奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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アニゴジのギドラの影響で私のクトゥルフ熱もアップしている今日この頃です



第38話「鬼の鎧」

「………………」

 

 海原を下にし空で対峙する妹分は自らの実姉によって与えられた真紅の鎧を纏って目に私への敵意を隠すことなく睨み付けていた。

 

『那々姉さん……?』

 

 三年前に「第二回モンド・グロッソ」での勝利の対価で「重要人物保護プログラム」で外部の人間から接触を禁止されていた箒ちゃんと再会した時、あの子は普段の強がっている姿を捨ててまで私との再会を涙を隠すことなく喜んだ。

 

『那々姉さん!

 剣道部のレギュラーに選ばれました!!』

 

 仕事で彼女と一緒に居られない時があったにはあったが、それでも彼女が勉強や部活動での成果を嬉しそうに報告してくれると私は彼女の笑顔が戻りつつあると思って嬉しかった。

 

『嘘吐き……!『大丈夫』って言ったのに……!!

 貴女だけはいなくならないと思ったのに!!』

 

 「公」を選び彼女を見捨ててしまった時、彼女の悲痛な叫びは苦しかった。

 

 ……どうしてこうなってしまったんでしょうね……

 

 「神通」としての記憶が戻る前に私は胸の奥で何処か空虚さを感じていたのは事実であったが、それでも私は一夏君と箒ちゃんと言う弟分や妹分に囲まれている時は幸せだった。

 

 いえ……教え子たちを守れなかった私が普通の幸せを謳歌していたこと自体が烏滸がましいことだったのかもしれませんね……

 

 私が陽炎、黒潮、親潮といった教え子たちを目の前で死なせてしまった。

 教え子たちが目の前で死んで逝ったのに自分だけが記憶を失ってのうのうと生きていたこと自体が過ちだったのかもしれない。

 思えば、箒ちゃんに罵倒された時に死ぬほど辛かったのは、あり得ない話だが、陽炎たちが私を責めている姿を被害妄想で重ねてしまったのかもしれない。

 

 ですが……

 それでも、私は目の前のこの子と戦わなくてはなりません

 

 今から私がやろうとしていることはかつて私が犯した過ちと目の前の妹分への未練を断ち切るための清算だ。

 

 相手はあの天才が造った最新鋭機……

 気は抜けませんね

 

 私は今から鬼となる。

 相手が妹分であろうと、その実力が未熟であろうと少しでも不安要素があるのならば気を抜くつもりはない。

 そうしなければ私のすべきことは達成できないからだ。

 

『今から、試合を開始する。

 生徒は決して海上に出ないように』

 

 私たちが対峙していると先輩がこの試合に横槍が入らないようにと忠告した。

 同時にそれは『思う様にやれ』と背中を押してくれているようにも思えた。

 

『では、始め!!』

 

「……!

 たあぁ!!」

 

「……!」

 

 試合が始まると同時に目の前の妹分が、いや、相手がそれを待っていたと言わんばかりに一気に間合いを詰めて来た。

 その構えは多少乱れているが、目の前の相手が幼い頃から何度も私が相手をして来たものと同じものだった。

 

 ……成程、早いですね

 

 今、私に迫って来る真紅の機体は私が相手をして来たどの「IS」よりも速度が上だった。

 流石、あの天才お手製の最新鋭機だと認めるしかなかった。

 

 そしてこの子の戦いに合わせるための武装……

 

 右手の刀が私に突き付けられると同時にその刃から無数の赤い弾幕が私目掛けて襲い掛かって来た。

 成程、これは近接戦闘において相手を蜂の巣にするための殲滅装備らしい。

 完全にその弾幕と刀のモーションは理想的な形だった。

 搭乗者の戦闘スタイルを一度たりとも肉眼で見ていないのにも関わらず身体データだけで無理もなくモーションを一致させている。これもまた驚くべきことだ。

 あの天才が搭乗者の姉で、搭乗者と同じ道場主の娘であることを差し引いてもこれは神業と言うべきだろう。

 

