奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「うっふっふ。
それは既に準備済みだよ。
さあ、大空をご覧あれ!」
「え……いや、そうじゃなくて―――」
篠ノ之博士は待ってましたと言わんばかりに高らかに恐らく昨日言っていたであろう篠ノ之さんの専用機をお披露目しようとした。
けれども、それに対して篠ノ之さんは戸惑いがちになっていた。
そんな風に彼女と私、織斑さん、そして、一夏さんを除くこの場にいる全員が博士が指差す空をを見上げていると、まるで爆撃機から放たれた爆撃が直上から急降下と言うよりも落下してくる様な空を切る音が響き渡った。
「ぐっ……!?」
「のわっ!?」
そして、案の定、それはまるで轟音だけでなくその轟音をもたらす要因である衝撃を伴ってきた。
落下して来たのはどうやら金属で作られた輸送用の箱らしい。
……ここ領空ですよね!?
この落下物の衝撃を受けて私はこの明らかな領空侵犯にも等しい危険行為に憤りを感じた。
今の事は下手をしたら怪我人が出るであろうし、自衛隊が緊急出動するようなことだ。
ただ今回のことが発見されなかったのはどうやら所謂ステルス機能がこの箱に存在することを物語っているのだろう。
所属不明の兵器や兵装が簡単に日本の領空を移動して来たことに私はかなり不安を感じた。
そして、私がこのことに不安を感じているとその箱の壁が倒れ、中に安置されている真紅の装甲を身に纏ったISが姿を現した。
「じゃじゃーん!
これぞ箒ちゃんの専用機こと「紅椿」!
全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」
篠ノ之博士が誇らしげにそう言うとその真紅の機体。「紅椿」と称された機体は日の下に姿を現した。
まさに新品の卸したてとも言わんばかりに紅い金属光沢を綺羅めかしていた。
……更識さんの「霧の淑女」よりも上と言うことですか……
博士の高らかな宣言と彼女自身の才能からある程度の察しは付いていたが、やはりこの「紅椿」は現在存在する既存の全ての「IS」を超えていることを私は把握してしまった。
恐らく、私が唯一敗北した更識さんの「霧の淑女」すらも上回っているのだろう。
そんなものをお小遣い感覚で作るとは……
博士はどうやら妹さんのためにこの「紅椿」をまるで子供に自作の玩具を与える感覚で作ったのだろう。
いや、あるいは玩具気分なのは自覚していてこれで遊ぶのは博士自身なのかもしれないが。
「さあ!箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか!
私が補佐するからすぐに終わるよん♪」
博士は嬉々としてまるで子供におめかしをする母親のように篠ノ之さんに「紅椿」を纏わせようとするが
「……頼みます」
「……!」
篠ノ之さんは何処か我慢しているような顔をしていた。
それはまるで子供が親に散々試着されているような顔にも思えた。
それを見て私は
「堅いよ~。
実の姉ま―――」
「あなたはそれでいいんですか……
篠ノ之さん……」
「―――ん?」
「……!」
放っておけず思わず声を出してしまっていた。
「どうしたのかな、君?」
「………………」
「雪風……?」
この場にいる全ての人間の視線が私に注がれていることに私は気付いた。
そこには戸惑いが大半を占められていたが、同時に何かしらの
その期待が意味するものを理解し私はそこに悲しみを覚えそれも仕方のないことだと感じたがそれよりも私は篠ノ之さんに一言だけでも声をかけてあげたかった。
「……私は……」
「……!」
私は嫌われていると思った篠ノ之さんに反発されることを覚悟していたが意外にも篠ノ之さんは私が察していた感情を露わにしていた。
それを見て私はやはり彼女が心の何処かで苦しんでいることに確信を持った。
「どうしたのかな君?
箒ちゃんに何か言いたいことがあるのかな?」
「………………」
そんな私と篠ノ之さんの会話と言うよりも問いかけに等しいものの間に博士は割り込んで来た。
やはり目の前のこの人には理解できないのであろう。
何故妹さんがあんな顔をしているのかを。
「いえ……
今の一言をかけてあげることが出来ただけで私は十分です」
「ん~?
よく分からないな?
