奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「篝火さん。大丈夫です」
「……え?」
私はあることを思い出し、篝火さんにこれ以上気にする必要がないことを伝えた。
まずは彼女がこれ以上気負う必要がないことを伝えるべきだと思ったからだ。
「もう一度やってみます」
「え?あ、うん……」
そう言って私はまだ残っている的の方へと向き直り再び突撃を行った。
今からやることはいつもの「逆落とし」とほぼ変わらない。
ただ駆け抜けるだけだ。
けれども、私はある一つの可能性を得たことで新たな戦い方が出来ることを確信した。
いや、正確にはそれは違う。
私がしようとしているのは以前、私が目に焼き付けて来たものと同じなのだから。
まさか……
ほとんど外すことのない距離まで的に接近した私はそのまま
「発射!!」
身体を屈めて重心を右方向に傾けて大きなを弧を描く様にして進みながら左側の魚雷からの雷撃を実行した。
魚雷の進行方向が描くであろう線の方向と的の位置は重なっていた。
その結果
「命中!?
え?え?え!?」
的がただ止まっているだけもあって、魚雷は何の支障もなく命中し私は普段の雷撃の時よりも命中地点よりも間合いを取ることが出来ていた。
篝火さんはいきなり私が新しい兵装を難なく使いこなしたことに驚愕していた。
「雪風ちゃん……?
どうしてそんなすぐに使いこなせたの……?」
かなりの衝撃を受けたのか、篝火さんはすぐに私に訊ねて来た。
それは無理もないことだ。
先ほどまで私は新しく追加された魚雷に対して不慣れそうな姿を見せていた。
そんな姿を目にすれば、今の私の行ったことは誰しもが困惑するだろう。
「……姉妹たちが同じやり方を見よう見まねでやって、私の雷撃が少し似たような感じだったのでそれを応用しただけですよ」
「……え?」
私は彼女を納得させるためにネタ晴らしをした。
「私の雷撃って……?
それって……どういう事?」
かいつまみ過ぎてどうやら言葉足らずだったようだ。
なので私は彼女が更識さんから聞かされているであろう情報を元に説明することにした。
「あなたは更識さんから「初霜」のことをお聞きになりましたよね?」
「あ、うん」
「「初霜」が私の戦友が使っていた艤装、つまり武装に形状が似ているのはご存知ですよね?」
今回の改修で「初霜」の意匠を残そうと配慮してくれたことからこの「初霜」が私の戦友の初霜ちゃんの使っていたものと同じだということは知っているだろう。
その為、彼女がしているであろう勘違いを指摘しようと思ったのだ。
「その艤装と私の使っていたものでは使い方が違うんですよ」
「え!?
艦娘の装備って使い方が違うの!?」
「はい」
彼女のしている勘違い。
それは艦娘の艤装が全て同じ形状や使用法をしていると思っていることだった。
「私の使っていた魚雷は背中に背負う種類でした」
「そうだったんだ……」
私の使っていた魚雷は背中に設置されていた。
時津風や天津風といった同じ陽炎型の一部、島風ちゃん、秋月型の娘たちと同じだった。
「えっと……じゃあ、今のは雪風ちゃんの本来の「逆落とし」……?」
篝火さんはそう確認してきた。今の説明ではそう思っても仕方ないかと思いつつ否定する。
「いえ、少し違います。
確かに少し似ていますが今のはどちらかと言えば、他の陽炎型の姉妹のものですね」
「……はい?」
確かにやり方は以前の私のやり方と似ているには似ているが、魚雷の設置された箇所や発射の仕方が違うのでそう答えた。
「ちょ、ちょっと待って……
同じ陽炎型なのに……それでも違うの!?」
「はい」
篝火さんは混乱しだした。
どうやら、少なくとも同じ陽炎型ならば形状は全て同じものだと思ったらしいが、それでも違ったことに戸惑いを隠せないらしい。
私が今回、模倣したのは陽炎姉さんたちが「二水戦」でしていたものだ。
また、私も彼女たちと同じように姿勢を屈めて雷撃をすることもあった。
それに私にとっては姉さんたちがしていた海面ギリギリまで姿勢を屈めて獲物を狙い敵の側面を抜ける姿はかっこよく感じていた。
それと同じことが出来たのかと思うと胸が熱くなる。
「……あれ?
