奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第63話「出来ること」

 どうして箒が……!?

 

 自分の命を代償にしてでも仲間たちを守ろうとした矢先に箒がこの場に現れてそのまま「福音」と俺を引き離した。

 そのことによって俺は命拾いしたが予想外のこの状況に俺は混乱してしまった。

 

『一夏さん!!

 みなさん!!ご無事ですか!?』

 

「!?セシリア!?」

 

 そんな状況の最中、助けを呼びに行ったセシリアの声が「オープン・チャンネル」から聞こえてきた。

 彼女の存在でようやく俺は箒がここに来た理由が把握できた。

 俺が助けを呼ぶことを頼んだセシリアが千冬姉にこの状況を伝えてくれたのだ。

 そして、千冬姉は高機動モードで最もこの状況に適している箒を助けに寄越してくれたのだ。

 

『よかったですわ……

 ……?

 あのみなさん、あの敵はどうしたのですか?

 それと雪風さんと鈴さんは?』

 

「っ……?!

 それは……」

 

『織斑……

 凰の回収は私が向かう。

 お前は一度、そこから離れるんだ』

 

「!?だけど……!!」

 

『……ラウラの言う通りだよ。

 今は篠ノ之さんに任せよう。

 今の「福音」とまともに戦えるのは彼女だけだよ』

 

「っ……!」

 

『あの……お二人とも、それは一体どういうことで?』

 

『後で説明するよ。

 今はボクらを信じて』

 

『え?あ、はい……』

 

『……ラウラ』

 

『わかった。

 シャルロット、頼むぞ』

 

 セシリアの問いに俺はまともに返せなかった。

 ラウラは俺の代わりに答え、自分が鈴を救助に向かうことを伝えた。

 シャルは戦闘から離脱することに抵抗を覚える俺にこの場を箒に任せるようにと促した。

 ラウラとシャルの言う通り、俺が、俺たちがこの場にいれば箒は戦い辛い。

 今の「福音」の速さに付いて来れるのが高機動モードの箒なのは俺も頭では理解している。

 それでも箒に任せるしかない自分自身に対して不甲斐なさを感じるしかなかったのだ。

 

 ……雪風は……

 

 ラウラが鈴を救助に向かいある程度冷静さを取り戻した俺は雪風に後ろめたさを抱きながらも彼女の方へと向き直った。

 

「あ……」

 

 

 一体、どうしたというのです……?

 

 わたくしは篠ノ之さんをこの場に案内した後、この場に漂う不穏な空気に違和感を感じた

 

 あの敵は一体どこに……

 

 元々、わたくしが篠ノ之さんを連れてきたのはあの所属不明の敵がいたからだ。

 それなのにそれらの敵は見当たらず、先ほどから一夏さんたちの会話にぎこちなさを感じられたのだ。

 

 それに鈴さんの『回収』って……

 まさか……!?

 

 わたくしはラウラさんの口から出てきた『回収』という言葉に嫌な予感を感じた。

 そういえば、この場に来てから鈴さんと雪風さんの姿を確認できずにいた。

 それらが意味することを想像してしまいわたくしは周囲を見回した。

 すると

 

 ……一夏さん?

 

 一夏さんが突然、ハッとした表情をし出して海面の方へと顔を向けた。

 未だに戦闘が続く中での彼のその行動にわたくしは疑問を抱きながらも彼が何を見ようとしているのかを確認するために彼の視線の先を追った。

 

 ……!

 雪風さん……!!

 

 そこには雪風さんがいた。

 先ほどまで抱いていた不安がただの杞憂に過ぎなかったとわたくしはそう感じ出した。

 

 よかったですわ……!!

 間に合ったのですわね……!!

 

 助けを呼ぶ道中で彼女が見せたあの変貌ぶりに胸騒ぎを一時は感じたが、彼女も一夏さんも無事であったことからそれらの恐怖は払拭された。

 

 あとは鈴さんだけですわね……

 

 あとはこの場にいない鈴さんの無事さえ確かめられれば一件落着と考えた矢先のことだった。

 

「え……」

 

 安心しきって雪風さんの顔を覗いた瞬間、それらがわたくしの希望的観測であったことを突き付けられた。

 

 どうして……そんな顔をしておられているのですか……?

 

 

「………………」

 

 雪風は俺の方を見つめて、安堵しながらも怯えていた。

 それを見て俺は自分がやろうとしたことが彼女にどれだけ酷い思いをさせてしまったのかを痛感させられた。

 

 わかっていはずだ……

 わかっていはずなのに……畜生……

 

 雪風にとって他者の死がどれだけ悲しくて辛いものなのかを知っていたはずだった。

 なのに俺は彼女のトラウマを抉る様なことをしてしまった。

 

 クソっ……!!

 

 彼女の顔を直視することが出来なくなった。

 

『一夏さん……鈴さんはどうしたのですか?』

 

「!?」

 

 雪風に気を取られているとセシリアが鈴のことについて再び訊ねてきた。

 

『セシリア、それは後で―――』

 

 シャルはこの場でセシリアが冷静さを失わないようにする為にラウラが戻ってくるまで鈴のことを隠そうとした。

 

『隠さないでください!!』

 

『―――っ!?』

 

『もし、何もないというのならばどうして雪風さんがあんな表情をしているのですか!?』

 

 けれどもセシリアはそれを拒絶した。

 彼女はもしかするとこの場に漂う空気と鈴がいないことから不吉なものを感じたのだろう。

 何よりも彼女は雪風すらもあんな表情をしていることに最悪な方向へと推測が傾いてしまったのだろう。

 

「……鈴は「福音」に撃墜された……」

 

『えっ!?』

 

『一夏!?』

 

 これ以上、セシリアに鈴のことを隠すことは出来ないと俺は判断した。

 だから、俺は今は雪風のことを伏せて鈴のことだけを伝えた。

 いや、今だけじゃない。

 もしかすると、俺は雪風のあの行動のことをシャルやラウラ、鈴に土下座をしてでも隠したいとすら感じてしまっている。

 それが明らかに間違っていることだと理解しながら。

 

 クソっ……!!

