奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
水着姿、浴衣姿、私服姿……どれも捨てがたい……!
個人的には私服姿は何時もより丈の長いワンピースにジャケットを羽織ったりした感じが似合いそうな気がします。
『はい』
「隊長、私です―――」
『隊長!!どうしましたか!!』
「―――いや、今の隊長はお前―――!?
―――じゃなくて、あなたではないですか!?」
私は先月の件で立場が入れ替わった元部下で元副官で現上官で現隊長のクラリッサに電話を入れたが、クラリッサは私の声を聞くなり、いつも通り以前と変わりがなかった。
降格処分が決まり、慣れない口調で接しようとするが何故か何時もクラリッサはこんな感じだ。
『いいえ!!
隊長は隊長です!!
それ以上でもそれ以下でもありません!!
これは我々、「黒ウサギ隊」の鉄の掟です!!』
「そ、そうか……」
クラリッサは熱弁し出した。
しかし、軍なのにこういった命令系統に支障を来たしかねないことを容認したままでいいのだろうか。
だが、ここまでくると諦めも大事なのかもしれない。
思えば……出来た部下を持ったな……
てっきり、私は「ヴォーダン・オージェ」の失敗で部下や同僚たちから本心から信頼されていないと思っていた。
だから、私は強さに固執した。
強ければ、誰もが私を認めると。
けれども先月の件で私のことを心配したクラリッサを始めとした隊員たちは完膚なきまでに叩き潰されて張子の虎と揶揄されてもおかしくなかった私に一人ずつ激励のメッセージを贈ってくれた。
私が教官一人しか見ていなかったにも拘わらず、部下たちは「ラウラ・ボーデヴィッヒ」という個人を見てくれていた。
部下たちは隊の名に泥を塗った私のことを見放そうとしなかったのだ。
あの時、私は本当に泣いた。
自分の情けなさと愚かさ、そして、決して一人じゃなかったことへの安心感と嬉しさから。
少なくても、私は部下には恵まれていた。
それだけははっきり言える。
お姉様のあの怒りの理由……
今なら、理解できる気がする……
先月の件で私はペアである篠ノ之を故意に攻撃に巻き込んだ。
篠ノ之とははっきり言えば、親しくもない。
ただ篠ノ之束の妹程度に認識に過ぎなかった。
けれども、もしあいつの立場にお姉様、教官、クラリッサや黒ウサギ隊の部下、布仏、相川、夜竹がいたと仮定すれば自分のやったことの愚かさが理解できてしまう。
お姉様は仲間を簡単に見捨てる人間を許せないのだ。
こんなことすらも知らないで私は死ぬところだったのか……
あの時の静けさは確かに一種の安らぎを感じられた。
けれども、今思い出すと恐い。
今はもうあんな経験はしたくないと思っている。
全てが無価値と思わせるような何もない世界が怖い。
そして、今はこう思える。
あんな目に遭いたくない。恐い。この場に居たい。
そう思える様になったのはお姉様が気付かせてくれたからだ。
そう思える様になれただけ、私の人生に意味が出来たと感じた。
……あの黒髪の女にも感謝しないとな……
そして、私の背中を押してくれたあの不思議な女にも私は感謝している。
正体は分からないが、あの女は闇の中で無為に、いや、既に存在していた可能性にも気付かないで終わろうとしていた私を救った。
きっと、あの女がいなかったら私は前に出ることすらも出来なかった。
お姉様が手を差し伸べあの女が背中を押してくれたから私は進むことが出来た。
私は世界を知ることが出来た。
『ところで隊長。
一体、何のご用でしょうか?』
「あ、ああ。そうだったな……
実はな、「臨海学校」が近いので水着をお姉様と買いに来たのだが―――」
『何ですって……!?
それはあの雪風さんとですか!?』
「―――あ、ああ……そうだ……」
私が今回の相談の旨を伝えるとクラリッサはさらに意気を上げた。
ここ最近、私は「黒ウサギ隊」にお姉様との親睦を深めるための方法を相談している。
クラリッサたちも私の命の恩人であり、私を変えたお姉様にも感謝しているらしく快く応じてくれている。
というよりも、最近では隊員内でもお姉様のことをクラリッサと分けるために「雪風お姉様」と呼んでいるらしい。
流石、お姉様だ……
お姉様の魅力は万国共通だ……!