まあ、いいか。束さんは今、箒ちゃんの為に頑張らないといけないから君とは話が出来ないんだ~
ごめんね~♪」
……あなたと会話したいなどと天地がひっくり返ってもそんなことはありえません!!
私は博士が入って来たことでこれ以上、彼女に声をかけることが出来ないことを悟り、この後に篠ノ之さんに何かしらの話をしたいと決めた。
同時に私は後悔してしまった。
もう少し、早く篠ノ之さんの孤独に触れてあげるべきでした……
もし私が意地を張らなければ今、彼女が抱えている葛藤を少しでも和らげることを出来たのではと私は後悔した。
「じゃあ、始めようか!」
「……はい」
私が引き下がると篠ノ之博士は篠ノ之さんにISの調整をすることを伝え、そのまま「紅椿」の設定を行い始めた。
けれども、やはり篠ノ之さんの顔は曇っていた。
それが意味するものを理解し私は益々後悔した。
「お姉様……?」
「ゆっきー……」
先程から私の様子を見ていたラウラさんと本音さんが私の心配をしてくれた。
やはり、この世界で最大の権威とも言っても過言ではない篠ノ之博士に物申すことは、それだけ周囲から心配されることなのだろう。
「心配をかけてすみません。
……大丈夫ですよ」
それでも遅かれ早かれ彼女に興味を持たれたことで私の正体と真実は何時かは知られることだろう。
だから、私は今回の行動には後悔はない。
……帰ったら更識さんと相談ですね……
今後の対応について私は何処まで目の前の規格外の天才に通用するかわからないが更識さんと検討しなくてはならないと考えた。
同時にまたしても更識さんに負担をかけることに私は後ろめたさを感じた。
どちらにせよ、自らの欲望に忠実な目の前の天才には注意を払うべきだろう。
「ん~。ふっふっふっ~♪
箒ちゃん、また剣の腕前があがったねぇ。
筋肉の付き方をみればわかるよ。
やあやあ、お姉ちゃんは鼻が高いなぁ」
「………………」
「えへへへ。無視されちゃった」
そこは褒める場所が違うでしょう……
篠ノ之博士は篠ノ之さんの剣の腕が成長したことを褒めたが今更だが、やはりそれは歪だった。
彼女は「筋肉の付き方」で褒めたが、篠ノ之さんの剣の腕前を褒めるのならば普通は一夏さんが入学式に言ったように剣道の大会で優勝した時のことを持ち出すべきだろう。
これでは篠ノ之さんの努力ではなく、篠ノ之箒という人間の性能を褒めるようなものだ。
人間は機械でも道具でもないし、ましてや兵器でもない。
篠ノ之博士は実の妹を何だと思っているのだろうか。
「はい。フィッティング終了~。
超早いね。流石私」
流石にISの生みの親ということもあり、博士は瞬く間に第一段階を終えた。
「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの?
身内ってだけで」
「……!」
そんな中、とある生徒が不満を漏らした。
それに対して私はやはりこうなってしまうのかと分かっていたが心が痛んだ。
「だよねぇ。
なんかずるいよねぇ」
彼女たちはいや、この場にいる大半の生徒たちは今回の篠ノさんの専用機の受領に対して不満を抱いている可能性がある。
そう、先程私が感じた私への「期待」とはこのことを指摘することだったのだ。
「IS」の生みの親の妹と言うだけで殆どこの学校の生徒たちにとっては憧れにも等しい専用機持ちになれる。
そのことに対して不満や文句、反感、嫉妬を抱く人間は現れるものなのだ。
私も他人の事を言えませんからね……
実績や正規の方法ではなく状況によって「専用機」を手にしたという点では私も篠ノ之さんと全く変わらないことだ。
そもそもこの「IS学園」の倍率が高い。その中でも専用機持ちになることはその努力の勲章にも等しい者なのだ。
それなのに私と篠ノ之さんは殆ど特例で「専用機」を手に入れている。
「………………」
その一言が聞こえて来て篠ノ之さんは辛そうだった。
恐らく、今回の専用機は彼女自身が実の姉に頼んだのは事実なのだろう。
そこに罪悪感を感じていることに私は実の姉との違いを感じた。
「おやおや歴史の勉強をしたことがないのかな?
