奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「みんな……
雪風をお願い」
「鈴さん……」
鈴は頭を下げて那々姉さんによって気絶した雪風の事をセシリア、シャル、ラウラ、のほほんさん、相川さん、夜竹さんと言った普段から雪風と親交が深い面々に頼み込んでいた。
「安心しろ。お姉様のことは確りと私が守る!!」
「えっと……ラウラ……?
あんまり気張らないでね?
多分、川神先生も急所は外していると思うから……」
尊敬する姉分である雪風のことを見守るという役目を任されたラウラがやる気を見せているがシャルはその姿に逆に不安を覚えたらしい。
「でも、どうして川神先生は陽知さんにあんなことをしたんだろ……」
「だよね……
よりにもよっていつも川神先生のことをあんなに慕っている陽知さんを……」
雪風にとっては「IS」を関係なくクラスの友人として大切な夜竹さんと相川さんは那々姉さんがした雪風への仕打ちに不満を露わにした。
それは誰もが思っていることだ。
雪風は一人の生徒と言うよりもそれすらも超えて那々姉さんのことを慕っている。
そして、那々姉さんの雪風へと向ける目も周囲の他の生徒に向けるものと異なっていた。
……もしかすると、那々姉さんは雪風の過去を知っているのか?
雪風の那々姉さんへの慕いっぷりはもしかすると雪風の辛い過去に関係しているのかもしれない。
そして、那々姉さんは雪風と接していく中にそれを知り、その過去すらも共有できるほどに二人の絆は深いものなのかもしれない。
だけど、それだとなおさら今回の件の那々姉さんの行動が理解できない。
「ごめん……
それはあたしにもわからない……
でも、これだけは本当よ?
先生は意味もなく他人を傷付ける人じゃないわ」
この場でさえ漂う那々姉さんへの不信感を理解しても鈴は那々姉さんのことを信じてくれるらしい。
「ああ……
それは俺も同じだ」
「一夏さん?」
「織斑君……?」
俺は鈴の言葉を肯定した。
いや、肯定したかった。
「那々姉さんは……
絶対に人を傷付けて平気でいられる人じゃない」
これがただの感情論で主観的な意見でしかないことは俺も理解している。
それでもあんな風に暴力をいとも簡単に振るう那々姉さんの姿に俺は違和感を抱かざるを得ない。
「うん。
僕もそんな感じがするよ」
「シャル……?」
「デュノアさん……?」
「シャルロットさん……?」
そんな俺の身内びいきに等しい発言にシャルは肩を持ってくれた。
「それに川神先生は……少なくとも雪風だけは意味もなく傷付けたり裏切ったりすることはないと思うよ」
「あ……」
「陽知さんを?」
「うん」
シャルの断言に俺は少しばかりだけど思い当る節があった。
それはあの「レゾナンス」での出来事だった。
あの時、偶然千冬姉たちと遭遇した俺達だったが、その時那々姉さんは『雪風を連れて行く』ことを頼み込んで来た。
それをシャルが了承すると那々姉さんは心の底から嬉しそうな顔をしていた。
あんな嬉しそうな那々姉さんの表情は初めてだった。
でも……なら、どうして箒を……?
だが、それでも一つ解せないことがあった。
それは那々姉さんが箒をネグレクトしたと言うことだった。
束さんに保護者としての役割を期待できないので那々姉さんが箒の保護者をしていることには多少受け入れられていたが。
ただそれを話したのが何かと那々姉さんに突っかかる傾向のある束さんなので信憑性に欠けるところがあるが、今までの箒の那々姉さんへの態度や箒が否定しなかったことを考えると現実味を帯びてしまっている。
いや待てよ……
その前におじさんとおばさんは……?
