奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
『何よ……これ……』
『お姉様……?』
クソっ……!!
俺の願いも空しく、三人はこの場に広がる惨状を目にして同時にそれが誰が生んだのかすらも知ってしまった。
『うっ……オエッ!!』
「シャル!?」
『シャルロット!?』
『おい!?確りしろ!!』
三人の中では芯はあるけれども鈴の様に豪胆ではなく、軍人としてのある程度の教育を受けているラウラとは異なり、繊細な一面を持つシャルロットは気分を害してしまった。
『……っ!!
雪風!!アンタ、何してんのよ!!?』
鈴はこの惨状を作ったであろう雪風に対しての疑念と友達のシャルが心に傷を負ったかもしれないことへの苛立ちから雪風に対して怒鳴った。
『………………』
けれども、その鈴の怒りのままの追求にすら雪風は反応をすることがなかった。
『このぉ……!!
無視してんじゃないわよ!!!』
『!?
やめろ!!凰!!!』
一言も反応しない雪風の態度に頭に来た鈴は雪風の下へと向かおうとするがそれを見たラウラがそれを後ろから羽交い締めにして止めた。
『離しなさいよラウラ!?
今のアイツはどう見ても普通じゃないわよ!!?
殴ってでも止めないと!!』
『それは私も分かっている!!!
だが、下手にこの状況に入ってみろ!?
お姉様だけではなく、お前さえも危険に陥るぞ!?』
鈴は今の雪風がどこかおかしいと感じ、彼女を止めようとしたが、ラウラもそれを分かっているが、ここで鈴があの中に入れば混戦になり、雪風だけではなく鈴も危ないと考えて止めている。
ラウラの言う通り、今雪風は生きるか死ぬかの境界線の真ん中にいる。
ここで雪風の気が散れば、雪風は不意を突かれる可能性もあり、それにあのビット兵器の大群と大型カノンの弾が飛び交う中に入るのは明らかに鈴が危険すぎる。
『なら……どうしろって言うのよ!?
このまま雪風があんな風に相手を傷付けるのを黙って見ていろって言うの!?』
『そ、それは……』
鈴は涙が混ざった様な声を出した。
鈴も辛いのだ。
自分にとっては姉弟子で学園で見つけた最初の友達で、ライバルが訳も分からずあんな風に戦っていること、そして、それを見ることしか出来ないことが。
そんな事態の混迷が鈴たちとの間にさらなる混乱を招こうとした時だった。
『……出来ることはあるよ……』
先ほどまでこの状況を目の辺りにして気分を悪くしていたシャルが声をあげた。
「シャル!?」
『シャルロット!?』
『おい、大丈夫なのか!?』
先ほどまでのシャルロットの様子を見て不安に思っていた俺たちは一斉にシャルの調子を確かめようとした。
『うん、ありがとう……
で、みんな聞いて?今、ボクたちが出来ることは一夏の安全の確保だよ』
「!?」
『えっ!?』
『………………』
シャルはこの状況の中で俺の安全を確保することを主張して来た。
『なっ!?
雪風はどうするのよ!!?』
鈴はこの目を覆いたくなるような現状の中を放置することへの反発からシャルのその主張に対して反抗した。
『……
『え……』
『何……?』
「シャル……?」
シャルは何処か仕方なさそうにそれでも強い意思を込めてそう返した。
『……みんなの気持ちはわかるよ。
ボクだって雪風がなんでこんなことをしているのかわからないよ……
辛いよ……』
「シャル……」
シャルは思った事を包み隠さずにそう告げた。
自分も雪風の行動に対して疑問を抱いているし、彼女がしていることへの辛さを感じているとも告白した。
でも、シャルは
『でも、それ以上にボクは雪風を
「『『っ!?』』」
『雪風はこんなことを平気でするような子じゃないよ。
きっと何か理由がある。
それがわからないのにボクは彼女を責めたくないよ。
だって、ボクは……友達だもん』
友達だから。
ただそれだけの理由でいや、たったそれだけで十分な理由でシャルは雪風を信じようとしている。
そうだ……
そうだよな……
それを聞いて、俺は自分の情けなさを実感した。
俺は目の前のことだけに囚われてどうして雪風がこんなことをするのかという疑問だけに囚われていた。
信じると言う考えすら抱くことも出来なかった。
『……わかったわよ。
でも、後でアイツには締めあげてでも本当の事を話してもらうわよ』