有史以来、世界が平等であったことなど一度もないよ」
「……!」
そんな生徒たちの呟きに対して博士は妹さんが抱いている葛藤の本質を理解せずにまたも屁理屈で捩じ伏せようとした。
確かに彼女の言う通り、この世界、いや、全ての世界が平等であったことなどないだろう。
それは国家間の国力といったものだけでなく個人の間にも言えることだろう。
生まれながらの才能であろうし、貧富の差であろうし、生まれつき身体が強い人と弱い人等、全ての人間の間に存在するものだろう。
人は、いや、生命には生まれながらにして多くの違いがある。
そして、何よりも人間の社会の立場と言う点ではこの場にいる全ての人間には「IS」が生んだ「女尊男卑」という不平等が存在している。
少なくともこの場にいる何人かは数ヶ月前までは一夏さんが「ハンデ」と言った瞬間に馬鹿にして笑っていたはずだ。
「IS」を動かせる二分の一の性別に偶々、生まれたという点では不平等の現れと言っても過言ではないのだ。
そう考えると博士の言っていることも動機はともかくとして強ち的外れではない。
何よりも私自身が艦娘として生まれることが出来たという幸運な存在だ。
当然、お姉ちゃんたちとの別れは辛かった。
けれども、誰かのために戦えたことやその力を持つことが出来たという点では間違いなく幸運だった。
帝国軍人の中には我々を戦わせることに無念さを抱いていた人々もいた。
そんな彼らからすれば「深海棲艦」相手に有効に戦える私たちは特別な存在だっただろう。
守るための力を持って生まれて来れた私は間違いなく恵まれていた。
でも……だからと言って、それは特別扱いをしていいことじゃないんですよ……
何を言っても博士には無駄であろうが世界がそうだからと言って不平等であることが正しいことではないのだ。
確かに世界に不平等が溢れているのは事実だろうしそれら全てを正していくことと言うのは理想論だろう。
それでもだからと言って、それが不平等が正しいと言うことじゃない。
博士の言い分では『周囲の人間も泥棒をやっているんだから、自分がやっても悪くない』と言っているようなものだ。
勿論、生きるために泥棒をする人はいるだろう。
でも、それは同情には値するけれども決して免罪符にはなってはいけないものなのだ。
……個人間の不平等にもなりませんしね……
加えて、彼女の行った行動が既に一個人の扱える領分すらも超えているのも問題なのだ。
個人の資質や財産、運にある程度の差が出て来るのは仕方のないものだ。
だけど、この新たな「専用機」の存在に関しては個人の格差等と言う範疇を既に越えてしまっている。
「IS」は強大な力を持っている。
だからこそ、「アラスカ条約」等の取り決めで運用が定めらている。
それなのに博士はそれを無視して新たな「コア」を作ってしまったのだ。
それがどれ程危険な行為なのか知ってるのか分からないが。
……いえ、やっていることは私も変わりがありませんね……
同時に私は自分が篠ノ之博士と同じことをしていることに嫌悪感を覚えた。
私も「初霜」という私にしか使えない「IS」を使っている。
過程は違っていても世界の秩序を乱しているという点では私は彼女と同じなのだ。
……篠ノ之さんと話がしたくなりました……
きっと、今はともかくとして「紅椿」を欲したのは篠ノ之さんだろう。
私と彼女の違いは私は偶発的に、彼女は自発的に「IS」を手に入れたという点だろう。
けれども世界を無視して力を手にしたという点では私たちは同じなのだ。
だからこそ、私は彼女と話がしたくなってしまった。
……でも、結局彼女は篠ノ之さんの心を見ていない……
私はまたしても博士の言葉に哀しみを感じた。
彼女がかけるべき言葉は妹さんへの姉としての情だったはずだ。
それなのに彼女は持論を述べるだけにとどまった。
姉ならば少しでも妹さんへの悪口に苛立ちを見せるべきだったのだ。
そんな風に私には篠ノ之博士に何かを言う資格がないと悔しく感じている時だった。
「それが特別扱いをしていい理由になる訳がないでしょう」
私が博士の言い分に対して感じた感想をそのままぶつける凛とした言葉が聞こえて来た。