奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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ありがとうございました平成。
そして、これからもよろしくお願いします。令和。
この時代が皆様にとってもいい時代であることを祈りながらこれからも書かせていただきます


第60話「弟子の意地」

 雪風のことは頼んだわよ……一夏……!

 

 雪風があの連中を圧倒しあわやトドメを刺そうとした瞬間、「銀の福音」の不意打ちを喰らって海に浮かぶ残骸とそこに倒れ伏していた雪風を見て一夏が咄嗟に動き、その後にアタシ達も続いた。

 

 やっぱり……あの子……

 無理しているのよ……

 

 あの時、雪風は殆ど殺意丸出しの戦い方をしていたのにトドメを刺すことに対して間が空いていた。

 雪風がもし本気ならばあんなことをしなかったはずだ。

 それなのに彼女は撃たなかった。

 それはつまり、「迷い」があったということだ。

 だから、「福音」の不意打ちなんて喰らってしまったのだ。

 

 本当に後で話してもらうわよ……!!

 

 今のあたしは機嫌が頗る悪い。

 どうして雪風は何も言ってくれなかったのかと本気で分からないしそのことに腹が立つ。

 だが、もっとも私が気に食わないのは

 

「よくも……雪風をやってくれたわね……!!」

 

 目の前のポンコツだ。

 よりにもよってこいつはあたしの友達を殺そうとした。

 パイロットはともかくとして、この暴走状態のポンコツに対しては痛い目に遭わせないと気が済まない。

 

「っ……!

 やっぱり、速いわね……!」

 

 「福音」は速い。

 そもそも高機動モードである時点で通常モードである私たちとの間に速さに差があることは理解している。

 

 その為の時間稼ぎだったんだけどね……

 

 元々この作戦は一夏の「零落白夜」による一撃必殺か、雪風の提案通りの「シールドエネルギー」を消耗させることを予定した。

 しかし、想定外の横槍によって本来ならば「福音」を封じる筈の五人の中二人が戦闘に参加できなくなり作戦が破綻した。

 もし一夏と雪風が健在ならばここまでは苦戦しなかっただろう。

 

 だけど……それはあっちも同じこと……!

 

 けれどもあのへんな連中の介入はアタシ達だけでなく、「福音」にも損害を与えている。

 あの襲撃は一夏やセシリアだけでなく「福音」にも大打撃を与えていた。

 

 後少し……

 後少し……粘れば……!!

 

 ハワイからここまで移動し、一夏たちと交戦し、あの連中の攻撃を受けたことで「シールドエネルギー」を大幅に失っている。

 ここさえ乗り切れば勝てる。

 

「「………………」」

 

 左右から「福音」を挟む形にいるシャルロットとラウラもそれが解っているのか目配せをして来た。

 幸い、エネルギーの残量は本格的な戦闘をしてこなかったことからこちらの方が上だ。

 あたしがあの羽の弾幕を散らして行けばシャルロットとラウラがその度に交互に掛かっていき確実に削っていく。

 

 舐めないでよ……

 こちとら「もう一人の世界最強」に鍛えられてきたんだからぁ……!!

 

 一年前の血気にはやるだけのアタシならばこのまま挑んで冷静に防御に徹しきれなかっただろう。

 けれども、アタシが中国の先輩たちとの戦いをする度に先生は私に戦いにおける忍耐力を育てる様に言ってきた。

 そして、あのセシリアと一緒に山田先生にコテンパンにされた際に見せた醜態の後に先生には嫌という程、その事を追求された。

 その結果がここまでの成果を見せた。

 

 少しだけだけど……

 ()()()()()()()……!先生……!!

 

 同時に私は先生が見ているとされる世界に少しだけど踏み込めた気がした。

 今までアタシは無意識の戦いをしていた。

 ただ()()()に反応する戦いをして来た。

 でも()()()()

 そこに余裕が生まれ、視野が広がり、少しだけだけど()()()()()

 

 先生みたいに……!!

 いや……

 ()()()()()()()で……!!