そもそもおじさんとおばさんという両親がいるのにどうして那々姉さんが箒の保護者をしているのだろうか。
束さんが保護者をしているよりも那々姉さんが保護者をしている姿がしっくり来ていたことでうっかりと忘れてしまっていた。
那々姉さん……
もしかすると、一人で多くの事を背負っているんじゃ……
那々姉さんの抱えている多くの謎に俺は那々姉さんが何かを守るために無理をしているような気がして来た。
「ほら、一夏。行くわよ」
「ああ……」
そんな風に那々姉さんを信じられる光明を見出した直後に鈴が俺の事を部屋から連れ出そうとした。
「セシリア、雪風を頼むわよ」
「ええ。任せなさい。
一夏さんも安心して勝負の行く末を見届けてくださいな」
「ああ……頼む」
鈴はセシリアに雪風のことを改めて頼んだ。
何かといがみ合っていることが多いこの二人だが、認め合う事も多く鈴にとってはセシリアは信頼のおける相手らしい。
そして、セシリアはこの場から離れざるを得ない俺に対してもこの場を任せる様にと言ってくれた。
そう。俺は那々姉さんと箒の事が心配だ。
だからこそ、今から始まる二人の戦いを見届ける必要があるし何か出来ることを見つけたかった。
俺達は今から模擬戦が始まろうとする浜辺と向った。
「一夏……
悪いんだけど、先生があいつを裏切ったて言うのは……
本当のことかもしれないわ」
「……えっ!?」
客室から出てしばらくすると鈴が複雑そうな顔をして衝撃的な告解をしてきた。
「……あたしの指導のために一年前に先生が中国に来たのは知っているわよね?」
「ああ……
それは知っている。
それでそれが箒とどう関係するんだ?」
鈴は一年前の那々姉さんとの出会いに語り出したが、俺はそのことに那々姉さんが箒にしたとされる裏切りにどう関わっているのかがまだわからなかった。
「多分……その時にあいつの下を離れなくちゃいけなかったんだと思うわ……先生……」
「……!?」
鈴は自分なりに推測した那々姉さんと箒との確執を語った。
つまり、那々姉さんは鈴の教官として赴任するために一年近く箒と離れていたらしい。
これが束さんの言う「ネグレクト」らしい。
ただそれだと
千冬姉と同じだよな?
千冬姉が俺にせざるを得なかったドイツでの教官時代と変わらない気がするのだ。
少なくとも千冬姉が三年近く家を空けていたことに俺はネグレクトだとは思っていない。
それは千冬姉は何だかんだで全部俺のために仕事をしてくれていたからだ。
だから、俺は少しでも千冬姉に楽をさせてあげたくて中学時代は進学校の藍越学園を希望してそのままいい就職先に向かいたいと努力していた。
それがどうして裏切りに繋がるのかが後少しだが理解できなかった。
「で、あいつ言っていたのよ……
『あの人は『いなくならない』と言ってくれた……』て」
「『いなくならない』……!?」
鈴の口から出て来た箒の叫びに俺の疑問はようやく全てが繋がった。
「多分、あいつ―――」
「……箒の奴……
ずっと一人だったんだな……」
「―――……一夏」
鈴が全て言い終わる前に俺は箒が今まで味わっていた悲しみを知った。
同時に今までの違和感の正体にも気付いた。
箒は少なくとも雪風のような奴に対して敵愾心を抱くような奴じゃなかったはずだ。
それにもし雪風が最初から友だちだったのならば案外箒は雪風の事が好きになっていたはずだ。
だけど今の箒は傷だらけだ。
加えて、雪風は那々姉さんに俺や箒以上に大切にされているのがこの俺でさえ理解できてしまう。
箒は那々姉さんの愛情が雪風に向けられていることにさらに裏切られたと思ってしまっている。
だから少しでも触れられるだけで自分が攻撃されていると思って好戦的になってしまう。
手紙の返事が来なかったのは……
そう言うことだったんだな……
箒と再会するまで転校した箒に俺は何度も手紙を送ったがその返事は来なかった。
那々姉さんは保護者をしているとなるとおじさんとおばさんとも離れて暮らしていた可能性もある。
手紙が返って来なかったのは恐らく、箒が置かれている状況にあったんだろう。
でもそれだと那々姉さんは……
鈴の言う通り那々姉さんは結果的に箒を傷付けてしまっただろう。
だけど、那々姉さんが箒の事を大切に想っているのは紛れもない事実だ。
『一夏君。
今日は箒ちゃんと一緒にいてあげてください』
その証拠に那々姉さんはどれだけ箒に嫌われても俺に週に一度は箒と一緒にいて欲しいと寂しそうにしながらも頼んでいた。
あの訓練に妥協しない那々姉さんがだ。
『これは心配させられたことに対する私なりの行動です』
それに本気で箒を裏切ったと言うのならばあの無人機の襲来時の際に箒に平手打ちをすることもしなかったはずだ。
『だって、この世の中で一番怖いことって自分の大好きな人に嫌われることじゃないですか?
