奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第15話「ケジメと後悔」

「と、とりあえず。

 一夏さんはあちら側で自分の水着を……!

 私はシャルロットさんと彼女の水着を選んできますので……!」

 

「お、おう……!

 わ、わかった……!」

 

「じゃ、じゃあ、行きましょう。

 シャルロットさん……!」

 

「う、うん……

 ごめんね」

 

 先日と同じ衣服店に着くと流石に私とシャルロットさん同様に恥ずかしいと思ったのか一夏さんとはお互いに違う売り場で水着を買うことになった。

 一夏さんも気まずいらしく、躊躇いがちに従い、シャルロットさんは今回の件の引き金を引いたことで後ろめたさを感じているようだ。

 火薬を詰めたのは一夏さんであり、私でもあるのでこれ以上彼女を責めるようなことがしたくないのが実情だ。

 

「いえ、私は大丈夫ですので……

 とりあえず、一緒に水着を見ましょうね?」

 

「……うん」

 

「それでは、一夏さん。

 また、後で」

 

「おう、分かった。

 じゃあ、後でな」

 

「ありがとうございます。

 では、後で」

 

「うん。一夏もゴメンね?」

 

「い、いや、大丈夫だから……

 その子犬染みた見上げ方はやめてくれ」

 

「え?えっと、わかった……」

 

「い、行きましょうか。

 シャルロットさん」

 

 シャルロットさんの上目遣いに一夏さんもタジタジになった。

 その気持ちは分からなくもない。

 彼女のあの上目遣いは庇護欲を掻き立てる。

 恐らく、あれは彼女が長きに渡る不遇な生活によって卑屈になってしまい、他人に迷惑をかけまいと常に配慮しようとすることで無意識のうちに培われた武器だろう。

 ラウラさんの無邪気な子供っぽさとは別の意味で強力な武器であり、ラウラさんの子供っぽさが天性のものならば、このシャルロットさんの武器は環境によって身に着けてしまったものだろう。

 

「でも、雪風……

 ごめん。こんなことに巻き込んじゃって……」

 

 一夏さんと別れて開口一番にシャルロットさんは再び私に謝って来た。

 

「仕方ありませんよ……

 元はと言えば、私も冷静になるべきでしたし……

 それに今回は私は水着を着ませんので特に問題はありませんよ」

 

 そもそも彼女がこんな行動をしてしまった背景には私にも責任がある。

 あの時、私もつい感情的になって、一夏さんを見返したいという大人気ない動機であんな振る舞いをしてしまったのだ。

 そして、何よりも

 

「元々、あの日の放課後にシャルロットさんも誘うべきだったのに誘わなかった私の落ち度ですよ。

 流石に一夏さんに水着姿を見せたりはしませんけど、女子の私がいることで少しは気持ちに余裕が出来ると思いますので……

 それで今回のことを許してくれるとありがたいと思っていますよ」

 

「ごめん……

 ありがとう」

 

「いえ、どういたしまして」

 

 よく考えてみなくても、本音さんとラウラさんと買い物に行った日にシャルロットさんを誘っておけば、彼女もこんな早まった行動はしなかったはずだ。

 それに彼女は今回、たまたまタガが外れたが、普段の生活面においては常識人だ。

 彼女さえいれば、前回私の身に降り注いだ悲劇は回避できたのかもしれない。

 

「でも、一つ問題があります」

 

「……問題?

 何、それ?」

 

 ようやく彼女が立ち直り始めたのを確認して私はある問題を指摘しようと思った。

 その問題はとても単純なものだ。

 それは

 

「私……あまり、水着に対しては詳しくないんですが……」

 

「あ~……そういえば、そうだったね」

 

 私の水着知識のなさだった。

 本音さんたちに散々弄ばれて色々と水着を着せられていたが、恥ずかしさのあまり、一刻も早くあの時間が終わって欲しいと願い続けた結果、私はあの時間帯の記憶が曖昧だ。

 その為、一体、どんな水着がいいのか見当も付かない。

 

「ねえ?雪風って、どんな水着を買ったの?」

 

「え?それは……」

 

 けれども、幸い自分がどの様な水着を買ったのかは覚えている。

 

「えっと、それは……その……」

 

「あれ?」

 

 ただ自分があの手の水着を着たという事実に私は舌が回らなくなってしまった。

 しかし、それは水着に対する羞恥心によるものだけではなかった。

 

 意外に気に入っているなんて……言えません……!

