奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第34話「呆れと諦め」

 その何処か人として大事なものが欠けているような明るい声が砂煙が上がる爆音にも等しい音と共に近づいてくる。

 その音の正体はと言えば

 

「……束」

 

 昨日、初めて顔を合わせたにも拘わらず、今まで出会ったことのない種類の人間であると同時に本気で戦慄と不気味さを覚えた、私が生まれて初めてなるべくならと言うよりも絶対に関わりたくない稀代の天才と称される「IS」の生み親である篠ノ之束博士だった。

 博士はこの場が関係者以外立入禁止にもお構いなしに堂々と乱入して来た。

 ただ彼女に規範を求めるのは野暮だろう。

 そもそも規範の中でも最低限守らなくてはならない法律すら度外視する人間にそのことを意識させることすら無理な話だろう。

 

「やあやあ!会いたかったよ、ちーちゃん!

 さあ、ハグハグしよう!

 愛を確かめ―――ブヘッ」

 

「?!」

 

 そんな篠ノ之博士の真っ昼間からお酒を飲んでいるのかと思えるほどの喧騒な振る舞いに対して織斑さんは容赦なく手で彼女の顔をがっしり掴み黙らせた。

 

「うるさいぞ、束」

 

「ぐぬぬぬ……

 相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」

 

「なっ!?」

 

 あの体勢からあんなにも簡単に抜け出した……!?

 

 織斑さんの容赦の無さに驚く暇もなく、その織斑さんの確実に決まっていた片手の拘束を何ともなかったのかのように簡単に抜け出した篠ノ之博士の姿に私は衝撃を受けたと同時に、私は最も危険だと感じている人間が白兵戦の面においても高い能力を有していることにさらなる危機感を募らせた。

 私は彼女の優れている面は技術面や頭脳面だけだと思っていた。

 けれども、それは浅慮だった。

 彼女は戦闘面でも脅威的だった。

 

 ……あの価値観でこの才能……

 本当に恐ろしいですね……

 

 私は改めて彼女の欲望のままに動く自由さに不安を深めた。

 

 きっと、才能を使うことに躊躇いなんてないんでしょうね……

 

 昨日は彼女のその妹への扱いを知って大切な姉や妹たちのことを思い出して冷静さを失っていて忘れてしまっていたがやはり彼女は危険だと感じてしまった。

 彼女は思うがままに自らの才能をひけらかすだろう。

 それが招くものを知ってか知らずか。

 いや、もしかするとそれすらもこの天才はただの遊び感覚にしか思っていないのかもしれない。

 私がその天才に対して嫌悪感を募らせていると

 

「やあ!」

 

「……どうも」

 

 その天才は自らがずっと放置していた妹に対して悪びれた様子すら見せることもなく明るい挨拶をした。

 それに対してその実の妹である篠ノ之さんは気まずそうにしていた。

 

 ……本当に他人を理解できないんでしょうね……

 

 この一瞬のやり取りで私はこの姉妹の間に存在する溝や壁といったものよりも世界の違いを感じてしまった。

 確実に姉の方は妹の心を理解していない。

 いや、理解する能力がないと言っても過言ではないだろう。

 少なくとも博士本人が語った姉妹の感動の再会といったものは彼女の頭の中での都合のいい妄想でしかないのは確実だ。

 

「えへへ、久しぶりだね。

 こうして会うのは、何年ぶりかなぁ」

 

 ……年数すら覚えていないんですか……

 

 彼女の発言に益々私は姉として妹として呆れと嫌悪感を感じた。

 妹と会えなかったというのに、この天才は、その正確な年数まではいたしかたないが、大体の年数すら把握していなかったのだ。

 正確な年数は仕方ないとしても明らかに狂っている。

 加えて、彼女の声音には全く悲しみが込められていない。

 そのことに私は苛立ちを隠せなかった。

 

「おっきくなったね。

 箒ちゃん、特におっぱいが―――」

 

 続け様に謝罪すらしないでふざけた態度を彼女が崩さずにいることにそれが妹に対する態度かといい加減に我慢の限界が来そうになった時だった。

 

「……殴りますよ」

 

 ……怒るところはそこですか?

 

 その言葉は篠ノ之さんが持っていた日本刀の鞘で殴ったことで強制的に遮られた。

 普段ならば私は篠ノ之さんのその行動に反発を覚えたと思うが自然とそれは感じなかった。

 だが、彼女が怒った点がそのふざけた言葉だったのは違和感があるが。

 いや、きっとその破廉恥な言葉だけが原因ではないのだろう。

 ただもう少し怒るのならば素直に自分の気持ちを曝け出すべきだと言いたいところだ。それが昨夜の件で私が学んだ事だ。

 

 ……いえ、それが無理なんでしょうね…… 

 

 私は本気で篠ノ之さんに同情した。

 きっと篠ノ之さんが自分の事を放置していた姉に対してそのことで責めないのは自分の姉が自らの寂しさに気付かないということを既に諦めてしまっているからなのだろう。

 

「な、殴ってから言ったぁ……

 し、しかも日本刀の鞘で叩いた!

