奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第54話「死が支配する海」

「くそっ……!!」

 

 俺は何としても「銀の福音」を沈黙させようとするが、「銀の福音」による羽の弾幕と謎の連中のビット兵器の大群と砲撃の嵐で近づくことすら出来ないでいる。

 

 こんな時に刀一本てのはキツイな……!!

 

 「白式」の構造上、俺が出来る攻撃手段は「雪片」による剣撃のみだ。

 接近しなくちゃ先ず始まらないのにそれすらも出来ないでいる。

 

 だったら……!!

 

 手も足も出ない状況の中で俺は狙いを羽の弾幕を発生させることで接近を許さない「銀の福音」よりもそれがない海上の三人に変えた。

 見た所、あいつらは動いているには動いているが、その動きは「銀の福音」よりも明らかに遅い。

 それにまるで空を飛んでいるというよりも海上を滑っているように見える連中の方が容易に捉えられると判断したからだ。

 

 よし……!!

 

 あちらの方が上だが、それでも高機動で動きを止めにくい「銀の福音」よりもまだ接近できる分、俺にも勝ち目は存在すると判断して俺は連中に向かって降下した。

 

「……ぐっ!?」

 

 しかし、そこにはまるで待ち伏せしていたかのように例のビット兵器が俺の真上から集団で襲い掛かって来た。

 

 一体、何基あるんだ!?

 

 異常なまでのビット兵器の多さに俺はまたしても焦りを通り越して理不尽さすらも感じた。

 今、上で「銀の福音」に襲い掛かっている奴らも含めれば、この場でこいつらが繰り出しているビットは百基近く存在している。

 仮に目の前の三人が操っているとなると、一人当たり、三十基も操っていると考えるしかなかった。

 

 セシリアでも四基が限界だってのに……!!

 

 同じビット兵器を使う人間として当然ながら俺はセシリアのことを思い浮かべたがそれを考えるとこの数の異常さが余計に際立ってくる。

 セシリアはビットを操るのと同時に「スターライトMK-Ⅲ」を使うことが出来ない。

 それはつまり、どちらかに集中するしかないということであり、そしてどれだけ集中してもビットの数は指で数える程度しか扱えないということだ。

 それなのに目の前の連中はそれを無視して30基以上も駆使している。

 

「ちっ……!」 

 

 速い……!

 

 しかもこのビットはただ数が多いだけでなく、速い上に一基一基がかなり洗練された動きをしており、斬り落とそうとしても寸での所で避けられてそれすらもままならない。

 

 クソっ……!!

 一か八かだ……!!

 

 こちらの攻撃が当たらず、逆にあちらの下部に具わっている機関銃による銃撃で徐々に「シールドエネルギー」を奪われていくのを肌身に感じて、俺は切り払うのを断念して無理矢理本丸である例の三人に向かって直進した。

 このビットを操っているのは間違いなく奴らだ。

 だったら、一か八かで先に奴らを黙らせるしかない。

 ただそれしか、この状況を打開できないと考えて破れかぶれながらも俺は進むしかなかった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 当たり続ける機関銃の銃撃による「シールドエネルギー」の消耗への焦りを誤魔化そうと俺は叫びながら進んだ。

 

「………………」

 

「何!?」

 

 俺がちょうど先ほどまで自分がいた所から奴らの所までの半分に差し掛かった瞬間、両腕に砲塔を装着した長い黒髪の女がこちらの方へと振り向き、それを境に連中の周囲に展開していた二つの黒いボートのような奴と黒い直方体がそれに倣うように俺の方へと向きを変えた。

 

 まさか!?こいつらも!?

 

 三つのどう見ても人型ですらない物体までもが自動的に俺の方へと身体を向けたことに俺はこの三体までもが周囲に存在する小型のビット兵器と同じ遠隔操作の兵器だと理解し驚愕した。

 と同時に俺はあることに気付いてしまった。

 

 何だ……こいつら……

 

 それは今、俺の方へと向きを変えた三体の中、二体のボート状の奴らが何処か生物を思わせる姿をしていることだった。

 その二体はまるで鯨の様に顔の左右に目があり、もし身体をそこに挟まれたのならば容易に噛み砕かれるような歯を具えた大きな口をしていた。

 ただ、それがただの鯨の様な歯ならばまだよかった。

 そいつらが異質なのはそいつらの歯がまるで人間の歯の様に思えたからだ。

 鯨の身体に人間の歯。

 そのアンバランスな姿は気持ちが悪かった。

 よく神話などで出て来るキマイラやケルベロス、スフィンクスのような合成獣をどうして昔の人は恐ろしい怪物だと思っていたのかを俺は理解させられた。

 そして、何よりもその三体の中で最も異形だったのは直方体の奴だった。

 最初、俺はそいつがサウンドみたいな機械だと思っていた。

 だけど、そいつは明らかに作った奴が狂っていると言うしかない構造をしていた。

 

 「IS」……なのか……?

 

 そう、その直方体の中には人間が納められていた。

 その納められ方もおかしかった。

 そいつが入っているのは他の二体と同じ様な生物的な巨大な口の中だった。

 そして、そいつはまるで這い出るかのように身体の上半身だけを外に出していた。

 余りにも異常な造形にもしこれが修羅場じゃなかったら俺は悲鳴をあげていただろう。

 俺がこの狂った光景を目の辺りにしていると

 

「ぐっ……!?」

 

 俺の方へと完全に向き直ったそいつらの身体からまるで蜂の巣から蜂の大群が襲ってくるかのように弾丸が撃たれ始めた。

 

 落ち着け……今は気を取られるな……

 

 俺は狂った三体の見た目に気を奪われそうになっている自分を戒めようとした。

 あの狂ったデザインは恐らく、ああすることで相手にそう言った恐怖を植え付けるように計算されているのだろう。

 ここで気を取られればそれこそ相手の思う壺だ。

 同時にこのまま高い場所にいれば下からも横からも上からも狙い撃ちされると考えて、俺は少しでも弾が飛んでくる場所をなくそうと考えて海面を目指した。

 

 よし……!!これなら……!!

