奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
そうなると、あの雪風の明るさは健在なのかも気になります。
「ふざけるな!!」
「ひっ……!?」
「「「………………」」」
私は更識さんに告げられたこの世界の価値観に激昂した。
「「IS」が使えるから偉い?
それのどこが偉いんですか!?」
「IS」を使える。
ただそれだけの理由でこの世界の女性たちは自分たちを特別だと思っているらしい。
だけど、そんなの私からしてみれば、あまりにもふざけているし狂っているし腹立たしいことこの上ない。
それに
「自分たちが一度たりとも戦場で死ぬことへの恐怖を感じたことない人間が力を持っているだけで威張るな!!」
この世界で「IS」が戦いをしたのはあの「白騎士事件」ぐらいなのはその後の「アラスカ条約」のいきさつで十分推測できることだ。
つまりはその「女尊男卑」の考えに染まっている多くの人間は「戦場」を知らない。
そんな人間が偉いだなんて自惚れるのに私は我慢ならない。
確かに「軍人」は特別な立場にある存在だろう。
だが、それは力を持っているから偉いのではなく、常に死ぬことと隣り合わせでありながらも戦いに身を置くことへの労いのようなものだ。
それに私は「戦場」の空しさを知っている。
尊敬していた人も、大切な人も、身近な人も、軽口を叩き合う人も、親しい人も、普段憎まれ口を叩く人間もいつどこでいなくなるのが分からないのが「戦場」だ。
そんなことを知らない人間が「平和」の上でふんぞり返るのは腸が煮えくり返る気分だ。
それに彼女たちと私たちは「力を持つ」という点で似ている。
だからこそ、気に喰わない。
「世の中には……」
―ポタポタ―
「!?」
「雪風さん……!?」
私は幼稚になるまいとしていた。
しかし、今回ばかりはもう限界だった。
私はいつの間にか、先程とは違ってみっともない涙を流していた。
「守りたいのに……」
私の脳裏に浮かぶのは私たちに頼ることしかできなかった多くの帝国軍人の人々や哀しみながらも我が子の未来を託した親の姿だった。
そして、
『雪風、いつまで泣いている?』
『信濃や金剛たちを守れなかった分……
今度は守ろう』
『初風や時津風、浦風や谷風たちもそう望んでるはずだ』
今は亡き妹たちとの誓い。
第十六駆逐隊が解散後に私が編入された中で五隻編成と言う類を見ない編成の中で彼女たちは私を迎えてくれた。
しかし、運命は嘲笑うかのように次々と仲間と守るべき人たちを奪っていった。
そして、残った2人はあの作戦の前に弱気になっていた私のことを励まそうと私を奮い立たせてくれた。
もう誰も守れないのは嫌だから。
陽炎型の中で数少ない生き残りであった私たちはあの作戦前に決意した。
「力を持っているのに……」
だけど、結局私たち、いや、私は守れなかった。
護衛対象である大和さんも姉たちの戦友も華の二水戦を受け継いだ彼女も、帝国軍のパイロットたちも、そして、妹たちも守れなかった。
『私はお姉ちゃんや天津風、時津風を守れるぐらい強くなります!!』
「守れない人もいるんです……!!」
かつて、姉に向かってそう言った誓い。
大切な姉妹を守ると決めていたのに守れなかった。
そして、最後まで守れなかった。
護衛艦なのに護衛対象を目の前で失い、僚艦すらも守れない。
力を持っていない人の無念さも力を持っているのに守れない人の無力さも私は双方とも嫌でも知っている。
そんな苦しみも知らない人間がただ力を持っているからと言って、威張り散らすことに私は八つ当たりのように叫んだ。
ただただ悔しかった。
「雪風さん……本当にすまない……」
私が今朝、帝国軍人として恥ずかしくない振る舞いをすると誓ったばかりなのに情けない姿を曝していると轡木さんが頭を下げてきた。
「り、理事長!?」
「轡木さん……?」
私は不当な人事を受けているその風潮の被害者の一人であるはずの目の前の人間が詫びなくてはならないことに怒りを忘れてしまった。
「本来ならば……
君の言った一言は大人である我々が言わなければならないことだった……
それなのに私たちは……「IS」の力に目が眩んでそういった社会に対して何も言わず、放ったらかしにしてしまった……
すまない……すまない……」
恐らく、私よりも後に生まれながらも年は上であるのにも関わらず、轡木さんは自らの体裁や面子などをかなぐり捨ててまで私に謝罪してきた。
「あなただけの責任じゃありません……
ですから、頭をあげてください……」
そんな轡木さんの姿に私は耐えられなかった。
彼一人がこんな世界を作ったわけじゃないはずだ。
それなのにこの人は私の悔しさを察してすぐに謝ってくれた。
どうして、この人の謝罪を求められる。
「雪風ちゃん……
私が憎い?」
そんな時に更識さんはふと訊いてきた。
「なぜそんなことをお訊ねになるんですか?」
私はそんな彼女に訝しげに訊ね返すと
「だって、私はあなたにとって辛いことを教えたのよ?
