奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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雪風と絡みのある艦娘が増えて嬉しい限りです。
と言うよりも……雪風……この季節でもその服なのか……
ちょっと心配です。


第43話「血染めの鬼」

「………………」

 

 光が過ぎ去りその跡には一筋の煙しか存在しなかった。

 それを辿るとどうやらそれは海から延びていることがわかった。

 その光景を見詰めながら私は呆然とするしかなかった。

 自分が何をしたのかを私は理解することが出来なかったのだ。

 

『箒!!?』

 

「……?一夏?」

 

 そんな私に対して一夏が通信を入れて来た。

 

『お前、どうしちまったんだよ!?』

 

「え……」

 

 一夏は私を糾弾するように叫んだ。

 

『あんた……!!

 よくも、先生を……!!!』

 

「……!?」

 

 一夏の叫びに私が返答できずにいると突然、凰は通信に割り込み怒号、いや、泣き叫んでいるかのような声を私へと向けて来た。

 

『やめろ!!鈴!!』

 

『離しなさいよ、一夏!!

 あいつは先生を……!!!』

 

 凰は私に向かおうとしているらしくそれを一夏が制しているらしい。

 

 先生……?

 

 凰のその言葉に私はぼんやりとしているのに反応してしまった。

 凰が「先生」と呼ぶ人物。

 

「あ……」

 

 それを考えた瞬間に私が自分がしたことに気付いてしまった。

 

「ああ……!!?」

 

 私は必死にその人の姿を探した。

 だけど、その人の姿は私の視界に入って来なかった。

 私はその視界の中で唯一違和感がある場所に目を凝らした。

 それは既に煙が途切れているがその煙が立ち上っていた場所だった。

 そこは海面だった。

 そこには気泡と波紋が生じており何かが落下したことを物語っていた。

 それを見て私は自分が取り返しのつかないことをしたことを突き付けられた。

 

「那々姉さん……」

 

 私は那々姉さんに対して姉さんに言われるままに新しい装備を放った。

 その結果、空が焼け焦げるのかと思えるほどの光が那々姉さんを呑み込んだ。

 

「私が……那々姉さんを……」

 

 世間で常識とされている「IS」の安全神話があるにもかかわらず目の前の自分が引き起こした惨状に対して後悔した。

 「IS」には「シールドエネルギー」による防御と緊急処置である「絶対防御」が備わっている。

 だが今の私はこの光景を見てそれを信じられなかった。

 何故なら、あの那々姉さんは向かってこないからだ。

 生きている限りは絶対に立ち止まらないであろうあの人が海に落ち、そのままでいる。

 それが意味することは簡単だ。

 

「殺した……?」

 

 私の撃った光。

 それが那々姉さんの生命を奪ったのだ。

 

『こら、ダメですよ箒ちゃん。

 そんな風に振る舞っては』

 

『……どうしてですか?』

 

 幼かった頃、私は道場で同年代の子どもの中では最も強かった。

 その頃の私は周囲に対して素っ気ない態度を取り続けた。

 そんな私の横柄な態度に対して那々姉さんは優しく諭すように窘めて来た。

 

『どんなに力があっても自分が気に入らないことがあるからと言って力で相手を思い通りにしようとすることはいけないことです』

 

『………………』

 

 あの頃の私は那々姉さんのその言葉をただのお説教だと思って煙たがっていた。

 姉さんのことを間近で見ていた私は姉さんの様に『力こそ全て』と本気で信じていた。

 那々姉さんのことに対しても強い人だと尊敬はしていたが、それは私が彼女より弱いから偉そうに言ってくると本気で思っていたほどだった。

 

『それにですね。

 貴女は自分が強いと思っているようですが、本当に強い子というのは織斑先輩の弟さんのような子ですよ』

 

『……え?』

 

 しかし、まともに彼女の話を聞こうとしなかった時に彼女のその言葉は私の気を惹いた。

 彼女は一夏が強いと言ったのだ。

 当時の私は那々姉さんの言っている意味が分からなかった。

 何故なら当時の一夏は私に何度も稽古を挑むがその度に負けるほどに弱かったのだ。

 その一夏を那々姉さんは私よりも強いと言ったのだ。

 

