奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第42話「光明」

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 ただ分かったことは箒に対して再び「逆落とし」を仕掛けようとした那々姉さんが光に覆われたと言うことだった。

 そして、その光が去った後に一つの影が海に落ちていった。

 その影はまるで光がどれだけの熱を持っていたのかを物語るように黒い煙で軌跡を描いていった。

 

「な、―――!!?」

 

 その影が何なのかを理解した瞬間に俺は

 

「―――那々姉さん!!?」

 

 那々姉さんの名前を叫んでいた。

 

 

 

「ここは……」

 

 突然の光と熱と力に包まれ急速に力を失いそのまままたも海の中へと沈んでいく闇を感じ再び目を開けると私は真っ暗な場所にいた。

 

「そうですか……私は……」

 

 戦いの最中にこの様な場所にいるということに私は自らが置かれている状況を理解してしまった。

 私はまたしてもこの様な場所に来てしまったらしい。

 

「フフフ……

 「絶対防御」、破れたりですね……」

 

 私はこんな状況にもかかわらず「IS」の最強神話の一端を担っていた機構の一部が決して絶対ではなかったことがおかしく仕方がなかった。

 

「ごめんなさい……

 雪風……あなたを一人にして……」

 

 けれども、それが自分なりに出来る強がりであることを理解し私は泣いた。

 私はまたしてもあの娘を悲しませることになってしまった。

 あれ程、悲しみの中で生き続けてくれた大切な教え子を一人にしてしまったことに後悔してもしたりない。

 

 そして、あの娘だけじゃなくあの子も……

 

 雪風だけでなく私は箒ちゃんすらも苦しめることになった。

 恐らく私がこの場にいるのは箒ちゃんの攻撃によるものだろう。

 私は確かにあの子に辛辣な態度を取った。

 あの子に先生の教えを思い出して欲しかったからだった。

 仮令、私がさらに憎まれることになってもあの子に強くいて欲しかった。

 力を持つことがどういったことを知り、これから力を持つあの子が重圧に耐えていて欲しいと思ったからだ。

 だけど、私はあの子を追い詰め過ぎてしまった。

 私はまたしても癒えない傷をあの子に植え付けてしまった。

 

 私はまた……

 

 師としても保護者としても大きな過ちをしたことに私が悔恨の意を抱こうとした時だった。

 

「何、悩んでんの?

 神通」

 

 

 

『ユキ』

 

 ん……

 

 懐かしい声が聞こえる。

 それはとても優しくて聞いていて心が温かくなる声だった。

 

『ほら、起きなさい。

 ユキ』

 

「……え」

 

 それは私の大好きな人の声だった。

 

『ほら、何時まで寝てるの?

 御寝坊さん』

 

「……!?」

 

 声だけじゃなかった。

 その手のぬくもりが私の頭に伝わって来た。

 その懐かしいものを感じた私は直感的に

 

「お姉ちゃん!!!」

 

「えっ!?」

 

「……!?」

 

 大好きなその人のことを求める様に名前を呼んだ。

 

「あれ……」

 

 しかし、そこにその人はいなかった。

 いるのは私のことを呆然と私を見詰めているラウラさん、シャルロットさん、セシリアさん、相川さん、夜竹さんたちだけだった。

 私が期待を込めて呼んだ彼女はいなかった。

 

「今のは……」

 

 私はその人の姿を求めて辺りを見回したけれど彼女はいなかった。

 

 幻……?

 

 私の心の寂しさが生んだ幻聴かと思い再び悲しくなりそうになった時だった。

 

「お姉様!!」

 

「えっ!?きゃっ!?」

 

 突然、ラウラさんが私に抱き着いて来て私はベッドの上に押し倒されてしまった。

 

「ら、ラウラさん?」

 

「良かったです……!!お怪我はありませんか!?」

 

「え……?」

 

 私がこの状況を呑み込めずにいると

 

「雪風!!」

 

「目が覚めたのですわね!?」

 

「陽知さんが起きた!!」

 

「良かった~……」

 

「え?あの、皆さん……?」

 

 ラウラさんに続いて一気にこの場にいる全員が安堵の声をあげ始めた。

 どうやら、私は気を失っていたらしい。

 その経緯を落ち着いて思い出そうとした時だった。

 

「あ……!!」

 

 自分が気を失っていたその理由を思い出し私は一気に焦燥に駆られてしまった。

 

「すみません!!

