奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「ああ、知っているとうことはなんと恐ろしいことか!?」
……本当に「知る」と言うことは苦しいことだと思います。
今回の場合は先に知るのではなく、後に知ったですが。
「雪風、災難だったね」
「……いえ……私なんかよりも一夏さんの方が……」
試着室の前で一夏さんに待っててもらい、カーテン越しにシャルロットさんに先ほどの件のことを慰められるが、私が原因で一夏さんがぶたれたこともあり、私は心が苦しかった。
一体、どうしてあんなことになってしまったのだろうか。
私はやはり、相手を無意識のうちに怒らせてしまうような性質の人間なのだろうか。
よく考えてみれば、入学式初日から私はかなり数の相手にケンカを売って来た。
もしかすると、諸々の騒動の原因は私なのではないだろうか。
「……そうだね。
でも、一夏も言ってたけど、雪風がああいう風に言ってくれたのは一夏にとっては嬉しかったと思うよ」
一夏さんが言ったようにシャルロットさんも同じことを言った。
「ですけど……」
一夏さんも私の行動を否定してくれなかったが、それでも私が首を突っ込んだことで今回の件は事態を悪化させてしまったのも事実だ。
それがあまりにも苦しくて仕方がなかった。
「これ以上気にしないでよ……
でも、雪風はすごいよ。
「……
何ですか、それは?」
私が落ち込み続けるのを見て、シャルロットさんはそれを止めるのではなく私を称賛しだしたが、私はシャルロットさんの口から出てきた『
一体、何のことだろうか。
「……?
だから、女性が圧倒的に優位な世の中なのにそれを気にしないで、一夏を庇ったことだよ。
それも真正面から。
でも、ああいった無茶はあまりしないでね?」
「……え」
シャルロットさんのその説明の意味が私にはすぐには理解できなかった。
いや、きっとそれを理解することを私の中の理性や感情が全力で拒絶したのだ。
「……何ですか?それは……」
未だに思考が覚束ない中で私は恐る恐る確認を求めてしまった。
「……?
いや、だから「女尊男卑」が普通の社会であんな風に口に出せたのは勇気があると思うんだけど……」
「……!?」
『
その水着、片付けておいて』
『お、
『うっさい!!
黙らないと、あなたの
『じゃあ、どうしてその
シャルロットさんに説明されたことで今さらになって私はあの女性の言葉の意味がようやく理解できてしまった。
そして、同時に泣きそうになってしまった。
まさか……そんな理由で……
制度的な意味で女性が優遇されたり、「IS」の戦力的な意味での「女尊男卑」はある程度理解していた。
けれども、まさかこんな無法までもが罷り通るとは思いもしなかった。
「……うっ!」
余りの悔しさに動悸が激しくなり思わず嗚咽まで漏らしそうになった。
私はそれを耐えようとした。
ここで私がその無念を晒せば、私のこの世界における異物感を露呈することになる。
何でですか……
何で……何でそんな理由で他人を……!?
以前、セシリアさんとの一件でこの世界では男性が一般的に見下されていることは理解していた。
いや、理解していたつもりだった。
あくまでも私はそれをある種の技術や素質的な意味だと思っていた。
『いいか?
艦娘は我らの希望だ!
一人でも多く生き残らせるのだ!!
生命の懸け処はここだ!!
