奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「大丈夫ですか!?」
「山田先生!!」
突然、周囲からの通信が途絶え嫌な予感がした私は最も距離が近い他の教員と合流しようと考え、彼女の持ち場に向かったが、そこで聞こえて来た爆音と担当の教員がビット兵器の群れに襲われているのを見て私は咄嗟に助けに入り、何基か撃墜することは出来たが、またしても雲霞の如く押し寄せるビットを目にしてキリがないことを悟った私はあることを伝えようとした。
「このままでこの封鎖域は維持できません……!!
作戦の続行は不可能です!!ですから、あなたは―――」
この数の暴力に等しいビットの群れに私は勝ち目がないと瞬時に理解し、既に作戦がどうとかの問題ではないと考え離脱することを独自に判断した。
「ですが……!!
まだこの封鎖域の中心には織斑君とオルコットさんがいます!!
それに彼等を援護することになっている「専用機持ち」の生徒たちも!!
生徒を置いて逃げることなど!!?」
当然ながら、彼女はそう言った。
彼女の言う通り、今は作戦中であり、しかも通信が途絶えている。
その為にここで作戦を断念することを参加している全ての人間に伝える手段は失われている。
しかも、その中には生徒たちもいる。
それも彼らはよりにもよって作戦のターゲットと交戦することになっており、もしここでこのビットの大群がそこに雪崩れ込めば間違いなく彼らは絶体絶命の状態に陥る。
そんな状況で教師が逃げることなど許されることではない。
「……私が行きます」
「!?
山田先生!?」
私は覚悟していたことを彼女に伝えた。
「ここのビットをしばらく足止めした後に、私が中心に赴きます。
ですから、あなたは他の先生の方にこの状況を伝えて彼らの脱出口を確保してください」
「山田先生……」
私はここでしばらく足止めをし、そのまま織斑君たちの下へと向かうことを伝えた。
そして、そのまま彼らを連れて逃げ出すための脱出口を作ることを彼女に伝えた。
私は教師だ。
だったら、守るべき生徒たちがいるのならば、その子たちを守ろうとするのは当たり前だ。
そして、それを私は同じ教師である人に互いにその責務を全うすることを教えた。
「……くっ……
わかりました。
私も全力を尽くします。
山田先生、どうかご無事で……!!」
「はい。あなたもどうか……!!」
私の提案を聞き容れて彼女は少しでも早くこの状況を伝えるためにと急いで飛んで行った。
「あはは……
嫌でもこうしちゃいますよね?」
本当はこの訳の分からないもしかすると死ぬかもしれない状態が恐い。
「IS学園」にはこの五か月の間、三つの不測の事態が起きている。
「所属不明の無人機の乱入」。
「禁止されていたVTシステムの暴走」。
そして、今度はこの「軍用機の暴走」。
それら全て、鎮圧するには命の危険が伴う出来事だった。
なのにこれら三つに私たちは手を出せなかった。
よりにもよって、本来大人である教師である私たちが守るべき子供である生徒たちが全て関わってしまっている。
そのことに私たちは悔しさを感じていた。
合理性とか、結果的にとか関係なしに私たちはそのことが許せないでいるのだ。
雪風さんは確かに私たちよりも年上なのかもしれませんが……
でも……!!
同時に私は雪風さんという異なる世界から現れた身体は少女でも、精神は歴戦の勇士に対しても複雑な気持ちを抱いていた。
いや、私だけではない。
全ての教員たちが彼女の「VTシステム」との戦いで見せたあの姿に深い怒りを抱いていた。
『この人を……
この人を早く、医務室に……!!!』
「シールドエネルギー」が残っていたのに雪風さんの「初霜」は大破され、そして、頭を何度も殴打されて髪が乱れていていたのに彼女は自分を置いて、ボーデヴィッヒさんを優先させた。
『それでもやはり暴走状態の「IS」と戦うと言うことは非常に危険なことです。
失礼を承知で確認させて頂きますが、織斑先生はそのことに対して覚悟を持っていられますか?』
そして、今回彼女が言及したこの作戦に生徒である雪風さんたちを参加させることへの意味も彼女は当然ながら知っていた。
彼女の事情を知らない教師たちは最初、彼女を何処か得体の知れない存在に思えていたが、ここで初めて知ったのだ。
『この子はそれが危険なのを理解して常に戦いに身を投じていた』という当たり前の事実を。
その事実に私たちは更なる自分への憤りを覚えた。
あの人を子どもと言うのは失礼なことなのかもしれない。
でも、今は生徒である彼女に何度も我が身を傷付けさせるようなことをさせていると言う事実を私たちは痛感させられたのだ。
もう一人、私たちを突き動かした人間がいる。
それは川神先輩だった。
当初、篠ノ之博士が明かしたあの人が篠ノ之さんにしたという事実に私たちは彼女に対してわずかながらの不信感を抱いた。
でも、違った。
あの人は文字通り生命を削ってでも生徒であり、守るべき子供である篠ノ之さんを救おうとした。
彼女を見て、私たちは自分が「教師」であることへの意味を考えさせられた。
「絶対に守って見せます……!!」
◇
「ぐっ……!!
