奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「那々姉さん……!!」
力尽きて気を失ったのか彼女は私が名前を呼んでも返事をせず落下し続け私は何としても彼女を受け止めようとするが既に「シールドエネルギー」が尽きた「紅椿」では出力が思うように出ず、彼女に追いつけずにいた。
お願いだ……
誰か……那々姉さんを助けて……!!
私のせいで彼女がこの様な目に遭ったのに私は心の底から誰かに那々姉さんを助けて欲しいと願った。
その時だった。
「
「え……」
その声と共に何かが彼女の落下地点に近付いていた。
「……ぐっ!」
「陽知……」
それは陽知だった。
陽知は落下しそうになっていた那々姉さんのことを落とすまいとして落下地点に構えてそのまま那々姉さんの身体を受け止めた。
「
「……?」
『
陽知は那々姉さんに向かって聞き慣れない名前を必死に呼びかけた。
その陽知のその不可解な行動に私は違和感を抱いた。
「私を……
私をもう……
「陽知……?」
けれどもそんな疑問は陽知のその懸命かつ悲痛にも思える叫びによって消し飛んでいた。
陽知は昨日見せた、いや、それ以上に子供が縋るように泣きながら懇願した。
『お姉……ちゃん……』
「っ……!」
その姿を見て私は昨日知ってしまった陽知の過去と悲しみを再認識し自らがしてしまった事への罪の意識をさらに強めた。
私は那々姉さんたちに声をかけられず、そのまま呆然とするしかなかった。
「……雪風……」
「……!?」
陽知が嗚咽を漏らし続けているとその陽知の叫びに応える様に那々姉さんは小さいながらも相手を優しく包むような声を出し、手をそっと動かして泣いている陽知の頬に添えた。
「神通さん……!!」
その那々姉さんの反応に陽知はまたしてもその名前を呼んだ。
「……あなたは……いくつになっても……変わりありませんね……」
「……え」
那々姉さんは陽知のことをあやすように何処にその力が残っているのか分からない程に陽知の頬を撫で続けた。
その度に腕から血が流れているにもかかわらず彼女は苦痛を表に出さずにいた。
……まるで陽知が子どもの頃から知っているような言い方だ……
けれども私は今度は那々姉さんのその言いぶりに違和感を抱いた。
那々姉さんの口振りはまるで那々姉さんは陽知が子供の時から知っていたような、いや、見て来たかのように思えるものだった。
「……雪風、さっきはごめんなさい……
あんなことをしてしまって……
痛かったでしょうに……」
「いいえ……!!
私は気にしてなんていません……!!
ですから、ですから……死なないでください……!!
私を……もう……一人にしないで……」
那々姉さんは陽知を殴ったことに対して謝罪した。
それに対して陽知は全く気にしている素振りなどなく、ただただ那々姉さんに生きて欲しいと頼み込むだけだった。
……そうか……
陽知はこんなに……那々姉さんのことを……信じていたのか……
それを見て私は益々自分の愚かさと情けなさを理解させられた。
陽知は決して那々姉さんを疑うことなくただ信じていたのだ。
この師弟の絆は余りにも固かった。
なのに……私は……
逆に私は那々姉さんのことを憎むだけだった。
どうして那々姉さんがああするしかなかったのかを考えることもしなかった。
何よりも那々姉さんの気持ちを察しようとすることすら放棄していた。
「……雪風……一つお願いがあります……」
「……?」
頼み……?
