。

 私は一刻も早く、恐怖を感じないであろう永遠の静寂を得たいと思っているのになぜか足を止めている。

 

『ははは、あいつは本当に変わらんな?』

 

 え……?

 

 突然、私の真横から聞き慣れない女の声が聞こえて来た。

 その声はどこか嬉しそうなものだった。

 私はその声につられて横を見た。

 すると、そこに立っていたのは

 

 ……誰だ、こいつは……?

 

 腰まで届く黒い艶やかな髪を伸ばし、髪の一部を赤い紐で括り、紅い目を持つ、両足のソックスが左右非対称な長さで、セーラー服を着た見知らぬ女だった。

 見た所、学生の様だった。

 しかし、どこかこの女の纏う空気は重かった。

 飄々としながらもどこか凛としている気がした。

 

『相手が誰であろうと生命が懸かっているのならば必死になる……』

 

 女は懐かしむように言った。

 

『……本当は誰よりも戦いに不向きなくせにな……』

 

 女はどこか悔しそうに言った。

 

『……そんな、あいつだからこそ、私は……』

 

 そして、女は悲し気に言いながらも誇らしげ気に言った。

 それはまるでどこか悲哀と憧憬、そして、敬意を持っているように思えた。

 

 お前は……

 

 私はこの女の正体が知りたかった。

 一体、こいつが何を言いたのかが気になってしまったのだ。

 声をかけると

 

私の姉(・・・)は強かっただろう?』

 

 ……()

 

 その女は不敵に笑い自慢気に言った。

 すると、そのまま

 

『……その強さの意味を知ってこい』

 

 え……

 

 その女は私の背中に手を伸ばし、そのまま背中を押した。

 

『……初霜、姉さんを頼む』

 

 その女は私ではなく、まるでこの先にいる誰かに向けて穏やかな笑みでそれだけを残すとどこかへと消えていった。

 その直後、私はあの静かな暗闇から抜け、再び異なる色が存在するあれだけ怖かった外の世界の中にいた。

 けれども、身体はまだ完全に動くことはなかった。

 目の前にいるのは機体の至る所がボロボロになり、髪がボサボサになりながらも私を抱いているヤチがいた。

 

 ………………

 

 あんなにも恐ろしかった外の世界とその中でも最も恐ろしかったヤチが目の前にいるのになぜか自然と恐怖が存在しなかった。

 

 ようやく……理解できた……

 

 私はあることを理解した。

 

 この人に勝てる訳がなかったのだ……

 

 そもそも勝ち負けの概念が違ったのだ。

 敗北を悟りながらも敗北への恐怖もあれ程の存在を否定されることへの恐怖も失くし私はどこか満足してしまった。




雪風がボロボロになっている姿に違和感を感じますが、流石の雪風も避ける気がなければ当たるとも感じました。
あ、ようやく我が鎮守府にも武蔵が来てくれました。
サンホラはいいですね(関係ない)。

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