奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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すみません。今回ほぼ解説回になりました……
なんでこうなった……なんでこうなった……


第40話「鬼が舞いし華の舞」

「箒……!!」

 

「な、何……

 一体、何が起きたの……?」

 

 いきなり起きた試合の変化にこの場にいるほぼ全員が騒然とした。

 箒が何度も攻撃を繰り返すもそれら全てを那々姉さんは難なく回避し、その後那々姉さんは突然急上昇し、箒がそれを追いかけていくと急降下した。

 その際に何かが那々姉さんから分離し、そのまま那々姉さんは箒の真横を擦れ違いそれか一秒も経たないうちに箒は那々姉さんから分離した何かにぶつかり爆炎に包まれた。

 

「全員、落ち着け。

 そもそもあれはこの場にいる全員が見覚えがあるものだぞ?」

 

 そんな喧騒の中、千冬姉は全員に冷静になる様に促し今、起きた出来事は全員が知っているものだと明かした。

 

「一度は見たことがあるって……」

 

 千冬姉が『全員が見覚えがある』と言ったことから恐らく、その全員の中には俺も入っていることだろう。

 つまりは俺が「IS学園」に入学してから見る機会があったということだ。

 俺は自分の記憶と目の前で起きた出来事を重ね合わせて探った。

 

「……!」

 

 それは直ぐにも答えが見つかった。

 いや、脳に浮かんできた言葉をそのまま口に出したと言うべきなのかもしれない。

 

「まさか、あれって……

 「逆落とし」か……!?」

 

「え……!?」

 

 それは雪風が何時も「IS」の試合で見せて来た彼女の十八番にして切り札である「逆落とし」だった。

 

「ちょ、一夏……

 いくら何でもそれは……」

 

 鈴はあれが「逆落とし」だと信じられないようだ。

 いや、鈴だけじゃない。

 他の周囲の人間も苦笑いしている。

 俺でさえ半信半疑なのだ。それは仕方のないことだ。

 どうしてあれが「逆落とし」だと思えたのかすら自分でもわからない程だ。

 

「その通りだ。

 あれは「逆落とし」だ」

 

「えっ!?」

 

「……!?」

 

 だが、千冬姉はあれが「逆落とし」であると断言した。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!?

 あれが……「逆落とし」!?

 仮にそうだとしてもロケット弾よりも先生の方が前に出ているじゃないですか!?」

 

 鈴はあれが「逆落とし」であることが未だに信じられずにいる。

 それは俺も同じだ。

 そもそも雪風が俺たちに見せていた「逆落とし」は常に雪風が衝突覚悟で高速で突っ込んできて相手に避ける隙を与えずロケット弾を叩き込むと言った戦術の筈だ。

 それなのに那々姉さんが見せたものは今、ようやく理解が追いついたことであるが、どうやら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()辿()()()()()()()らしい。

 余りにも不可解な行動に俺達は訳が分からなくなってきた。

 

「そうだな。

 確かにこの試合では川神が今、見せた「逆落とし」の()()は発揮できないだろう。

 だが……それでも奴の「逆落とし」は現に篠ノ之を捉えただろう」

 

()()……?」

 

 千冬姉は実際に那々姉さんが「逆落とし」を直撃させたことで周囲の動揺や疑念を強引に抑えようとするが、新たに出て来た件の「逆落とし」の真価と言う言葉によって益々謎が深まった。

 

「織斑。貴様は知らんとは思うが、川神の異名である「華の鬼武者」とは奴の苛烈な戦いから来ているが、同時に奴の戦いの際に見せる美しさからも来ているのだ」

 

「……?」

 

 千冬姉は那々姉さんの異名とされている「華の鬼武者」について言及した。

 千冬姉の言う通り、俺は那々姉さんが強いと言うことは知っているが、千冬姉の言いつけで「IS」に携わる那々姉さんの強さに関しては無知だ。

 その為、千冬姉の今の発言の意図が理解できない。

 

「え?