『どうしてですか……』

 

 那々姉さんによりにもよって私に負け続ける一夏よりも私が弱いと言われたことに我慢が出来ずに私は確認した。

 

『確かに一夏君は貴女に何度も挑んでは負けています。

 実力が心に伴っていないのは事実でしょうね。

 けれども……自分よりも実力が上の人間に何度も勝負を挑める。

 その気概が強いんですよ。

 きっと貴女も後でその意味を知ることになるでしょう』

 

 那々姉さんはまるで後で私がその真意を知ることを分かっていたかのように皆まで言わなかった。

 

 そうだ……

 そうだった……

 那々姉さんはいつも……

 

 那々姉さんは昔からずっと私のことを気に掛けていてくれた。

 どんなに周囲の人間が私に何も言わなくても決して見放すこともしないでいてくれた。

 

 そんな人を……私は……

 

 そんなにも私を大切に想っていてくれた人を私は手にかけてしまった。

 今さらになって気付いたことに私は資格すらないのに涙を流しそうになった。

 

『何をぼんやりしているんですか』

 

 突然、その声は響いて来た。

 

「……っ!?」

 

 その直後、私の前を何かが横切った。

 

「今はまだ試合中です。

 戦いの際に集中を切らない。これで何回目ですか」

 

 その声は先程と同じ様に凛として私を叱った。

 何事もなかったかのように。

 

「那々姉さ―――!!」

 

 彼女が生きていることに私は安堵し彼女の無事を確かめようとした。

 

「――――!?」

 

 だが、その安堵が私の独り善がりにしか過ぎないことを私は一瞬にして理解させられた。

 

「那々……姉さん……」

 

 那々姉さんの「IS」は既にボロボロと言う破損を意味する擬音語が不適当だった。

 那々姉さんの「IS」はあらゆる箇所が溶けていた。

 あの光がそれほどまでの高熱を持っていたことを意味していた。

 一見すると「IS」の防御機能で那々姉さんの身体に火傷はないと思えていたが、ただそれだけだった。

 那々姉さんの脚部と肩の辺りには何かが爆発した跡のように周辺の装甲が失われており、その辺りからおびただしい血が流れていることが見えた。

 その余りにも痛々し過ぎる彼女の状態を目にして私は自分がしてしまった事への後悔を更に募らせようとした時だった。

 

「……試合はまだ終わっていません。

 さっさと構えなさい」

 

「なっ!?」

 

 しかし、そんな重傷にもかかわらず那々姉さんは未だに戦意を捨てようとしなかった。

 

「待ってください!!

 このままで本当に……!!!」

 

 私は彼女にこれ以上戦うことを止めるように願った。

 昔、何処かで聞いたことがあるが人の急所に太股も含まれており、そこから大量の出血が起これば死に至るはずだ。

 もしさっきみたいに高速で戦えば出血が激しくなり失血死に繋がる可能性も考えられる。

 

「もう私の負けでいいです!!

 専用機なんていりません!!

 だから……!!!」

 

 既に私は専用機持ちになることなどどうでもよかった。

 ただ那々姉さんに死んで欲しくなかった。

 仮に自分が犯罪者になるだけならば甘んじてその罰を受ける。

 私が死んで那々姉さんは生きていられるのならば死んでもいいほどだ。

 那々姉さんが死ぬのが本当に恐かった。

 

「構えなさい!!!」

 

「那々姉さん……!!?」

 

 けれども那々姉さんはそんな私の懇願を聞き容れるつもりはなかった。

 那々姉さんはに怒鳴られても私は刀を構えられなかった。

 

「……貴女が来ないと言うのならば……

 此方から参ります!!!」

 

「そんな……!?」

 

 那々姉さんは決して戦いを止めようとしなかった。

 

 私を憎んでいるのですね……

 

 その並々ならない那々姉さんの気迫に私は圧されると共に恐怖を感じた。

 那々姉さんは自らをあの様な姿にした私に対して怒りを向けているのだ。

 それ故に私を許すつもりはないのだ。

 

 ……仕方がないことだ……

 

