奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第49話「境界線」

「遅いわよ、二人とも」

 

「すみません」

 

「悪い!」

 

 作戦開始時刻に間に合い、私は後着組として鈴さん達と同じ班、一夏さんは先着組としてセシリアさんと合流しそれぞれの持ち場に付いた。

 

「ラウラさん。

 ある程度の作戦の内容を教えていただけませんか?」

 

 作戦会議の最中に抜け出した私は恐らくこの中で最も考え方が近いラウラさんに彼女らが立てた具体的な作戦経過の説明を求めた。

 

「はい。

 我々が織斑たちと合流した後、先ず私とお姉様がオルコットの離脱を支援し、その後にシャルロットと凰が目的に接近を試みる予定になっています」

 

 どうやら、セシリアさんも私たちの到着までの間は一夏さんの戦闘をある程度援護するらしく彼女の離脱は私たちの到着後になるらしい。

 その後に比較的に遠距離からの砲撃に秀でている私とラウラさんが彼女の離脱を助け突撃役として鈴さんとシャルロットさんが接近するらしい。

 

「その後、隙を見て私の「AIC」もしくは「ワイヤーブレード」で拘束することになっています」

 

 ラウラさんはこの作戦の仕上げとして自らが「銀の福音」を拘束することをあげた。

 今回の作戦は機動力に長けた相手であることから早期の決着が求められる。

 それを可能とするには一夏さんの「零落白夜」による一撃必殺か、ラウラさんの多彩な武装による拘束後の集中攻撃だ。

 

「みんな、準備はいい?」

 

 私が作戦の詳細の確認を終えるとシャルロットさんが全員に呼びかけた。

 どうやら私が作戦の内容を把握するまで待っていてくれたらしい。

 

「ああ」

 

「はい」

 

「お任せを」

 

「当然」

 

「無問題」

 

 シャルロットさんの呼びかけに全員が是と答えた。

 どうやら、全員が心の準備も完了しているらしい。

 

「……セシリア。

 一夏のことを頼んだわよ」

 

 鈴さんはこれから一夏さんのことを敵前まで運び、白兵戦を行う彼を私たちの到着まで援護し続けるセシリアさんに一夏さんのことを頼んだ。

 

「ええ、任せなさいな。

 このセシリア・オルコット。

 必ずその務めを全うしてみせますわ」

 

 セシリアさんはその頼みに言うまでもないと応えた。

 今の彼女の様子は恋い慕う殿方を守らんとする恋情とイギリスの「代表候補生」、ひいては両親が残したオルコット家の当主としての矜持に満ち溢れていた。

 

「セシリアさん。

 気負い過ぎないようにしてくださいね」

 

 決して、彼女のことを疑っている訳ではないが、これから戦場に赴く仲間に対して私は当たり前の様に肩の力を抜く様にとあいさつで言った。

 

「フフフ……

 ありがとうございます。

 ですが、その心配は無用ですわ」

 

「……そうですか、大きなお世話でしたね」

 

 セシリアさんは私の気遣いに感謝するとともに自信を持った。

 どうやら、この様子だと私の杞憂であったらしい。

 

『織斑、オルコット。

 聞こえるか?』

 

 全員の準備が完了していると作戦開始寸前となったのか、「オープン・チャネル」で織斑さんは先着組二人にそう言った。

 

 

『今回の作戦だが理想は一撃必殺だが、それが叶わないのならば少しでも粘るのを念頭に置いて戦え』

 

 千冬姉は作戦開始前に改めて雪風の立てた作戦概要を確認させた。

 恐らく、会議の途中で抜けた俺と雪風のための配慮なのだろう。

 

『陽知。ボーデヴィッヒ。

 砲撃戦に秀でている貴様らは到着次第、オルコットの離脱を支援しろ。

 デュノアと凰は二人の砲撃の合間を縫って標的に接近し織斑と連携しろ。

 その後、ボーデヴィッヒも突入。

 ボーデヴィッヒ、特に貴様には期待している。

 この作戦においてはお前の拘束に特化した装備の数々は織斑の「零落白夜」と並んで決定打に値する。

 頼りにしている』

 

「……!

 はい!

 任せてください!」

 

 千冬姉は雪風たちにも作戦の内容を説明し、ラウラの「シュヴァルツェア・レーゲン」の「AIC」を含めた拘束力に対して期待を寄せている。

 確かにラウラの「AIC」は相手を一定の場に停止させることが出来ることから今回の状況には最適なのかもしれない。

 

『……織斑。いいか?』

 

『!』

 

 全員に作戦を伝え終えると千冬姉は「プライベート・チャネル」を使って俺に語り掛けて来た。

 

『……いいか?

