奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「よし、もう大丈夫ですね」
「ふ~、終わった」
「ま、安全のためだから仕方ないと言えば仕方ないけどね」
最低限の準備運動をしてもう十分だと感じた私がそう言うと相川さんと矢竹さんは多少面倒くさがっていたが、これから思う存分遊べると思った瞬間に目を輝かせた。
ちなみに今回の準備運動は比較的に軽めのものにしておいた。
やはり、遊びに来たようなものであるので本格的にやるのはそれはそれで場違いだと思ってのことだ。
それでも、安全は確りと確保したつもりだ。
「あっ、あっ、ああっ!?
な、何をしていますの!?」
「ん?」
準備運動を終えた瞬間、突然賑やかさがあるのでとても穏やかとは言えない浜辺であるが、突然、その特徴的な何処か神戸生まれの重巡、後に航巡染みた口調の叫びが騒がしく思えた。
一体、何の騒ぎだろうと思い、その声がした方へと振り向くと
「なあっ!?」
そこには私としては想像を絶する光景が存在していた。
「うわー、一夏……」
「またか……」
「おりむー……」
「いいなー」
「凰さんて積極的だよね?」
こ、この格好で肩車!?
え、えええええええええ!?
そこに在ったのは水着姿にも拘わらず、一夏さんの肩に跨っている体勢、つまりは肩車をしてもらっている鈴さんとそれに抗議しているセシリアさんだった。
私が衝撃を受けたのは鈴さんが既に高等教育を受ける年齢になっても肩車をしてもらっていることだけでなく、その相手が男性であり、なおかつ殆ど下着同然の格好に等しい姿である水着姿という状態にも拘わらず。男性の後頭部に自らの下半身が密着しているのを平気でいる状態だった。
「あ、織斑君のところに他の娘たちが」
「『交代制』て言葉も飛び交っているね。
私も並ぼうかな?」
「それ、いいかも」
「え!?本気ですか!?」
相川さんが言う通り、我先へと一夏さんの下へと女子生徒たちがわらわらと押しかけて来た。
恐らく、鈴さんの肩車を見て、一夏さんが何かしらの奉仕をしていると誤解しているのだろう。
……よく先を競えますね!?
相川さんや夜竹さんを含めた他の女子生徒たちの積極性に私は驚愕し、戦慄した。
あんな恥ずかしいことをよく先を競えるなと本気で思っている。
そんな風に女子生徒たちが集まり出していると一夏さんの表情に焦りが滲み出し、慌てて自分の肩に乗っている鈴さんに何かを告げ、鈴さんもしょうがなさそうに、それでも満足した表情をしてそのまま飛び降りて掌で着地し、華麗に体操選手の如く宙返りを決めた。
な、生身の運動神経もすごいですね……
私は鈴さんのその猫の様なしなやかな動きに恐れ入ってしまった。
流石、身体能力面では神通さんにも一目置かれるほどの妹弟子だと頷くことしか出来なかった。
「鈴さん……?
今のは些か、ルール違反ではないかしら……?」
セシリアさんは鈴さんの肩車に対して、掟破りと詰め寄った。
いえ、そもそもこういうことに
セシリアさんの物言いに私は首を傾げてしまった。
恋愛のことに関しては私も偉そうに言える立場ではないが、基本的に横恋慕や浮気、略奪愛、気持ちの押し付けさえなければ、恋愛においては全てが許容されると私は考えている。
その点、鈴さんはすごいと思う。
彼女は全く、躊躇うことなく積極的に一夏さんに攻勢をかけているのだから。
「司令」相手に想いすら伝えることも出来なかった私からすれば眩しくて仕方がなかった。
でも、一夏さんに何らかの被害が発生する確率も上がるんですけどね……
一夏さんを巡る恋する乙女たちの闘争を尻目に私は勘違いして肩車をせがむために集まって来た女子生徒たちへの対応に追われて必死そうな一夏さんを見て少し、憐れみを感じた。
一夏さんに恋している乙女たちがそれぞれ対抗心を燃やすのは仕方のないことだと思うけれど、それでも他の興味本位の生徒たちまでもが一夏さんに負担をかけてしまうのはどうにかならないだろうか。
「そんなこと言って、どうせセシリアだって一夏になにかしてもらうんでしょ?
