奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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時空のたもともいいですけど、夢轍もいいですよね。
ヒルド〇ブ、ヅ〇、オ〇ゴ等には泣かされました……


第39話「鎧を纏う鬼」

「なんでそんな機体を那々姉さんが……!?」

 

 一夏は私が口に出した「鬼百合」の経歴を聞いて血相を変えた。

 乗り手を再起不能にするような機体など非難されて当然であろうが、それが自らの姉分が纏っているのだ。

 それに心配するのは当たり前だ。

 

「……元々あの機体は川神の愛機だった彼奴専用にカスタマイズされた「打鉄」を改造したものだ。

 その縁で扱えたのが川神だったからそのまま奴の「専用機」として戻って来たのだ」

 

 私は川神が「鬼百合」を持つ()()()の理由を明かした。

 そもそも「鬼百合」の前身となった機体は川神が専用に調整した「打鉄」だった。

 それをあの大会が終わった後に政府に返却した後に改造を施されたのがあの「鬼百合」だ。

 

「え!?じゃあ、ならどうしてあんな機体に!?」

 

 「鬼百合」の更なる過去に今度は凰が驚愕の声をあげた。

 

「まあ、待て。

 元々、川神は「打鉄」を自分に合わせるためにある工夫を施した」

 

「ある工夫……?」

 

 「鬼百合」の前身となった川神専用の「打鉄」には川神自身が整備課に頼みこんだことで性能面で一般の「打鉄」と一線を画す改修が施されていた。

 

「「IS適正」とは異なるやり方で機体の反応速度を限りなく自分がイメージした瞬間に反映させるようにしたんだ」

 

「……え?」

 

「そうなんだよ、いっくん!

 あの女、私が考えもしない方向で機体をカスタマイズしたんだよ!?

 あー、どうして束さんに何も言わないかなあの後輩!本当に可愛くない!」

 

 それは「IS適正」とは違う方向性で「打鉄」の動きを従来の「IS」よりも自らがイメージしたものを瞬時に反映させるようにしたのだ。

 流石の束も川神がした愛機への改修には予想外だったらしい。

 ただ川神がああいった改修をしたのも、束がこうもムキになっているのも両者とも負けず嫌いだからなのかもしれない。

 

「い、いや……

 それの何が……?」

 

 一夏は川神が施したその改修の意味が出来ないようだった。

 

「ちょっと待ってください!?

 それって搭乗者の身体能力が直に機体に反映されるも同然じゃないですか!?」

 

「……?」

 

「そうだ」

 

 しかし、そんな一夏とは対照的にあいつの教え子にして、恐らく雪風とは違う意味であいつとは戦闘スタイルが似ている凰はその改造の意味が理解できたらしい。

 

「織斑。

 貴様は一度、「IS」を飛行中に墜落させたことがあったな?」

 

「あ、ああ……そうだけど……」

 

「え?アンタ、そんなことあったの?」

 

「……ちょっと、慣れていなかった時にな」

 

 私はイマイチ機体の反応速度を高めることの危険性が分からない一夏にヒントとしてこいつが運動場に穴を空けた時のことを例に出してみた。

 

「あの時、貴様はどうして失敗した?」

 

「え?それは―――」

 

 次に私は一夏が何故その様な失敗をしたのかを確認した。

 

「俺がイメージするのが下手だったから―――

 ―――あ!?」

 

「ようやく気付いたか」

 

 一夏はようやく「鬼百合」とその前身である「川神専用打鉄」の改修の意味が分かったらしい。

 

「そうだ。「IS」はイメージによって動く物だ。

 だが、それでもある程度のコントロールがしやすいようにその反応速度は抑えてある。

 川神が纏っている「IS」はそのリミッターをなくし殆ど瞬時にイメージを反映させる。

 つまり、川神のようなずば抜けた強者が纏えば川神の身体能力をそのまま十二分に発揮しそれこそ鬼神の如き強さを見せるのだ」

 

 川神が纏う「鬼百合」が最強たる由縁。

 それは川神自身の身体能力と弛まぬ鍛錬の末に培われた武人としての目、そして、恐らくは

 

 お前もまた……そうしなければ生きていけなかったのだな……

 

 前世における戦いの経験が全て直結したことで川神が纏うからこそ「鬼百合」は最強であり、「鬼百合」の方こそが川神に合わせていると言うべきだろう。

 

「そして、事故が多発したのも奴のそう言った強さが原因なのだろうな……」

 

「?

