奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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雪風の水着……
悩んだ末に決まりました……!!


第5話「悩める女たち」

「………………」

 

「どうしたの、雪風?」

 

 朝のSHRは始まる前、外がこんなにも夏真っ盛りで晴れ晴れとしている中、私は気落ちしてしまっていた。

 そんな私の様子を見て心配になったのかシャルロットさんが声をかけて来た。

 

「いえ……その……何でもないです……」

 

 だが、落ち込んでいる理由が理由なので全く話そうとする気になれなかった。

 と言うよりも話したくなかった。

 

 恐らくこの世界ではあの水着が普通(・・)なのでしょうし……

 きっと、他の人に訊いても怪しまれるのが関の山でしょうし……

 あ~……どうすればいいんでしょうか……

 

 相談しようにも今回の件は所謂、価値観の相違が発端だ。

 下手をすればこれが理由で私の正体がばれる可能性もある。

 そういった危険性もあるが、それ以前にこんなことで正体がばれるのは嫌だ。

 

「嘘つかないの。

 そうやって無理するのは雪風の悪い癖だよ」

 

「いや、その~……」

 

 しかし、シャルロットさんは先月の件以降から私が何かを隠そうとするとかなり鋭くなっている。

 しかもその動機は私を気遣う優しさだ。

 何よりも私は先月の件でシャルロットさんに後ろめたさを感じることで最近彼女に頭が上がらない。

 その優しさと友情が痛い。

 

「で、どうしたの?」

 

「え~と、それは……」

 

 完全にシャルロットさんは私が何か隠し事をしていると断定したうえで訊ねて来た。

 何故、今月の私には逃げ場がないのだろうか。

 

「……水着のことなんですけど……」

 

「……?水着?

 あ、臨海学校の?それがどうしたの?」

 

 これ以上、怪しまれるのは危険だと考えて私はなるべく誤魔化しながら悩みを打ち明けようと思った。

 そんな私の悩みを受けてシャルロットさんは一瞬キョトンとした表情を浮かべたがすぐに質問を続けた。

 

「いえ……その……何と言いますか……」

 

 一応言うべきことは決まっているが、『水着を着るのが恥ずかしいから、どうすればいいのか』という言葉が口から出てこなかった。

 しかし、ここで何とかしなければ待ち受けるのは「あの紐」だ。

 あれだけは何としても避けなくては。

 

「……もしかすると、誰かに水着姿を見られるのが恥ずかしいとか?」

 

「……!?」

 

 しかし、何と言う僥倖だろうか。

 なんとシャルロットさんは私の悩みをどんぴしゃりと言い当てた。

 そのことで多少の抵抗感は薄れ最初の一歩を私は踏み出せる気がした。

 

「そ、そうです……!」

 

 私はこの機を逃がすまいと必死にしがみついた。

 

「雪風てプールとか海水浴て行ったことないの?」

 

「あ、はい……

 ちょっと、経済的な理由で……」

 

 私は本当のことは言えないので表向きの理由で誤魔化した。

 そもそも私が生まれた時代の海水浴は水着を見るためのものでも見せるためのものでもなかった。

 加えて、ああいった水着の存在自体がなかった。

 

「あ~……そう言えば、そうだったね……

 ごめん……でも、僕も久しぶりだからその気持ちがわかるよ……」

 

「あ……すみません……」

 

「いや、大丈夫だよ……

 あはは……はあ~……」

 

 私が表向きの理由で誤魔化すとシャルロットさんは個人的な事情に触れたことに対して詫びて、私も彼女の家庭の事情に抵触したことに対して詫びた。

 よく考えてみると、私も彼女も思春期を迎えて成長した身体を異性の人間に晒す機会がないと言う点では同じだ。

 私は生きていた時代や価値観、彼女は親の問題とその動機が全く違うが。

 一瞬にして空気が重苦しくなってしまった。

 

「……本来ならば、こんなことで悩まずに済んだはずなんですけどね……」

 

「そうだね……」

 

 私たちはお互いに女性としての恥じらいを持って初めて水着を着ることは必要だと理解してしまった。

 そして、何よりも今回の件がある一つの要素によって余りにも大きな困難になってしまったのも共通の事実だ。

 

「一夏さんさえいなければ……」

 

「うん……」

 

 それは一夏さんの存在だった。

 恐らく、女子ばかりならば普段お互いの裸を大浴場やシャワールームを使っているので抵抗感が薄れた。

 それの延長線上ないしはそれよりも露出の低さと言うことも助けて。

 しかし、ここに男性の一夏さんと言う存在がいることで今回のことにおける困難、この世界で言うハードルの高さは一気に上昇した。

 別に私もシャルロットさんも一夏さんのことを気になる異性とは見ていないけれど、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

「あの三人が羨ましいね……」

 

「……ラウラさんもですよ……」

 

「あぁ……そう言えば、ラウラに至っては眼中になさそうだしね……」

 

「違う意味でこちらも重いですけどね……」

 

 私は鈴さん、セシリアさん、篠ノ之さん、そして、ラウラさんが羨ましく感じてしまった。

 恐らく、前者三人は一夏さんへの好意とこれをいい機会だと感じて積極的に自らの存在を誇示するだろう。

 そこら辺においては「司令」に迫れなかった私は三人に劣っていると思っている。

 そして、ラウラさんに至ってはそもそも異性に対する羞恥心が垣間見えない気がする。

 たまに殆ど半裸状態で一夏さんの前を横切ったりしようとする度に何度注意したことだろうか。

 あの子はそういったことに無縁だろう。

 けれど、それが助長して私の方へと積極的になっている。

 ある意味では頭が痛くなってくる。後、胃もだ。

 

「あはは……

 こうなるなら、男装している時に一夏に一度でも裸を見せれば良かったかな……?