那々姉さんは陽知に縋る様に言った。
「箒ちゃんのことを……お願いします……」
「!?」
「神通さん……」
那々姉さんはただ私のことを頼み込むだけだった。
自分をこんな目に遭わせた張本人である私のことを決して彼女は恨むことはなく、それどころか今でも気に掛けていてくれた。
「……あなたも……きっと辛い……ですよね……
ですが……それでも……」
那々……姉さん……
那々姉さんは度々、私のことを頼み込むだけだった。
私はそれを見て改めてこの人が自分をどれ程までに愛してくれていたのかを痛感させられた。
「……わかりました……
約束します」
陽知は迷うことなく那々姉さんに目を合わせて誓った。
自分にとって大切な人間を傷付けた人間である私のことを陽知はそのことを気にも留めず頷いた。
「そうですか……
良かったです」
陽知の返答を受けて那々姉さんは安堵したような声を出した。
「……箒ちゃんはそこにいますか……?」
「え……」
「……はい」
陽知に私のことを頼み終えると那々姉さんは私がこの場にいるのかを訊ねた。
私は那々姉さんに声をかける資格すらないと思って話すことも出来ずにいたために完全に虚を突かれた。
「箒ちゃん……近くに来てくれませんか……?」
「……わかりました」
私は言われるままにゆっくりと近づいた。
那々姉さんに近付き陽知に抱かれている彼女の姿を目にして私は一瞬目を背けそうになったがそれでも自らのしてしまったことから逃げまいとして彼女から目を背けようとしなかった。
「……箒ちゃん、ごめんなさい……」
「……え」
彼女が私に最初にかけて来た言葉は謝罪だった。
その余りにも信じられない言葉に私は一瞬思考が止まってしまった。
「那々姉さん……?」
被害者である彼女がどうして加害者である私に向かって謝罪するのかと私は半信半疑になりながらも私は彼女の言葉に耳を傾けようとした。
「私は貴女を一人にしてしまったことで貴女を裏切ってしまいました……」
「それは……」
彼女は私を一人にさせたことへの悔恨を漏らした。
先ほどまで私はそのことで彼女のことを憎み続けていた。
その結果、私はこの人を殺しかけてしまった。
けれども私はこの人もどれ程までにあのことで苦しんでいたのかを今、ようやく気付けた。
そんなことはわかっていたはずなのに……
いや、正確には違った。
私はとっくのとうにそのことに気付いていたのだ。
なのに私はそれを受け容れることが出来なかったのだ。
私は憎しみに囚われるままにこの人がどんなに私のことを想い続けて何よりもこの人がどれだけ辛かったのかを知ろうともしなかった。
「そして、私は貴女の傷を抉るまいとして貴女に積極的に関わろうとして来ませんでした……
それが貴女の為だと勝手に思い込んで……」
那々姉さんは今まで胸の内に秘めていたこと全てを曝け出しながら「IS学園」において私に関わろうとしてこなかった理由を明かした。
彼女の言っていることは正しかった。
きっと私は彼女が関わろうとしても耳を貸さずにただ反発するだけだっただろう。
終いにはお互いを傷付け合うだけだったはずだ。
それも私がただこの人を罵倒したりするだけでこの人がそれをただ聞くだけのことになっただけだったはずだ。
「でも、貴女にはむしろそれが辛かったはずです……」
那々姉さんは逆にそれもまた私にとって辛かったということを言った。
その通りだった。
私は那々姉さんが陽知や凰と言った人間に慕われてることに対して嫉妬していた。
この人は全てわかっていたのだ。
「……本当にごめんなさい……」
那々姉さんは重ねて私に謝った。
「違う……!!」
でも、何処までも深い彼女の愛情に対して私は彼女の優しさが間違っていなかったことを伝えたくて全力でその謝罪を拒絶した。
「箒ちゃん……」
「那々姉さんは……
那々姉さんは常に私のことを考えてくれていました……
それなのに私が……私が……
そのことに気付けなかった……いえ、認めようとしなかったなかっただけです……!!!」
那々姉さんの愛情は本物だった。
なのに私は自分にとって都合のいい道ばかりを選んでいた。
それなのに那々姉さんはそんな私を決して見捨てようとしなかった。
「ごめんなさい!!!」
「箒ちゃん……」
「篠ノ之さん……」
私はようやく那々姉さんに謝ることが出来た。
彼女が私と離れる時に彼女は私がどれだけ罵っても言い訳一つせず辛そうにしているだけだった。
一年ぶりに再会したあの時に私が彼女に叩かれた際に『心配させられたことへの罰』と言った言葉に反発し凰と諍いを起こした時も彼女は私が敵愾心を向けているのに私を諭すだけで心の中では辛かったのにそれでもそれをおくびにも出さずいた。
私は彼女の優しさに甘えていただけだったのだ。
「いいんですよ……ありがとうございます」
「っ……!」
私の謝罪に対して那々姉さんは私を安心させようと微笑むだけだった。
「……箒ちゃん、その機体ですが……
ちゃんと使い続けなさい……」
「……!?」
「………………」
那々姉さんは次に私に対して「紅椿」を使う様に言ってきた。
「那々姉さん……
やっぱりあなたは……」
自分を殺しかけた機体に対して使う様に求めて来た那々姉さんのその言葉を知り、私は那々姉さんが最初から私に「紅椿」を使うことを認めていたことを教えられた。
「……でも、私は―――」
だけど、私は那々姉さんを殺しかけたこの「紅椿」を使い続けることが出来そうになかった。
「……いえ。
貴女は確りとその恐怖を知ることが出来ました。
だから貴女が持ち続けなさい
「―――え」
那々姉さんは私が「紅椿」を使うことを躊躇おうとするとそれを制した。
「その機体は強力です……
貴女が使わなくても他の誰かが使うことになるでしょう……」
那々姉さんは何処か虚しそうにそう言った。
「だからこそ、その力の恐ろしさを知っている誰かが意識して使わなくてはなりません」
「それは……」
那々姉さんは死にかけているにもかかわらず、強い意思と光を目に宿しながら私に強大な力を持つことと使うことへの恐怖と義務を私に言い聞かせた。
「だから、貴女がそれを持っていて……―――」
「!?那々姉さん!?」
「神通さん!?」
私にそう言い終えると那々姉さんは一気に力が抜けきったかのように再び目を閉じた。
◆
那々姉さん……
試合の決着がついた後、血みどろになった那々姉さんを雪風が先生たちが呼んだ救急車の下に運び終え那々姉さんが病院に搬送された。
俺はこの状況の中でどうすればいいのかわからずにいた。
「………………」
その中でこの事故の原因となった箒は非難の目や嫌悪、奇異の目を向けられながらも那々姉さんが搬送されていった道をただ呆然と見続けるだけだった。
「っ……!