じゃあいいじゃん。
ねえ?」
鈴さんは自らに文句を言ってくるセシリアさんをあしらおうとセシリアさんに自分も同じ狢であると言おうとしていた。
……いや、いくら何でも、水着姿での肩車より過激なことはしないでしょう……
鈴さんの挑発めいた発言に流石にこれ以上のことはないと思ったが。
「いえ、それは……」
……え。
まさか、水着姿の肩車と同じかそれ以上のことをしてもらうつもりなんですか!?
鈴さんよりも多少羞恥心が強いセシリアさんの尻込みした態度から私は彼女もまた同じ様なことを一夏さんからしてもらうことを察してしまい私は困惑してしまった。
「え、何もしてもらわないんだ。
じゃ、あたしが―――」
しかし、鈴さんはセシリアさんの躊躇いを何も約束してもらっていないと解釈してしまったことからそのまま立て続けに一夏さんにねだろうとし出した。
その時だった。
「し、してもらいますわっ!
一夏さん、早速
……?
どうして、燃料を?それに塗る?
と言うよりも、
私の時代になかった新しい燃料でしょうか?
私はセシリアさんが妙な勢いのままに口に出した一夏さんにしてもらう頼みごとに対して疑問を抱いてしまった。
何故、人間であるセシリアさんが燃料を求めるのだろうか。
「IS」に使うにしても「IS」の動力源は既に出来上がっているエネルギーであるし、何よりも塗るという用途に関してもよく解らなかった。
もしかすると、何かの塗料なのだろうか。
それでも、何故この場で塗る必要があるのだろうか。
と私がセシリアさんの言葉の意味が全くもって分からないでいると
―え!?―
「……え?」
私とは対照的に周囲の生徒たちは驚愕し、さらに私は混乱してしまった。
加えて、一夏さんの焦りも増した。
そして、その直後
「私、サンオイル取って来る!」
「私はシートを!」
「私はパラソルを!」
「じゃあ、私はサンオイルを落としてくる!」
「え?え?え?」
蜘蛛の子を散らす勢いで女子生徒たちが一夏さんから離れ出しそれぞれが自らの荷物や海へと駆け出し、砂浜に砂埃や水飛沫が生じた。
……あれ?なんで海に入る必要が?
よく考えてみなくても「代表候補生」であるセシリアさんならばともかくとして、何故「専用機」を持たない一般生徒である彼女たちまでもがオイルを求めるのだろうか。
いや、そもそも、整備士でもない一夏さんが他者の「IS」の整備をするのだろうか。
彼は確かに神通さんの指導で「IS」関連の経験や能力、知識が身に付いて来ているが、整備に関してはそこまで特筆すべきところはないはずだ。
加えて、さらに私を悩ませているのは海の中へとバシャバシャと音を立てて入っていった生徒たちだった。
一体、彼女たちは何故、海に入る必要があったのだろうか。
あれ、ちょっと待ってください……
さっき、『オイルを落としてくる』て行ってませんでしたか?
私はふと一人の生徒が言ったある言葉が気になってしまった。
よく考えてみると何故貴重な燃料をわざわざ流す必要があるのだろうか。
各海域に資源を輸送するための護衛任務で命懸けで赴き続けた私としてはそんなことされたら発狂ものだ。
そもそも、彼女たちは何処にそんな燃料を持っているのだろうか。
「う、うわ~……
セシリアも大胆……」
「セッシ―、恐るべし……」
「ちょ、ちょっと、今回は……」
「そ、そうね……」
「「…………………?」」
ふとシャルロットさんたちの方を見てみると私とラウラさんを除く全員が顔を赤らめていた。
一体、どうしたというのだろうか。
……え!?
まさか、そんなにとんでもないことなんですか、これ!?
