奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第61話「決断」

「鈴!!」

 

 鈴が戦闘能力を奪ったと思われていた「銀の福音」はそれがなかったかのように先程よりも大きくそして、多くの翼を生やし復活を果たした。

 そして、その新たに生えたそれらを鈴へと伸ばしそのまま押し潰すかのように彼女の逃げ場を奪い、それらを爆発させてそのエネルギーを全て彼女にぶつけた。

 至近距離なんて生温いレベルの距離でその爆発を受けた鈴は海へと落ちていった。

 

『シャルロット!!

 ここは私が前に出る!!

 お前はお姉様たちを!!』

 

「!?」

 

 鈴を助けようと動こうとしたボクを制するようにラウラはボクに雪風たちを守る様に指示した。

 

「でも、それじゃあ鈴が!?」

 

 確かにこの状況で次に狙われたら危険なのは「シールドエネルギー」をほとんど失っている一夏と雪風たちだ。

 だけど、ラウラのその指示は『鈴を見捨てろ』と言っているも同然だ。

 

『私が行く!!

 それに「福音」のエネルギーは残量が少ない!!

 後は逃げるだけ―――』

 

 ラウラは自分が鈴を助けに行くことと既に「福音」のエネルギーが既にないこと、互いに守るべき相手を優先することを伝えた。

 だけど

 

『キアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

「!?」

 

「―――しまった!?」

 

 その一瞬のやり取りによる隙を「福音」は見逃さなかった。

 「福音」はボクたちを無視してこの場で最も倒しやすい相手である一夏と雪風に向かって行った。

 

「一夏!!!」

 

「お姉様!!!」

 

 ボクたちは「福音」を止めようとした。

 けれども通常モードのこちらと高機動モードのあちらでは速さに違いがあり、追いつくことが出来なかった。

 

「え」

 

 その絶望に目を覆いたくなるような光景。

 その中でボクは信じられないものを目にした。

 

 

「鈴!!」

 

「鈴さん……!!」

 

 鈴の声を聞いて俺は現実に意識を戻した。

 「福音」の方に目を向けると福音の形状が変わっているのを確認した。

 多少、ボロボロになっているが、それでも今まで一対しかなかった翼が機体のあらゆる箇所から生えているのだ。

 

 「第二次形態移行」……!!

 

 その「福音」の翼の数から俺は最悪な予感を感じた。

 「福音」の羽は機体のコントロールやあの羽の弾幕を助けている。

 それが増えたのだ。

 火力も運動性も上がっていることは火を見るよりも明らかだ。

 今まで何とか戦えていたのにその拮抗状態を壊されたのだ。

 しかも、よりにもよって鈴がやられた。

 俺たちの中で雪風に次いで実力がある鈴がやられたのだ。

 それに単純に戦える人間の数も減った。

 この場にいる四人の中で戦えるのはシャルロットとラウラだけだ。

 

「ぐっ……!!」

 

 俺は居ても立っても居られず鈴を助けに向かおうとしたが

 

 ダメだ……!!

 それだと雪風が狙われる……!!

 

 今、この場にスラスターを破壊され「シールドエネルギー」の残量も少ない雪風を残すことがどれだけ危険なのかを思い出し俺は躊躇してしまった。

 雪風を置いてこの場を離れるということはつまり、雪風を連れて「福音」の攻撃を避けることも俺自身が盾になることも出来なくなる。

 

 だけど、それじゃあ鈴が……!!

 

 雪風を守れば鈴を助けに行けない。

 鈴を助けに行けば雪風を守れない。

 その悪趣味な最悪の二択を俺は選ぶことを強いられた。

 

「……行ってください……」

 

「!?」

 

 葛藤の中で苦しむ俺に対して背後から雪風が小さな声で言った。

 

「……私は大丈夫です……それよりも鈴さんを……」

 

 雪風は本心から鈴を助けに行って欲しいと願った。

 だけど、それは半分嘘だ。

 今の雪風は全くもって『大丈夫』じゃない。

 スラスターが壊れて回避運動が満足に出来ない。

 何よりも「シールドエネルギー」が少ない。

 もし、「福音」のあの弾幕を受ければ確実に致命傷になる。

 それなのに雪風は純粋に他者を優先しようとしている。

 

 そんなことできるか……!!

 

 

 雪風の意思を聞いたのに俺は彼女を見捨てるという判断が出来なかった。

 

 出来るか……!!

 どっちかを捨てるなんてことが……!!