「鈴……」
『うん。それでいいと思うよ』
シャルの言葉に対して多少は疑いが薄れたとは言え、やはりこの状況に納得がいかない鈴はこれが終われば雪風を問い詰めることを忘れないつもりらしい。
そのことに対してシャルはそれでいいとした。
『……了解した。
すまないが、私は複数の敵に不利だ。
織斑を離脱させるだけでいいか?』
先程から黙っていたラウラはシャルの意見に従うと同時に自分の「IS」が集団相手に不利なことを伝え、俺を援護することだけを伝えた。
軍人らしく自分のすべきことを考えていたのだろう。
『うん。それでいいよ。
一夏、聞こえる?』
「……ああ」
『今から、君の安全を確保するよ……
雪風のことは後回しになっちゃうけど……』
シャルはどこか辛そうなのを我慢しながらも俺に今の決定を伝えた。
きっと、それが意味することを知っているのだろう。
「わかっている……
それと……シャル……」
『何?』
今のシャルの一言に対して何か言いたかった。
「……ありがとうな」
俺はシャルにそう言った。
雪風の事で俺はまたしても悩んだことで過ちを繰り返そうとした。
何も雪風のことを知らないのに俺は勝手に彼女に自分の気持ちを押し付けようとしていた。
それをシャルの友情が助けてくれた。
『うん。
でも、一夏それでも……わかってるよね?』
けれども、シャルは含みを持たして「プライベート・チャネル」で俺にそう確認を求めて来た。
『ああ……』
シャルの言葉の意味を読んだ俺は覚悟を決めた。
『信じる』ということは決して自分が考えている通りのことを相手に期待することじゃない。
それは相手のすることを全て知ったうえで受け止めるということでもあるのだ。
◇
ごめんなさい……みなさん……
先程から全ての通信と声が私の心と耳に届きながら既に自分が戻れなくなっていることに私は謝罪した。
一夏さんや鈴さん、ラウラさんの私を止めようとする声を私は無視しながら目の前のヲ級とル級に向かっている。
心を殺してでも目の前の敵を全滅させなければ、またしても周囲の人間を奪われるという感情に囚われて私は戦っている。
それなのに
『信じよう』
シャルロットさんはこんな私を信じてくれている。
そして、それに呼応するかのように鈴さんもラウラさんも、そして、一夏さんも信じ出した。
もう……遅いのに……
既に私は彼らに本当の私、いや、それ以上に醜悪な悪鬼と化した自分を見せてしまった。
今の私は司令や神通さん、金剛さん、大和さん、陽炎姉さん、不知火姉さん、お姉ちゃん、時津風、天津風、磯風、初霜ちゃん、多くの戦友たち、そしてこの世界で出会った私の過去を知る人たちに顔向け出来る様なものではない。
『二度と奪わせてたまるかぁ……!!!』
この世界にいる筈のない「深海棲艦」が現れたかもしれないという不安から私は冷静さを失っていた。
そして、そこに拍車をかけるように戦場に到達すると一夏さんの生命をあの時と変わらない憎き「深海棲艦」が奪おうとしたの見て、私は怒りのままに魚雷を放った。
いえ……
違います……私は……
それ以外に私は「深海棲艦」への憎悪を込めていた。
きっとそんなものがなくてもこの状況は出来ていただろう。
でも今の私は自分が汚れているように感じてしまった。
初めて憎しみのままに敵を倒したことに対して、身体が、誇りが、魂すらも黒い泥に浸っていくかの様な不快感に包まれている。
……ああ、そうだったんですね……
今の私はあの時のラウラと同じです……
今の私は織斑さんへの執着心と一夏さんへの嫉妬、力に対する依存で荒んでいた頃のラウラさんと同じ状況になっている。
いえ……それ以下ですね……
だけど、今の私はそれ以下だ。
もう……戻れませんから……
私はもう戻れない。
ラウラさんのように光を知らなかったのではなく、私は自分から光に背を向けてしまった。
楽しかったのかもしれませんね……
今、思えば私にとってはこの数か月の間は平穏な日々だった。
「女尊男卑」で歪な世界ではあった。
それでもそこには暖かいものもあった。
何よりも私はまたしても友達を持つことが出来、その人たちを失うことが当たり前じゃない当たり前にいることが出来た。
それなのに私は自らの憎しみを抑えられず、それを全て壊してしまった。
だったら……私がすべきことは……!!