彼女たちの反応に私は今更ながらセシリアさんの頼みごとがとんでもないことであることを予感してしまった。
「コホン。
そ、それでは、お願いしますわね」
私が何かの片鱗を感じ取った瞬間、既に野次馬がいなくなったことを見計らってセシリアさんが「パレオ」と呼ばれる腰巻を脱ぎ去った。
その仕草は同性の私すらも何処か色っぽさを感じてしまうものだった。
い、一体……
何が始まるというのですか……!?
果てしなく嫌な予感がしているが、その正体を知らないでいると余計にモヤモヤしたままな気がして、恐る恐るその終始を見届けようとしてしまった。
我ながら、年甲斐もなく野次馬精神があるなと自嘲してしまった。
「え、えーと……背中だけだよな?」
「い、一夏さんがされたいのでしたら、前も結構ですわよ?」
え?せ、背中……?それに前もって……?
一夏さんが戸惑いがちにセシリアさんに確認すると、セシリアさんも大分緊張気味であったが、何処か期待に満ちた声をした。
私はと言うと、どうして彼女がパレオを脱ぎ去り、そして『背中』やら『前』やらという言葉が出て来るのか本気で解らなかった。
塗る…背中……前……あれ?
そんな風に今まで出て来た言葉を頭の中で逡巡させていると、何かが引っ掛かり始めた。
思えば、私は失念していた。
動詞は間違いなく『塗る』であった。
次に他の女子生徒たちはセシリアさんが持っていた日傘や敷物を取りに行き、オイルを落とすと言った。
そして、そのままセシリアさんと一夏さんの会話に出て来た『背中』や『前』。
それらを合わせると出て来る答えとはつまりは
「……!?」
ま、まさか……!?
私はここに来て、ようやく答えに至ってしまった。
それもとんでもなく不埒な事実に。
い、いえ……
そ、それはいくら何でも……
私はいくら何でもそれはないと自分に言い聞かせた。
何故ならば、私の考え付いた答えはいくら何でも有り得ないことだからだ。
「いや、その、背中だけで頼む」
「でしたら―――」
「……なあっ!?」
しかし、それはただの希望的観測に過ぎなかった。
何とセシリアさんは首の後ろにあるらしい水着の紐の結び目を解くとそのまま胸を押さえながら敷物の上へとうつ伏せに寝そべった。
私はその行動に唖然とした。
「―――さ、さあ、どうぞ?」
「お、おう」
『さあ、どうぞ?』……じゃないですよ!?
え!?まさか、本当にそう言う意味での『
しかも、こんな人目のあるところで!?
と言うよりも、一夏さん!?いくら何でも安請け合いし過ぎじゃないでしょうか!?
頭に浮かんでいた推測が現実になって表れたことで私は混乱してしまった。
そう、彼らの言う『塗る』とはつまりは「
そして、サンオイルというものが、日焼け止めであったことに気付いてしまった。
さらには異性に素肌を晒すどころか、それを触らせるという行為。
そのあまりのとんでもない状況に私は戦慄を覚えると同時にこんな破廉恥過ぎることを行える一夏さんに衝撃を感じてしまった。
何故、こんなことをやるのか、いや、やれるのかを本気で理解できなかった。
その直後
「うわぁあああああああああああ!!
破廉恥過ぎますうううううううぅうぅううう!!」
「ゆ、雪風!?」
「ゆっきー!?」
「お姉様!?」
「陽知さん!?」
「ちょっと、どうしたの!?」
あまりの恥ずかしさの連続から限界が来たことで私はその場から逃げ出した。
こんなのおかしいです……!?
この世界の夏の海は恐ろしかった。
そう私は改めて感じてしまった。
雪風の羞恥心に被弾!
普通に考えて、鈴よりもセシリアの方がやばかった件。
よく出来たな安請け合い出来たな、おい。
あと、調べた限り日焼け止めはともかくとしてサンオイルはまだ雪風の生まれた時代になかったぽいので、こんな感じになりました。