奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
今更だけれども、パワポケは最高だったと感じます。
しんみり子とかシナリオとかあの曲はその辺のギャルゲーよりもbgm最高でしたし。
「先輩、入りますね」
「ああ、いいぞ……」
全ての処理を終えて、私は自室で謹慎中の先輩の許を訪ねた。
今、最も彼女が知りたいであろう情報を伝えるために私は来たのだ。
「先輩、ボーデヴィッヒさんのことですが……
どうやら、そこまで重い処分は与えられないと思います」
「……そうか……川神、すまない……」
安堵を浮かべると共に開口一番に先輩が発したのは今回の件における謝罪だった。
「先輩、今回の件で私は大したことはしていません。
今回の件で力を主に貸してくれたのは轡木さんと楯無さんです。
それに私は自分の意思でしたい様に動いただけです。
ですから、気に病まないでください」
今回の件で確かに私はある程度は尽力した。
けれども、私がしたことと言えば、一番最初にボーデヴィッヒさんの処分を軽くすることを陳情したこと位だ。
ボーデヴィッヒさんの被害者である鈴音さんの教官であり、箒ちゃんの保護者である私の発言と「もう一人の世界最強」の権威で殆ど強引に黙らせたに過ぎない。
これが権威の私的利用であることには内心、嫌悪感を抱くもそれでも雪風が救った生命を助けられるのならば、甘んじてその不快感を背負うつもりだ。
もう少し早く……こう言ったズルはすべきでしたね……
ただ私は今回のような横暴さを何故箒ちゃんの時に振る舞わなかったのかと後悔に近い感情も感じてもいる。
あの時の私は潔癖過ぎた。
公平無私であろうとし、大切な少女一人を守れない程に弱かった。
そんな私がその大切な少女を傷付けた少女を助けるためにあの時出来なかった横暴を今度はしたのだ。
我ながら虫のいい話だと感じている。
……恨まれますね……
きっとこのことを知れば、箒ちゃんは私をさらに恨むだろう。
「そうか……
……雪風にも後で確りと礼を言わねばな……
アイツがいなければ、きっと……ラウラは……」
「そうですね……
今回、ボーデヴィッヒさんを救ったのは紛れもなく彼女ですね……」
先輩は私が気にしていないことを理解するとこれ以上は何も言うまいと雪風のことをあげてきた。
先輩の言う通り、ボーデヴィッヒさんを救ったのは紛れもなく雪風だ。
それも生命だけでなく、心までもだ。
ボーデヴィッヒさんが雪風のことを訊ねた時のあの様子だと、彼女は雪風に何かしらの影響を受けたようだ。
「……そうだな……
これはただの世迷言かもしれないが……
今回の一連のことで私は教師に向いていないことを痛感させられたよ……」
雪風と言う私の教え子がボーデヴィッヒさんを救ったことで先輩は自嘲しだした。
今回の件で先輩は完全に自信を失いかけている。
自分には他者を指導する資格も素質もないと。
「先輩、それは違いますよ」
「……何がだ?」
そんな先輩の早過ぎる結論に私は異を唱えた。
「私は……いえ、私の基となった軽巡も含めますと、私の教える者としての経験は十年です。
失礼を承知で言わせていただきますが、その私が育てた雪風と教える者として初めて先輩が育てたボーデヴィッヒさんとでは差が出るのは仕方がないことです」
「なっ……!?
確かにそうだが……」
先輩は私の指摘に最初、反発しようとした。
私はその様子を見て安心した。
きっと、今のはボーデヴィッヒさんを比較とは言え私が下に見たことに対する憤慨だろう。
そう言ったことが出来るのならば、それだけ先輩は教え子を大切に出来るはずだ。
これは教える人間としては第一の条件なのだから。
ただ実際、私と先輩とでは単純に誰かを指導する人間としての経歴は違い過ぎる。
「……それに雪風は私の教え子の中でも別格です。
そんな娘を基準にしては他の人間にとっては酷です」
「そうなのか……!?」
「はい……何せ、あの子はたった数週間で実戦に出せる程の娘でしたので……」
「なっ!?」
雪風と言う私から見ても二水戦の白眉とすらいえる彼女を水準にしては全ての人間が苦しくて仕方がないだろう。
あの子が黒潮、初風の二人の姉と初めての二水戦の訓練を受けた時、私はあの三人の中で『この子は大丈夫でしょうか?』と普段の態度とは裏腹に果敢な闘志を持つ那珂ちゃんを見て来た私ですら不安に感じる程にどこか抜けているところがあった。
だが、私の指導した二水戦の娘の中では一番彼女が戦場に出しても生き残れると感じる程にあの子は並外れた才能の持ち主だった。
その雪風を比較の水準にするのは大きな間違いだ。
加えて
「それにボーデヴィッヒさんには先輩のような導く人間はいても、傍らで支え、苦労を分かち合える人間がいませんよ。
そんな環境の中で育った彼女に全ての責任を押し付けるのは酷ですよ」
彼女には雪風にとっての初風、天津風、時津風等の十六駆、磯風や金剛さん、榛名さん、佐世保の提督のような生まれた時から彼女を大事にしていた佐世保の人間、二水戦のような姉妹であり、戦友であり、仲間がいなかったのだ。
つまり、家族の存在がいなかったのだ。
確かにそれを免罪符とするのは違うけれども、他者との結び付きが先輩のような強者であり上司と言う崇拝対象、彼女の部下と言う縦の関係しか存在しない力の有無が絶対的な世界では彼女が暴走するのは目に見えている。