 じん――、川神先生はどうしていますか!?」

 

 私は自分を気絶させた張本人である神通さんの見せたあの表情を思い出し、心配をかけていたことへの詫びすらもそっちのけで彼女たちに今、神通さんが何をしているのかを訊ねた。

 

「え?川神先生……?」

 

「あの……どうしたの、陽知さん?」

 

 そんな私の様子に相川さんと夜竹さんは戸惑っていた。

 この二人はどうやら神通さんが私にしたことを不快に思っていて、尚且つ私が神通さんを気に掛けていることが不思議なのだろう。

 彼女たちは神通さんと深く関わっていないからそれは仕方がないことだ。

 

「雪風、一旦落ち着いて?」

 

「そうですわ。

 それに川神先生なら大丈夫ですわ」

 

「そうです!!

 今はお姉様の方こそ!!」

 

 対して、神通さんと関わりがある方であるシャルロットさん、セシリアさん、ラウラさんは逆に神通さんのことを信じ切って安心しきってしまっている。

 確かに神通さんならば万が一のことでも不覚を取ることはないだろう。

 でも、今の神通さんは普通じゃない。

 

「違います!!

 今のあの人は……

 ()()()です!!」

 

「「「「「え」」」」」」

 

 

 私は神通さんのあの笑顔に感じたもの、いや、彼女との最後の会話で見たあの表情と重ねて私は心の底から彼女たちに訴えた。

 

 

 

「え……」

 

 この暗い海の底とも言える何処までも続く方向すらも意味を為さない暗闇の中から聞こえて来たその溌剌とした声が信じられずにいたがその声の主を求めた。

 すると、私の背後に佇む人影がいた。

 その影とは

 

「ね、姉さん……?」

 

 かつて私が残して去って逝ってしまった姉だった。

 余りの信じられない光景に私は言葉が出なかった。

 

「どうしたの?

 そんな幽霊を見たような顔しちゃって」

 

「え?いや、それは……」

 

 姉のその言葉に私は私は何と返せばいいのか困ってしまった。

 何故なら、恐らくここは彼岸か、もしくはその狭間だろう。

 そんな場所に死に別れた姉がいるとすればそれは間違いなく幽霊だろう。

 いや、それよりも私は

 

「姉さん、その―――」

 

 目の前の姉が本物なのか幻影なのかは分からない。

 しかし、それでも私は言いたいことがあった。

 

「も~、神通ちゃん!

 そんな顔しちゃダメだよ」

 

「―――え」

 

 私が姉さんにその言葉を向けようとした時だった。

 再び信じられない声がして私は口を止めてしまった。

 

「な、那珂ちゃん……?」

 

 その声が聞こえて来た方に顔を向けてみるとそこには満面の笑みを浮かべ楽しそうな、いや、皆を心の底から笑顔にしたいと願っているような笑顔をした私たち川内型姉妹の末娘がいた。

 

「そうだよ?

 久しぶりだね。神通ちゃん?」

 

 那珂ちゃんは私の問いに嬉しそうに応えた。

 

「あ、あぁ……」

 

 その瞬間、私の中の何かが限界を迎えた気がした。

 

「神通?」

 

「神通ちゃん?」

 

「……っ!」

 

 私はわき目もふらずに姉さんの胸に飛び込んだ。

 

「二人とも、ごめんなさい!!」

 

 先程言いかけた言葉、謝罪の言葉を私は二人に告げた。

 私はこの二人を置いて先に逝ってしまった。

 そのことでどれ程までに二人を悲しませたのかは想像できない程だ。

 仮令、これが私の心の弱さが見せる幻であろうと私は二人に謝りたかった。

 

「……神通、もういいよ」

 

「泣かないで」

 

「ですが……」

 

 そんな独り善がりな私の謝罪に対して二人は私を責めようとするどころか慰めようとしてきた。

 これが幻だとすれば、何と都合のいい夢だろうか。

 

「神通……

 確かに私たちは神通が死んで悲しかったよ」

 

「でも、川内ちゃんや那珂ちゃんだって駆逐艦の娘たちを守るためならそうしてたよ。

 だって身体が先に動いちゃうよ。それが軽巡だし水雷戦隊だもん」

 

「私だって、吹雪や綾波たちを守りたかったよ……

 だから、神通の事をズルいとは思ったけどそれでも私にとっては神通は自慢の妹だよ」

 

「あ、川内ちゃんズル~い!