「ですが―――」

 

 だが、それらを踏まえても

 

「―――相手に殺気を悟らせるとは貴女は何を学んできたのですか?」

 

「え」

 

 それらを振るう腕に力が入り過ぎて折角の名刀と言う名の凶器の動きが鈍り、さらには殺気が強過ぎて隠すことも出来ない相手の背後に回り込み、私はこの試合ではこの距離では使用を自ら禁じた左腕の固定砲塔を突き付けてそう言うしかなかった。

 

 

 

「え、え、え……?」

 

「ちょっと、何今の……?」

 

「な、何があったの!?」

 

 急遽用意した観戦用のスクリーンの前で一年生全員が束の開発した機体の加速力と装備に目を奪われ、「もう一人の世界最強」に初撃を与えあわよくばこのままストレート勝ちをするのではと興奮した直後に川神の異常過ぎる回避手段の結果だけしか理解できず騒然となった。

 

 川神の奴め……

 公式の場で出さなくなっても裏ではずっと改修だけはさせて来たな……

 

「ぐ~!!

 悔しい!!本当何なのあの根性論女!!

 絶対にあれでしょ!?「紅椿」のことはある程度は認めてるけどしたり顔で『それだけだ』と思っているでしょ!?

 キィ~!!」

 

 そんな川神の見せた本来ならばこのまま試合終了になるであろう展開に隣で束は何が起きたのか、いや、またもや自らの作品が川神のある意味、人間の限界を応用した戦いに負けた事に地団太を踏んで悔しまくっていた。

 

「か、川神先輩……

 相変わらず速いですね……」

 

 突如として始まったこの模擬戦における最初の攻防に周囲があたふたする中、模擬戦が始まるまでは最もあたふたしていた真耶だったが、実際に模擬戦が始まると他の人間が動揺する中で最も冷静にこの状況を分析していたがそれでも呆然としていた。

 少なくとも、あんな芸当が出来るのはこの地球上では彼奴ぐらいだからそれは仕方ない。

 

「ぐっ……!

 もう始まっている!!」

 

 一夏……

 

 試合が始まり最初の攻防が終わったところで息を切らしながら一夏が凰を伴ってこの場に現れた。

 

「え……

 あの機体……」

 

 モニター画面に映し出されている自らの師の滅多に公の場で見せない出で立ちを目にして凰は動揺していた。

 

『ぐっ……!!』

 

 砲口を突き付けられながらも撃って来ない川神に違和感を抱きながら篠ノ之は今度は左手に持つ刀を振りかざした。

 

「先生っ……!!」

 

 その刀身から今度は先程の弾丸状のものとは異なり斬撃がそのまま形を成したかのようなレーザーが川神の身体を両断しようとしていた。

 どうやら、あれは単体の敵を撃滅する「点」を狙ったもう一振りの刀とは対照的に多数の相手を想定した広範囲の射程を持つ「面」を狙った装備らしい。

 成程、確かにあの薙ぎ払いは仕切り直しとしても有効だろう。

 

 普通の相手ならばな……

 

『……ですから。

 貴女は何度背後を取られれば気が済むんですか?』

 

『……なっ!?』

 

 篠ノ之のレーザーと斬撃が背後に訪れるよりも先に再び川神は篠ノ之の背中を取っていた。

 

「……え!?」

 

「な、なんだ!?」

 

 その光景に先ほどまで師の事を心配していた凰は呆気に取られ、一夏は先ほどまで顔に出ていた必死さすらも捨ててしまっていた。

 

「あ~!?

 「空裂」も~!?

 おかしいでしょ!?あれ本当に普通の人間!?