 そうすれば、水着姿なんてどうってこともないし」

 

「もう少し慎みを持ちましょうよ……

 それにそれだと一夏さんにとんでもない災難が降り注ぎますよ……」

 

「恐ろしいほどに目に浮かぶね、その光景……」

 

「何故か一夏さんはそういったことを引き寄せて、その後に酷い目に遭うのが定番になってますからね……」

 

 シャルロットさんのほとんど自棄に近い発言に私は一応、諫めると同時にそういったことが起きれば今までの経験上、一夏さんにとんでもない災難が起きかねないのでそう言った。

 

「と言うよりもシャルロットさんはまだ一緒に着替えをしたりしていたんですから、大丈夫じゃないんですか?」

 

 シャルロットさんが男装をしていた時のことを思い出して私はふと訊ねた。

 よく考えてみれば、シャルロットさんは一夏さんと一緒に着替えをしていた時期があった。

 だから、少なくとも私よりは一夏さんに水着姿を見られることに抵抗はないはずだと感じたのだ。

 

「あ、あの時はまだこっちもその……

 胸とかがばれないようにしていたから……

 そこまで露出は控えていたし……」

 

「………………」

 

「……あれ?雪風?

 どうしたの?だんまりしちゃって?」

 

 しかし、私はシャルロットさんの口からそう言った言葉を受けて黙ってしまった。

 いや、正確にはとある一つの単語と彼女が伝えたい意味を知ってのことだが。

 

「これが持つ者と持たざる者の格差ですか……」

 

「……え?」

 

 彼女が今、さり気なく口走ったその言葉に私は少し頭にきた。

 

「どうせ肩こりがするとか、視界が狭いとか言うんですよね?」

 

「ゆ、雪風?あの、何を―――」

 

「いえ、何でもないですよ……

 何でも……フフフ……」

 

「―――いや!?

 絶対に怒ってるでしょ!?

 ちょっと、僕、何か気に障ること言った!?」

 

「いえ、怒ってなんていませんよ?

 フフフ……」

 

「なんでそんな風に黄昏ているの!?

 ちょっと、こっち見てよ!?」

 

 久しぶりに身体のとある一部の事で劣等感を感じて私はいじけてしまった。

 

 私だって一応はあるんですよ……

 ない訳じゃないんですよ……!?

 浜風や磯風、浦風たちがあり過ぎるだけで……!!

 

 私は陽炎型の中では比較的にない方だ。

 けれども決して、絶壁でもないし平原でもない。

 一応、人間の少女と比べればゆっくりとは言え成長したからあるにはあった。

 浜風たちが無駄に大き過ぎるだけだ。

 ただ比べること自体に虚しさを感じ、今はその記憶が蘇ったに過ぎない。

 

「どうしたんだよ、二人とも。

 そんな浮かない顔をして?」

 

「……!?

 い、一夏さん……!?」

 

「一夏……!?」

 

 そんな微妙な空気が漂っていると私たちの悩みの種そのものが会話に入って来た。

 普段ならば、彼の登場に対して一切の動揺を見せないが、それでも会話の内容が内容なので緊張してしまった。

 異性としては全く意識してはいないが恥ずかしくて仕方がなかった。

 

「い、いや……

 水着の事で相談してて……

 ちょっと、緊張しちゃって……」

 

「え?そうなのか?」

 

「ちょ、シャルロットさん!?」

 

 何をとち狂ったのか、シャルロットさんは単刀直入に相談事の内容を言った。

 

「仕方ないよ、雪風……

 いっそのこと、ここで一夏に話して本番の恥ずかしさを少しでも紛らわそうよ?」

 

「いやいや!?

 そんなことで紛れる訳がないでしょ!?

 想像されるのと、視られるのでは恥ずかしさの概念が違いますよ!?」

 

 シャルロットさんは一夏さんに水着の事を言うことで水着姿を見られることへの抵抗感を少しは軽くしようとしているが、私たちが抱いている恥ずかしさの概念は見られることへのものであってこの対処法は無意味であり、むしろ余計なことを一夏さんに想像されるという点では逆効果だ。

 と私たちがひそひそとやり取りをしていると

 

「……?

 どうして、水着の事で緊張するんだ?」

 

「……え?」

 

 一夏さんは私たちがなんで緊張しているのかと疑問に思い始めた。

 私は彼がそう思ったことを不思議に思ってしまった。

 そして、私は気づくことが出来なかった。

 これが更なる悲劇の幕開けだとは。




今回のシャルロットの件。
所謂、あれです。二巻のああいった描写がなかったのが原因です。
一つ一つの要素て大事なんですね(すっとぼけ)

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