しかし、それは仕方がないと思う。
あれ程、可憐で壮絶で強靭といった一見すると矛盾した性質が調和の取れた美を持つ女性で人の心を惹かない筈がない。
よく考えてみなくても、私が当初反発したり嫌悪していたのは織斑のことだけだけではなく、あの美しさに無意識に嫉妬していたからかもしれない。
成程、私もまた俗物であったらしい。
『……!
雪風さんと水着の買い物と言いましたよね?
となると、隊長もですか?』
「う、うむ……
実はな、水着のことなんだが……
お姉様と一緒に来た友人から
『お姉様に何が一番似合うか?』
と言われたのだが、生憎私は水着に詳しくない……
どうすれば、お姉様を失望させないで済むのだろうか……?」
恐らく、これはお姉様が私に課した試練だ。
きっと、お姉様の美しさを確りと理解しているのかと確認しているのだろう。
故に心の底から私は悩んでいる。
何よりもお姉様は美しい。
その美しさを台無しにせずに済む方法が私には解らないのだ。
「できれば、私もお姉様に可愛い姿をお見せしたいのだが……」
今回の買い物はお姉様の美しいお姿を見ることも目的であるが、同時に私個人の魅力も伝えたいと思っている。
だが、そもそも水着知識に乏しい私にはどうすればいいのかと私は悩んでいる。
幸いにもお姉様は日本人だ。
日本通のクラリッサに相談に乗って欲しいのだ。
『えぇ!?隊長もですか!?』
『それは本当ですか、お姉様!?』
『ああ。
しかし、この問題……
中々難しいですね……いえ、どれも捨て難い……!』
「お前でもそう思うか……」
スピーカー越しにクラリッサの近くで騒ぐ声が聞こえて来たことからいつの間にか隊内全体の議論になったらしい。
「いざとなれば、学園指定の水着という手もあるが―――」
『いけません!』
「―――!?」
私がいざとなったらの保険を口に出した瞬間にクラリッサはそれに対して非難しだした。
『確かにあの学園指定の水着と隊長との組み合わせは男性に対しては強力な破壊力をもたらしますが、折角の機会に勿体ない上に相手は女性の雪風さんです!!
ミステイクにも程があります!!』
「そ、そうか……」
クラリッサの勢いに私は圧されてしまった。
どうやら、私があの水着を着ると男にはかなりの破壊力をもたらすらしい。
今度、織斑相手に使ってみようかと私は好奇心を抱いてしまった。
『ですが……私に一ついい考えがあります』
「……!」
『本当ですか……!
お姉様!』
クラリッサには腹案があったらしく、長引きそうになった課題を一気に解決しようとし出した。
流石、クラリッサだ。
伊達に日本通を自負している訳ではない。
「一体、それはどんなものなんだ?」
私はクラリッサの腹案に乗っかかろうとした。
『お任せを隊長……!!
必ずや、この私が雪風さんの可憐さを引き立てつつ、隊長もお楽しみいただけることをお約束しましょう!!』
「お、おぉ……!」
クラリッサの覇気に満ちた宣言に私は感嘆してしまった。
頼もしくて仕方がなかった。
「はい、ゆっきー。
ニッコリしてね?」
「もう……
勘弁してください……」
これで何着目だろうか。
私はあらゆる水着を着せられた。
幸い、更識さんの最凶の脅し文句であるあの紐は存在しない。
しかしだ。
その代わり、どう見て私には合わないであろう下着の様な水着を何度も着せ替えられ、それを写真に撮られる作業に私は恥ずかしさで気が狂いそうだ。
私は後何回、着替えさせられればいいんですか……!?
全く終わりの見えないこの地獄。
次は何が襲い掛かって来るのだろうか。
終わりが見えないことが終わりなのだろうとすら錯覚してしまう程に私の精神は摩耗している。
「もう。
私しかいないんだから、そんなに恥ずかしがらないの。
それで本番はどうするの?」
「で、ですが……
いくら何でも……というよりも、明らかに私には似合わないものばかりを持ってきてませんか?」
「え~?