 どう言うことなんだ?」

 

 私は同時にあの機体が多くの選手たちの選手生命を奪ってきた理由はその川神の強さにあると断じた。

 

「……簡単なことだ。

 川神が自らの愛機である「専用打鉄」を返却した後に川神が「第二回モンド・グロッソ」で見せた戦果を見てあの戦い方とデータをそのまま応用することで後に出て来る機体の能力を高めるために運動性と機動性、加速度と言った特別な機構を要求しないものを強化したのだ。

 「IS適正」という個人差を問わないで強力な機体を作るためにな」

 

 私は「鬼百合」の負の歴史の始まりを明かした。

 あの大会であれだけの実績を残した川神の「打鉄」の戦闘スタイルをそのまま使えないかと打診した結果、当時の政府やら委員会が考えた結果があの「鬼百合」だ。

 速度等の性能だけならば「IS適正」と言う一種の個人差に問われないからだ。

 

「……え」

 

「ちょっと待ってください!

 じゃあ、事故が多発したのって……」

 

 一夏はあの大会の影響があることに、凰は事故が多発した原因に衝撃を受けた。

 

「……凰。お前が考えている通りだ。

 余りにも早過ぎる速度とイメージした動きを制限なくイメージする反応速度、加えて今まで感じたことのない加速度……

 それらに恐怖した搭乗者たちは機体のコントロールを失い、それによってパニックを引き起こして更なる暴走を招き「絶対防御」が機能するか、意識を失うか、「シールドエネルギー」が尽きるかのどれかの状態になるまで地獄を味わう事になったんだ。

 お陰で身体的なものが原因で再起不能になった者よりも精神的なもので再起不能になった者が多かったのだ」

 

「そんな……」

 

 死者が出なかったことで皮肉にも「IS」の安全神話と束の技術力の高さを証明したことになっただろう。

 

「じゃあ、那々姉さんが使えるのは……」

 

 一夏は川神が「鬼百合」を使える理由にふと気付いたらしい。

 

「……そうだ。

 川神は身体能力や技術だけでなく鋼の精神であの機体が生む速度を制したのだ。

 あれは名実共に奴にしか使えない鎧だ。

 だからこそ、あれは川神しか扱えないしその川神が使えば誰もが奴のことを「鬼神」と言わざるを得ないのだ」

 

 もし川神がもう一度、公式大会に出れば「華の鬼武者」という異名ではなく「華を纏った鬼神」という異名が付くことになるだろう。

 

 だが……

 あいつがあれを使うのはあいつを潰そうとした連中の狙いがあったがな……

 

 川神が「鬼百合」となった元愛機を受領した()()理由。

 それはその「殺人機体」となった「鬼百合」を渡すことで遠回しに川神を潰そうとした連中の目論見があったのだ。

 川神の存在は束のことで篠ノ之のことを尋問したかった連中からすれば忌むべき存在だった。

 だからこそ、あの機体で川神を潰して篠ノ之から引き離そうとしたのだろう。

 だが、その目論見は川神の鋼の精神によって無意味なものとなった。

 何よりもあいつの愛する者のために「鬼の鎧」を自らのものとしたのだ。

 

 その鎧でその愛する者と戦うことになるとはな……

 

 

 

「……くっ!?」

 

「……これで十二回目です」

 

 先程から十二度も繰り返して迫って来たレーザーを私は避け続けその度に彼女の背後に回った。

 

「もし私が貴女を撃つことが出来ていればとっくのとうに貴女は負けているか―――」

 

「ぐっ……!」

 

「―――死んでいることになっていますよ?」

 

 今、十三度目となった空振りになりながらも全く殺意を隠そうとしない目の前の彼女の首筋に私は砲口を突き付けた。

 

「「IS」は動かすだけで「シールドエネルギー」を消耗します。

 それに武器使用となればそれこそ激しいですよ?