 那珂ちゃんにとっても神通ちゃんは自慢のお姉ちゃんだよ?」

 

「あはは、いいじゃない」

 

「姉さん……那珂ちゃん……」

 

 二人を悲しませたのに二人は私を責めようとしない。

 それどころか、こんな私を自慢の姉妹だと言ってくれた。

 仮に彼女が本物であればこれは本心からの言葉だろう。

 私たち軽巡は水雷戦隊の長として誰よりも駆逐艦たちと接する。

 私たちにとっては駆逐艦とは部下であり、教え子であり、妹であり、そして、娘同然なのだ。

 そして、その娘たちを失っていった悲しみと苦しみを彼女たちは味わった。

 だからこそ、我が身を盾にしてでも駆逐艦の娘たちを守りたいと思ってしまうのだ。

 それが指揮官として誤った考えでもあっても。

 

「でも、私は……」

 

 そんな二人の慰めの言葉でも私は自分を許せなかった。

 私はその軽巡としての在り方すらも貫けなかった半端者だ。

 大切な娘同然であった陽炎、黒潮、親潮たちを私は目の前で失った。

 どこまで行っても私は中途半端だ。

 師としても、保護者としても、そして、軽巡としても。

 

「そんなことはないですよ。

 神通さん」

 

「え……」

 

 私の後悔がまたしても蘇ろうとした瞬間に新しい声が聞こえて来た。

 

「そうですわぁ。

 神通さんは確りと守ってくれたわぁ」

 

「はい。

 ですから、自分を責めないでください。

 神通さん」

 

「あぁ……」

 

 さらに続いた二つの声に私はあってはならないと思っても声のした方を見た。

 そこに立っていたのは

 

「陽炎……黒潮……親潮……」

 

 私があの時、守れなかった三人の教え子であり雪風の姉であった陽炎型の三人の少女たちだった。

 余りに出来過ぎたこの状況に私はこれは私が無意識に求めていた都合のいい夢であると思った。

 この三人に赦しを求めてはいけない。

 私はそれを常に考えていた。

 だから、こんな状況が目の前に現れたことにすら自己嫌悪に駆られそうになった。

 

「……神通さん。

 私は……いいえ、私たちは神通さんの教え子で幸せでした」

 

「親潮……?」

 

 私は自分の甘えを振り払おうとしたが親潮は私に言い聞かせようにそう言ってきた。

 

「確かに神通さんは厳しい方でしたが、それでも神通さんの下で「二水戦」の皆さんと一緒にいられたことは本当に楽しかったです。

 仮に心残りがあるとすれば……もう少し、皆さんと一緒に居られなかったことです」

 

「で、ですが……!」

 

 親潮の言葉は教官冥利に尽きる言葉だった。

 私自身も「二水戦」の教え子たちと少しでも一緒にいたかった。

 でも、それを奪ったのは私だ。

 そんな自分にとって都合のいい言葉を親潮の姿に言わせているのかと思い私は親潮を冒涜してるのかと思ってしまった。

 

「……神通さん」

 

「黒潮……!?」

 

 親潮に続いて今度は黒潮が口を開いた。

 これ以上、自分の甘えが彼女たちを穢すのかと我慢できずに耳を塞ごうとした時だった。

 

「うちは少なくても、神通さんがあの子を守ってくれてよかったわぁ」

 

「……!?」

 

 黒潮のその言葉に私は耳を疑った。

 

「雪風の事を守ってくれてありがとうございます。

 雪風のお姉ちゃんとしても本当にありがとうございます」

 

 黒潮は私が当時自暴自棄になっていた雪風の進言を払い。自らが探照灯の役目を担ったことに礼を言ってきた。

 確かに黒潮にとっては雪風と初風は特に可愛がっていた妹だった。

 でも、私は

 

 この子たちが「コロンバンガラ」のことを知るはずがない……

 やはり、これは幻です……!!