しかも、最悪なことに彼女には家族がいない。
私たち、艦娘も彼女とは同じような生まれではあるけれども、私たちには存在した繋がりが彼女にはなかったのだ。
「私が得ることができたかけがえのない宝物を知る機会を尽く与えられることのなかった少女を責める気には私はなれませんよ。
そして、先輩……それは貴女にも言えることです」
「私にもだと……?」
「はい」
何よりも私は
「教師、教官……その立場は違えども他者を導くと言うことはその二つは変わりがありません。
そして、教師や教官もまた教え子から多くの尊いことを学ぶ機会にも恵まれているものなのです」
「……!?」
「先輩、貴女もまた成長途中なんですよ。
なのに、その機会を自分から棒に振るんですか?」
「それは……」
先輩は経験が浅いだけだ。
たった三年間の経験だけで『自分は向いていない』などと結論を出すのは早計過ぎる。
彼女もまだボーデヴィッヒさんと同じでその短い期間で教え導く者として、己を成長する機会に恵まれなかっただけだ。
「私にも多くの教え子がいてくれました……
もう会うことの出来ない娘たちですが……」
「川神……」
今でも目を瞑って思いを馳せれば二水戦の娘たちのことは思い浮かべることが出来る。
二水戦は誰もが個性豊かな娘ばかりだった。
勇敢な娘、世話焼きな娘、真面目な娘、陽気な娘、元気な娘、苦労人な娘、ちゃっかりした娘、無口な娘、優しい娘、大人しい娘、素直じゃない娘。
全員が全員で多少の欠点はあれども、それでもそれらを含めてもなお尊過ぎる私の宝物たち。
彼女たちのおかげで私は前世も今も戦えると信じている。
なぜなら、そうでなくては私は勇気を奮い立たせることはできなかった。
あの娘たちの教官だったからこそ、私は強く在れたのだ。
「それに貴女もそうだったでしょう?」
「私がだと……?」
一つ私は訂正しなくてはならないことがあった。
彼女はまだ機会に恵まれていないと私は言った。
しかし、それは教師としてだ。
「貴女は一夏君を見て、あの子のお姉さんとして強く在ろうと誓い、ボーデヴィッヒさんの指導をしたことで教師になりたいと決意したじゃないですか?」
「……!」
彼女も私と同じ様に誰かの為に強く在ろうとした。
「白騎士事件」の真相を知れば、彼女のその在り方を嗤う者もいるだろう。
だけど、誰かのために強く在ろうとした先輩の心は間違っていない。
そして、その在り方は確かに一夏君にも受け継がれている。
今のあの子は危ういところや青いところや力が伴っていない所があるかもしれない。
それでもその憧憬を抱き続ければ何時かはその憧れすらも超える時が来るだろう。
あの子の強さはそれを貫けるところだ。
先輩はあの子の強さを見たことで強くなることが出来た。
誰かの輝きを知る機会においては教師と教官は最も恵まれている職だ。
そして、それを意識することが出来る様になったのはボーデヴィッヒさんとの出会いの筈だ。
「どうか、その二つの出会いを無駄にしないでください」
「………………」
既に彼女は二つの貴重な出会いを得た。
今ここで、その二つすらも無駄にするなど勿体ない。
それに私は先輩の可能性を信じたいのだ。
きっと先輩は今は教える者としては未熟かもしれない。
だけど、それは当たり前だ。
人間は誰しも道を間違える時がある。
それは真夜中の海のように。
それでもそんな時に誰かの輝きを灯火にすればいい。
それが新たな航路になるだろう。
そして、それに誰かが続く筈だ。
『目の前を見なさい……!!
私はあなたをそんな柔に育てたつもりはありません……!!』
『旗艦神通応答なし。
これより、雪風が指揮を受け継ぐ!!
我、再度突入する!!』
あのコロンバンガラで私は確かにそれを見た。
何度も何度も心を殺されるような経験をしながらも雪風は前に進んだ。
あの娘の光を見て、私は安堵して沈んで逝ったのだから。
あの時の彼女は私が送った灯りを確り受け取り、それを繋いだ。
あの子がいたからこそ、私はあの決断が出来たのだ。
そのような人の繋がりを私は先輩にも期待しているのだ。
この考えは無責任かもしれない。
だけど、私はそれでも先輩を信じたいのだ。
ただ……次に問題になるのは雪風ですね……
ボーデヴィッヒさんと、先輩と個人的な問題の後に私が危惧したのは雪風だ。
今回、雪風は世界各国が注目するトーナメントで名実ともに「学年最強」、いや、「学園最強」に匹敵する実力を知らしめてしまった。
何よりも殆ど先輩の動きを再現した「VTシステム」相手に彼女は勝利してしまった。
しかも、もしボーデヴィッヒさんの生命が懸かっていなかったら彼女はあんなにボロボロにならなかったはずだ。
世界各国が彼女を引き抜くために動くだけならばまだいいが、下手に探られると非常にマズいことになる。
一層、彼女を守らないといけませんね……
雪風の「IS」は特別製だ。
何よりもあの先輩によって造られたものではない。
私も詳しいことは調べられなかったが、現在、あの「IS」を使えるのは雪風だけだ。
もしそのことが知られれば、彼女に各国の暗部や委員会、「IS」により歪んだ世界の闇が迫る。
しかも、彼女には一夏君と箒ちゃんにとっての織斑先輩、あの先輩、そして、私が存在しない。
裏で私や織斑先輩、轡木さん、更識がいても抑止力になるかが不透明だ。
どんな手を使ってでも私は……
だが、私は二度と同じ失敗を繰り返すつもりはない。
それこそが私の誓いだ。