クソっ……!!」
雪風が何処かへと行ってしまうという焦りから彼女を追いかけようとするが、例のビット兵器の群れのせいで避けることが精一杯の状況に悪態を吐くしかなかった。
いや……さっきよりは少なくなっている……
しかし、そんな中でもさっきよりは比較的に襲いかかってくる銃撃が少ないことを理解してしまった。
やっぱり、こいつら……
守りに入り始めてる……!!
ビットは今まで数に物を言わせて防御などお構いなしに俺や福音に群がっていた。
まるで、攻撃こそが最大の防御と言わんばかりに。
けれども、今のこいつらは完全に守りに入っている。
雪風がそれだけ脅威ってことかよ……!!
突然乱入して来た雪風という存在に連中は警戒し出している。
その理由はわかる。
雪風は俺を助けると同時に奴らの使っていた二機の兵器を沈黙させ、さらにはあいつら自身にも重傷を負わせている。
脅威に感じないやつはいないだろう。
だけど、
それじゃあダメなんだよ……!!
今の雪風を見ているのが俺は嫌だった。
今もあのビットの群れによる銃撃の雨やあの黒髪の女の当たれば間違いなくただで済まない大口径の砲撃を潜り抜け、終いには逆にガトリングでビットを何基か撃墜し、女にも砲撃を当て続けている。
違う……!!いつもと違う……!!
確かに雪風はあの無人機や生命を何とも思っていなかった頃のラウラに対して恐ろしいほどまでの敵意を見せていた。
でも、今の雪風にはそこに殺意まで加わっている。
元々、命の宿っていない無人機や人間であるラウラに絶対に向けなかった相手の命を奪うことへの容赦のなさがあった。
今の雪風は何かに憑りつかれたように奴らを倒そうとしている。
「なんでだ……
なんでだよ、雪風!!?」
俺は雪風に対して通信を呼びかけているが雪風は全く応えない。
あんな風にいつも優しいけど芯があって、何処か俺が憧れを抱いていた強さを持っている彼女が命を狩り獲ろうとすることへの絶望感が俺の心に広がっている。
相手が命を奪いに来た。
それに応戦するのは当たり前なのかもしれない。
でも、雪風がそこに躊躇いを感じない人間じゃないのは理解している。
だからこそ、今の彼女を見ていると辛い。
俺もさっき、正当防衛とはいえ他者の命を奪ってしまい、そして、自分を助けるために雪風に他者を傷付けさせてしまった。
あんな恐ろしいことをさせてしまうことに俺は無力感を抱いた。
何よりも俺はあの涙を知っている。
『お姉……ちゃん……』
「死」がどういうものなのかを彼女は誰よりも知っているし、それがもたらすものを誰よりも理解している。
あの時の雪風の悲しみは決して偽物ではなく、間違いなく本物だった。
なのにどうして……
どうして今の彼女が命を奪おうとしているのか俺には本気で分からなかった。
『雪風!!?
何を突っ走ってんのよ!!!』
「!」
現実を否定したくなった瞬間、その声が聞こえて来た。
「鈴!!!」
それは鈴の声だった。
その声に俺は僅かながらの希望の様なものを錯覚した。
『一夏!!
無事だったの!!』
「ああ……
なんとかな……」
鈴が俺の無事を確かめた。
それが意味することはつまり、セシリアが鈴たちと会えたということだ。
この絶望的な状況でセシリアの無事だけを確かめられたことへの安堵を俺は覚えた。
その時だった。
『全く、雪風の奴何処にいるのよ?』
「!?」
俺は自分がとんでもない思い違いをしていたことに気付いた。
ま、まずい……!!
「鈴!!見るな!!」
『え?どうしたのよ、急に』
『どうしたの一夏?』
『お姉様は何処だ?』
「……!?
やめろ!!今は雪風を探すんじゃない!!!」
鈴だけでなく、シャルとラウラがいてさらには全員が先行して来た雪風のことを探していることに俺はさらに危機感を募らせた。
『は?』
『え?』
『何?それはどういうことだ?』
今の雪風、いや、この状況を三人に見せる訳にはいかなかった。
三人の心に深い傷を負わせる以外にも、それ以上に雪風の友達である三人に今の雪風の姿を見せたくなかった。
『ちょっと?訳が分からないん―――え』
『鈴?どうしたの―――え!?』
『何なんだ二人とも?
全くどうしたというのだ―――なっ!?』
「やめろ!!!」
けれども、その願いは届くことはなかった。