なら私がすることは決まっている。
「私と一緒に来てもらいます……!!!」
再び目の前に現れた仇敵にして、人類を滅ぼそうとする亡霊を、同じく、いや、それ以上に血塗られた鬼である私が打ち滅ぼすだけだ。
私も「深海棲艦」もそもそもこの世界にとっては外から紛れ込んだ異物だ。
なら、その決着は私たち同士で付けるべきだ。
それに……一夏さんたちにこんなことさせたくありませんから……
一夏さんも、鈴さんも、ラウラさんも、シャルロットさんも私を止めようとしてくれたし信じてもくれた。
それはつまり、彼らにとっては私の行動は受け容れられないものであるという逆説的な証拠だ。
もし私がここで止まったとしても、「深海棲艦」が止まることなどない。
そうすれば今度は彼らが危険に晒される。
そして、事情を知らない彼らが目の前の破壊者を滅ぼせるかといえば不可能だ。
仮に出来たとしても彼らの心に深い傷を残すだけだ。
だから、私がやるしかない。
……艦娘で……軍人でよかったです……
私には戦う力も意思も務めもある。
それは私が「艦娘」であり、「軍人」であるからだ。
艦娘だからこそ、彼らの代わりに「深海棲艦」を倒せる。
私だからこそ、自らの意思で引き金を引ける。
軍人だからこそ、この務めを持つことで彼らにこの業を背負わせないで済む。
「―――!!!」
私が止まらないのを見てル級が咆哮をあげ前に出た。
それを見て、後ろの二体のヲ級は後退した。
逃がしません……!!
やはり、戦艦一体と空母二体相手を駆逐艦一人でするのは骨が折れる。
技量や回避の面では絶対に負けるつもりなど毛頭ないが、それでも素の火力と対空能力が圧倒的に劣っている。
そもそも駆逐艦を始めとした艦は単体で戦うのではなく艦隊戦で戦うものだ。
まともにやったら苦戦するのは必定。
だから、今が唯一の機会だ。
今、目の前の三体は不意を突かれたことで陣形を崩し、さらにはそれぞれが大破と中破状態に陥っている。
ここで攻撃の手を緩めれば態勢を持ち直される。
そうなれば駆逐艦の私と空母と戦艦という複合戦力の彼方との間の戦力差がモロに出る。
「……!」
ル級の砲弾が顔のスレスレを横切った。
その風圧に一瞬、顔を強張らせたが、私は前へ前へと進むことを止めなかった。
もしこのままヲ級の後退が成功すれば、ル級の装甲と耐久力、火力に遮られて私は艦載機の反攻に追われて防戦一方となる。
後退していくヲ級とそれを守ろうとするル級を見て私は黒い鋼鉄の扉がじりじりと閉まっていくような閉塞感を感じ出した。
そして、私はその閉まり切っていない扉の隙間へと身体をねじ込もうとするような気概を抱いていた。
速度を落とさないで扉に挟まれればただじゃすまない様に、失敗すれば私もただじゃすまないだろう。
だけど
「入りましたよ」
「―――!?」
それが閉まる前に身体は扉の向こうへと潜り抜けることが出来ていた。
そして、門の内側である敵陣に入る直前に魚雷を発射していたことで私がこちら側に入ると同時にル級にそれが衝突し炸裂した。
「「―――!!!」」
後列にいたヲ級二体は自らの陣に侵入した私に対して忌々しさを込めた目を向けた。
「終わりです」
私はただ両腕の主砲を撃ち込んだ。
その目を含めたヲ級たちの顔は黒煙で遮られた。
「………………」
黒煙が晴れるとそこには頭部の艤装が完全に破壊され反撃能力を失ったヲ級がいて私を睨み付けていた。
そのヲ級の傍らには同じ様に艤装が壊されているヲ級が意識を失っており、まるでもう片方の個体はその意識を失っている片割れを庇っているようだった。
そして
「―――!!!」
後ろから海面で何かバタつく音が聞こえた。
どうやらル級を倒し切れなかったらしく、そのル級がヲ級たちを守ろうとしているのだろう。
「………………」
だが、撃って来ないと言うことは既に攻撃手段を失っているらしい。
それを把握して私は丸腰のヲ級二体を確実に仕留めようとした。
『信じたい』
「………………」
引き金を引こうとした瞬間、シャルロットさんのその言葉が私の脳裏をかすめた。
その言葉に私は僅かな間であるが動きを止めてしまった。
それでも私は……!!
だけど今ここでやらなければならない。
躊躇いを消そうと決めた瞬間だった。
『雪風!!!逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?』
「!?」
それが大きな命取りであったことを私は身をもって知ることになった。
「LAAAAAAAAAA!!!」
その音がこの戦場に響いた直後、私も「深海棲艦」も光の羽に包まれ、そして私がその場から離れようと身体を動かす間もなくそれらは爆ぜた。