一人でも多く生き残ってくれれば、必ず戦局を変えてくれる!!』
かつて、とある人間の将校が撤退戦の際に部下の人々に語った決死の覚悟。
あの時、それを偶々、私たちは耳にしてしまった。
あの人たちは自分たちを犠牲にしてでもを生かそうとした。
それは私たちを妻や恋人、娘、姉、妹といった本国に残している愛する女性と重ねての意味でもあった。
だが、同時にあれは私たちに対する言葉通りの希望でもあった。
深海棲艦の中には軍艦と同等の大きさのものもいたにはいたが、その殆どが人間と同じ大きさだった。
しかも、深海棲艦にはPT小鬼群程度の大きさのものにしか人間の銃器では対抗できず、倒すには戦車砲か軍艦の砲撃、それらと同等の威力を持つ妖精さんの力が込められた艦娘の装備しか通用しなかった。
軍艦と同程度の大きさならばともかく、人間と同じ大きさの相手には人間の軍艦と戦車が当てるのは至難の業だった。
敵の艦載機ならば対空射撃で撃ち落とせるが、それでも本命である人間大の深海棲艦相手には不向きだった。
その為、
あの将校の発言は自分たちが敵を倒せない分、せめて
彼のあの言葉は深海棲艦を倒すことに不向きな自分たちでも出来ることをやろうとしていただけだったのだ。
それが本国に残されていた全ての愛する人々の未来を守れる唯一の手段だと彼らは信じていたのだ。
人間と艦娘。
その違いとそれぞれの務めを知る身としては「IS」の適正に関しては涙を呑んである程度は理解できた。
それでも彼らのあの覚悟を嘲笑うようなことは許せなかった。
あの時、セシリアさんたちに怒ったのはそれが理由だった。
彼女たちの場合は「IS」という存在による慢心、若さゆえの未熟さと言う意味では仕方のないものであったのかもしれない。
でも、先ほどの女性の在り方は信じられなかった。
あの時のセシリアさんたちはあくまでも見下している程度であり、実際に男性を害そうとしなかった。
だけど、先ほどの女性の行動は相手を見下すどころか、相手を同じ人間だとすら見ていなかった可能性もあったのだ。
あの時、あの女性は脅迫してくる様に私に一夏さんのことを出してきた。
内心、私は一夏さんが恋人扱いされたことへの恥ずかしさもあったが、実は一夏さんを害そうしていることへの憤りがあった。
あれはつまり、本当に一夏さんを何らかの方法で害を加えようとしたのだ。
私はなんてことを……
そのことに対して、私は自分の軽はずみな言動が一夏さんを危険な目に遭わせていたことに気づきその恐ろしさと共に悲しみを募らせてしまった。
どうして……
どうして、そんな簡単に他人を酷い目に遭わせられるんですか……!?
あの女性の様子から彼女は一夏さんを、いや、男性を扱き使うことを当たり前だと考えているか、逆らったり、反抗すればすぐにでも躊躇なく害そうとするしているのだろう。
余りにも酷過ぎる。
そんなことを平気で出来る人間がいるとは思いもしなかった。
私は今まで、制度的な意味で「女尊男卑」の特権はあるとは思っていた。
あくまでも
でも、今回のは
それは
「私は―――」
「雪風、どうかな?―――
―――え」
「―――あ」
あまりの悲しい現実に打ちひしがれていたことで時間の感覚と周囲の様子を確認することを忘れていたことで気を持ち直すことが出来ず、シャルロットさんに今の私の表情を見られてしまった。
「雪……風……?
どうしたの……?」
「あ、え……
こ、これは……その……」
シャルロットさんは私の異常に気付き私のことを心配しだした。
けれども、私は彼女に心配して欲しくなくて誤魔化そうとするが、「女尊男卑」の本当の意味、いや、その一面を理解したことでそれがもたらした悲しみと悔しさが理由で言い逃れの方法が見つからずにいた。
「わ、私は……」
そもそもシャルロットさんは私が別の世界の人間であることも「女尊男卑」を嫌悪していることも知らない。
それに先ほどの一件であまり怒っていなかったことで今の私の様子は明らかに不自然だと思われてしまう。
完全に逃げ場を失ったと私は思った。
「……え」
そんな時だった。
突然、肩を掴まれた様な感覚を感じそのまま引き寄せられた。
そして、そのまま暖かい何かに包まれたような気がした。
私は訳が分からず、その正体を知ろうとした。
「……シャルロットさん……?」