あんた!!よくも先生を……!!」
「鈴!?」
「……くっ」
那々姉さんが搬送され終えると先ほどから泣きじゃくっていた鈴はふと思い出したかのように箒のことを睨み出し、殺気染みた声と共に「IS」を展開した。
マズい……!?
それを見て俺は鈴を止めようとしたが既に遅く風圧が周囲に発生された後だった。
「ぐっ……!?」
「なっ!?」
「!?」
だが、それは箒に当たることはなかった。
この場にいる全員が何が起こったのか理解できずにいると
「っう……」
「お姉様!?」
「ゆっきー!?」
「雪風!?」
「IS」を纏った雪風が地面に倒れ腹を抑えながら苦悶の表情を浮かべていた。
それを見て、雪風が箒と鈴の間に割り込み「衝撃砲」から箒を身を挺して守ったと言うことを理解した。
「雪風さん、大丈夫ですか!?」
「お姉様……!?
怪我は!?」
「大丈夫です、皆さん。
ありがとうございます」
ラウラとセシリアの心配の声に対して雪風は少し痛みを滲ませながらもこの場にいる全員を安心させようとした。
「雪風……
そこをどきなさい……
そいつは先生を……!!」
「鈴!!」
「………………」
鈴は雪風を撃ったことに動揺していたがそれでも箒への殺意を捨てることはせず、むしろ箒を庇った雪風にまで怒りを向けていた。
それを見て、益々マズいと思い俺は鈴を抑えようと「白式」を展開し取り押さえようとした。
「一夏……!!
アンタも邪魔するの!?
そいつが幼馴染だから!?」
「違う……!!俺は―――!!」
「うっさい!!
どうして二人とも私を止めるのよ!?
そいつは先生を―――!!」
だけど、そんな俺に対しても鈴は変わらない怒りを見せつけ、その鈴の言葉に俺は否定した。
確かに箒は幼馴染で大切な人間だ。
でも、だから庇うんじゃない。
目の前で誰かが傷付くことが、ましてや傷付ける相手が友達なのが嫌だから俺は止めに入っただけだ。
もちろん、箒がしてしまったことは許されないことかもしれない。
それでも俺は鈴を止めたかったし、箒が傷付くのは嫌だった。
完全に頭に血が上っていた鈴は聞く耳を持っていなかった。
このまま再び「衝撃砲」が箒と今も庇おうとしている雪風に向けられそうになった時だった。
「約束したからです」
「……!?」
「雪風……?」
「何ですって……?」
雪風が立ち上がりながら静かにそう言った。
しかし、静かながらもその顔には強い意思が込められていた。
「あの人に篠ノ之さんを頼むと私は言われました。
だから、私はそれを果たします」
「雪風……」
雪風は迷うことなくそう断言した。
恐らく、雪風の言う『あの人』とは那々姉さんのことなのだろう。
「それでも気が収まらないのなら―――」
雪風は覚悟を決めたかのように鈴に視線を向けて
「なっ!?」
「お姉様!?」
雪風は「IS」を収納し無防備の状態となった。
「篠ノ之さんを撃つ前に
「ぐっ!?」
雪風はそう言って
その雪風の気迫に鈴は完全に呑まれ動くことが出来ずにいた。
その時だった。
「皆さん、大変です!!」
天の助けか、この状況を止めるかのように山田先生がただならぬ表情でこの場に入って来た。