 

『はあ~……

 仕方ありません。

 あなたの場合、下手に考えるよりも思うがままに戦った方がいいのかもしれません』

 

 アタシの無鉄砲さに少し呆れながらも先生はあたしの在り方を善しとした。

 もしここで先生のやり方ばかりに囚われて、あたしのやり方を捨てればそれこそアタシを認めてくれた先生への侮辱となる。

 

「!?

 鈴……!!」

 

「凰!そっちに行ったぞ!?」

 

 だから……あたしは―――!!!

 

 「福音」が何度もかかって来るシャルロットとラウラに対して埒が明かなくなってきたことであたしに向かってきた。

 自らの弾幕を散らすあたしを最も潰すべき存在だと認識して来たのだろう。

 でも、今のアタシには焦りも退く気もない。

 ここでアタシが退けば背後の一夏と雪風が狙われる。

 当然、最初から退く気なんてない。

 そして、頃合いだった。

 既にシャルロットとラウラが削り切ったことで「福音」には後一撃でも当てれば戦う力もなくなる。

 何よりももう見えていた。

 

「―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 何時か先生を越えたい。

 だから、目の前のこんなポンコツ相手に負けている暇なんてない。

 先生が見せてくれたあの神業と言える目と認めてくれたアタシ自身の目が「福音」を完全に捉えたことで「福音」に向かって「龍砲」を散弾モードにして「福音」の逃げ道を制限した。

 そのままあたしは前へと向かった。

 

『LAAAAAAAAAA』

 

 接近するあたしに対して「福音」は弾幕を張る。

 

「生憎……

 それは全部見えてんのよ!!」

 

 今のアタシにはそれらが怖くなかった。

 そう。今のアタシには目の前の弾幕の流れが見える。

 確かにこの弾幕の量と密度は馬鹿にならない。

 一つ一つを見えて回避するなんて無理だろう。

 だけど

 

「だったら、一番流れが弱いところを攻めればいいだけよ!!」

 

 それはあくまでも一つ一つを完全に避けると言うことに対してだ。

 私は最も弾幕が薄い箇所に「龍砲」をぶっ放し、弾幕は衝撃によって全てのエネルギー弾が爆ぜた。

 

「もらったぁ!!」

 

 この爆発の中をアタシは進んだ。

 多少傷を負ったけれどもこれぐらいは想定内だ。

 あたしの接近に「福音」が危機を感じだし、翼を使ってまるで曲芸の様に回避しようとするが

 

「んなもん!!

 先生ので慣れてんのよ!!」

 

 アタシはその翼に向けて「双天牙月」を投げた。

 こんな速度、先生がいつも装着していた普通の「打鉄」の速度を見ていたら捉えることなど簡単だ。

 

「LAAAAAAAAAA」

 

 それを「福音」は難なく回避し再び羽の弾幕を展開しようとした。

 

「喰らいなさい!!」

 

 それでもアタシはお構いなしに「龍砲」を間を置いて二発お見舞いした。

 

「っ……!!」

 

 龍砲と弾幕が接触し至近距離の爆発による衝撃の凄まじさをアタシは肌身に感じた。

 もし二発目の「龍砲」でクッションしていなかったのならば諸に喰らって危なかった。

 

 でも……―――

 

 だけど、これを凌ぎぎったことでアタシは

 

「―――アタシの勝ちよ!!」

 

 「福音」の背後の光景を見て勝ちを確信した。

 

「LAAAAAAA――」

 

 一度は外した「双天牙月」であったが、ブーメランのように旋回し戻って来たことでその軌道上にあった「福音」の左翼のスラスターを破壊した。

 

「これで、終わりよ!!」

 

 手許に戻って来た「双天牙月」を掴み、そのままもう片方の翼に斬りかかった。

 

「………………」

 

 その結果、「銀の福音」は両翼を失い胎児の様に身体を丸めだした。

 「銀の福音」の両翼にはスラスターと弾丸の発射口の役割がある。

 それらを失った。

 それが意味することは簡単だ。

 もう「銀の福音」には回避の方法と攻撃の手段を失ったということだ。

 

『鈴、大丈夫!?』

 