 

 海面すれすれの距離まで移動したことで少なくとも下からの射撃は気にする必要がなくなったことで俺は奴ら目掛けて再び突撃した。

 上から来るビットからの機銃も奴らの射撃も移動し続ければ回避できている。

 とある程度、俺と奴らとの距離が縮まった瞬間だった。

 

「……!?」

 

 海月の様な帽子を被った二人を除いて、例の四体の影が砲塔の様なものを俺へと向けて来た。

 

 マズい……!!

 

 それを見て俺は何時もの癖で嫌な予感を感じて上からの射撃を覚悟して移動をジグザグ状に変えた。

 その直後だった。

 

「……ぐっ!!?」

 

 まるで雷雨の際の雷鳴の様に次々と大小の轟音が響き、その度に海面に水飛沫が上がり、当たることはなくてもそれは生命を狩り獲るものだと思わせる砲撃を何度も何度も奴らは俺に向けて来た。

 

「くそっ……!!」

 

 それを見聞きして俺は焦りよりも怒りで心が破裂しそうになった。

 

「てめぇらがそれを使うんじゃねえ!!!」

 

 奴らの砲撃が雪風の砲撃と被る度に俺は忌々しさがぐつぐつと昂っていき、遂には爆発してそう叫んでいた。

 

 認めない……!!認めてたまるか……!!

 あいつとこいつらが似ているなんてよ!!!

 

 俺は「VTシステム」でラウラの「IS」が変貌して千冬姉の姿を模した時、いや、それ以上の怒りを感じていた。

 

 なんであんな優しい奴とこんな奴らが被るんだよ……

 ちくしょう……!!!

 

 雪風の涙を見てしまったことで俺はあいつが何故、あそこまで強いのかを知ってしまった。

 それなのに俺は命を奪うことに何の躊躇も見せないこいつらとあの優しい雪風が被ることへの怒りと悲しみから自分への憤りさすらも感じている。

 

「どけ!!!」

 

 前列で俺に向かって砲撃を繰り返していた二体と二人の合間を縫ってそのまま奥の二人へと迫った。

 前の奴らが守っていたということは裏を返せばこの後ろの二人こそがあのビットを操っている張本人だと感じたからだ。

 それよってあのビットをこいつらは一人当たり50基も繰り出しているという最悪の現実を理解しなくてはならないが、それでも今、この二人に張り付けば集中力を奪いビットの動きは緩まるだろう。

 

「うおおおおおおおおお!!!」

 

 俺は間合いに入ったことで一人に斬りかかった。

 だが

 

「!!?」

 

 刃がそいつの肌に触れたと思った瞬間まるで鋼鉄の塊に思いっ切り斬り付けたかのような衝撃が「雪片」に走り、それが手に、そして、腕に伝わってきた。

 

「ぐっ……!」

 

 その予期しない反動に俺が下がった時だった。

 

「あぐっ……!?」

 

 突然、後ろから首を絞めつけられたかのような感覚に陥った。

 

「―――!!?」

 

 俺はその手を何とか引き離そうとした。

 けれども

 

 な、なんだ……この力は……

 

 今、俺の首を絞めつけている腕の力は信じられない程の圧力をしていた。

 まるで、巨大な重機が首を圧迫しているのではと思えたほどだった。

 このままだと酸素不足による窒息よりも首がねじ切られる方が先だと俺は否応にも理解してしまった。

 

 ごめん……千冬姉……

 悪い……箒……セシリア……

 約束を破って……

 

 俺は自分の死が避けられないと理解して今まで一人で育ててくれた千冬姉、箒とセシリアの二人との約束を破ってしまい泣かせることへの謝罪を心の中で謝罪した。

 

 ……ここまでかよ……

 

 力を失い目を閉じた時だった。

 

『お姉……ちゃん……』

 

「!!?」

 

 あの涙を俺は何故か思い浮かべてしまった。

 

「―――っ!!!」

 

 その瞬間、俺は残っていた力を振り絞って「雪片」を逆手に持ち直した。

 そして、そのまま

 

「――――!!!」

 

 無理矢理、俺の後ろで今まで俺の首を絞めつけていた奴の身体に残っていた「シールドエネルギー」の残量などお構いなしに「零落白夜」を叩き込んだ。

 その結果、今まで俺の首を圧迫していた鉄の塊の様な感覚は消え、俺はようやく酸素を取り戻した。

 

「ゴホっ…!!!ゴホっ……―――オエッ!!!」」

 

 首を絞めつけてられていたことによる酸素不足から来る急な呼吸と人を斬った、いや、殺してしまったかもしれないことへの嫌悪感から嘔吐してしまった。

 

「………………」

 

 ダメだ……まだ……だめだ……

 

 そんな隙を見逃すことなく連中は俺に砲口を向けて来た。

 そんな中でも俺は懸命にこの場を離れようとした。

 

 あいつを……

 泣かせたくないから……

 

 人の死を悲しむあの女の子の涙を見たくなくて、俺は道理を無視してでもこの場から、人を殺したかもしれないというのに俺は、惨めに逃げようとした。

 その時だった。

 

「!!?」

 

 突然、横合いから何かが俺の身体に当たり俺の身体は浮いた。


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