じゃあ、今まで……不慣れな戦い方をしていたの……!?」
「……不慣れとまではいきませんけど、あまりやったことがないやり方でしたね。
でも、雷撃は基本は同じなので基本さえ押さえれば後は慣れですよ。慣れ」
初霜ちゃんと同じ形態の物はものは初めてだった。
けれども、違和感の正体や多少の調整さえできればすぐに対応できる。
身体に染みついた技術は応用が利くものだ。
それに元々、神通さんの訓練で正面からの突撃は慣れている。
流石、神通さんだ。
あらゆる状況に対応できる基礎を身に付けさせるのはこういった時の為なのだろう。
「……いや、その理屈はおかしいからね?」
「え?そうでしょうか?」
彼女はどうやら納得していないらしい。
しかし、右利きだったのにいきなり左利きにしろと言う程の無茶を言っているつもりは私はないのだが。
確かに最初はどう撃てばいいか困ったが、打開策さえ思い付けば問題ない。
「でも、この左右の魚雷のお陰で戦術の幅が広がったのは本当のことだと思いますよ?」
話題を変える様に私は今回、追加された魚雷によって生まれた新しい可能性について言及した。
「そう?」
「はい。これなら、今までの正面を突き抜ける「逆落とし」に加えて、横に抜ける「逆落とし」も出来ますし、正面を抜ける際に相手に逃げ場所を与えないように左右からの雷撃で挟み込むことも出来ますよ」
そう。試験をしながら思いついたが、今回追加された魚雷は私に新しい戦術を可能にさせただけでなく、今までの戦術をさらに発展させてくれた。
新しい戦術は先程も見せたが、身体を横に抜ける様にすれば「逆落とし」の際の離脱地点を増やすことができる。
離脱先が増やせるのならば、抜けた後に再突入して連続で「逆落とし」叩き込むことも出来る。
そして、もう一つ加わったのは通常の「逆落とし」に左右の新しく追加された魚雷を混ぜることで相手を牽制して本命である中央の魚雷を叩き込める。
それによって、今までの速度で対応できなかった相手にも「逆落とし」を叩き込めるようになったはずだ。
「何よりも真横の相手にも対応できるようになったのはかなりの強みですよ」
そして、何よりも今回の改修の最大の利点は真横の相手にもすれ違いざまに雷撃を直撃させられることだ。
今までもある程度は魚雷の軌道を自分でも調節して来たが、流石に真横の相手にまで当てられる自信はなかった。
実はラウラさんとの「AIC」対策にはこの魚雷の軌道の調節も考えていたがあの戦い方の方が効果的と考えてこちらの方をしなかった。
今回の改修はそういった欠点を全て補えたと言えるだろう。
「………………」
「どうしたんですか?」
私が一通り、今回追加された魚雷についての見解と戦術を言い終えると篝火さんは口を閉ざしてしまった。
「い、いや……
この時間だけでそれを全部思い付いちゃったことにちょっと驚いちゃってね……あはは……」
「え?」
「いや、うん……
まさか、ロケット弾、いや、魚雷に対する雪風ちゃんの熱意がここまでとは思いもしなかったよ……」
「ね、熱意って……
いえ、水雷屋なので確かに愛着はありますけど」
篝火さんは私が戦術を思い付いたことに困惑している。
しかし、熱意と言われても私の魚雷への思いは他の大井さん達水雷屋の人達と比べればまだまだだ。
ただ水雷屋としての矜持は持っているのは事実だ。
「それでも否定しないところは流石だね」
「う……確かにこれでも私は元「華の二水戦」ですので、雷撃戦への思い入れはありますね」
「やっぱり、君は川神さんの教え子であることを感じさせられるよ。
あの子も「逆落とし」に対しては情熱を垣間見せていたし、君がその「華の二水戦」の一員で、彼女はその教官だからね。
確かな繋がりを感じさせるよ」
「そ、それは……ありがとうございます……」
私にとっては母にも等しく、尊敬すべき恩師であり、憧れである軍人である神通さんとの繋がりを指摘されて私は照れると同時に嬉しくもあった。
どれだけ時が流れようとも世界が違っても彼女に鍛えられ指揮下に入り共に戦えたことはかけがえのないものであり私の誇りだ。
いや、神通さんとの思い出だけじゃない。
私にとっては「あの世界」で出会えた全ての人間との思い出はかけがえのないものだ。
死別を繰り返し、その度に無力感と悲しみと憎しみに襲われたのも事実だ。
今でも、後悔に駆られる時がある。
それでもあの時代に出会った人々との思い出は大切なものに変わりはない。
「それじゃあ、次は「葵」の方をお願いするよ」
「……はい」
私が物思いに耽っている間に時間は過ぎ、私にとっては不慣れな白兵戦の試験運用の時間になっていたらしい。
……少し鈴さんの戦い方にも憧れているんですよね……
気持ちを切り替えて訓練の方に気を移しながら、私は白兵戦のことを想像しながらそう思った。
実は私は鈴さんの強襲に憧れている。
あの白兵戦と砲撃戦を交えた戦い方は同じ突撃戦術を真骨頂とする身としては水雷屋としては胸が熱くなる。
どうやら私は骨の髄まで水雷魂が染み付いているらしい。
とても喜ばしいことだ。
「じゃあ、雪風ちゃん。
先ずは「葵」を抜刀した状態からね」
「はい!頑張ります!」
新たな水雷戦術を得られる喜びに私は意気揚々追加された最後の武器「葵」の試験を開始した。