 アンタ、先生の戦闘スタイルも知らないで指導を受けようとしてたの?」

 

 鈴は命知らずなと言わんばかりの表情を浮かべて俺が「IS」関係者としての那々姉さんのことを知らないことを訊ねてきた。

 

「ああ……

 千冬姉に「IS」に関わることを止められていてな……」

 

「嘘でしょ!?

 先生て「IS」に興味がない人でも知ってるぐらいの世界レベルの有名人よ!?

 アンタ……よくそれで先生の地獄の訓練を受ける気になったわね!?」

 

 正直に俺が知らないと答えると鈴は初めて会った時のセシリアとは異なる感じで呆れていた。

 

「い、いや……

 まあ、那々姉さんには昔から鍛えられたりしてたからキツイなと覚悟してたし……

 何よりも那々姉さん来る前に散々雪風にも鍛えてもらっていたから……」

 

「う……

 確かに先生って「IS」を纏わなくても勝てる気がしないオーラがしているから納得だわ……

 それに雪風にしごかれてたらねぇ……あの子、まさに先生の弟子て感じだし……」

 

 鈴は那々姉さんの厳しさが「IS」限定じゃないことに身に覚えがあるのか容易に想像できたのかのどちらかは分からなかったが納得してくれた様子だった。

 それと那々姉さんの弟子である雪風の指導を受けていたということもあってスムーズに話が伝わった。

 

「……話を戻すぞ。

 川神は()()()()()()からその苛烈さと美しさで観客どころか対戦相手すらも圧倒したのだ」

 

()()()()()()……?」

 

 千冬姉は那々姉さんの戦い方について語り出した。

 那々姉さんの異名とされている「華の鬼武者」の由来はどうやらその()()()()()()から来ているらしい。

 

「先ず一つ目に「逆落とし」だ」

 

 その一つはやはり「逆落とし」らしい。

 それについては俺も予想できた。

 那々姉さんは常に雪風の「逆落とし」に対して恐ろしいほどに細かく指導していた。

 そのことから那々姉さんが「逆落とし」を扱えることぐらいは察することは出来ていた。

 むしろ、雪風の師であることから雪風の「逆落とし」が那々姉さん直伝のものであると言った方が正しいのかもしれない。

 

「奴の怯むことなく進むその勇壮な姿に世界大会において人々は「侍」だと感じたのだ」

 

「あ~、成程……」

 

 千冬姉の説明はとてもシンプルだった。

 要するに那々姉さんの恐れを知らない戦い方や当時日本刀を主軸とした出で立ちをしていた「打鉄」を使用していたことや那々姉さんが千冬姉の代理で出ることになったことである意味日本代表になったとも言えるエキシビションマッチを見たことで観客が日本の勇猛な戦士=「侍」だと那々姉さんにイメージが付いたらしい。

 そこに那々姉さんのことだからかなり苛烈で容赦のない戦い方もしていたことで「鬼」のイメージも加わっていたのだろう。

 だから、「華の鬼武者」なのかもしれない。

 

「いや、それはおかしいから……

 そもそもそれだけじゃ今のあれが「逆落とし」なのかという説明にもなってないから……」

 

 けれども鈴は今の説明に納得がいかないようだ。

 確かに鈴の言う通りだ。

 千冬姉は俺に那々姉さんが「逆落とし」の第一人者であることを説明したが、だからと言って今、那々姉さんが見せたあのとんでも戦術が「逆落とし」だと説明できたわけじゃない。

 むしろ、あれが俺らの知っている「逆落とし」だとカテゴライズしたら余計に頭がこんがらがってしまいそうだ。

 

「まあ、待て。

 奴が今、見せたあれが「逆落とし」と言えるにはもう一つの奴の異名の由来が関連している」

 

「もう一つの……」

 

 千冬姉はそんな鈴の疑問と不満に対してそう返した。

 

「奴が「鬼武者」と恐れられたと同時に空中の「華」と称された由縁。

 それは奴が勇猛さの中に見せる優美とも言える()()()()にある」

 

「……()?」

 

 千冬姉は那々姉さんが「華」の名前が付けられた理由には那々姉さんが戦いの中で「舞」を見せることにあると語り出した。

 けれども、やはりそれは今の状況を説明づける要素にならないだろうし、新しい知識が入って来て余計に混乱するだけだ。

 

