奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

176 / 332
第51話「霧の中を進む」

「ちっ!」

 

 またしても俺の攻撃を難なく回避した「銀の福音」。

 やはり、あの翼のスラスターは厄介だ。

 那々姉さんよりも遅いとは言え、それでも流線を描くようなそのしなやかな動きはどうしてもまだ直線的な俺の剣じゃ捉え切れない。

 

 だけど……!!

 

 それでも今の状態はそこまで悲観するものではない。

 

「逃がしませんわ!!」

 

 その号令と共にセシリアは俺の攻撃を難なく回避した「銀の福音」の回避直後に一射一射浴びせている。

 俺が焦らない理由。それは俺の背後にセシリアがいるからだ。

 もしこれが俺と「銀の福音」との一対一ならば焦りを感じてさらに乱れたガムシャラな戦いをしていただろう。

 けれども、今の俺、いや、俺達にはそんなことをせずとも確実に相手にダメージを蓄積されられる戦い方がある。

 それに

 

 もしこれが……

 那々姉さんだったら確実に自分の身体を痛めても勝つ戦い方をして来る……!!

 

 今の「銀の福音」は完全にドツボに嵌まっている。

 「銀の福音」にとってはセシリアの「スターダスト・シューター」の一射よりも俺の一撃の方がダメージが重く避ける優先順位が上だ。

 

 そうだ……

 戦いへの覚悟がないだけで動きは人間と同じなんだ

 

 加えて、「銀の福音」は確かに最新鋭機だけあってその性能は今まで戦ってきた「IS」と比べれば段違いだ。

 けれども所詮は同じ「IS」だ。

 何時も通り、こっちの攻撃を当てようとすれば相手は必ず避ける。

 その際に生まれた隙に支援攻撃を当て続ければいい。

 もし、「銀の福音」に自らの命を守ろうとする意思があれば別だけれども、こいつにはそれがない。

 つまりは人間の心の強さを持たない人間と同程度の能力しか持たない相手と言うことになる。

 

 このままなら……!!

 

 それらの要素を確認して俺はこのまま押し切れるか、最低でもこのまま足止めすることは出来ると感じて再び斬りかかろうとした。

 

「!!」

 

 俺が張り続けようとしたその時だった。

 「銀の福音」は今までと異なり避けるのではなく無理矢理翼を展開し出した。

 

 マズい……!!

 

 俺はそれを見て後ろにさがりセシリアに奴を近づけまいとした。

 

 砲口ってことは……!!

 

 あの翼の噴出口は間違いなく何かを発射する砲口だ。

 

「ぐっ……!?」

 

「一夏さん!?」

 

「大丈夫だ!来るな!」

 

 その方向から大量に羽の形状をした光弾がばら撒かれそれが身体に触れた途端に一斉に爆発した。

 今の光景を見たセシリアが思わず前に出そうになったのを止めた。

 ただ今のは一時的な対処ではないことを俺は知ることになった。

 

「まだ来るか……!!」

 

 俺達を近付けさせまいと再び「銀の福音」はその光弾をまるで羽吹雪と言えるほどの量を展開して来た。

 何度も何度も放たれるその光弾の範囲と密度に近付くことすら困難になった。

 

 くそ……!!

 追い詰め過ぎた……!!

 

 俺は自分の迂闊さに気付いた。

 今まで俺は相手が最善手しか打って来ないと高を括ってそれを潰すことに専念していた。

 しかし、それをし過ぎたことで相手は戦い方を変えて、無理矢理離脱して自分を守ることだけのために弾幕を展開するようにしてきたのだ。

 恐らく「銀の福音」は今、俺達を脅威と見なして俺達を近付けないことだけの行動しかしなくなっている。

 

 スロースターターか……!!

 

 先ほどまでしなかったのは俺達をそこまでの敵と思っていなかったからだ。

 けれども、「シールド・エネルギー」を削り過ぎたことで防衛機構が優先されてしまったのだ。

 

 これが試合だったら嬉しいけど……

 実戦じゃ最悪だな!!

 

 もしこれがただの試合で雪風みたいな相手との戦いなら誇らしく思えるが、自分の命どころか他人の命や他の地域の安全も関わっているこの状況では焦りしか感じない。

 

「セシリア!

 俺が何とか近づけさせないから狙撃だけは何とか続けてくれ!」

 

 この羽の嵐の前ではセシリアの狙撃によるダメージの蓄積は困難になった。

 だから、俺はセシリアに回避も同時に出来る狙撃だけを頼んだ。

 

「わかりましたわ!!」

 

 セシリアは引き続き「スターダスト・シューター」を構えた。

 

 よし……

 後はセシリアにあいつが近付けないようにするだけだ

 

 俺は今、ここから先の戦い方を決めた。

 もう、この羽の弾幕で俺が「銀の福音」に近付くチャンスはほぼ失ったも同然だ。

 

 ……「零落白夜」が使えればいけるかもしれないけど……

 

 

