奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「あれか……!!」
慣れない速度とそれによってかかるGに少し緊張感を感じていると、さらにそれを高めるかのように銀色の翼を生やしたまるで機械仕掛けの天使の様な影を確認した。
「銀の福音」だ。
その名前の由来はもしかすると、その天使の様な姿から取っているのかもしれない。
「加速しますわ!接触は十秒後です!
一夏さん、なるべくなら当ててくださいな!!」
セシリアは俺が当てやすい様にわざわざ目安となる時間を教えてくれた。
「ああ……!!」
楽観はしていない。
それでもセシリアが教えてくれた情報と、常に那々姉さんが鍛えてくれたお陰で自然とどうすれば当てられるのかが理解できる。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
タイミングよくセシリアの背中から飛び立ち「零落白夜」を発動。
さらにそこに「瞬時加速」も加えた。
今、俺の速度はセシリアの高機動モードの速さに加えて、「瞬時加速」により「銀の福音」を超している。
このまま何事もなければ間違いなく決められる。
行ける……!!
一撃で仕留められる。
理想的な状況を感じた瞬間だった。
「なっ!?」
「まさか!?」
突然、「銀の福音」が反転し最高速度のまま後退しながら此方に向かい合った。
それを見て、明らかに迎撃の意思があることが見受けられた。
やるしかない……!!
このままいけば両機激突という事態になるが、それでも既に回避できる境界線は越えており、それにこの状況ならば「零落白夜」を当てて一撃で倒す絶好の機会だと考えて俺は攻撃を続行しようとした。
『敵機確認。
迎撃モードへ移行。
「銀の鐘」稼働開始』
「……!
だよなっ……!!」
「オープン・チャネル」から聞こえて来た機械的な音声。
やはりとも言うべきか、そこには「敵意」のようなものが込められていた。
マズい……!!
まだ場数を踏んでいない俺でもわかる。
「ぐっ!?」
その予想は当たった。
だけど、俺は攻撃を外した事よりも違うことに驚愕していた。
嘘だろ……
那々姉さんみたいな芸当って……!!
相手は最高速度を保ったままひらりと回避したのだ。
その姿はまるでつい一時間ほど前に見た那々姉さんの舞のようだった。
落ち着け……
確かにやっていることはほとんど同じだけど
きっと那々姉さんの戦いを見ていなかったら俺は焦っていただろう。
だけど
「もう一人の最強」を知っている俺からすれば、機械の意思しか介在しない目の前の高速は劣って見える。
相手は超高速だろうが、そんなもの神速の比じゃない。
たったそれだけで戦える。
それに那々姉さんなら、今の一瞬で俺に一撃を叩き込んでるしな!!
加えて今ので分かったが那々姉さんに出来ることが相手には出来ていない。
斬ったことを相手に気付かせない。
すれ違っていたと思ったら何時の間にか攻撃されていた。
攻撃したと思っていたら、回り込まれてボロボロにされていた。
そんな神出鬼没で苛烈な攻撃をされている訳じゃないのだからこんなことで心が折れてたまるか。
それに
「セシリア!
雪風たちが来るまで援護を頼む!」
俺の後ろには仲間たちがいる。
だったら彼女たちが来るまで踏ん張るのが男の矜持ってやつのはずだ。
きっとこんな時に女扱いしたら全員怒ると思うが、それでも男が泥臭くなるのは大事なことの筈だ。
「わかりましたわ!!」
俺の背後からセシリアの強い意思が呼応したかのように全長2メートルのレーザーライフル「スターダスト・シューター」が展開された。
高機動型モードではビットは射撃能力を封じられる。
けれども、セシリアの射撃能力ならば殆ど問題ない。
セシリアも守らないとな……!!
俺のすべきことは目の前の相手をこの空域から逃がさないように粘ることだが、セシリアを守ることもその中に含まれている。
セシリアは俺を運ぶために「シールド・エネルギー」を消耗しているのにもかかわらず、俺の援護を担当してくれている。
となると俺よりも彼女の方が狙われることは自明の理のはずだ。
だから、敵の注意を引くことも俺の役割だ。
それぐらいできなきゃ……
雪風にも箒にもデカい口を叩けないしな……!!
俺には軽はずみに雪風の悲しみの一端に触れてしまった責任がある。
それに俺はこの戦いの前に箒の悲しみに触れると約束した。
だから、こんな奴に負けてたまるか……!!
きっと、勝つことは出来ない。
でも、だからと言って負けるつもりはない。
千冬姉には箒の事や色々なことを戦いの中で考えるなと言われているがそれでも迷わない為にも、恐れない為にも、惑わない為にも俺は大切な人たちの為に戦う。
「行くぞ!!」
たった十数分。
長いかもしれないがそれでもそれ位は粘ってやるつもりだ。
◇
「どうやら、外したみたいね……」
「はい……」
「やっぱり、思った通りにはいかないよね……」
「お姉様の提案を聞いていてよかったです……」
一夏さんが「零落白夜」を外したことを通信から聞こえて来る音や戦闘空域の状況から私たちは最高速度の中でそれを少し残念に思いながらも仕方のないことだと割り切っていた。
理想通りに全てが上手くいくなら……
最も理想的な「一撃必殺」という形の終わり方ではなかったことに私も何時も通りの気持ちだった。
一々、戦局が全て自分の頭の中で思い描いた通りにいくのならば、そもそも私たち軍人は必要とされず、戦略と戦術と言う概念そのものが存在しないだろう。
けれども、現実はそうじゃない。
だから、私たち軍人という専門家が必要なのだ。
「……お姉様。
織斑は大丈夫でしょうか?」
「……?」
一夏さんの初撃が失敗に終わってからしばらくしてラウラさんが一夏さんの事を気に掛けて来た。
「どうしました、ラウラさん?」
ある意味、一夏さんと最も距離が開けていることで彼に関することに対しては冷静に見れる彼女のその反応が気になり私は耳を傾けるべきだと感じた。
「いえ、その……
何と言いますか……
先程、通信から流れて来た織斑の声や息遣いなのですが……
妙に力が入っていたので……熱くなり過ぎていないのかと不安に思いまして……」
「……!」
ラウラさんのその指摘は的確だった。
確かに先程の一夏さんの声はいつも以上に気合が入っているようにも思えた。
……重すぎる荷を背負わせてしまいましたか……?