「その顔……私の話が全くこの状況の説明になっていないといった顔だな?」

 

「うっ……」

 

「少し、待てと言っただろう。

 先ず、奴が戦いの中に見せる舞と言ったが……いや、あれは最早()()()()の一つだと言うべきだろう」

 

()()()()……?」

 

 千冬姉は俺に那々姉さんが見せる「舞」のことを「武の極み」だと言った。

 その言葉の意味に俺は底知れない雄大さを感じた。

 

「貴様も先程投げられたから理解できると思うが、川神は多くの鍛錬や戦闘の経験故に相手の多少の動作で相手の意図を容易く看破することが出来る。

 加えて、奴は人体の扱い方を知り抜いていると言っても過言ではない程に武術に精通している」

 

「……え」

 

 千冬姉は俺が先程投げられたことを持ち出し那々姉さんが武術に秀でていることやその理由を明かした。

 けれども、それがどうして「逆落とし」に繋がるのかが俺にはわからなかった。

 やはり、説明が遠のいた気がする。

 

「いいか……

 戦いにおいて人体の事を知り抜いているということがどれだけ重要なことか」

 

 俺の疑問を無視するかの様に千冬姉は続けた。

 ただ俺からすればこれは仕方がないことだと感じてしまう。

 この明らかに達人級など既に超えている域の話は俺の理解の範疇を超えている。

 だから、どんな反応をすればいいのか困るのだ。

 

「人体を知り抜くと言うことは()()()()()ということなのだ。

 自らと相手のな。

 それは武術の一種の境地と言えるだろう」

 

()()()()()()()()……?」

 

 那々姉さんは人体の事を知り抜いていることから限界を知っているのと同じだと千冬姉は説明した。

 

「それはつまり……

 相手がどう動くのかを先読みできるうえにその後の自らの動きを自在にすることを可能としているのだ」

 

「………………」

 

 相手の動きを先読みし尚且つ自在に動く。

 そんな単純なことであるけれどもそこに何かが込められている様な気がした。

 

「奴はあらゆる相手の動きを未来予知にも等しい慧眼で回避できる。

 そして、自らの身体をまるで無理なく動かし反撃する。

 それは相手に攻撃する時も同じだ。奴は緩やかに確実に相手の虚を何時の間にか突いてている。

 余りにも自然なその姿が周囲から「舞」に見えたのだ」

 

「……?

 ……あ!?」

 

「奴の戦いは無形にして剛にして柔。」

 

 最初、千冬姉が何を言っていたのか俺には分からなかった。

 けれども、実際にその光景の結果らしきものを見たことで俺は那々姉さんの「舞」を理解できた。

 それは那々姉さんが鍛錬や戦闘経験の積み重ねによって戦いの中で先を読む目と自らの肉体の限界を知ることで自らが出来る動きを極限までに究めた「無形の型」だったのだ。

 

 箒の背後に瞬時に回り込んだあれが……那々姉さんの「舞」なのか……

 

 この戦いで那々姉さんは何度も箒の背後を取っていた。

 それはあの「鬼百合」の危険過ぎる加速度もあるにはあると思うが、箒の動きを予め予測し自らが動ける範囲を頭に入れ、回避し続けたという極めて単純なものだった。

 けれども、そんな単純なものであるその行動を達人級等既に超えている業に那々姉さんはしてしまっていたのだ。

 

「今は奴がある意味手加減をしているようなのだが、篠ノ之は既に7回は負けているぞ」

 

「……え」

 

 さらに千冬姉は衝撃的な事実を明かした。

 

「奴のあの回り込みは相手の懐をすり抜けると同時に相手の身体に腰に差してあるナイフ型爆弾を突き刺し、そして背後に回った後に腕の固定砲台の一斉射撃を浴びせるための手段の一つに過ぎん。

 奴に懐に入られた時点で「シールドエネルギー」の四分の一は持って行かれる覚悟はしなくてはならんぞ」

 

「……!?」

 

 この人達は……

 どんな世界が見えてるんだ……

 

 その鮮やかな回避がただの初歩に過ぎなかったことに俺は信じられなかった。

 同時に千冬姉や那々姉さんが見ている世界がどんなものなのかが俺には想像できなかった。

 

「奴にとってはあれは居合で言う「間合い」に近いらしいがな」

 

「「間合い」……?」

 

 さらなるダメ押しと言わんばかりに千冬姉は新しい言葉を出してきた。

 

「……織斑。

 『居合は鞘の内に在り』と言う言葉の意味は分かるよな?」

 

「え?

