奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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注意)今回は登場人物二人のキャラ崩壊の可能性があります。


第24話「天災と鬼」

 更衣室のある別館へと続く渡り廊下を歩いている最中、和風建築とそれに合わせて日本の海辺を感じさせる松林を海風が揺らし、潮騒と生徒たちの海を楽しむ声が真夏を感じさせるこの場に於いて、それらの調和を乱すかのようにそれは存在していた。

 

「フンフンフ~ん♪」

 

「………………」

 

 その宿と浜辺の調和の中に異物感を醸し出している大本である地面に突き刺さっている赤い円錐型の居住部分にそこから発破を思わせる緑色の噴射口は巨大な人参を象っており、この和風建築の旅館の中に場違いなメルヘンチックな雰囲気を放っている。

 そして、その前にまるで、そんなことすらお構いなしどころか、認識していないかのように真夏にも拘らず、不思議の国から来たと言わんばかりに青地のエプロンドレスにさらには兎耳を模したかのようなカチューシャを付けた季節や場所、場合と言った服装に対するTPOを度外視した異物感の全ての源がいた。

 

「……何をしているんですか。篠ノ之先輩」

 

 私は恐らく鈴音さんと初めて出会った時以降で最も大きな不快さを感じながら目の前の知人とすら言うのを憚りたい人物に声をかけた。

 

「……うわ。

 先輩に会ったのにまともな挨拶も出来ないの?

 体育会のくせに?それとも、あれ?ダブスタ?」

 

「……相変わらずですね」

 

 私に対する変わらないその辛辣な態度を目の辺りにして、私はこの先輩が相も変わらず飾らない人間だということを改めて感じさせられた。

 いや、そもそも「飾る」なんて概念すらないのかもしれない。

 この天才には()()()()()()()()()()()

 あるのは好意と嫌悪だけであり、周囲にそれしか振る舞わない。

 そして、厄介なことにそれらを振るう際には彼女の持つ才能が周囲どころか、世界に大きな影響を与える。

 『天才にして、天災』。

 まさにそれ以外に篠ノ之束という人物を表す言葉はないだろう。

 

「……それで。

 どうして、あなたがこの場にいるんですか?

 そもそも、今になってどうして、箒ちゃんの前に姿を現そうとしているんですか?」

 

 私は敢えて自らの罪に目を瞑って、箒ちゃんの実の姉である彼女に対して、今になって妹の前に姿を現そうとしていることを訊ねた。

 自分にはそんなことを訊ねる資格すらもないことを理解しながらも。

 

「いや~、何処かの誰かさんと違って箒ちゃんに何かをあげたくなっちゃってね?

 何処かのネグレクト保護者と違ってね?」

 

「………………」

 

 彼女はわざと私の過去の過ちを抉る様な言い回しで私にこの場に来た理由を明かした。

 どうやら彼女への見解を少し変えなくてはならないらしい。

 彼女は()()()()()()()()()()()()()

 そこまでして、私のことが気に入らないらしい。

 

「……「専用機」ですか……」

 

 恐らく、彼女が箒ちゃんに渡そうとしているのは「IS」の生みの親である自らが作り上げた逸品らしい。

 それもこの世界の誰よりも「IS」を作ることに長けた彼女が作った現在世界で開発されているどの「IS」すらも凌駕するものだろう。

 

「その通り♪

 いや~、何処かの誰かさんが箒ちゃんを放ったらかしたから、珍しく束さんにお願いしてくれたんだよ?」

 

「それは……」

 

 彼女はさらに私の罪を突き付けた。

 彼女の言っていることは悪意によって装飾されているが事実だ。

 私と箒ちゃんは再会してからまともに会話すら出来ていない。

 箒ちゃんが私のことを避けているのも理由だが、私が彼女にどう接すればいいのか分からずにいるのも大きな理由だ。

 さらには箒ちゃんが「専用機」という力を求めたのは雪風や鈴音さんを始めとした実力のある同学年の生徒たちを見て一夏君に置いて行かれていることに焦燥感を抱いてると共に、一夏君の役に立ちたいと思っているのも大きな理由だ。

 今回の件は私が箒ちゃんと向き合わなかった結果、生まれた問題だ。

 

 ……私の弱さが……

 世界の情勢を危うくさせてしまいましたか……

 

 私は自らの弱さが招いた世界のパワーバランスに混乱を招くことを悔やんだ。

 今、世界中に存在する「ISコア」は雪風の「初霜」を除けば、467個だ。

 世界のパワーバランスはその「コア」の配分と所属によって決まっている。

 クラウゼヴィッツの「戦争論」でも述べられていることだが、戦争はあくまでも外交手段の一つであり、軍事力はその交渉カードの一つだ。

 今現在の国際社会においては一つでも「ISコア」を所持している国家が強い発言力を持っている。

 今、各国の「ISコア」の配分によって多少の均衡が取れている中に突然現れた先輩がさらに創り上げた468個目の「コア」は均衡を崩しかねない。

 それこそ、先輩自ら作り上げた「専用機」ともなれば池に一石を投じるどころか、岩を、いや、隕石を投じるようなものだ。

 

「……あなたは世界がどうなろうと構わないと?」

 

 既に「白騎士事件」という前例を引き起こしている彼女にこれを訊ねることは愚問と知りながらも私は訊ねた。

 

「え~?

