奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

170 / 332
第45話「出来ること」

「全員。いるな。

 では、現状を説明する」

 

 鈴さんが篠ノ之さんを攻撃しようとして一触即発の危機に陥りそうになっていた時、山田さんがただごとではない様子でその場に訪れ教員と全ての専用機持ちがこの大座敷に集まっている。

 

「………………」

 

 ただこの場の空気は非常事態と言うことを差し引いてもぎこちない。

 その原因は誰の目から見ても篠ノ之さんの存在が原因だろう。

 先程彼女が起こしてしまった事故により神通さんが意識不明の重体に陥り、鈴さんは完全に篠ノ之さんを敵視しており、一夏さんは篠ノ之さんにどう接すればいいのか理解できずにおり、当の本人である篠ノ之さんは心ここに在らずというように虚ろな表情をしている。

 セシリアさん、シャルロットさんは冷静さが残っているがとてもではないがこれから非常事態に対応するという点では万全の状態ではない。

 幸い、ラウラさんは良くも悪くも軍人らしく篠ノ之さんに興味を向けていないので何とか大丈夫だろう(姉貴分としては非常に心配だが)。

 

 マズいですね……

 

 私は篠ノ之さんの精神状態を見て非常に不安を抱いた。

 この状況は明らかに緊急性を要することだ。

 その中で今の篠ノ之さんが臨めば確実に危険だ。

 

『箒ちゃんのことを……お願いします……』

 

 私は神通さんに篠ノ之さんのことを託された。

 少なくとも今の私と篠ノ之さんとの間に蟠りはもう存在しない。

 当然、神通さんがあんなことになったのは悲しいがそれでも彼女はまだ生きている。

 なら私は彼女が帰って来た時のために彼女との約束を果たすべきだ。

 

 ……二度と約束は破りません

 

 私は生前、初霜ちゃんとの『平和になったら平和を謳歌する』という約束を果たせなかった。

 だから、今度は違えないつもりだ。

 

 私が確りとしませんと……!

 

 神通さんの分まで篠ノ之さんを守らなくてはならないだろう。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS「銀の福音」が制御下を離れて暴走。

 監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

「……!?」

 

 画面に映し出された映像と織斑さんの説明は衝撃的な内容だった。

 

 軍用の「IS」が暴走……!?

 

 今まで私は「IS」が人間に対して牙を向けた瞬間に二度も立ち会っている。

 それが今回の件で三度目となったのだ。

 しかも、よりにもよって軍が管理しているものがだ。

 

 ……偶然でしょうか?

 

 私の知る限り「IS」が人に牙を向けた事例は事故や「白騎士事件」を除けば、例の「無人機」と「VTシステム」の二件ぐらいのはずだ。

 それなのに例の「無人機」の件からまだ半年も経っていないのに三件目となる今回の件に対して何かしらの意図が存在するのではと感じてしまう。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することがわかった。

 時間にして五十分後。

 学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」

 

 ……神通さんがいなくなったのが私たちがこの場にいる理由ですか……

 

 恐らく、この場に教員だけでなく学生、いや、ある意味では「IS」という事実上の兵器を扱う訓練をしているので予科練生に等しい私たちまでもこの場に集めたのは神通さんと言う強力な戦力がいないことが原因なのだろう。

 神通さんがいれば彼女は全体の指揮を織斑さんに任せ、自らは戦場に赴き教員全員を冷静に統率し生徒を現場に出すようなことはなかっただろう。

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。

 よって本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

「え……」

 

 織斑さんの口から出て来た作戦内容に私は衝撃を受けた。

 今、彼女はよりにもよって暴走した「IS」、それも軍用機の相手を生徒にさせると言ったのだ。

 

 昔の私ならこの感情の意味を理解できなかったでしょうね……

 

 私はこの状況を異常だと感じた。

 私の世界では私たちは何も、いや、使命故に戦いに赴くことに疑問を抱かなかった。

 それは私が「艦娘」だからと言う意味だ。

 私たちが生まれて来たのは戦いの為。

 たったそれだけだと思っていた。

 でも、今は違う。

 

『何が「英雄」だ……!!俺はそんなもののためにあいつらを死地に送っているんじゃない!!

 「名誉」なんて、「勲章」なんてクソくらえだ!!