 

 きっと今の言葉を聞かなくても俺は選べなかった。

 だけど、雪風のその言葉がこの二択の意味を意識させたからだ。

 しかし、時間は俺にその決断を選ばせる余裕を与える程無限ではなかった。

 

『キアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

「っ!?」

 

 そのまるで獣のような声がまるで制限時間のタイムリミットを告げるかのように鳴り響いた。

 その咆哮を終えて「福音」は俺たちへと向かってきた。

 

「………………」

 

 「福音」はシャルやラウラのようにまだ動くことが出来る敵よりも確実に仕留められる俺らから先に始末するつもりらしい。

 俺は失敗した。

 その結果、どちらも選ばないでどっちも失うという最悪の事態に陥ってしまった。

 

「一夏さん……?」

 

 千冬姉……那々姉さん……おじさん……力を貸してくれ。

 

 もう雪風を連れて逃げることも出来ない。

 それを悟って俺は剣の師匠たちに祈る様に「雪片」を構えた。

 

 

 二人を……いや、全員救えるのならいいか……

 

 こんな状況だけど不幸中の幸いか、雪風を守り、鈴を助け、そして、全員をこの場から生還させる手段があった。

 いや、今できたその可能性を俺は選ぶことにした。

 

「……まさか!?一夏さん!?」

 

 俺がしようとしていることに気付いた雪風は背後で声を荒げた。

 

 そんな声も出せたんだな……

 

 その雪風をの必死な叫びに俺は場違いにも笑みを浮かべた。

 

「待ってください!!一夏さん!!」

 

 雪風がせがむ様に俺を止めようとした。

 でも、俺は止まらない。

 いや、止まるつもりがなかった。

 俺は雪風が付いて来れないように迫り来る「福音」に向かって正面からぶつかる様に飛んだ。

 

 ◇

 

「待ってください!!一夏さん!!」

 

 鈴さんが撃墜された後に私は一夏さんを逃がすために彼女の救出を彼に頼んだ。なのにその時間すらも与えないと言わんばかりに「銀の福音」は私たちに向かってきた。

 それを見て彼は何かを覚悟した顔をした。

 そのまま彼は「雪片」を構えて、そのまま「福音」に向かってしまった。

 

「やめてください!!

 「零落白夜」を使ったらあなたは!!?」

 

 彼は一か八かに賭けて今残っている「シールドエネルギー」を消費して「零落白夜」を使うつもりだ。

 確かに今の「福音」ならば「零落白夜」が一回でも当たれば機能が停止する。

 だけど、その判断には深刻な問題があった。

 先ず、今の「福音」は明らかにさっきよりも速度が上がっており「零落白夜」を当てられるのかすらも危うい。

 そして、更に致命的なのは彼の「白式」の「エネルギー」残量だ。

 もし彼がこのまま「零落白夜」を使えば「福音」の斬撃が当たっても外れても彼を守る「IS」の防御力は失われる。

 加えて「福音」は制圧力も上昇しているのが理解できる。

 つまりは弾幕の密度も明らかに増している。

 彼は自分が生き残ることを念頭に置いていない。

 

『一夏!?まさか!?』

 

『やめろ!!早まるな!!!』

 

 彼が何をしようとしているのかシャルロットさんやラウラさんも理解しこっちに向かいながら必死に彼を止めようとした。

 だけど、それを彼は無視している。

 

 嫌です……

 

 私は何かに縋るように心の中で『嫌だ』と呟いた。

 

 嫌です……!!

 嫌です……!!嫌です……!!

 お願いですから……私からこれ以上何も奪わないで……!!

 

 再び目の前で誰かを失う恐怖から私は必死に懇願した。

 誰かがいなくなるのが嫌だった。

 この繰り返しは嫌だ。

 昨日いた人間が明日になったらいなくなるなんてことはもう嫌だ。

 

 「奇跡」でも何でもいいから……!!

 

 私はその異名の由来に縋った。

 「奇跡」なんて起こりはしない。

 本当の「奇跡」は全員が生き残ることだ。

 でも、だからこそそれに縋りたくなる。

 その時だった。

 

『大丈夫よ。雪風ちゃん』

 

「……え」

 

 誰よりも強くて優しいあの子の声が聞こえて来た。

 その声によって恐怖が少しだけ止んだ私は顔を上げた。

 

「!?」

 

 どうしてあの子の声が聞こえて来たのかは分からなかった。

 でも、その声が意味するものを私は目の辺りにした。


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