 それを念頭に置いていますか?」

 

「たあっ!」

 

「ですから、当てるなら確実に静かに一撃でです」

 

 先程から私を倒そうと、いや、とりあえず当てることだけに躍起になっている彼女に私は先程から隠し切れていない殺気を指摘しそれを抑える様に告げた。

 

「ハアハア……!」

 

 何度やっても攻撃が一度たりとも当たらないことに彼女は焦りと困惑を浮かべていた。

 

「『何故攻撃が当たらない?』と言った顔ですね」

 

「……っ!」

 

「では逆に訊きますが貴女は相手が仕掛けて来るのを知っていて尚且つその剣と視線に兆しを隠し切れていない状況で分からないのですか?」

 

「……そ、それは……」

 

 そう目の前の彼女は殺気を隠せずにいる。

 いや、私を殺そうとは思っていないだろう。

 ただ怒りをぶつけているだけだ。

 しかし、それは殺気とほぼ変わらない。

 それが彼女の剣筋や視線に無意識に出てしまっていることで私は彼女が何時仕掛け、そしてどの様な攻めをするのかを理解できるのだ。

 

「何よりも……

 あの道場で何度私が貴女と手合わせしたと思っているんですか?」

 

「……!?」

 

 この子の剣筋はあの時と殆ど変わらない。

 確かに技や力自体は当時のものよりも向上しているがそれでも見慣れたものだ。

 それに

 

「それに私はこの三年間、貴女の剣道を見て来たんですよ?」

 

「え……」

 

 私はこの子が中学の部活動に入ってからこの子の出ている主な大会や試合を全て見て来た。

 最期の一年間の剣道は荒れたものになっていたがそれでも私はこの子の姿を見続けて来た。

 

「そんな私に……

 その乱れた剣が通用すると思っているのですか?」

 

「ぐっ……!

 うるさい!!」

 

 私のその指摘に再び怒りを爆発させた彼女はまたもや剣を振るってきた。

 

「私を今まで放っておいて今更保護者面ですか!?

 私を裏切るくらいなら最初から私を放っておけばよかったじゃないですか!?

 今も攻撃をちらつかせておいて何もして来ない……!!

 何処までも上から目線なんですか!!?あなたはぁ!!?」

 

「………………」

 

 彼女は目に涙を浮かべ攻撃と共に今まで心に溜めていた私への不平不満を全てぶつけて来た。

 その一つ一つを私は彼女のことを観察しながら回避し続けた。

 

「……そうですね。

 確かに貴女の言う通り私は中途半端でした」

 

 けれどもこの子の言う通りだ。

 そもそもこの子が感情的になりやすくなってしまった原因は私の中途半端な行動による心の傷が原因だ。

 

「……っ!

 あなたはどうして……!?」

 

 私がそのことを認めると彼女は苦しそうな顔になった。

 

 本当に何もかも中途半端ですね……

 私は……

 

 私は目の前のこの子の孤独を少しでも癒したいと願ってこの子の保護者となった。

 しかし、その保護者の務めすら果たすことが出来なかった。

 次に私は教職者としてこの子のいる学園へと赴いた。

 なのに一生徒であるこの子を教師として満足に指導することすらも出来なかった。

 終いにはこの子が「専用機持ち」に相応しいかを確かめる試験なのに先程から攻撃すら出来ずにいる。

 何よりも私は私は悪役になることすら出来ていない。

 今の一言ですら『泣き言』と言い捨てればいいのに私はそれが出来ない。

 私が完全な悪役になればこの子も少しは救われるはずなのに私はそれが出来ない。

 この子を傷付ける言葉を言うことが出来ないのだ。

 

 いえ……

 もう遅いですか……

 

 今のやり取りにすら後悔を抱いた私だったがそれでも今から出来ることがあることに気付いた。

 

「おしゃべりはここまでです。

 そろそろ決めに行かせてもらいます」

 

「……!

 あなたは……!?」

 

 私はもう遅いとは思うが彼女を傷付ける言葉を言い放った。

 今までの会話を全て「私語」と片付ける言葉を言うことで彼女の敵となったことを伝えた。

 

「遅いですよ」

 

「ぐっ……!?」

 

 彼女が再び斬撃を放つと共に私は急上昇した。

 「鬼百合」の出す最大出力で一気に稼いだ間合いは最早、間合いではなく距離となるだろう。

 

「待て!!」

 

 そんな私を彼女は真下から追いかけて来た。

 流石、あの天才が造った最新鋭機だ。

 「鬼百合」の出す最大出力には及ばないが、ある程度距離を維持できている。

 それでも、彼我の距離は開いているが。

 

「ですが……

 もう遅いですよ」

 

 既に距離は稼いだ。

 そして、標的は避けることはままならない。

 何故ならば

 

「……え」

 

「………………」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 そして、それから数秒も経たないうちに私の背後で爆音が響き渡った。


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