私は少しだけ不安を感じてしまった。
私は一夏さんならば粘るであろうからこの役目が適任だと思っていたつもりだ。
実際、今でも私は彼を信じている。
いえ……
私はその邪推を捨てようと決めた。
「……大丈夫です。ラウラさん」
「……?」
「あの人ならやれます」
確かに今の一夏さんはいつも以上にやる気を出している。
でも、それは
「きっと今のあの人はそれぐらいの荷物を背負えるほどの背中になろうとしているだけですよ」
「……え?」
必要以上に自らの心を追い詰めて無理矢理力を出しているという間違った勇気ではない。
今の彼は少し背伸びしていた背中が本当の意味で大きく広がり始めているだけだ。
「それは一体、どういう意味で……?」
ラウラさんにはどうやらこの意味が分からないらしい。
「背中と言う言葉には色々な意味があるということですよ」
「う~ん……?」
ラウラさんのその悩む姿に微笑ましさを感じながらも彼女がその意味を理解できることや、彼女が何時か彼と同じ様に大きな背中になってくれることを願ってしまっていた。
「アンタってたまにジジ臭いこと言うわよね?」
「ジジ!?」
どうやら、私たちの会話が聞こえていたらしく鈴さんの反応に私は衝撃を覚えた。
確かに私はこの中で実年齢が一番高いが、そこまで言われる程私は年を喰っていない。
「鈴……ちょっと言い方……」
私が哀しみを感じているとシャルロットさんが窘めるように鈴さんに言った。
「いや、だって何となくそう思わない?」
「……まあ、確かに雪風って……少し……?
大人びてるよね?」
「ちょっと、シャルロットさん!?
もっとはっきり否定してくれませんか!?」
シャルロットさんも心の何処かでそう感じていたらしくはっきりと否定してくれなかった。
この反応は割と傷つく。
「二人とも何を言っているのだ。
お姉様がお母様染みているのは当たり前だろ?
見ろ、この溢れんばかりの母性を!」
「母性って……プっ」
「お母さんぽいと言えば、お母さんぽいよね?」
「う……」
他の二人の年寄り染みたは心外であるが、実年齢を考えるとラウラさんと私とでは親子ほどに歳が離れているので何も言い返せなかった。
「プッププ……
雪風、この際だから言っておくけど……
さっきはごめん」
「え……?」
傷心の私に先程から笑いを堪えていた鈴さんは唐突に謝罪して来た。
「……さっきは頭に血が上っていて……
痛かった……なんてものじゃないわよね……ごめん」
「鈴さん……」
鈴さんは私が篠ノ之さんを庇った際に衝撃砲を喰らったことに対して謝って来た。
「……ねえ?
本当に先生は……先生は大丈夫なの……?」
「……!」
「鈴……」
「凰……」
鈴さんは先ほどまでの平然とした様子を捨てて不安を表に出してきた。
……そうですよね……
私でも……こうなんですから……
私は失念していた。
鈴さんはただ神通さんに重傷を負わされたことに怒りだけを感じていたのではない。
心配と不安と悲しみが彼女の心の中に渦巻いて心が不安定になっていたのだ。
ごく当たり前のことだったのだ。
「大丈夫ですよ、鈴さん」
そんな彼女に私は根拠がないけれどあの人譲りの言葉を向けようと思った。
「あの人は絶対に戻ってきます。
だって、あの人は私の先生なんですから」
一度は死に別れた私と神通さんであるけれども、それでも私たちは再会できた。
なら、「奇跡」なんて言葉は嫌いだけれども今回ばかりは都合よく「奇跡」を信じてもいいはずだ。
「絶対、大丈夫」
あの人がまだ頼りなかった頃の私に度々言ってくれた言葉を私は妹弟子である鈴さんにぶつけた。
「……そう。
不思議ね。なんか、あんたと先生が重なって見えたわ……
あたしも信じるわ。ありがとう」
私の『大丈夫』と言う言葉で鈴さんの不安が少しでも晴れると言うのならば私もまた嬉しい。
「……よし!
じゃあ、みんな行くわよ!
一夏とセシリアを助けに!!」
「はい!」
「うん!」
「ああ!」
不安を振り払った鈴さんはいつもの調子に戻り、愛おしい人と恋敵を助けることへの意気込みを見せた。
「何時もの鈴に戻ったね……」
「……はい」
シャルロットさんの言う通り、鈴さんは何時も通りになった。
彼女はこれでいい。
直情的で怒りっぽいけれども、それでも周囲の人を引っ張れる強さが彼女にはあるのだ。
彼女には不安や憎しみから来る激情なんてものは似合わないのだから。
……懐かしいですね
私はこれまでの移動中のやり取りを振り返って「十六駆」時代の頃を思い出した。
お姉ちゃんが多少素直じゃない態度をして、私が少し能天気なことを言って、天津風が他の三人に振り回され、時津風がおどける。
戦場に向かうまでの中で私たちはそうやって互いの緊張をほぐし合っていたのだ。
尚更、誰も傷付けないようにしませんとね
私はこのやり取りが何時までも出来るためにも今懸命に戦っている一夏さんとセシリアさんを助けたいと改めて願いながら気合を入れ直した。