それて、私が嫌な人間と言うことじゃないかしら?」
彼女は再び、真意を隠す様に飄々とした態度で私に接してきた。
そんな彼女に私は
「……いいえ、あなたを私は憎んでいませんよ」
と率直な感想を伝えた。
「あら?
どうしてかしら?」
と彼女は意外そうな顔をしてきたが
「こんなこと……誰が説明したって私は取り乱していたはずです」
私はただ率直なまでに事実を述べた。
確かに彼女の言い方は人を試す様で慇懃な物言いで私に嫌でもこの世界の狂っている一面を考えさせる悪趣味なものだ。
だが、たとえ丁寧に説明されていたとしても私は冷静さを失わずにいる自信がない。
むしろ、「嫌われ役」を買ってでも説明してくれた彼女には感謝してもし足りない程だ。
それに……嫌なことでもそれが「現実」だったならば見て見ぬ振りをするのはただの「逃げ」ですからね……
生きると言うことは矛盾だらけだ。
だけど、それでも生きていこうとする中で多くを学ぶことができる。
多くの出会いと別れを経験した中で私は絶対に「現実」を無下にしたくなんてない。
だから、辛くても「現実」で生きたい。
だって、そうじゃなかったら……
陽炎型のみんなや二水戦のみんな、大和さんや信濃さん、比叡さんや金剛さん、帝国軍のみなさんたちに顔向けできません……
生き残った人間は死んだ人間に顔向けできるように生きるしかない。
たとえ、それが独り善がりでもそれは私があの戦いを通して学んだことだ。
『いきなさい、雪風』
『雪風、一緒にがんばろう!』
『目の前を見なさい……!!
私はあなたをそんな柔に育てたつもりはありません……!!』
『妹のことを守るのはお姉ちゃんの役目よ?』
『自分のことをそんな風に言わないで……!
あなたはできる限りのことをやって生きてきただけよ!
だから、2人の分まで生きよう!?』
『ありがとう』
『よかった……雪風ちゃんが無事で……』
誰も私を責めなかった。
それが逆に苦しめると言うのにみんな、私のことを心配してくれた。
だけど、だからこそ私はみんなに恥じぬ生き方をしたかった。
だから、私は生きる。
そのためにはどんな苦しい現実でも生きてやるつもりだ。
私は更識さんを憎むつもりも嫌うつもりもない。
嫌な現実に目を逸らして虚飾に塗れるよりも私は現実の中で生きるほうがいい。
「そう、でも……一言言わせてちょうだい。
ごめんなさい」
と今度は彼女が頭を下げてきた。
「いいえ……むしろ、私はあなたに感謝したいところです。
ありがとうございます」
私は彼女に頭を下げて自分の気持ちを素直に告げた。
はっきり言えば、私は「女尊男卑」と言う歪んだ価値観に囚われているこの世界の人々に失望しそうになった。
けれど、それを恥と思ってくれている男性もいれば女性もいる。
それは私にとっては本に些細なことであるが救いである。
それに織斑さんや山田さんのような人だっているんです……
なら、他にもたくさんの人がこの考えに疑問を抱いているはずです……!
彼女たちがこの事実を言いあぐねていたのはそれが
ならば、いつか切っ掛けさえあればそんな考えを払拭できる可能性もあるかもしれない。
私は僅かながらの希望を抱き、この世界で生きる決意を改めた。
なぜか死に損ねたがそれでも私は生きている。
ならば、私は生きなくてはいけない。
それがかつての戦友たちに私ができる唯一のことのはずだからだ。
「そう……よかった。
これから世話をする身としては嬉しいわ」
「……え?」
私が多少、立ち直ると更識さんは嬉々としてそう言った。
「あら?その様子だと私の
「裏の……顔?」
私の反応を見て彼女は少し気になることを口にしてから困ったような顔をした。
そして、
「よし、決めた!
轡木さん、この子と親睦を深めるためにもこの学園を案内してきてもいいですか?」
「……え?」
と唐突過ぎるまでに彼女は明るく提案してきた。
彼女の明るさと天真爛漫さに私が困惑していると
「ああ、そうしなさい。
むしろ、こっちから頼むよ」
と轡木さんはその提案に嬉しそうに乗ってきた。
「じゃ、雪風ちゃん。
行きましょうか?」
と彼女は私を立ち上がらせると腕を掴み
「……え?
て、ちょっと!?」
本人の同意も意思も関係なく更識さんはほとんど強引に案内を申し出て理事長室から私を連れだした。
雪風の双眼鏡には涙が溜まっていると言うのが公式の発言ですが、
私はそれって雪風は辛い現実を見てもそれをしっかりと直視できる強い娘の証だと思います。