 ひどい!箒ちゃんひどい!」

 

 ……むしろ、その程度ですんでよかったのでは?

 

 篠ノ之博士が抗議しているが妹さんのその反応は当然だろうし残念ですらないだろう。

 というよりもこれ以上の目に遭わないことが妹からの温情でもなく、ただ諦められていることに気付いていないのがやはり彼女の歪さを物語っている。

 

『あの人は関係ない!』

 

『……大声を出してすまない。

 だが、私はあの人じゃない。

 教えられるようなことは何もない』

 

 以前、彼女に私は実の姉を嫌うことに対して複雑な気持ちになりましたけど……

 私が浅はかでした……

 

 篠ノ之博士の身内と言うことで好奇心で質問攻めに遭った篠ノ之さんが大きな声を出した時のことを私は思い出した。

 あの時、私は彼女が私と異なり姉に対して嫌悪感を抱いていたことに理解が出来ずに自らの価値観でのみ姉妹の在り方を考えていたが、今、それが浅い見方だったことを思い知らされた。

 篠ノ之さんが姉に対して、嫌悪感を抱いていたのは一家離散の原因が篠ノ之博士であることだけではなかったのだ。

 自らの欲望を満たすためならば平気で他人に被害をばら撒く姉のことを嫌でも見せられてきたのが原因だったのだ。

 

「え、えっと、この合宿では関係者以外―――」

 

 そんな突然の乱入者に周囲が戸惑う中、山田さんが学園側の責任者の一人としてその責務を果たそうと少しおどおどしながらも注意した。

 

「んん?

 珍妙奇天烈なことを言うね?

 ISの関係者というなら一番はこの私をおいて他にいないよ?」

 

「―――えっ、あっ、はいっ。

 そ、そうですね……」

 

「……!」

 

 そんな山田さんの発言に対して博士は屁理屈にも等しい圧力で一蹴した。

 その反応に山田さんは全く非もないのにも拘わらず、消沈してしまった。

 

「……山田先生が言う関係者というのは()()()()()()という意味ですよ」

 

「ん?」

 

「ゆ、ゆき―――

 陽知さん!?」

 

「ゆ、ゆっきー!?」

 

「お、お姉様!?」

 

 その傍若無人ぶりに何も悪くない人間が傷付けられることと山田さんが何も間違ったことをしていないことを突き付けたくなり私は自然とそう言っていた。

 私のその行動に本人は少し音が聞こえた程度の反応を示した程度だがこの場の生徒と教職員は衝撃を受けたようだった。

 

「ん?あ、昨日のチートちゃん。

 やっほ~、ようやく束さんと話をしてくれる気になってくれたのかな?」

 

 そんな私の主張に対して、彼女は山田さんへの負目や私への反感すら見せずというよりも感じず、私が自分に声をかけたのは私が話をしたいからだと勝手に自己完結した。

 

「違います。

 ただここは学園関係者以外立入禁止です。

 山田先生があなたのことを注意したということは許可や申請をした訳ではないですよね?

 それをあたかも山田先生が身の程知らずのように振る舞うのは止めてください」

 

「や、陽知さん……」

 

「え~、別にいいでしょ?

 細かいことを気にしないでさ」

 

 本来ならば一ミリたりとも関わりたくない相手であるが、それでも山田さんが何も悪くないのに落ち込んでしまった姿を見て私には我慢が出来なかった。

 少なくとも彼女は「IS学園」の関係者ではない。

 仮令、それが学園内において主要な研究分野の第一人者だとしても、正規の手続きが出来てもいない時点で彼女は部外者だ。

 その証拠に彼女はずっと逃走を続けている。

 それに「IS学園」は世界中の軍事防衛技術が集結している施設だ。

 そんな場所に事前通知もなしに訪れるのは社会の常識どころが国際常識にも違反しているといっても過言ではなく、その場で拘束されたとしても文句は言えないことだ。

 ただ目の前の彼女はそんな常識は持ち合わせていないだろうし、先程の件で彼女を実力行使で拘束するのも不可能に近いのは理解できてしまう。

 だが私の出した反論自体に篠ノ之博士が論点のすり替えすら出来ていないのは事実だ。

 恐らく彼女は膨大な知識から詭弁で論点をずらすことを得意としている。

 

「……いい。陽知。

 お前の言いたいことは解かるが、ここは私の顔に免じて下がってくれ」

 

「およ?ちーちゃん」

 

「……わかりました。出過ぎた真似をしてすみません」

 

 そんな私と篠ノ之博士の恐らく何処まで行っても平行線を辿ることになるだろう終わりの見えない口論に織斑さんは普段の態度を崩さずにいるが、内心私に対しての申し訳なさを感じている事を遠回しに伝えながら私に下がることを指示した。

 きっと彼女としてはまだ話の分かる相手として私に頼んだのだろう。

 

「え~、束さんは別に気にしていないのに」

 

 ……いっそ哀れに思えてきました……

 