 ちくしょう……!!』

 

 私を変えてくれたあの人の為にも私は言うべきがことがあると決意した。

 

「それでは作戦会議を始める。

 意見がある者は挙手するように」

 

「「はい」」

 

 織斑さんがそう促すと即座に私とセシリアさんがほぼ同時に挙手した。

 

「……陽知とオルコットか。

 分かった。先ずは陽知の方から聞く。

 一体、何が聞きたい?」

 

 織斑さんは私の方を優先したようだ。

 どうやら彼女は私の軍人としての経歴の長さから今回の件で意見や助言を求めたいのだろう。

 実際、戦闘経験ならば私はこの部屋の中にいる存在の中では圧倒的に長い。

 また、この部屋の殆どの人間が私の発言に何かしらの期待を込めている。

 確かに私はこの中では更識さんを除けば「IS」の戦闘においては敗北していないことから何か有効な策があると求められているのだろう。

 

 ごめんなさい……織斑さん……

 

 ただ今から私がする質問はこの場にいる全ての人間の期待を裏切ることになるだろう。

 

「織斑先生。

 一つ確認させて頂きたいのですが……

 ()()()()()()()()()()()()?」

 

「……!」

 

『え!?』

 

 私の質問にこの場にいる織斑さんと山田さんを除く全ての人間が騒然とした。

 織斑さんはと言えば一度目を瞑り私に対して納得したかのような視線を向けて来た。

 

「お、お姉様!?」

 

「雪風さん、どうしたと言いますの!?」

 

「あんた、どうしたのよ!?」

 

「雪風……?」

 

 ラウラさんとセシリアさん、鈴さんは私の言葉が衝撃的だったのか動揺を隠せずシャルロットさんは呆気に取られていた。

 

「「………………」」

 

 対して、一夏さんと篠ノ之さんは不思議なものを見るかのような表情をしていた。

 

「……なぜそう言ったことを訊く?」

 

 織斑さんは分かったうえで私にそう訊ね返した。

 きっとこの人も今の状況が異常であることを十分認識している。

 けれども彼女はこの場における指揮官だ。

 だから、この場にいる人々を不安にさせまいと毅然とした態度を取るしかないのだ。

 

 ……指揮官のジレンマですね……

 

 上に立つ者としてのその業に私は共感してしまった。

 

「至って簡単です。

 確かに私たちは専用機を受領した時から有事の際には一般生徒よりも優先的に緊急事態には対処することが求められています。

 ですが、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………」

 

「雪風……?」

 

 私自身は「専用機」という大きな力を持つ人間としてはその力を正しく使うこと自体には迷いは持っていないことを明かした。

 それでも本来ならば守る存在である大人である教師が守られるべき生徒を前線に出すことは本来ならばあってはならないことを私は言っておかなければならないのだ。

 

「先程織斑先生が語られた作戦自体には私も理にかなっていると思います」

 

 織斑さんの出した作戦の役割分担は実際に最善のものだ。

 確かに暴走した軍用機に生徒を戦わせることは危険だ。

 だが、それでもまだ味方と連携が取れるという点では万が一を考えれば海域・空域封鎖の役割よりはまだ孤立しないで済む。

 もし封鎖役を生徒が担当した場合、攻撃役が敵機を沈黙させれば問題ないが万が一しくじれば広い封鎖域によってその地域を担当する封鎖役は一人で敵機に対応しなくてはならないのだ。

 そのことから織斑さんの作戦は万が一を考えれば間違いなく最善だろう。

 

「それでもやはり暴走状態の「IS」と戦うと言うことは非常に危険なことです。

 失礼を承知で確認させて頂きますが、織斑先生はそのことに対して覚悟を持っていられますか?」

 

「なっ!?」

 

「雪風!?」

 

「お姉様!?」

 

「………………」

 

 それでもやはり私は軍人として、司令によって人間の心を貰った一人の艦娘としてこの危険度の高い役割をまだ子供である一夏さん達にさせることへの覚悟を問いたかった。

 この場にいる全員は恐らく誰もがある程度の覚悟が出来ているだろうし、今までのこともあり危険な敵との戦いも今更だと思うのかもしれない。

 だけど、それは今までは脅威が彼方から来たのだ。

 今回は違う。

 我々の方がその脅威に自発的に向かうのだ。

 そして、何よりも

 

 ……神通さんならば必ずこの場で言うはずです……

 

 私は彼らの姉弟子だ。

 神通さんの教え子たちを預かる身として問い質す義務がある。

 

「お前の言いたいことは解かった。

 私もそのことは十分に承知している。

 だから、お前たちにこの役割をさせることに恥を忍んで頼みたい。

 頼まれてくれるか?」

 

「千冬姉!?」

 

「千冬さん!?」

 

「教官!?」

 

『織斑先生!?』

 

 私の問いに対して織斑さんは卑屈になることはなかったが、それでも決して尊大にならず私たちに力を貸すことを求めて来た。

 その光景にこの場にいる全ての人間が驚愕していた。

 