 俺はこの光の羽吹雪を見ながらふと思ってしまった。

 目の前の弾幕はエネルギー兵器、つまりは「IS」の「シールドエネルギー」によって形成されている。

 つまり、「IS」のエネルギーを消滅させる「零落白夜」ならば道を作ってそのまま「銀の福音」に肉薄することが可能だ。

 

 いや……

 これはあくまでもチームプレイが肝心なんだ。

 ヒーロー気取って作戦を台無しにしたらそれこそ雪風たちに合わせる顔がないな

 

 俺は踏み止まった。

 もしここで「零落白夜」を使えば一か八かで「銀の福音」を倒すことが出来るかもしれない。

 しかし、その後にガス欠になれば俺は丸腰になり落とされる可能性が出て来る。

 それにこの作戦を提案してくれたのは雪風だ。

 あいつは俺の安全を考え、しかも信頼して俺にこの役目を託してくれた。

 そんなあいつの信頼を無下になんてしたくない。

 

 それに……あいつの泣き顔なんて見たくないしな……

 

 何よりも俺は雪風の涙を見てしまった。

 俺なんかがあいつにとって大切な人間と同列になれるなんて思っていないが、あいつは優しい奴だ。

 俺が無茶して危険な目に遭えばあいつは絶対に悲しむ。

 そんなことになったら俺は自分を許せなくなる。

 

 ここはあいつを逃がさないことにだけ集中するだけだ……!!

 

 改めて俺は目の前の敵を足止めすることだけ決意した。

 その時だった。

 

「何!?」

 

 突然聞き覚えのある砲撃音が響き渡ると同時に羽の幕に一つの穴が生じた。

 

「きゃあ!?」

 

「……っ!」

 

 その直後、それに連鎖して一気に全ての羽が爆ぜその爆発の衝撃が俺とセシリアにも迫った。

 

 今のは……!

 

 俺はその音の正体、いや、それを撃った人物に心当たりがありその音がした方へと顔を向けようとしたが

 

 ……待て……

 今のは本当に雪風なのか?

 

 その突然俺たちに何も言わないでしたその砲撃に俺は違和感を抱いた。

 もし今のが雪風の攻撃ならばあいつならば近くにいる俺たちに一言入れてくるはずだ。

 

「一夏さん!!」

 

「……!!」

 

 セシリアの叫びで俺は意識を目の前に戻した。

 

 

「あれ……?

 どうしたのかしら?」

 

「……鈴さんもですか?」

 

 戦闘を飛んでいる鈴さんも異常を感じたらしい。

 

「え?雪風も?」

 

「はい……」

 

 突然発生したその異常に私は自分だけのものだと思っていたがどうやらそれは違ったらしい。

 

「え……二人も?」

 

「シャルロットさんもですか?」

 

「どういうこと……?」

 

 さらにはシャルロットさんまでもが異常を訴えて来た。

 

「……すみません。お姉様……

 私もです……」

 

「ラウラさんもですか!?」

 

「嘘!?どういう事!?」

 

「マズいね……」

 

 ラウラさんまでもが異常を口に出したことで私たちは完全に危機感を抱いた。

 私たちは自分たち、いや、この作戦に関わる全ての人間が危機に繋がることに危惧感を抱いた。

 

「長距離の通信が使えないなんて……」

 

 私たちが直面している異常事態。

 それは遠距離通信が不可能になっていることだった。

 どうやらこの四人位の距離ならば何ともないようだが、この辺りを封鎖している教員や本部にいる織斑さん、後方で待機中の篠ノ之さん、さらには先程まで戦闘の情報が入って来ていた一夏さんとセシリアさん、「銀の福音」のことすら把握できなくなっている。

 

「全員のものが一斉にって……

 故障が原因じゃないよね?」

 

「ああ、ありえん」

 

「「銀の福音」が関係しているってのは……

 ないわよね?」

 

「はい。あの機体の情報を見た限りではそんな機能は存在しないはずです」

 

 この事態の原因が全員がそうなっていることから故障ではないと直ぐに思い付くが、それでも会議で見た「銀の福音」の情報にはこの様な影響を及ぼす機構は記載されていなかった。

 益々、混乱し私たちは焦りを感じていた。

 通信手段を失う。

 それは戦場において孤立を意味し「死」に直結することに等しいことだ。

 余りの不測の事態に私たちは歩みを止めそうになった。

 

「……急ぐわよ」

 

「え?」

 

「鈴?」

 

「何を言っている?

 貴様、この状況がわかっているのか?」

 

 その時、鈴さんが私たちが迷うよりも先にそう口火を切った。

 そのことに対してラウラさんは軍人として彼女のその主張に危惧感を出したが

 

「何って決まってんでしょ?

 このまま前進するの!!」

 

「……!」

 

「ちょ、鈴!?」

 

「貴様、正気か!?」

 

 そんなことを意に介さず鈴さんはそれでもなお前進することを主張した。

 ラウラさんはそれを聞いて彼女の正気を疑った。

 それに関しては理解できてしまう。

 状況が定かではないのにこのまま進むのは危険だ。

 

「正気かどうかなんて関係ないわよ!