 そんな引き下がった私に彼女は私が引け目を感じたと思ってかお気楽そうに言った。

 その自分にとって都合のいい考えしか浮かばない彼女の在り方に私は怒ることよりも哀れみを感じた。

 彼女はきっと自分に甘い世界しか肯定しない。

 だから他人とずれているのだろう。

 

「おい、束。

 自己紹介ぐらいしろ。

 うちの生徒たちが困っている」

 

 せめて少しだけでも事態の鎮静化を図ろうと織斑さんは挨拶をすることを促すが

 

「えー、めんどくさいなぁ。

 私が天才の束さんだよ、はぁー。

 終わり」

 

 うわぁ……

 

 渋々自分の名前と天才と言う肩書を惜しげもなく名乗るというとても大の大人とは思えない自己紹介をするぐらいだった。

 同じ様に自己紹介が下手だった一夏さんの時と比べると、彼にはまだ仕方ない要素があっただけ仕方ないと思えたが、今の彼女にはそんな要素が見られないことから私は呆れてしまった。

 

「はあ……もう少し、まともにできんのかお前は。

 そら、一年手が止まっているぞ。

 こいつのことは無視してテストを続けろ」

 

 そんな親友とされている自分の呆れた態度にやはり長年の付き合いから諦めているのか織斑さんはほぼ無視にも等しい対応をすることを生徒たちに促した。

 それは間違いなく英断だろう。

 

「こいつはひどいなぁ。らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」

 

 いや、自分が先に周囲にそういった態度をしたんじゃないですか……

 

 織斑さんの自分への扱いに彼女は文句を言うが、そもそも先に他の人をぞんざいに扱ったのは他ならない篠ノ之博士自身だ。

 確かにある程度の礼儀として相手を尊重することは大事にすべきだが、それは最低限のことのみだ。

 相手が礼儀を守らないのにそれ以上、接することは難しいことだ。

 そもそも自分を訳も分からないのにぞんざいに扱う相手を好きになれなんてことは簡単に出来ることじゃない。

 だからこそ、礼儀は先ず自分が尽くすべきなのだ。

 逆に自分が相手に礼を尽くしていないのにそれ相応の待遇を求めるのはそれこそお門違いだ。

 

「うるさい、黙れ」

 

 金剛さんから他人を思いやる心をなくしたらあんな感じになってしまうんでしょうね……

 

 比べることすら烏滸がましいことだが、篠ノ之博士の振る舞いは心のままに生きているという点では金剛さんと同じ様に思える。

 だけれど、金剛さんと決定的に異なるのは金剛さんがあの底抜けに明るい振る舞いをしながらも常に周囲への優しさと愛情を持ち続けていたことに対して、篠ノ之博士は自分が興味を持っているもの以外には異常なまでに無関心なことだろう。

 こうして考えると私は何時になっても金剛さんに変わらない敬愛の念を抱き続けていることを自覚させられる。

 よく最も尊敬している艦娘は誰かと訊ねられることは多くあったが、その答えは神通さんと金剛さんだった。

 私にとっては在りし日の佐世保の日々の中であの海の女王に接することが出来たのは呉の日々での神通さんやお姉ちゃんたちに出会えた厳しくも暖かった「二水戦」の時代と同じくらい輝いた思い出でもあるのだ。

 だからこそ、比叡さんを守れなかったことが辛かったのだろう。

 

「ええっと、あの、こういう場合はどうしたら……」

 

 そんな中、どうやら心を持ち直すことが出来たらしい山田さんが部外者である篠ノ之束博士への対応を求め出した。

 

「ああ、こいつはさっきも言ったように無視して構わない。

 山田先生は各班のサポートをお願いします」

 

「あ、わかりました」

 

 織斑さんは山田さんに生徒たちに対するものよりも柔らかい言い方でそう言った。

 

「むむ、ちーちゃんが優しい……

 束さんは激しくじぇらしぃ。

 このおっぱい魔人め、たぶらかしたな~」

 

「きゃああああっ!?

 な、なん、なんですかぁ!?」

 

「なっ!?」

 

「ええい、よいではないかよいではないかー」

 

 そんな織斑さんの山田さんへの態度に何故か嫉妬を抱いたのか博士は山田さんの胸に手を伸ばして握り始めた。

 そして、何故か途中から嫉妬からどう見ても助平な親父と同じ動機になって触り続けていた。

 私はその行動に顔が真っ赤になったと思う程、恥ずかしくなったがそれでも山田さんを助けようと前に出ようとするが

 

「やめろ、バカ。

 大体、胸ならお前も十分にあるだろうが」

 

「てへへ、ちーちゃんのえっち」

 

「死ね」

 

 私がそうするよりも先に織斑さんが強引に止めた。

 かなりの本気の蹴りであったらしくそのまま篠ノ之博士は真っ正面から砂浜に顔を突っ込んだ。

 そんな博士の乱入によって生まれた騒動が未だに続いていると

 

「あの……

 姉さん……例の件なんですが……」

 

 篠ノ之さんが少し躊躇いがちに話に入って来た。

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