 ああ、確か居合の達人は抜く前に自分の太刀筋と間合いが分かっているから鞘から刀を出す前に勝ち負けが分かっている……

 てことでいいよな?」

 

 昔、おじさんの道場に通っていた時におじさんが教えてくれた言葉だった。

 おじさんは刀を持つ者は軽々しく抜くことをするなと言い、仮に抜くことがあれば必ず一撃で倒すことこそ「抜刀術」の基本だと言っていた。

 

 あれ……「間合い」……?

 

 自分の口から出て来たその言葉に俺は何か引っかかるような感じがした。

 

「あ……

 あぁあぁああああああああああああああああああああ!!?」

 

「ちょ!?どうしたのよ!?」

 

「お、織斑君?」

 

 気付いてしまった事実に俺は驚きを既に隠すことが出来なかった。

 

「ようやく気付いたか。

 そうだ、川神はただ己の間合いを知っているだけだ。

 それと己の太刀筋をな」

 

「……え?

 それはどういう……?」

 

 ま、まさか……

 

 千冬姉がこれ程までにあれが「逆落とし」だと言い張る根拠。

 そして、那々姉さんが抱く「鞘の内の勝利」。

 その正体はとんでもないものだった。

 

「那々姉さんは……

 全部見えているのか!?」

 

「な、何よそれ……?」

 

「簡単なことだ凰。

 川神はただ高速で発射される自らの弾の軌道すら把握できている。

 だから、あれは奴にとっては刀を抜いたことと大差ないことと言うことだ」

 

「え?いや、それが理解できないんだけど……」

 

「そうだな……

 なら、言い方を変えよう。

 奴には全ての攻撃も回避も同時に見えていると言うことだ」

 

「……はい!?」

 

 那々姉さんが居合切りの要領で「逆落とし」をしている。

 つまり、那々姉さんは自らの弾がどの様な軌道を描き、相手がどう回避するのか、そして、その際に自分は何処にいるのか全てを理解していると言うことだ。

 まるで自分の全ての攻撃を自らの手に握る刀が描く太刀筋の様に理解していると言うことだ。

 そもそも「抜刀術」の時点で太刀筋が理解できていること自体が常人の域を超えているのに高速で動く弾すらも己の刃に変えている時点でそれは異常だ。

 

「奴にとっては「逆落とし」とはただ進んで相手を斬ることと変わりがない。

 その斬撃が自らの前に来ようが後に来ようが問題ない。

 ただ奴が通り過ぎた後に結果が残るだけだ。

 奴の「逆落とし」とは奴が見ている世界の一部がただ現実に現れただけに過ぎないと言うべきかもしれんな。

 ある意味では奴が「華」だと例えられるのもそういった幻想染みたその戦い方にもあるのもかもしれない」

 

「「………………」」

 

 那々姉さんにとっては「逆落とし」は刀を振るうのと変わりがない。

 それどころか現実離れしたその戦い方に俺達、いや、この場にいる全ての人間が唖然とした。

 どうやら那々姉さんの戦い方をある程度知っている人間もその見た目は知っていても那々姉さんがどの様な世界を見ているのかは理解できなかったらしい。

 

「だが……

 だからこそ、奴に魅せられる様な者たちもいる……」

 

「……?」

 

 千冬姉は少し悲しそうに呟いた。

 その感情の意味は一体何なのだろうか。

 

「あれ……?」

 

 俺はふとあることに気付いた。

 

 束さんは……?

 

 束さんがこの場にいなかった。




もう少し、表現力があればもっと簡潔に書けたと思います。
情けないです。

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