 今は篠ノ之のことは忘れろ』

 

「え……」

 

 千冬姉は俺に箒の事を考えるなと言ってきた。

 

『この戦いは今まで……

 あの無人機以来の命のやり取りだ。

 その中で戦い以外のことに気を取られれば間違いなく命を落とすぞ』

 

「千冬姉……」

 

『織斑先生だ、馬鹿者。

 まあいい。こういったやり取りが出来る様に絶対に気を抜くな。

 それと篠ノ之のことだが、絶対に前線には出さない。

 だから、安心しろ』

 

「え……」

 

 千冬姉は続けて箒がこの戦闘に加わることがないことを宣言した。

 

『私だって教師の端くれだ……

 あいつには大分劣るがな……

 貴様らにこんな危険な役目をさせるが、出来る限りのことはしたいのだ。

 それにあいつが守ろうとした妹分だ……

 何としても守らなくてはいかんだろう』

 

 千冬姉は心の声を漏らした。

 その中には教師として俺達生徒を危険な場所へと向かわせることへの悔いが見受けられた。

 雪風も言っていたが、まだ連携を取れるとは言えやはり暴走状態の「軍用IS」と直接戦闘をすることになる俺達の危険は変わらないのだろう。

 今は雪風が敢えてああ言ったことでその心情を吐露することが出来るがそれでも心の中は辛いのだろう。

 そんな中でも千冬姉はせめて那々姉さんが自らの身を懸けて守り続けた箒のことだけでもそれから遠ざけたのだろう。

 

「……わかった。ありがとう、千冬姉。

 今は集中するよ」

 

 俺は箒のことは大事に思っているがそれでも今は戦いにだけ集中することを決めた。

 千冬姉は恐らく、箒のことで悩んでいる俺の心を少しでも軽くするためにわざわざ声をかけてくれたのだろう。

 

 それに……

 帰らなきゃ箒と話が出来ないしな

 

 何よりも箒と俺は話がしたい。

 今まで箒に何が在ったのか、どれだけ辛かったのかを俺は知らなきゃいけない。

 雪風の件で他人の悲しみや苦しみに軽はずみに触れてはいけないことは学んだ。

 それでも、幼馴染として俺はあいつの悲しみを少しでも和らげたい。

 その為には今は勝つことだけを考えなくちゃいけない。

 

『……そうか、だが無茶はするなよ』

 

「ああ……!!」

 

 千冬姉の不器用な優しさに触れて俺は心を奮い立てた。

 

「一夏さん、では背中に」

 

「ああ……

 えっと、悪いな。セシリア。

 女子の背中に乗るなんて……」

 

 緊急事態とは言え、女子の背中を足蹴にすることに対してわずかながらも抵抗感を覚えて俺はセシリアに謝った。

 

「いいえ、こんな時ですわ。

 それにこれで一夏さんのお役に立てますのならば光栄ですわ」

 

「そうか、ありがとう」

 

 セシリアはその事に対して不満を持つどころか、自分が役に立てることに対して誇りを見せていた。

 そのことに俺は安堵した。

 

『二人とも準備はいいか?』

 

「ああ」

 

「はい」

 

 俺がセシリアの背中に乗ると再び「オープン・チャネル」に切り換え千冬姉は問いかけて来た。

 幸い、高機動戦闘の事は那々姉さんが訓練の際に教えてくれていた。

 

 

『では、はじめ!』

 

 千冬姉は俺達のその返答を受け取るとそのまま号令した。

 

 

 速い……

 

 織斑さんの号令で一斉に私たち全員が離陸したが先着組である二人と私たちとの間の距離は物の数秒で既に大きな差が開き、否応にも速さの違いを感じさせられる。

 

 これが……空から見た海ですか……

 

 そんな中、こんな状況なのに私はふとこの高さから見る水平線の景色に何とも言えない気分に浸ってしまった。

 

 これが……

 司令が私に見せたいと言っていた景色なんですね……

 

 神通さんが生死を彷徨っているというのに私は司令が昔に『何時か見せてやりたい』と言ってくれていた景色が目の前に広がっていることを思いだしてしまっていた。

 

 こんな状況じゃなかったら……

 もっと高く飛びたかったです……

 

 神通さんが意識不明で、そのせいで篠ノ之さんが傷付き、暴走した「軍用機」の対処。

 そういった状況なのに私はこの海と空の間にいることに初恋の人との思い出を感じてしまっている。

 

 ……いえ、だからこそ誰もこれ以上泣かせないようにしませんと

 

 私はこの空と海の境界線よりももっと高く飛びたい、いや、もっと見てみたいといった自らの胸の高鳴りを、そして、司令が私に言っていた願いを果たしたいと感じこの作戦で誰も悲しませまいと誓った。

 きっとここで誰か一人でも失えば、それらのことは叶わない。

 だから

 

 二度と仲間は誰一人も失いません!!

 

 ここにいる仲間を奪わせたりしない。

 神通さんは必ず帰って来る。

 その際に誰か一人でもいなくなっていれば絶対に彼女は悲しむ。

 篠ノ之さんは後ろにいる。

 もし誰かが死んだら自分が戦場に出なかったばかりにと背負わないでいい自責の念を抱く。

 そして、私自身もこの境界線の上を目指すという好奇心すらも抱かなくなる。

 それでは司令が私に見せたいと願っていたあの純粋な願いすらも汚すことになる。

 だから、私は絶対に誰も死なせない。

 

 不思議ですね……

 怒りなんかまったく感じません

 

 今の私は戦場に赴くというのに心が曇っていない気がした。

 あの戦いが終わってから私は常に心の中に消えようのない澱みが存在していた。

 なのに今の私の心にはそれがなかった。

 

 ……相手が「深海棲艦」じゃないからかもしれませんね……

 

 きっとそれは姉妹や戦友たちを奪ってきた憎い仇ではないからかもしれない。

 久しぶりに穏やかな感情で戦場に向かっている時だった。

 

『見えましたわ!!』

 

 通信によって二人が目標と接触間際であることを知ることになった。

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