 

 私が憚る理由。

 それは買った水着が割と可愛らしいと口が裂けても言えなかったからだ。

本音さんに遊び半分、ラウラさんに欲望全開で着せられた数多くの水着群にはただ恐怖しか覚えていなかったが、ラウラさんが何処から仕入れたか分からない基準で持ってきた本命の水着に関しては可愛らしいと素直に思ってしまったのだ。

しかし、やはりどれだけ可愛らしくても肌の露出が多いためにそれを明かすとはしたないと思われそうな気がして素直に言えないのだ。

 

もし私がこの時代に生まれていたら……

こんなに恥ずかしがることはなかったんでしょうか?

 

ふと私は思ってしまった。

私の恥ずかしっぷりは周囲と比べれば、異常だと嫌でも自覚してしまう。

同じ様に恥ずかしがっているシャルロットさんにしても、水着自体にはそこまで抵抗感がない。

それは私の生まれ育った時代が影響しているのだろう。

もし私がこの時代に生まれ、育ったいたのならばここまで強い羞恥心も抵抗感も抱かなかっただろう。

そんな意味のない自問自答に陥りそうになった時だった。

 

「あれ?雪風。

 電話、鳴ってるよ」

 

「え?あ、本当ですね」

 

突然、電話がかかってきた。

水着のことを聞かれていて、答えに窮していたので助かったとも言える気がした。

 

「一夏さんからです」

 

「え?一夏から?」

 

「はい。とりあえず、出てみますね」

 

意外なことにそれは一夏さんからの着信だった。

別れてから、まだ20分も経っていないというのにどうしたのだろう。

 

「はい。もしもし」

 

『あ、雪風か?』

 

「はい。

どうしたんですか、一夏さん。

こんなに早く、電話をかけてきて」

 

『いや、水着を買い終わったんだけど……』

 

「え!?

 もうですか!? 」

 

 予想外な内容に私は驚いてしまった。

 いくらなんでも早過ぎないだろうか。

 

「?

 雪風、どうしたの?」

 

 私の驚き様にシャルロットさんは不思議に思ったらしく声をかけてきた。

 

「いえ……

 一夏さん、水着を買い終えちゃったらしいです……」

 

「え!?もう!?」

 

「はい」

 

 私が即座に一夏さんが水着を買い終えたことを伝えるとシャルロットさんは私と同様の反応を示した。

 まさか、こんなにも早く一夏さんの買い物が終わるとは思わなかったのだろう。

 

「男子の買い物ってこんなに早く終るものなんだ……」

 

 恐らく、私同様に異性と買い物をしたことがないシャルロットさんはこの短い買い物の時間に男女の感性の違いを感じているだろう。

 実際、私も「十六駆」の姉妹とは休暇と外出の申請が通った時にたまの休みを満喫する時にお姉ちゃんや天津風に言われるままに百貨店に連行されていたので同性との買い物は割と多くしてきたが、異性との買い物は初めてだったので今回のことは衝撃を受けてしまった。

 

『そっちの方はどうなんだ?

 時間がかかるなら、他の場所で少し時間を潰すけど』

 

「え?ああ、そうですね……

 こっちはまだ目星すらついていませんので」

 

 何故、待ち合わせの時間を考えなかったのかと今さらになって後悔してしまった。

 私とシャルロットさんはまだ私がどの様な水着を買ったのかという殆ど世間話染みたことしかしていない。

 まさか、こんなにも早く一夏さんの買い物が終わるなんて思いもしなかったのだ。

 

「あの……雪風……」

 

「……?

 どうしたんですか、シャルロットさん?」

 

 私が切羽詰まった詰まっているとシャルロットさんが妙に引っ込み思案気味に何か言おうとしていた。

 その顔は妙に赤くなっていた。

 

「一夏にこっちに来て欲しいって伝えてくれないかな?」

 

「……え!?」

 

 その次にシャルロットさんはとんでもない提案をしてきた。

 一体、彼女は何を考えているのだろうか。

 まさか、この期に及んでまだ意地を張ってしまっているのだろうか。

 

「ごめん、ちょっと貸して!」

 

「あ!?」

 

 私が動揺していると彼女は私の手から携帯を奪い取った。

 

「えっと、一夏、聞こえる……?」

 

『あれ?シャルか……?

 どうしたんだ、いきなり?』

 

 私の耳にかすかながら聞こえて来る声からいきなり電話の相手が代わったことに一夏さんは戸惑っている様だった。

 

「……えっと、その……

 ちょっと、こっちに来てくれないかな……?」

 

「え!?何でだ!?」

 

 シャルロットさんの口から出て来た衝撃的な発言に一夏さんはかなり動揺しているのが携帯から聞こえて来る声の大きさから簡単に理解できてしまった。

 

「と、とりあえず来てくれないかな?