それなのにその大好きな人に嫌われるかもしれないのに相手の為に向き合える……
それって、すごく勇気のいることでその人のことを大切に思ってなくちゃ出来ないことじゃないですか?』
ああ……今なら解る。
那々姉さんは強いよな……
俺の脳裏に昨日雪風が語った雪風の厳しい次姉に対する敬意が蘇った。
たとえ嫌われようとも相手を大切に想うからこそ時に厳しく接する。
甘やかすだけなら誰にだってできる。
だけど、それは無関心にも等しい。
そんな那々姉さんが誤解されたままなんて絶対にダメだ……!
今、箒は那々姉さんへの怒りに支配されている。
何かと目の敵にしていた雪風の言葉には気まずさを感じながらも那々姉さんが「専用機」の受領に口を挟んだ途端に我を失ってしまっている。
あれは邪魔したことではなく那々姉さんが邪魔したことにまたも裏切られたと思ってしまっている。
「急ぐぞ、鈴!」
「うん……!」
那々姉さんの目的が何なのかは俺も分からない。
だけど、箒への愛情が本物であることから俺は那々姉さんが誤解されたままだけなのは嫌だ。
それにもし那々姉さんに何かあればそれこそ箒はずっと後悔することになる。
「川神……
お前は一体、何を考えているんだ?」
自らの愛弟子に手を上げ、弟分を一蹴し、そして、今から妹分と矛を交えようとする川神に対して私はその真意を訊ねた。
「……先輩ならお分かりの事だと思いますが?」
「………………」
川神はそんな私の問いを愚問とでも言うかの様にそう返した。
そうだ。
私は目の前の後輩がしようとしていることを理解している。
「止める気はないのか……?」
私は敢えて答えなどとっくのとうに決まっているであろう問いを投げかけた。
「ありません」
「……そうだな」
川神は迷いなく答えた。
それに私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「……お前、まさか―――」
ただ今の川神の姿に不安を感じている私は意味はないと思いながらも川神のことを案じたが
「安心してください先輩。
そんな覚悟は
「……
川神は相も変わらず笑顔を崩さずそう答えた。
そうか……
こいつにとっては……
川神のその言葉に私は川神の見ている世界と私たちが見ている世界の違いを感じさせられた。
「はい。それに雪風がいてくれるのにそんな覚悟を持つ訳にはいきませんよ。
少なくともあの娘には同じ悲しみを背負わせる訳にはいきません」
「……!
そうか……」
それを聞いて私は安堵すると同時にまたしても私は雪風が背負った悲しみを知った。
川神は雪風が同じ悲しみを背負うことを善しとしなかった。
それはつまり、
今の川神には待ってくれている教え子の存在がいる。
その存在が錨となって彼女を繋ぎとめてくれているのだろう。
「……先輩。
では、行ってきます」
「ああ……行ってこい。
そして、お前の心のままにいけ」
「ありがとうございます」
今までの川神は「公」ばかりを優先して来たが今、ようやく「私」を取ることが出来ている。
だから、私は彼女の背中を押した。
かつてとは逆の立場で。
そして、彼女は自らの「IS」を展開した。
「第二世代」である「打鉄」をベースにし出力のみを増強し続け、武装や装備は一部を除きほぼ変えないことでその「第三世代」以上の出力を推力に回したことで機動力と運動性だけならば「
ようやく出せた神通さんの「専用機」。
これは所謂、あれです。神通さんしか使えないピーキー過ぎる機体です。
と言うか、造った人は束さんとは違う意味で変態です。