 私はそのことに仕方のないことだと思った。いや、そもそも私がこのことで彼女に赦しを乞うこと自体が間違いだろう。

 因果応報だ。

 むしろ、これで那々姉さんの気が少しでも晴れると言うのならば私はいいと思っている。

 だけど、彼女の傷口から流れて出ていく血が次々と海に落ちていくことが恐かった。

 

 もういい……

 

 私は既に戦いが嫌になっていた。

 そもそもと言えば私のワガママでこうなったのだ。

 それなのに私はこの戦いすら放り出そうとしている。

 もう私には戦える気力がなかった。

 このまま負けてしまえと無防備になった。

 

 あれ……?

 

 ふと私はあることに気付いた。

 那々姉さんの様子がおかしかったのだ。

 いや、そもそもあれ程の重傷を負っているのだから様子がおかしいのは当たり前だが、そういったこととは関係ないことが私には違和感を抱かせたのだ。

 

 どうして撃って来ない……?

 

 それは那々姉さんが私を撃って来ないことだった。

 私はこのまま那々姉さんがあの時と同じ様にあのミサイルを叩き込むか砲撃してくるのかと思っていたが、その素振りを那々姉さんは見せなかったのだ。

 

「……もう私の武器はこれしかありません」

 

「……え」

 

 そんな風に私が怪訝な表情をしていると那々姉さんはあの痛々しい焼け焦げている部分に唯一残されている一本の刀に手を伸ばした。

 

「!?」

 

 それを見た瞬間、私は彼女が何を考えているのかを理解させられた。

 

「まさか……!?

 那々姉さん……!?

 あなたは……!?」

 

 その余りにも信じられない彼女の真意に私は愕然とした。

 

「……私は今から自分に課していた禁を破ります……

 だから、見ていてください……」

 

「那々姉さん……!?」

 

 私は彼女がこの試合で自らが宣言したあることを思い出した。

 

『そして、もう一つは私に一度でも近接装備を使わせることです』

 

 それはこの試合における私の勝利条件だった。

 この試合において私が彼女に勝つ方法は二つだった。

 その内、一つは彼女の「シールドエネルギー」を0にすることだった。

 だがそれは今となっては、いや、最初から不可能なことだった。

 つまり私が勝つことが出来る可能性は一つしかなかったのだ。

 那々姉さんに白兵戦用の装備を使わせることだったのだ。

 そして既に刀しか残されていない那々姉さんにとってはこの戦いは最早勝ち目がない戦いなのだ。

 それなのにあの人はそれを理解しているのに刀を抜こうとしている。

 

「まさか……

 最初からあなたは……!?」

 

「………………」

 

 彼女は最初から勝ち負けなど拘っていなかったのだ。

 最初から彼女は私から「紅椿」を取り上げるつもりなどなかったのだ。

 

「あ……」

 

 彼女は私に向かって前進して来た。

 その姿を見て私は圧倒された。

 あれ程までにけがをしているのに、いや、そもそも戦いの最中にもかかわらずまるでそれを感じさせない程に刀に手をかけている彼女のその姿は静かであった。

 それはまるで流れる川の様だった。

 その直後だった。

 

「え」

 

「………………」

 

『シールドエネルギー残量0』

 

 彼女が何事もなかったかのように横を通り過ぎると共に「紅椿」に残された「シールドエネルギー」が0となった。

 この瞬間、私の負けが確定した。

 

 見えなかった……

 

 私は負けたことでようやく自分が斬られたことに気付いた。

 那々姉さんは私の横を常速で通り過ぎると共に剣を抜く動作も白刃すらも剣筋すら見せることなく私を何時の間にか斬っていたのだ。

 あまりにも無駄がなく、鮮やかで、速い剣であるとしか言いようがなかった。

 それを受けて私は那々姉さんが決して篠ノ之流の剣術を忘れていた訳ではないことを私は心に刻まれた。

 那々姉さんは私のことを片時も忘れていなかったのだ。

 

「う……」

 

「……!?」

 

 試合が終わると同時に那々姉さんの身体が傾き再び落下し始めた。

 

「那々姉さん……!?」

 

 私はそれを見て彼女を受け止めようと降下した。


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