 そもそも、私が「IS」を創る前から「核兵器」とかあったじゃん?

 それがたまたま「IS」に変わっただけでしょ?

 それに私はデモンストレーションを行っただけで、それを見て兵器として扱っているのは他の人間だよ?

 どうして、私が悪いことになるのかな?」

 

 私の問いに対して、彼女は一見すると尤もらしいことを言った。

 だけど、それは決して私の問いに対する答えになっていないことに気付いた。

 確かに彼女の言う通り、彼女は宇宙開発のために「IS」を創っただけであり、「IS」の存在が主要国の思惑によって兵器化され、ある種の抑止力になったのは彼女に責任がない様に思える。

 そうただそれだけならば。

 

「とぼけないでください。

 その価値がまだ定まっていない時や能力が認知されていない状況で発明品を創るのと、既にその価値が「兵器」として見られるようになってから新たに作るのとでは意味合いが違うでしょう?」

 

「ちっ……!

 本当に細かいことに気付くねえ?君は?」

 

 開発当初のただの宇宙開発のためのパワードスーツであった「IS」が一つ増えるのと既に兵器として見られるようになった「IS」が増えるのではその意味が全く異なる。

 当初、彼女は宇宙開発用に「IS」を創っていたが、「白騎士事件」というデモンストレーションを行ったことで「IS」は兵器としての側面しか見られなくなった。

 彼女からすればそんなことはどうでもいいことだと思うが、そのことで世界情勢が緊張することになってはたまったものではない。

 加えて、厄介なことに彼女からすれば、悪い意味で『他人は他人。自分は自分。』と開き直っている。

 

「それと……

 例の無人機ですが……

 やはり、あれはあなたですか?」

 

 私は彼女にこれ以上、倫理観を求めるのは虚しいだけだと諦めて、念のために私がどうしても訊ねておきたいことを訊ねた。

 

「ん?

 そうだよ?いや~、いっくんの「白式」のデータが取りたいのと、箒ちゃんの様子を確認しておきたくてね?

 で、どうだったかな「ゴーレム」の性能は?

 あ、よく考えてみれば、君とは戦っていなかったけ?

 全く、君専用に作った「隠し腕」だったのに……

 あ~あ、本当に残ね―――

 ―――あだっ!?」

 

「それだけを訊けただけで十分です。

 あなたに対して殴ることに躊躇がなくなりました」

 

 私は彼女が例の無人機、彼女曰く「ゴーレム」を送り出したことに間違いがないことを知ると、艦娘であった誇りや、自衛官としての矜持を捨ててでも、迷うことなく彼女の顔面に本気で拳を叩き込んだ。

 

「……っう!?本当に君は厄介だね!?

 束さんに拳当てられるとか、どうゆうこと!?」

 

「あなたに危険な目に遭わされた教え子二人と弟分の分です。

 私に殴られたというだけであなたにとっては十分、屈辱でしょうしね」

 

「ちいちゃんならともかく、君なんかに……!」

 

 本来ならば、このような暴力を働きたくないが、自分の興味の為ならば他人を平気で犠牲にすることに対する憤りと大切な教え子二人が危うく死にかけることになった原因の張本人に対して、我慢できなかったのだ。

 それでも恐らく世界中のあらゆる毒を飲まされても死なないであろう彼女にとっては大した痛みは与えられないだろうが、彼女にとっては私に殴られたという事実は屈辱になるだろうと思って殴った。

 昔から彼女は織斑先輩とは対等な立場を許しているが、私に対しては自分たちと関わることすら烏滸がましいと思っているのか、私の存在を疎み認めていない。

 ただ今回はそれが彼女に対する教え子たちのことに対する報復に役立ったのは幸いだが。

 

「前々から思ってたけど、一体君は何かな?

 束さんやちいちゃんみたいな肉体がチートでもないのにちいちゃんと渡り合うとか。

 本当に気持ちが悪いんだけど」

 

「……何故、あなたと同じ範疇に先輩が入るのかわかりませんが、この世界にはあなたでも理解ができない道理があるだけです。

 ただそれだけです」

 

 どうやら彼女にとっては私の存在は異物にも等しいらしい。

 ただ、その指摘は遠からず当たっている。

 私には前世の記憶が存在している。

 明らかにそれは異常なことだ。

 けれども、流石の彼女でもそこまでのことは把握できていないらしい。

 それが彼女にとっては薄気味悪いものになっているらしい。

 

「本当に君は一々、癪に障るね。

 ただでさえ、君専用に作った「ゴーレム」をよくわからない子に倒されてムカついているのに」

 

「……!?」

 

 彼女は私と言う存在が近くにいるだけで不快さが募り、徐々に苛立ったことで最近のことで不快に思ったことを漏らした。

 それは最も恐れていることだった。

 

「束さんが未完成のままにしていた「白式」といっくんならともかく、何であんな見たこともないぱっと出の子になんか負けるかな?