 とにかくこのまま進むの!!」

 

「なっ!?」

 

「……鈴……その意味を分かって言ってるの?」

 

 しかし、鈴さんの意思は固く。決して譲らなかった。

 その様子に対してシャルロットさんはこの状況で前進することの意味を理解しているのかを訊ねた。

 

「んなことわかってるわよ……

 でもね、一夏とセシリアは戦っているのよ?」

 

「「……!!」」

 

「………………」

 

 鈴さんはそんなことは百も承知としながらもまだ一夏さんとセシリアさんが交戦していることを理由に止まらないことを告げて来た。

 

「あの二人はきっと私たちが来るのを待っているわよ。

 だったら、行くしかないじゃない!!」

 

「鈴……」

 

「凰……」

 

 鈴さんは訴える様に言った。

 二人が待っている。

 ただそれだけの理由で彼女は自分の危険を省みずに進むことを曲げないつもりだ。

 

「……行きましょう」

 

「雪風」

 

「お姉様」

 

 それを聞いて私もまた進むことに賛同した。

 

「確かに私たちは外部からの情報を得られません。

 ですが、それは一夏さんとセシリアさん達も同じかもしれません。

 それに鈴さんの言う通り、二人はまだ戦っている可能性があります。

 それに「エネルギー」の残量的にも二人を救援する必要があります」

 

 私は私たちと同じ様に一夏さん達もまた外部と連絡が出来ない可能性があることをあげた。

 もし、それが現実のものならばそれこそ二人は私たち以上に危険だ。

 それにこの作戦は私たちの援護を前提とした作戦だ。

 ここで私たちが進まなければ二人は孤立してエネルギーを使い果たして撃墜される可能性もある。

 

「それに……

 戦―――……友人を見捨てたくありません」

 

 そして、私は個人的な理由で彼らを救援することを望んだ。

 それは私が「水雷屋」であり「駆逐艦」として仲間を見捨てたくないという矜持もあるし、誰かを失う後悔をしたくないという意思からだった。

 

「……わかりました。

 行きましょう!」

 

「ラウラさん……」

 

「お姉様がそう望まれるのならば私は全力で応えさせて頂きます!!」

 

 ラウラさんは私の為と言うことに賛同してくれた。

 きっと、軍人としてはこの判断は間違っていると思っているのだろう。

 私の為に彼女は賛同してくれた。

 

「……ありがとうございます……」

 

 彼女のその在り方に私は不安を感じるけれども彼女からすれば一夏さんとセシリアさんとの絆は浅い。

 けれどもこれからそういったことを学んでいってくれればいいと思い今は感謝した。

 

「四人中四人が『行く』て言うんだったら……

 誰も恨みっこなしだよね?」

 

「シャルロットさん……!!」

 

「シャルロット……!!」

 

 シャルロットさんはこの状況を見て少し仕方なさそうに微笑んだ。

 彼女はこの場にいる全ての人間が「是」とすることを認めた。

 それはつまり、彼女自身もまた一夏さんたちを助けに行くことを望んでいる。

 

「……友達は助けたいよね」

 

「……はい!」

 

 シャルロットさんのその言葉は私への問いであると同時に彼女自身の願いでもあった。

 そう。彼女もまた一夏さんという友人を助けたいと願っているのだ。

 彼女は一夏さんに救われた。

 だからこそ、助けたいと思っているのだ。

 

「……ありがとうね。雪風」

 

「え……」

 

 全員の意見が一つとなった今、鈴さんが唐突に私に礼を言ってきた。

 

「きっとあたしだけが『助けに行く』って言っても二人とも戸惑いながら来てたと思うわ……

 あんたが『一緒に来てくれる』って言ってくれたお陰よ……

 それにそう言ってくれただけで嬉しかったわ。

 本当にありがとう」

 

 鈴さんは私が共に助けに行くことを示した事で全員の意思が一致したことで感謝してくれた。

 でも

 

「……いいえ。

 お礼を言いたいのは私の方です。鈴さん」

 

「え?」

 

 お礼を言いたかったのはむしろ私の方だった。

 鈴さんが『進む』と言うまで私は少し迷っていた。

 全員の安全を確保してから進まなくてはいけないと言う強迫観念から私は慎重になっていたのも事実だった。

 そんな私に発破をかけてくれたのは鈴さんの前向きな言葉だった。

 彼女は二人を助けたい。

 彼女が真っ直ぐな気持ちを伝えてくれたことで私は自分がどうしたいのかを知ることが出来たのだ。

 

「……そう。

 じゃあ、みんな行くわよ!!」

 

「はい!皆さん!

 周囲への警戒も怠らず進みましょう!!」

 

「うん!!」

 

「わかりました!!」

 

 再び私たちは鈴さんの号令とも等しいその掛け声と共にまるで霧に包まれたかのように遠距離通信が効かない中突き進むこととなった。

 二人の仲間の下へと向かう。

 その為だけに。




一夏の失敗
例えるとゲームでボスキャラを嵌めようとしたが
体力を減らしすぎて違うモーションにしてしまったこと

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。