 そ、それじゃあ……!!」

 

『え!?ちょ、待っ―――!?』

 

 しかし、シャルロットさんは押し切る形で一夏さんにこっちに来るように頼みこみ電話を切った。

 この手のやり方は強引ではあるが、割と効果的であり恐らく、一夏さんもなし崩し的にこちらに来ることになるだろう。

 

「ふ~……

 えっと、ごめん、雪風」

 

 彼女は通話が終わると一方的に私から携帯を奪い取ったことと私を話の置いてきぼりにしたことへの謝罪と共に形態を返してきた。

 

「……シャルロットさん、一体どういうつもりで今のようなことをしたんですか?」

 

 多少、抵抗感を感じるが、それよりも私は何故彼女が先ほどの件があったのにも拘わらず、こんな行動をしたのかをその心意を訊ねたかった。

 先程の件で彼女がたまに感情的になって暴走することは把握しているが、それでも彼女は素直に自分の悪いところを見詰め直し、同じ様な過ちを少なくても直後に繰り返すような人間だとを私は信じている。

 そんな彼女が今の行動をした理由を私は知りたかったのだ。

 

「……ちょっと、()()()をつけたくて……」

 

()()()ですか?

 一体、それは?」

 

 彼女は照れ臭そうに『ケジメ』と言った。

 一体、彼女は何を思ってそう言ったのだろうか。

 

「……今回のことは僕が勝手にやっちゃったことだからね……

 せめて、自分だけでも最初の目的を果たさなくちゃいけないと感じちゃったんだ……」

 

「え……」

 

「一夏に水着姿を見てもらうことにするよ」

 

「え!?」

 

 彼女は恥じらいを顔に浮かべながら、心の中の恥ずかしさの重りを引き摺らせているのかの様に最初、小さな声で言いだしたが、徐々に決意でそれを振り切る様に強さを顔に出した。

 私は彼女のその様子に困惑してしまった。

 

「えっと……

 どうして、そう思ったんですか?」

 

 思わず、彼女の決意に圧された私は何故、彼女がそう考えるに至ったのかを訊いた。

 既に彼女が何をしたいのかを理解した。

 ただ彼女がそうまでしてある種の覚悟の様なものを見せたのかが気になってしまったのだ。

 

「……()()したくないから」

 

「……()()?」

 

 今度は『後悔』と言う言葉が出て来た。

 確かに覚悟を生むのは『後悔したくない』と言う感情が動機になるだろう。

 しかし、一体、彼女は何を後悔するのだと言うのだろうか。

 

「僕さ……

 自分のワガママで一夏や雪風を巻き込んで、自分だけ何も損をしないでいるのが恥ずかしくて……

 それが情けないと思っちゃってね」

 

「……!

 シャルロットさん……」

 

 彼女の言う『後悔』とは恐らく、自分が言い出しっぺにも拘らず、私や一夏さんをこの買い物に付き合わせておきながら、当初の一夏さんに水着姿を見せないと言うことをしないでいることへのものだろう。

 

「だから、せめて……

 これぐらいのことは耐えようって思ってね」

 

 彼女はそんな自分が嫌だと感じたのだ。

 自己嫌悪と言うのはとても辛いものだ。

 彼女はそんなことをしたくないから、後悔しない選択をしたのだろう。

 

「そうですか……

 それなら、仕方ありませんね」

 

 彼女を止められないと私は感じてしまった。

 恐らく、彼女を突き動かしているのは罪悪感もそうだが、ここで何もせずにいたらそれこそ後悔するということを他ならない彼女が理解していることにあるのだろう。

 何よりも彼女は恥を知っているし、感受性が強く傍観者でいられない性質の持ち主だ。

 きっと、何もしないでいれば、後悔し苦しむことになるだろう。

 

「では、一夏さんもそろそろ来るでしょうし。

 もう少しだけ、待ちましょうか?」

 

「うん、ありがとう」

 

 既に今の会話でまたもや時間を潰してしまったので一夏さんがこの売り場に来るのも近いだろう。

 

「お~い、二人とも」

 

「あ、一夏さん」

 

「一夏、わざわざごめんね」

 

「え?あ、いや、それよりもシャル。

 さっきのは一体……」

 

 噂をすれば、何とやらで早速一夏さんはこの場に姿を現した。

 一夏さんは着くとすぐにシャルロットさんに先ほどの電話の件について訊ねだした。

 その時だった。

 

「そこのあなた」

 

「ん?」

 

 突然、会ったことも名前も知らない女性から呼び止められた。

 




ただ水着を買うだけなのになんでシリアスになっているんでしょうか?

次の話での雪風の行動は割とかなり違和感を感じると思います。
実際、下書きを書いていて私も悩みました。

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