奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
後、加賀さんも。
「ぐ……」
那々姉さんのことを追いかけ上昇している最中に突然、那々姉さんとすれ違い、その直後に私は何かにぶつかり炎と煙、衝撃に包まれた。
エネルギーが一気に……!?
今、受けた何かしらの攻撃によって私の「シールドエネルギー」は大幅に削られ半分を切っていた。
いや、「シールドエネルギー」だけではない。
目を凝らして見ると新機体である「紅椿」の至る所が破損し黒ずんでいる。
一体、何が起きたのかと確認しようとした時であった。
「あぐっ!?」
先程のものより小さいが再び衝撃が襲ってきた。
「何をぼけっとしているのですか」
「……っ!!?」
声のした方、いや、正確には衝撃を受けた方に目を向けてみるとそこには腕を胸の真横に構えていた那々姉さんがいた。
その言葉と彼女の腕にある三つの砲口からの煙から今のは那々姉さんの攻撃であることを理解した。
「今は試合中です。
それなのに相手の姿を探そうともしないで何をしているんですか」
「……う」
那々姉さんは先程と同じぐらい、いや、それ以上の低い声で私が攻撃を受けたショックから抜けずにいたことに冷たく叱って来た。
今までの彼女との違いに私は戸惑いを覚えた。
「仮令、攻撃を受けたとしてもその動揺からすぐに立ち直る。
それは戦い……いいえ、武道に携わる者としても常識です」
「それは―――」
彼女の言っていることに私は心当たりがあった。
思えば、陽知が今まで戦ってきたオルコットやボーデヴィッヒは陽知の猛攻を受けた後に動揺しその後一気に突き崩された。
一夏や凰はそれに対して……
一夏と凰は違った。
あの二人は陽知と戦うのが初めてにも拘わらず攻撃を受けても直ぐに立ち上がり果敢に挑んでいった。
陽知は……
『『どけ』と言っているんです……!!!』
あの変貌したボーデヴィッヒの機体に対して陽知は一度敗れているにも拘わらずそう叫んで一人だけでも挑んでいった。
その際に陽知は譲れない何かを込めて私は圧されてしまった。
その後にボーデヴィッヒに陽知は何度も何度も攻撃を受けて機体がボロボロになっても前進し、ようやく組み付いたと思っていれば更には刀の柄で何度も殴られても決して離さなかった。
あの後に知ったことであったがボーデヴィッヒはあのままだったならば廃人になっていたかもしれなかったらしく、陽知はボーデヴィッヒを救うために戦ったらしい。
『私は
『お姉ちゃん……』
陽知のその言葉の意味を私は昨夜のことで知ってしまった。
そして、それだけではなかった。
陽知は一夏が無人機の攻撃を受けようとした際も身を挺して助けようとした。
それに比べて私は……
那々姉さんという圧倒的強者のたった一撃を受けただけで私は完全に心が折れそうになっている。
余りにも情けなさ過ぎる。
「……何をへこんでいるのですか」
「―――……え」
私が自己嫌悪に駆られそうになった時に那々姉さんは静かながらも鋭い声を私にぶつけて来た。
「今、貴女が何を考えてへこんでいるのかはわかりません。
ですが、この様な状況で戦いへの集中力をなくすのは私が許しません」
「………………」
那々姉さんは何処までも厳しい言葉をぶつけて来た。
そのことに私は頭で何をすべきなのか分かっているのにも拘わらず何も言い返せなかった。
試合の中で相手に怖じ気付き集中力を失うことは武道の中で最も許されないことだ。
彼女はそんな私の不甲斐ない姿に呆れているのだろう。
「それとも貴女は剣道を続けておきながら
「……!」
彼女の口から出て来たその言葉に私は顔を上げた。
「剣道……いいえ、あらゆる武道において基本は「克己」です。
弱い己との戦いです。
戦いと言う情け容赦のない世界に身を置きながらも己を失わず、だからと言って己に囚われないこと。
それを貴女は怠っていたのですか?」
「……っ!」
那々姉さんの言葉は余りにも正しかった。
彼女の言う通り、武道とは精神修行も行い心身共に切磋琢磨するものだ。
けれども私はそれを忘れていた。
常に剣道に対して私は一夏との繋がりと思い出を求めていた。
さらには私は中学生の最後の大会では那々姉さんに裏切られたことや今までの孤独を相手にぶつけて来た。
いや、それだけじゃない……
私が剣道に求めていたものはそれだけじゃなかった。
『な、那々姉さん……
そ、その……部活動でレギュラーに入れました!』
『那々姉さん!!
今度の大会見に来て下さい!!』
『那々姉さん、頑張りました!!』
彼女が私の保護者になってから私は剣道のことで成績を残す度に那々姉さんにそのことを報告した。
『よく頑張りましたね』
何故ならばその度に私の頭を優しく撫でながら優しい声と笑顔でこの人は褒めてくれたからだった。
……私は……この人に誉めて欲しかったんだ……
私が少なくとも、最後の大会よりもまともであった剣道への打ち込み。
その動機は那々姉さんのあの優しい声と笑顔、そして、手が好きだったからだ。
忘れていた。
いや、忘れようとしていた。
裏切られたことでそれを思い出す度に悔しくて、苦しくて、辛くて、そして、悲しかったことで私は彼女を嫌いになろうとしていた。
なのにあの人は変わらない優しさを持ち続けた。
それが逆に辛かった。
「今の貴女は……
「なっ……!?」
そんな私の苦しみに構うことなく彼女は容赦のない舌鋒と現実を突き付けてきた。
その通りだった。
私は「武道」に携わる者として歪んでいる。
「お父様が見たらさぞお嘆きでしょうね」
「……っう……!!」
私は涙を流しそうになった。
彼女の言う通り、今の私を見れば父さんは悲しむことになるだろう。
今の私は父さんが教えてくれていたことを何一つ守れずにいる。
「私は―――……」
私が涙を流そうとした時だった。
『おーい、もしもし二人とも聞いてる~?』
「―――!?」
「……試合中に何のご用ですか。先輩?」
突然、姉さんが私たちの戦いに通信を使って割り込んで来た。
『いやー、実はね。
君に少し提案があってね』
「提案……?」
「……それはどういったものですか?」
あの姉さんが珍しく他人に話を持ち掛けて来たことに私は驚いた。
こんなことは私や姉さんに対してないことだ。
『次の一撃で勝負を決めるってのはどうかな?』
「……え」
「………………」
姉さんは那々姉さんにそう言った。
『だって君って世界でも有数の実力者でしょ?
