奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第62話「飛翔」

『キアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 この場にいる仲間たちを全員救う。

 それが唯一出来る方法を選択した俺は「福音」に真っ向から挑んだ。

 既に「福音」には「シールドエネルギー」は残されていない。

 時間稼ぎをしていれば勝手に「福音」はエネルギー切れを起こすだろう。

 だけど、スラスターを破壊された雪風を連れて逃げるのは無理だ。

 だから、残り少ない「シールドエネルギー」を使って「零落白夜」を使って「福音」と刺し違えるしかなかった。

 

 ごめんな、雪風……

 辛い思いをさせて……

 

 雪風のあの叫びとあの夜の出来事を知りながら俺は死に行こうとしている。

 それが彼女にどれだけ辛いことなのかを理解しているのに。

 

『お姉……ちゃん……』

 

 大切な誰かを失った。

 いや、殺された雪風にとっては他者の死を見ることは堪えられないことだ。

 それを理解しているのに俺はただ『守りたい』という意思で彼女のその悲しみを押し付けようとしている。

 

 雪風だけじゃない……

 

 今も俺を必死に止めようとしてくれるシャルとラウラ。

 泣いてまで助けを呼びに行ってくれたセシリア。

 もし意識があってこんなことを知ったら殴ってでも止めようとしてくれる鈴。

 俺を弟のように思っていてくれる那々姉さん。

 俺の事を決して見捨てず見守り育ててくれた千冬姉。

 そして

 

 悪い……箒……

 約束を守れなくて

 

 今までのことを話して欲しいと約束を交わした箒。

 俺はこんなにも多くの人間を悲しませようとしている。

 

 あぁ……クソ……

 男として最悪だな……

 

 特に俺は自分が今、『約束を破ろうとしていること』が許せなかった。

 セシリアとの約束も、雪風との約束も、箒との約束。

 俺は三つも約束したのにそれら全てを破ろうとしている。

 約束を守らないのは男同士でも最低だが、女とした約束を破るのはもっと最悪なことだ。

 それを俺は鈴にビンタと涙という形で教えられた。

 もしかするとこれは俺の価値観の中の話だけかもしれないが、二度とあんな気持ちはごめんだ。

 だけど、それ以上に仲間や友達がいなくなる方が嫌だ。

 結局は俺の「我」だ。

 仲間を守りたい。

 たったそれだけの理由で俺は「約束」を破り、みんなを泣かせようとしている。

 

「それでも、俺は……!!」

 

『キアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 「福音」は俺に対して大量の弾幕を展開した。

 その数は先程の比ではない。

 たとえ「零落白夜」で薙ぎ払っても全て落とすのは不可能だ。

 俺ここで死ぬことになるだろう。

 それでも守りたい友達を守るために俺は引くことは出来なかった。

 その時だった。

 

―一夏ぁ!!!―

 

「―――え」

 

 突然その声が聞こえて来た。

 そして

 

「はああああああああああああ!!!」

 

「なっ!?」

 

 横から紅い影が「福音」に向かって行った。

 俺は一瞬何が起こったのか分からなかった。

 しかし、その声とその剣を目に入れてその影が何者なのかを俺は理解することになった。

 

「箒!?」

 

 それは「紅椿」を纏った箒だった。

 

 

『先生!

 一夏さんが……!一夏さんがぁ……!!』

 

「わかった。

 落ち着くんだ。

 オルコット」

 

 会議室の前で「ISスーツ」を纏いながらも作戦に参加に参加もせず中途半端に立っているとオルコットの泣きじゃくる声とそれをなだめようとする千冬さんの声が聞こえて来た。

 それを耳にした私は居ても立っても居られず

 

「一夏に何かあったんですか!?」

 

「!?篠ノ之……!?」

 

 今までの態度を捨てて千冬さんに訊ねようとした。

 千冬さんは乱入して来た私に動揺するが直ぐに冷静さを取り戻した。

 その後、私に話すべきか躊躇いだした。

 

「お、箒ちゃん。

 実はね。よくわからない謎の連中がいっくんたちを攻撃したんだって」

 

「謎の連中……?」

 

「束!?

 貴様ぁ!!!」

 

 けれども、その沈黙は姉さんによって破られた。

 そして、私は一夏たちが想定外の何かに攻撃を受け、オルコットの態度から一夏が危険に陥っていることを知った。

 

「えー。

 だって、この状況でいっくんを助けられるのは箒ちゃんと「紅椿」ぐらいだと思うけど?」

 

「!?」

 

「ぐっ……!?

 それは……」

 

 千冬さんはこの状況を私に伝えたことに姉さんに抗議したが、姉さんは「紅椿」を使う正当性を使って黙らせた。

 千冬さんがああも押されるということは相当切羽詰まっていることが窺える。

 

「だが!!

 他にも先生方がいるはずだ……!!

 もし、この状況に気付けば―――!!」

 

「えぇ?

 今、通信が取れないのに助けに行ってくれるかな?」

 

「うっ……!」

 

「通信が……?」

 

 千冬さんは何として私を出撃させないように他の先生が助けに向かうことを主張して食い下がろうとした。

 しかし、姉さんは通信が使えないという状況を引き合いに出してそれを封殺した。

 通信が使えない。

 それはつまり、一夏が危険に陥っているのにそれに誰も気づかないうえに助けを求めることも出来ないということだ。

 そして、トドメに姉さんはこう言った。

 

「もし少しでも遅れたらいっくんが死んじゃうよ?」

 

「っ……!!」

 

 一夏が……死ぬ……?