「……わかりました。

 その言葉だけで躊躇いは消えました。

 この務めを果たすことに全力で挑ませて頂きます」

 

 彼女のその言葉を聞き私は完全に気持ちを切り替えた。

 元々、私は自分の生徒と言う立場ではこの作戦に参加することには躊躇いがあったが、私と言う個人は軍人として平穏を守るために戦うことに関しては本望だ。

 ただ軍人として子供を前線に向かわせることには疑問を抱いているが鈴さん達はそれを言っても聞かないだろう。

 そもそも彼女たちは「専用機」を受領した時点でそういった一応の覚悟をして来ているはずだ。

 なら私が出来ることは危険な目に遭わないように少しでも力を入れることだろう。

 

「そうか、すまないな。

 オルコット。何を訊きたい?」

 

「え!?えっと、その……

 目標「IS」の詳細なスペックデータを要求します」

 

 この場にいる全ての人々と同じ様にセシリアさんは一連のやり取りに衝撃を受けていながらも、この作戦に関わる重要な要素である敵ISの情報を求めた。

 

「わかった。

 ただし、これらは二か国の最重要機密だ。

 決して口外はするな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視が付けられる」

 

 セシリアさんの要求に対して織斑さんは情報管理の徹底を厳命しつつも敵ISの情報を開示した。

 このことに関して私は安堵した。

 『彼を知りて己を知れば百戦危うからず』という金言があるように敵の情報は多いことに越したことはない。

 今回の相手は他国の開発途中の機体ということもあり情報は限られたものと思われていたがこれだけあればなんとかまともな作戦を立てられるだろう。

 

 これは……マズいですね……

 

 しかし、正確な情報が手に入っても必ずしもそれが自分たちを勝利に導くことではないことを私は久しぶりに痛感させられた。

 「銀の福音」はセシリアさん並みの広範囲の制圧力。鈴さん以上の機動力。シャルロットさんでも防御困難の特殊武装と言った下手をすれば更識さんと並ぶ機体だった。

 加えて、

 

「しかも、このデータでは格闘性能の部分が未知数だ。

 持っているスキルも分からん。

 偵察は行えないのですか?」

 

「無理だな。

 この機体は現在も超音速飛行を続けている。

 アプローチは一回が限界だろう」

 

 白兵戦の実力が不明な上にこちらの最大の利点である数が相手が速過ぎるせいでこちらの機体が追いつけず活かせないのだ。しかも、撃墜の機会は一度のみという条件付きだ。

 開示された「銀の福音」の情報と状況を目にして私は久しぶりに、いや、作戦立案に関わる者としては初めて無い知恵を搾らなくてはならなければならなかった。

 私は確かに一国の海軍の長を務めていたが、それは「深海棲艦」の脅威が大分弱まった時代の話だ。

 その為、私が作戦立案に関わったのはあくまでもこちらの戦力がある程度相手より上の状態なのだ。

 

 ……神通さんがいれば……

 

 再び私はこの場に神通さんがいたのならばというたらればを考えてしまった。

 恐らく彼女ならば今回の件で相手を逃がさないで戦えていただろう。

 

「一回きりのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

 山田さんのその一言はなるべくならば私がそうあって欲しくないこの状況における最善策だった。

 

「え……?」

 

「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

 

「それしかありませんわね。

 ただ、問題は―――」

 

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか」

 

「しかも、目標に追いつける速度が出せる「IS」でなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!

 お、俺が行くのか!?」

 

「「「「当然」」」」

 

 ……やはり、そうなりますよね……

 

 この場にいる人たちの言う通り、この作戦は一撃必殺で仕留める必要がありそれが出来るのは一夏さんの「白式」の「零落白夜」だけだろう。

 

 ……最悪ですね

 

 私はこの状況に懸念と共に自分への不甲斐なさを感じた。

 この状況では「零落白夜」位しか有効な手段がない。

 その為、一夏さんに頼るしか出来ないことに私は姉弟子として弟弟子たった一人に任せるしかない状況に私は無力感を抱いているのだ。

 

 いえ……ですが、私も出来ることをしなくては……

 

 私はこのまま黙っている訳にいかないと決めて全員がこの場で忘れていることを言おうと決めた。

 

「待ってください皆さん」

 

「雪風さん?」

 

「何よ、さっきから」

 

「お姉様?」

 

 私が再び水を差したことに鈴さん達は訝しめな目を向けて来た。

 特に鈴さんはそれが顕著だった。

 やはり、先程の件を根に持っているのだろう。

 だけど、どれだけ場の空気を悪くしようとも譲ってはならないことがあると考えて私はそれでも言おうと決めた。

 

「一夏さんが失敗した場合のことを考えるべきです」

 

「え……」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。