 あたしが「福音」の翼を二つもぎ取るとシャルロットの通信が入った。

 

『無茶をするな!!』

 

 続けてラウラも通信を入れて来た。

 

「あはは……」

 

『ムッ……

 何がおかしい?』

 

 ラウラのその反応を見てアタシはおかしくて笑いが込み上げて来た。

 

「いや……

 一か月前までのアンタのことを考えると信じられなくてね」

 

『ぐっ……それは……』

 

 一か月前のラウラならばこんな言葉をかけるどころか気にも留めなかっただろう。

 あの頃のラウラは仲間のことどころか他人の生命のことすらも気に掛けなかった。

 それもセシリアの生命を奪いそうになった時やペアであった篠ノ之のことを巻き添えにした時の両方の当事者であるアタシのことを気に掛けたのだ。

 それが少しおかしくって仕方なかったのだ。

 

 これも雪風のお陰なのよね……

 

 今のやり取りをラウラと出来たのは雪風の存在があるからだ。

 雪風がラウラに手を差し伸べなかったのならばこんなことも出来なかっただろう。

 

『もう……鈴も無茶し過ぎだよ』

 

「ごめん……ごめん……

 ちょっと、先生の弟子の先輩として少しだけいいところ見せたくてね」

 

 今回アタシが「福音」に積極的にかかったのは先生の弟子として雪風の次に付き合いが長いことからそういった先輩風を吹かしたくなったのもある。

 いつも雪風ばかりにいい所を取られるがたまにはアタシも先生の弟子として妹弟子である三人を守りたくなったのだ。

 それが先生の弟子としてのアタシの矜持だ。

 何よりもいつも戦っている雪風があんな状態なのだからたまにはアタシがアイツを支えたくなったのだ。

 

 だから、雪風……

 アンタも―――

 

 そんな妹分であるラウラや他の姉妹弟子であるアタシたちの為にも何時でも戻って来て欲しいとアタシが一夏と雪風の下へと向かおうとした時だった。

 

「―――!?」

 

 突然、先程の爆発による衝撃とは異なる力の波がアタシに押し寄せて来た。

 アタシがその砲へと目を向けると

 

「なっ!?」

 

 「福音」が青い雷を纏い出し周囲に何らかの力場を発生させていた。

 

『凰!!

 そいつから離れろ!!』

 

「えっ!?」

 

『そいつは「第二次形態移行」に入っているぞ!!』

 

「何ですって!?」

 

 ラウラのその言葉でアタシは我に返り、それが意味することを理解した。

 「第二次形態移行」。

 それはその名の通り「IS」の次の段階だ。

 その性能は以前よりも段違いになることを意味する。

 

「ぐっ……!!」

 

『鈴!?』

 

『馬鹿!ヤメロ!!』

 

 アタシは何としても今のうちに「シールドエネルギー」を削り切ろうとした。

 今までの時点でギリギリだったのにこのまま「第二次形態」になればそれこそ圧倒される形になる。

 そうなればエネルギーの残量など関係なしに、そのエネルギーの許す限りこいつは暴れ出しアタシやシャルロット、ラウラだけではなく、殆ど戦闘能力も逃げる方法すら失っている一夏や雪風すらも殺される。

 

「させるかあああああああああ!!!」

 

 このまま止めなければ全員がやられる。

 そのことが過ぎり、あたしは無我夢中で「龍砲」を乱発した。

 しかし、それは青い雷状のエネルギーによって阻まれ届くことはなかった。

 

『キアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 先程の天使の様な歌声とは異なり獣の様な雄叫びをあげてそれは目覚めた。

 そして、

 

 翼が……!

 

 先程なんとか壊したはずの翼が元通り、いや、先程よりも巨大な光の翼となって蘇った。

 

『鈴……!!』

 

「……!このぉ……!!」

 

 シャルロットの声がその悪夢の様な光景に少しだけ止まっていたアタシはこのままでは全員死ぬと感じて「龍砲」を浴びせようとしたが

 

「!!?」

 

 それよりも先に新しく生えたそのエネルギーが凝縮された光の大翼に包まれた。


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