でも、何だかんだでそのギャップもいいし、ゆっきーの場合は元がいいから違和感ないんだけどな~」
私は先ほどから着せられ続けている様々な水着に対して抗議した。
今も私は黒い布地の下着に似た水着を着せられている。
もう恥ずかしさで死にそうだ。
それにこれだと子供が背伸びしているように見えて滑稽にすら思えてしまう。
ですが……
一つわかりました……
割と布面積があったり、所々布地が抜かれていたり、前は大丈夫でも後ろが開いている水着の方が恥ずかしいのかもしれません……
それに割と身体の輪郭が出ているのも……「IS」スーツで慣れたつもりなんですけどね……
ワンピース水着なるものが目立ってしまうことを知り、それらを除外して露出の少ないものを確認してみたが、実際は布面積が多いと思っていたものも実は必ず帳尻合わせをしているとでもいうのかどこかしらに露出が激しくなっていたり、煽情的な部分が多い。
どうやら水着とはそういうものらしい。
恐るべし、水着文化。
ラウラさん……早く、帰って来てください……!!
これ以上、本音さんに弄ばれることに戦々恐々となり私はラウラさんが帰ってくることを願った。
少なくとも、この地獄は終わると思ったからだ。
「お姉様~!
ただいま、戻りました!」
「ら、ラウラさん……!!」
「う~ん、もう終わりか~……
残念だな~」
祈りが通じたのか、ラウラさんが帰還した。
今の私には彼女の存在は救世主にも等しかった。
「……はっ!?」
「……え?」
しかし、そんなラウラさんは私のことを見た瞬間に何か衝撃を受けたらしい。
それを見て、私は彼女の反応の原因を考えようと一瞬振り返るが
「あっ……!?」
私は今の自分の姿を思い出して顔から火が出る程に恥ずかしさに駆られてしまった。
「あ、あの……!!ラウラさん、こ、これは……!!?」
私は何とかしてこの話題を避けようとするも
「布仏……」
「ん……?」
「……え」
ラウラさんは何やら神妙な顔で本音さんの方に向き直った。
そして、そのまま
「写真は残しているのか……!!?」
「え!?」
必死な目で本音さんに私の水着姿の写真を撮ったのかを訊ねだした。
「うん、ばっちり♪」
「後でくれ……!!!」
「えええええええええええええええ!!?」
火を見るよりも明らかであったが、ラウラさんが本音さんに私のあられもない水着姿を収めた写真を譲ることを懇願する様を見て私は叫ぶしかなかった。
もう私の精神は限界なのかもしれない。
このままでは……!
えぇい……!!こうなれば、一か八かです……!!
このままでは返って事態が悪化すると思い私は賭けに出ることにした。
私に迷っている暇などはなかった。
「ら、ラウラさん……!
ところでどんな水着が私に似合うと思いますか……!?」
ラウラさんさんが先ほど別れたのは本音さんが投げかけた『私に最も似合う水着』を求めてのことだった。
そして、帰還した彼女の顔は自信に満ち溢れていた。
それは満足のいく答えを得たという証左に他ならない。
「あ、はい!!
確りとお姉様の可憐さを維持しつつ美しさを際立たせるお召し物をご用意したしました!!」
「そ、そうですか……
では、それを―――」
若干、ラウラさんの調子に引き気味になったがそれでもこれでこの地獄から解放されると安息を信じ背に腹は代えられぬと受け取ろうとした矢先だった。
「うん。じゃあ、時間は
「―――え?」
そんな悪夢のような囁きが聞こえた。
「あ、あの……本音さん……それは一体……?」
恐る恐る私は彼女に訊ねた。
私の脳裏に浮かぶ可能性が実現しないことを祈りながら。
「だって、ラウラっちが来たってことは水着は既に決まったてことだし、時間はたっぷりあるしね♪」
けれども最悪の可能性が的中してしまった。
希望を信じていたら、訪れたのは絶望だった。
「い、いえ……で、ですが……!」
「それにまだラウラっちも参加してないし不公平だしね♪」
「そうですよ!
私も生のお姉様の水着姿を見ていません!!
どうか、私にも……!!フフフ……」
「そんな生々しい発言は止めてください……!!
と言うか、怖いです……!?」
ラウラさんの言い方が完全に中年男性のそれだったことに私は抗議するが、制服があちらにあることで私には逃走する手段は失われている。
じわじわと近づいてくる二人には私は壁に追い込まれた。
「じゃあ……いってみよう!」
「ああ……!!」
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
生まれてから初めてであろう情けない悲鳴を私は上げてしまった。
翌日から私はこのことで精神的に不安定になり、誰かに着替えを見られることにすら恐怖を感じしばらく学友たちからも挙動不審に見られるようになった。