 何だってこうなっちまったんだ……!!

 

 俺は友達にもすら嘘を吐いていかなければならなくなってしまったことを嘆いた。

 

 だけど……雪風を守るためには……

 

 雪風のしてしまったことは社会的に許されないことだ。

 それでも彼女は最後まで躊躇っていたし彼女自身は直接殺していない。

 結果的にそうなってしまったとしても実際に殺してしまった俺とは違って命を奪っていない。

 

 見捨てられるかよ……

 

 何よりも彼女は『ここにいたい』と本心を明かしてくれた。

 いつも無理して自分の感情をさらけ出さない彼女がだ。

 そんな彼女を俺は守りたいと感じている。

 でも、自分が何をすべきで何が出来るのかが本気で分からなかった。

 

 

『キアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 一夏たちはいつもこんな風に……

 

 戦場に到達した後、一夏がまるで自分を犠牲にするかのような姿勢で「福音」に向かったのを目にした私は真っ先に一夏と「福音」を引きはがした。

 その後、「福音」が一夏に再接近することを防ぐために「福音」に張り付いている。

 高速で動く「福音」は確かに集中力を少しでも失えば危険な相手であることは実戦が初めての私でもわかる。

 こんな緊張感の中にいつも彼らがいたことを私は初めて理解した。

 

 だけど、那々姉さんよりは遅い……!

 

 けれども、動きを追える分私でも何とか対処できた。

 もし那々姉さんが教えてくれなかったら私はこの速さに惑わされて手も足も出なかっただろう。

 加えて、既に「福音」には戦う力がもう残っていない。

 これらのことから私でも戦えた。

 

 きっと……私でなくても大丈夫だったんだ……

 

 今の様子を見て私は自嘲した。

 当初私がこの場に来たのはオルコットの報告した多数の所属不明の敵の存在から複数の敵との戦いに適している「紅椿」が有効だとされていたのもあった。

 けれども、既にそれらの敵はおらず、いるのは手負いの「銀の福音」だけだった。

 恐らく、私、いや、「紅椿」ではなくても高機動で動ける機体とある程度の技術がある人間ならば()()()()()()()のだ。

 結果的に一夏たちを助けられたことはよかったのかもしれないが。

 それは()()()()()()()のだ。

 

『あはは、何を言っているのかな?

 束さんが造った。それも箒ちゃん専用に造った「紅椿」だよ?

 ()()()()()を気にしなくても―――』

 

『やっぱり、あなた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃないですか』

 

『今、あなたは『()()()()()』と切り捨てましたよね?

 それって要するに篠ノ之さんのことを考えない一方的な自分の理想の押し付けじゃないですか

いいですか?あなたが今、『()()()()()』と言い捨てた言葉は搭乗者……

 つまりはあなたの妹さん自身のことなんですよ。

 それなのにその妹さんの精神状態を『()()()()()』と言い捨てているのは結局、あなたが信じているのは妹さんじゃなくてあなた自身の才能じゃないですか!!?』

 

 そうさ……

 そうかもしれない……

 

 そもそも陽知の言う通り、私でなくても「紅椿」を使えるのならば姉さんは()()()()()()()のだ。

 

『キアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 だけど……

 

 「福音」が迫ってくる中、私はあることを考えていた。

 

 ()()()()()()()()()()()……!!

 

 『誰でもいい』。

 ただ自分がその場にいる。

 たったそれだけの理由。

 

 できることをやる……!!

 それだけでいい……!!

 

 でもその『()()()()()()()』を私は全うしたい。

 特別な何かでなくていい。

 ただ自分がこの場にて誰かを助けられる。

 それがどれだけ大切なことであるかを那々姉さんや一夏に教えられたのに私は忘れていた。

 

『キアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 「福音」は羽根のような弾丸を形成しそれを次々と私に発射してきた。

 私はそれ「空裂」で相殺しながら進んだ。

 無数の白銀の羽根と紅の弦月がぶつかり衝撃が生じるが私はそれでも止まらなかった。

 

『キアアアアアアアアアアアアアアアア!!』 

 

 「福音」は私が近づくと今度は巨大な翼を広げて私に伸ばしてきた。

 私はそれを見ても前に進み、「雨月」でその翼の根本を突いた。

 何度潰しても「福音」の翼は再生、いや、新たに生えてくるがそれらが私を捕らえることはなかった。

 

『……私は今から自分に課していた禁を破ります……

 だから、見ていてください……』

 

 私の脳裏には那々姉さんが命を懸けてでも伝えようとしたあの情景が蘇った。

 あの時の那々姉さんは敵に真っ向から向かっているのに静かに動いていた。

 

『キアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 私の耳に今までよりも「福音」の獣のような声が大きく聞こえてきた。

 そして新たに形成された両翼が私を包み込もうとした。

 

 こんなことを私が考えるなんておこがましいのは理解している……

 

 敵の目の前にいるにもかかわらず私はあの人が示してくれたことに応えたいと思っていた。

 あの人もまた、心は静かだった。

 だから、今の私にも見えた。

 

 ありがとうございます……

 那々姉さん……

 

 那々姉さんへの懺悔と共に感謝を込めて私は左右の刀の出力を抑えながら交差させる形で「福音」を斬り付けた。

 

―――「銀の福音」エネルギー残量0―――

 

 今の斬撃がトドメになり「福音」は沈黙した。


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