 

 彼女たちが知る由もないあの夜の出来事のことを黒潮が語ったことでこれが私の無意識が私の記憶や後悔を元に創り出した夢であると改めて考えた。

 自分の浅ましい願いに私はもう何も聞きたくないと思った矢先だった。

 

「……神通さん。

 一つお願いがあります」

 

「……え」

 

 そんな二人とは異なり、陽炎は私に対して何かを頼み込もうとした。

 二度と自分にとって都合のいい言葉など聞きたくないと思っていたが陽炎のその様子に他の二人とは異なるものを感じた私は手を耳から離してしまった。

 

「陽炎……」

 

 その愛弟子の姿を見て私は愛おしさと無念さを抱いた。

 次の世代の水雷戦隊を担う者として期待を込めていたこの弟子を失ったことへの喪失感が今さらになって読みがってしまったのだ。

 もし彼女が生きていれば、きっと多くの駆逐艦たちも生きていてくれただろう。

 そうすれば、雪風の語った不知火の悲し過ぎる覚悟も存在せず不知火も妹たちへの愛を胸に隠さず、雪風もまた多くの姉妹を失った悲しみと陽炎型の誇りを一人で背負うこともなかっただろう。

 考えれば考えるほどにこの愛弟子を失ってしまったことへの後悔が私は辛くて仕方がなかった。

 もしかすると、「二水戦旗艦」としての私もこの子が死んだ時に死んだのかもしれない。

 

「………………」

 

 私はしばらく、考え込んでしまった。

 恐らく、これは私の心の弱さが見せる浅ましい夢だろう。

 こんな都合のいい甘い夢など私は浸ることすら許されないだろうと思ったが

 

「……何ですか?

 今なら何でも聞いてあげますよ」

 

 弱い私はせめてこんな夢でも私自身の心の底からの願いを叶えようとしてしまった。

 ああ、きっとこれは私が本当に見たかった夢なのだろう。

 何故ならば、こんなにも愛しい弟子の願いを生前聞くことも出来なかったのに今はそれを出来る限りのことをしてあげたいと思ってしまい、そして、そうしてあげられる。

 今なら「二水戦旗艦」としてではなく、上官と部下としてではなく、母と娘のような関係でこの愛しい弟子のお願いを聞いてあげたくなる。

 隠れて雪風の不安を和らげていた時と同じ様に私はこの子のことを精一杯甘やかしたい。

 それ程までに私はこの子に愛情を注いでいたのかと自覚すればする程に悲しみを感じてしまう。

 

「……妹を……雪風をお願いします」

 

「……!陽炎……!?」

 

 けれども、陽炎は自分のことではなく妹のことをただ頼むだけだった。

 

「私たちにとっては残ってくれたのは雪風だけです。

 どうか、あの子をお願いします」

 

「陽炎……」

 

 陽炎は頑なまでに雪風のことを私に頼み込んで来た。

 それは長女として、いや、きっと雪風の姉全員としての総意なのだろう。

 

「それと……

 今の神通さんの妹分ですけど、あの子に関しても神通さんの想いをぶつけてあげてください。

 きっと、それが一番いいことだと思いますので……

 それが姉弟子として私が出来ることだと思います」

 

「……!

 ……そうですか……」

 

 陽炎は迷っている私の背中を押すように箒ちゃんのことまでも口に出してきた。

 ああ、何処までいってもこの子は惜しいのだろうか。

 余りにも早過ぎた死をどれだけ私は惜しめばいいのか。

 

「ほら、神通。

 教え子に言われてるよ?どうするの?」

 

「姉さん……」

 

 そんな陽炎の言葉に乗る様に私を姉さんは煽った。

 

「今の主役は神通ちゃんだよ?

 声援には応えないと♪」

 

「那珂ちゃん……」

 

 続いて那珂ちゃんも私に前に出ることを告げた。

 愛する姉妹と教え子たちの言葉に私は

 

「……いってきます」

 

 迷いがいつの間にか消えていた。

 

 ……ここは

 

 私が目を開けるとそこは海の中だった。

 

 今のは夢……ですか……

 

 やはり今のは夢であったらしい。

 私の心の弱さが生んだ自分の心を守ろうとする情けない防衛機制だったのかもしれない。

 

 いえ、それでも……

 

 仮令、今のが幻や夢であろうともまだやるべきことが残されていることがあると自覚し私は上を目指した。

 

 もう迷いません……!!




今作の神通さんにとって、陽炎は朝潮と並んで最も期待していた教え子です。
戦国武将に例えると、長宗我部元親にとっての信親。
で、陽炎と雪風の違いはと言いますと
島津維新斎の島津四兄弟の評として当て嵌めると
陽炎が総大将としての長男義久。雪風が名将としての四男家久(善)と言った感じになっています。
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