それなのに「IS」に乗ってからまだ半年も経っていない高校生にちーちゃん位しか渡り合えない戦い方をするのはどうなのかな?』
「ね、姉さん……」
姉さんのその言葉は辛かった。
遠回しに姉さんは私に勝ち目がもうないことを悟り那々姉さんに加減をすることを言っているのだ。
そのことは理解している。
那々姉さんと私では実力に天と地との差がある。
倒すどころか、一撃でも当てれればいい方だ。
けれども私は完全に勝てないと言われたことが悲しかった。
「いいでしょう……
確かに私も大人気なかったです」
「……え」
そんな姉さんの一方的な要求に対して那々姉さんは顔色一つ変えることなく承諾した。
「ですが、チャンスは一度きりです。
それを逃がせばその子の負けです」
「!?」
けれども那々姉さんはその提案を最後通知だと言い切った。
『OK!
じゃあ、後はそっちに任せるよ?』
「言われなくとも私は次で終わらせるつもりでした」
『あ……』
そのまま那々姉さんは再び上昇した。
それを見て私は那々姉さんが再びあの正体のわからない攻撃をして来るのが分かってしまった。
「姉さん……
一体、何のつもりですか?」
姉さんの真意が理解できず私は訊ねようとするが
『箒ちゃん、チャンスだよ?』
「……え」
姉さんは私の問いに答えるつもりはなく、ただこの状況を説明するだけだった。
『あの女は箒ちゃんと「紅椿」を舐めてる。
だから、何時も通りに真っ向から挑んでくる。
今、私が調整を済ました武装で勝てるよ』
「……え、勝てる……?」
その姉さんの言葉に私は気が惹かれてしまった。
『そうだよ?
元々はこんなにも早く使えるとは思わなかったけど相手が相手なだけに「紅椿」も成長しちゃったんだね。
いや~、驚いた♪』
「……成長?」
『まあ、とりあえずだけど……
その新しく追加された武装であの後輩を迎え撃ってごらんよ♪
そうすれば勝てるよ♪』
「え、で、ですが―――」
姉さんの説明が余りにも唐突過ぎるかつ簡略化していたために私は何を言っているのか理解できなかった。
確かに「IS」が成長することは知っている。
姉さんが言うのだから勝てることも想像できる。
でも、何故か嫌な予感がしている。
その通りに動けば何か取り返しのつかないことが起きるような気がしたのだ。
『箒ちゃん……
もしかすると、「紅椿」を没収されるかもしれないよ?』
「……!?」
私が躊躇っていると姉さんはそう言ってきた。
『今回の試合はあくまでもあの後輩からしてみれば箒ちゃんの適正を見るためのテストだよ?
もしこれで一撃も当てられずにいて負けたりしたら、適正なしと見なされて「紅椿」は取り上げられるかもよ?』
「そんな……!?」
姉さんの指摘は十分にあり得る。
確かにこの試合は那々姉さんは私に適正があるのかを確かめるために行っているものだ。
先程からの那々姉さんのあの姿勢から彼女は私に厳格になっている。
それはつまり、私には「専用機」を持つ資格がないと考え始めているのかもしれない。
『それだといっくんたちと差が付けられるかもしれないよ?』
「そ、それは……」
姉さんの指摘には私は更なる不安を感じた。
この試合の中で私は自覚してしまったが私は弱い。
それは「IS」の乗り手としてではなく、人間としてだ。
それなのにただでさえ唯一の拠り所となるこの「紅椿」でさえ取り上げられれば一体、私に何が残ると言うのだろうか。
何もない……
私は那々姉さんの言う通り、何もして来なかった。
唯一の取り柄とも言える剣道でさえも私は肝心なことが出来ていない。
ただの張子の虎だ。
そんな私が穴を埋められるのはこの「紅椿」だけだ。
『そろそろ来るよ?』
「………………」
私は言われるままに上空を見た。
すると那々姉さんが反転し始めていた。
私はそれを見て
私にはこれしか残されていない……
姉さんに言われるままに新しく追加されていた「穿千」と言う武装を展開していた。
すると、その武装は瞬時に展開しまるでボウガンのような形を形成していた。
私にはこれしか残されていないんだ……
私はそう自分に言い聞かせるように真っ向から進んでくる那々姉さんに照準を合わせた。
那々姉さんから何かが分離してくるのが見えた。
どうやらあれが先ほどの攻撃の正体らしい。
私はもう訳が分からないままに引き金を引こうとした時だった。
『あなたはそれでいいんですか……
篠ノ之さん……』
「あ……」
陽知がかけたその言葉が私の脳裏に浮かんだ。
何故、その言葉を今、思い出したのか私には解らなかった。
私は無意識のうちに武装の攻撃を止めようとした。
「っ!!」
「え……」
だが、それは発射されてしまった。
その直後に私の目の前の空間に光と熱が満ち、那々姉さんはそれに呑まれていった。