私が顔を上げると、シャルロットさんが私のことを抱きしめていた。
その行動の真意が理解できず、私は混乱してしまった。
「……
「……え?」
戸惑っていた私にシャルロットさんは優しく諭した。
「……雪風のその表情って、辛いことを我慢している時にしている顔だよね」
「……そ、それは……!」
シャルロットさんは私が何故辛いと感じているのかは分かっていなかったようであるが、それでも私が辛いと感じているのを察したことでこの行動に至ったらしい。
私の苦しみを少しでも紛らわせるように。
「……いいんだよ、喋らなくても……」
そのまま彼女は続けた。
「……本当のことって隠すのも辛いし、それを打ち明けるのだって怖いもん……
そのことは僕が一番知ってることだもん……
だから、
「シャルロットさん……」
かつて企業スパイとして一夏さんを騙したことを今でも悔やみ、本当のことを話すことを恐れていたシャルロットさんは同じ痛みを知る人間として、私の持つ苦しみの一端を理解した。
そして、私が本当のことを話すことが出来ないことをわかったうえでそれでもなお慰めようとしてくれたのだ。
まるで母親が泣きじゃくる子供を抱擁するかのように。
……神通さんや金剛さん……お姉ちゃんみたいです……
一回り年齢が下のシャルロットさんに神通さんを含めた人々が持つものと同じぬくもりを私は感じてしまった。
少し、恥ずかしかったがそれでも私はそれで少しだけだが楽になった気がした。
「……ありがとうございます。
シャルロットさん」
「どういたしまして」
私は彼女の優しさから出た行動に感謝した。
きっと、彼女に弱さをさらけ出さなかったら先ほどのことは何時までも私を苦しめ続けていただろう。
私のその様子を見てシャルロットさんも安心したのか放した。
「お~い、雪風。
まだ―――いっ!?」
「あ、一夏さん……?」
少し時間がかかったことで状態を確かめに一夏さんが来た。
その直後だった。
「い、いいい、一夏!!?」
「……?
あ!?」
一夏さんとシャルロットさんの様子がおかしく、どうしたのだろうかとその原因を探ろうとシャルロットさんの方を向いた瞬間、私はその理由に気づき私も二人と同じ心境になった。
私たちが動揺した理由。
それはシャルロットさんの今の状態にあった。
今、シャルロットさんは水着姿だった。
夏の太陽を意識させるような明るい黄色を基調とし腰には縦縞の模様が施されている腰巻の様な布があり、この年齢の女子としては大人びた身体をしたシャルロットさんの可憐さを際立たせていた。
その姿はとても大胆だった。
先程、彼女に『本気でそれを着るんですか!?』と訊ねたが、彼女は『お、オシャレに手を抜きたくないから……!!』と大変乙女らしい発言をした。
流石、芸術の都パリが首都であるフランスの人間だ。
美意識がとても高いと感心してしまった。
けれども、今の状態はマズい。
やはり、異性相手に水着姿を見せることはとても勇気がいることだ。
それなのに不意打ちに等しい形で一夏さんが来てしまったのだ。
と言っても、これは一夏さんが悪いわけじゃない。
シャルロットさんが私を抱きしめるために個室から出て来たことで一夏さんの死角から外れてしまったのだ。
その原因は私に在る。
……て、この格好で私は抱きしめられてたんですか!?
そして、もう一つとんでもないことに気づいてしまった。
私は水着姿のシャルロットさんに抱きしめられていたのだ。
それに気付いたことで途端に恥ずかしくなってしまった。
「あ、ああ……!?」
「わ、悪い……!!
まさか、出て来てたなんて……!?」
「あわわ……!?」
シャルロットさんも一夏さん、そして、私もあまりの恥ずかしさでどうすればいいのか分からなくなっていた時だった。
「……何をしているバカ者……」
呆れが込められた違う人物、それも聞き覚えのある声がしてきた。
どうして、雪風が前回の女のことに気付かなかったのか、その理由は簡単です。
雪風が純粋過ぎたことです。
そんな馬鹿げた理由で他人を奴隷同然の扱いをしたり、他人の人生を滅茶苦茶にしようとするなんてことは思いもしなかったことです。
相手を見下すことはあっても相手の人生をただ気に食わないからと言って滅茶苦茶にしようなんて人は先ずいないでしょうし。
制度的な意味での「女尊男卑」しか知らなかったのも大きな理由です。