 いくら何でもおかしいよ!?」

 

「束さん……?」

 

 再び自らの作品がいとも簡単にあしらわれたことに束はムキになって喚き出した。

 

 ……よく考えれば束に対抗意識を燃やさせている時点で川神は束にとっては特別な存在なのかもな……

 

 一応、二人の共通の友人である私だが、束が多少ではあるが人間味を見せていることに私はこんな状況にもかかわらず少しだけだが微笑ましかった。

 

 ただそれが川神や世界にとっていいことなのかは別だが……

 

 素直に喜べないのは川神の人生を滅茶苦茶にしてしまったことへの罪悪感がある。

 恐らくだが、束にとって本当の意味で認識できている他人なのは川神だけだ。

 この私自身でさえ、本当の意味で友人であるのかすら分からない。

 ある意味、束に人間らしさを教えることが出来たのは川神だ。

 それは本人たちにとっては不幸なのかもしれないが大切なことであると私は思いたい。

 

 いや……

 そもそも、私自身が川神に救われた一人だな……

 

 思えば私自身が川神によって人間として生きることを始められた張本人だ。

 

「……あれは()()()()()()()()()()だ」

 

「た、()()()()()()()()()()!?

 あれが!?」

 

 状況が呑み込めない周囲の人間の為に私は今の状況の種明かしをしようとしたが、一夏はそれに納得できないようだ。

 

「ああ、そうだ。

 ただあんなことが出来るのは川神ぐらいだろうがな」

 

 私はあの動きが出来るのは川神ぐらいしかいないことを先に言っておいた。

 

「川神の機体である「鬼百合」は「第二世代」でありながらも出力だけならば現存する()()()()()()()()()()()()()だ。

 その出力を全て推進力に変えているのだ。瞬間速度だけならば理論上はあれぐらいの芸当はできるさ」

 

「どの「第三世代」すらも上回るだって!?」

 

 次に私は川神の機体の「鬼百合」のスペックを明かした。

 特殊機構に力を入れた「第三世代」とは反して「第二世代」である「打鉄」の機体の基礎スペックを追求し続けた結果、出力は「第三世代」を凌駕しさらにはその有り余る出力を推進力にだけ回し、さらにはそれだけでは飽き足らずスラスターも増設し機体の駆動部も改良した結果、「鬼百合」は少なくても運動性と機動性においては並みの「第三世代」すらも遥かに超えている。

 だが

 

「それだけじゃないでしょ!?ちーちゃん!?

 確かにあのゲテモノ機体の構造上、基礎スペックじゃ「第三世代」を余裕で上回ってるけどあれを彼奴以外が使ったら今の回り込みをするどころか事故者が続出でしょ!?」

 

「え……?」

 

 束はそんな私の説明に納得がいかず、川神でなくては「鬼百合」の真価を見せるどころかコントロールすら出来ないことを口に出した。

 その通りだ。

 川神以外の人間が「鬼百合」を纏うことは無理だろう。

 

「え……いや、それって―――」

 

 一夏は束の口から出て来た不穏な単語に嫌な予感がしたらしい。

 

「……織斑。

 貴様は「瞬時加速」の時に何故機体の軌道を変えてはならんかは覚えているよな?」

 

 私は先ず基礎的な知識を確認させることで束の言った言葉の意味を理解させようとした。

 

「あ、ああ……

 確か身体に負荷がかかってけがをするからだよな?」

 

「そうだ。

 「瞬時加速」は高い速度を得られる代わりにそう言ったデメリットが存在している。

 仮令、どれだけ「IS」が搭乗者の安全性を考慮していても人間の身体にかかる負荷を完全にシャットダウンできるわけではないのだ」

 

「……千冬姉。

 それって……まさか……」

 

 私の質問。束の言葉。それらの言葉が全て繋がったことで一夏は「鬼百合」の危険性を悟ったようだ。

 

「……「鬼百合」は常に「瞬時加速」と近いか同等の速度を何時でも出せる。

 その代わりその速度を制御するのも難しい。

 そして、それによって()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……!?」

 

「……そして、あの機体は多くの乗り手の選手生命を断ち切って来た」

 

 「鬼百合」の神速。

 それは常に死と隣り合わせの力なのだ。

 あれは多くの乗り手の血を吸ってきた「鬼の鎧」なのだ。




「鬼百合」は要するに人の限界を極め過ぎた機体と言うしかありません。

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