 と言うか、ビームが当たる直前に緊急回避とかどんな動体視力と神経伝達スピードしてるんだか。

 もしかすると、まだ見ぬ束さんやちいちゃんの同類かな?」

 

 よりによって……

 この人が雪風の存在に興味を持つなんて……!

 

 彼女は雪風に興味を持ってしまった。

 しかも、彼女は雪風と自分と先輩と同じ様な存在だと推測している。

 これ程までに恐ろしいことを私は感じたことがなかった。

 

 このままで、雪風が……

 

 雪風の存在はこの世界においてはブラックボックス同然だ。

 彼女の「専用機」となっている「初霜」は当然ながら、他ならない雪風自身が異なる世界から訪れた存在としては目の前の()()()()()()()貴重な存在になりかねない。

 当然、調べられれば彼女にとっては益々、興味深い存在になる。

 だが、問題はそれだけじゃない。

 もし、私と雪風の関係が知られれば彼女は私への嫌がらせ目的で雪風の存在を世間にリークする可能性もある。

 かつて、私の「IS適正」を全てのコアにとっては高いものに設定して、私の夢を奪った時の様に。

 そうなれば、雪風は世界の悪意と欲望に巻き込まれる。

 

 私は……

 

 私は今、迷っている。

 今ここで、目の前の彼女を拘束し、これ以上好き勝手にさせないようにして結果的に雪風を守るべきかと。

 本来ならば、迷うことなくそれを選ぶべきだ。

 私にはそれを行える力がある。

 それなのに私は戸惑っている。

 それは決して、目の前の彼女に対するある筈もない義理などが理由ではない。

 それは彼女を捕えようとする際に生まれるであろう被害に対してだ。

 

 両腕……いえ、命でようやく、腕一本と片目一つと言ったところですか……

 

 私が身体、いや、命を落とす覚悟で挑めば、目の前の彼女の片腕の一つと目は奪えるだろう。

 そうなれば、彼女の存在や所在が日本政府や各国政府に知られ手負いになった彼女は拘束されることになるだろう。

 だが、それを覚悟してもなお、目の前の彼女との本気での殺し合いに等しい戦闘によって生じる周囲への被害は測り知れないことになる。

 加えて、ここには生徒たちや一般人である旅館の従業員もいる。

 その多くの無辜の命と雪風一人の命。

 どちらかを取るかで私は悩んでしまっている。

 

 ……いえ、もう決めたことです……

 

 私は一年前にした後悔を思い出し、迷いに蓋をしようとした。

 私はそうやって、罪を犯すことを恐れて守ると誓ったものを守れないで後悔した。

 いや、それは最早、前世で既に味わってもいる。

 

 陽炎、黒潮、親潮……

 せめて、あなた達の妹だけでも守らせてください……

 

 かつて、私の目の前で失った雪風の姉たちに対して私はそう願った。

 私は目の前で彼女たちを守れなかった。

 あの時に私は教官としての自分は死んだと思っていた。

 「コロンバンガラ」で雪風たちを守りたかったのは今なら、分かる。

 死んでも守りたいと思ったからだった。 

 私は二度と教え子を目の前で失うことをしたくなかった。

 何よりも

 

『私は神通さんを信じます。

 喜んで、信じます……!』

 

『いえ、神通さんを信じるのは私にとっては……いえ、私たちにとってはただ当たり前のことです』

 

 彼女は迷うことなく私を信じてくれた。

 こんな風に教え子一人を守ることを天秤にかける情けなく迷うような師である私を。

 そんな教え子のことを私は裏切りたくなかった。

 それに今生において最早叶うこともないと夢見ていた教え子とのささやかながらもとても尊い願いを果たすことが出来た。

 それだけで私の人生は十分、報われているし恵まれている。

 

 ただ……

 無念なのは箒ちゃんの心を最後まで傷つけてしまうことですね……

 

 恐らく、実の姉を拘束する処か本気で殺しかけることになる私の所業を知れば、彼女はまたしても私に裏切られたと感じるだろう。

 私は何処までもあの子の保護者として失格だ。

 最後の最後まであの子を傷付けるしか出来ない情けない姉分だ。

 

 先輩……

 今なら、あなたの気持ちが理解できます……

 そして、あなたの強さも……

 

 同時に私は今生におけるかけがえのない親友に対する尊敬を胸に感じた。

 彼女は「白騎士事件」という取り返しのつかないことに加担した人物ではあるが、それでもたった一人の家族を守るという意思においては決して揺らぐことはなかった。

 それは常に大切な人間の為ならば、世界すらも敵に回すことも厭わないという強さだ。

 

 覚悟は……

 いえ、出来ていませんね……

 

 箒ちゃんへの罪悪感、自らが招く惨劇の犠牲、大切な人々への想いを胸にしながらもそれでも私は覚悟はできていなかった。

 だけど、それでも今ここで私は動かなければ雪風を守れないと思い、行動に移ろうとした。

 その時だった。

 

「……神通さん?」

 

 その声を聞いて私はその殺意にも似た意思を止めてしまった。

 その声の主の存在はここにいてはならない筈だからだ。




神通さんがこうなったのは北斗の拳の山のフドウをイメージしました。

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