 

 姉さんが何を言っているのか分からなかった。

 けれども徐々にそれが意味することを分かってきた。

 

 嫌だ……

 また、誰かが……いなくなるなんて……

 

 両親がいなくなったこと。

 一夏と引き離されたこと。

 那々姉さんに置いて行かれたこと。

 そして、那々姉さんを私が傷付けたこと。

 それらのことが一気に私の心に押し寄せて来た。

 

 でも……私は……

 

 同時に私は「紅椿」を使うことに対して、いや、私自身が力を振るうことへの恐怖が蘇って来た。

 私は力に溺れてよりにもよって私を愛してくれた那々姉さんを殺しかけた。

 いや、もしかすると、本当にこのまま彼女は死ぬのかもしれない。

 それらのことから幼い頃からの自分への嫌悪感と新たに加わった罪悪感が私を縛りつける。

 

『……箒ちゃん、その機体ですが……

 ちゃんと使い続けなさい……』

 

 那々姉さんは私に「紅椿」を使い続けるように伝えた。

 だけど、肝心な私自身が恐いのだ。

 

 ダメだ……

 一夏が危ないのに……なのに……

 

 一夏を助けたい。

 なのに自分が抱いた恐怖によって私は動けず、一夏を見殺しにしようとしている。

 

「箒ちゃん。ほらほら出番だよ?」

 

「やめろ!!

 今、篠ノ之は戦場に出せる状態じゃない!!」

 

 もう……やめて……

 

 姉さんの催促にも私は耳を塞ぎたかった。

 もう考えることすら止めたかった。

 なのにそれすらも出来ない。

 私が現実から目を背けようとした時だった。

 

『……っ!

 お願いです!!篠ノ之さん!!』

 

「……?

 オルコット……?」

 

 オルコットが縋るように私に叫んできた。

 

『一夏さんを……雪風さんたちを……助けて……!!』

 

「え……」

 

 そのまま彼女は思いの丈をぶつけて来た。

 

「陽知たちを……?」

 

 一夏だけではなく陽知たちも危機に陥っている。

 それを初めて知った私は少しだけだが冷静さを取り戻した。

 オルコットは未だに泣きながらも訴えてきた。

 

『ここまで戻る際に雪風さんたちと合流して助けを求めたのですわ……

 だけど……あの数と今の雪風さんの状態ではもしかすると……!!』

 

「!?」

 

 オルコットの叫びに私はどうしてこうまで彼女が泣いているのか理解した。

 彼女は一夏だけではなく陽知を含めた友達を失うことも恐れていたのだ。

 

『もしかすると、私たちが危うくなる可能性もあります。

 その時には篠ノ之さんの力をお借りする時も来ます。

 だから、その時は力を貸してください』

 

『……あの人にとってはあなたはもう一人の妹みたいな存在だからですよ』

 

「………………」

 

今まで自分を苛んでいた恐怖や自責の念が引いていくのを感じた。

 

「……姉さん。

 「紅椿」の調整をお願いします」

 

「お!」

 

「篠ノ之!?」

 

 私は姉さんに「紅椿」に出す為の調整を頼んだ。

 千冬さんは私が戦場に向かうことに対して困惑し出した。

 だけど私は自分の決意をぶつけた。

 

「千冬さん。

 お願いします!

 私に一夏たちを助けさせてください!!」

 

「!」

 

 今まで私は孤独への恐怖と不安から多くの人間を傷つけてしまった。

 それもよりによって私を最も思ってくれていた那々姉さんすらも。

 だけどそんな私を一夏は見捨てずにいてくれた。

 自分の臆病さから見殺しにしようとしたこんな私を。

 

 これ以上一夏の優しさに甘えたくない……!!

 

 私は心の何処かで一夏は自分を見捨てないでくれると甘えていた。

 それに気付いていたのにそこから抜け出せずにいた。

 なのに私は一夏に置いて行かれたくないという弱さから手に入れた「紅椿」を一夏を助けるためにすら使おうとすることも出来なくなった。

 だけど、そこに手を差し伸べてくれた存在がいた。

 それが陽知だ。

 あれ程、慕っていた那々姉さんを傷付けた私をあいつは那々姉さんに頼まれたということもあるのに私に声をかけてくれた。

 きっと一夏だけならば私は「紅椿」の件で後ろめたさ故に助けにいくことすらも出来なかった。

 そこに陽知という他人が切っ掛けを作ってくれたのだ。

 

 私は……助けたい……!!

 

 私は心の底から初めてそう望んだ。

 ここで一夏たちを見捨てれば那々姉さんにも顔向けできない。

 

「……わかった。

 篠ノ之、出撃を許可する」

 

「……千冬さん!」

 

 私の要望を千冬さんは少し苦しそうにしながらも受け止めてくれた。

 

「……頼む」

 

「……!!」

 

 そして、千冬さんは頼み込むように言った。

 

「はい!!」




割と第三者が背中を押すことが如何にして大事なのかを表現したかったのに上手くできず悲しい

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